2013年12月31日火曜日

かしこい狗は、吠えずに笑う


狂気が増幅する 恐るべきインディーズ映画

監督はこれが長編劇場映画デビューとなる渡部亮平、若干26歳。2012年のぴあフィルムフェスティバルでエンタテイメント賞と映画ファン賞をダブル受賞した本作。若くベビーフェイスな外見からは想像がつかないほど作品は狡猾で野心的。

イケてないが故に友達のいない美沙と、かわいいが故に妬まれて友達のいないイズミの二人の女子高生は、ある時意気投合し親密になっていく。いつも一緒に過ごすようになるがイズミの嫉妬深さが気になりだし、物語は加速しはじめる。

女子高生同士の危ういバランスで成り立っている友情関係をちょっとした甘酸っぱさを織り交ぜながら描く前半に、これを男性監督が撮るのか?とちょっと不思議に思うくらいだったけど、この後半のサスペンス具体はどうだろう! ドキドキとザワザワが増幅していく後半を演出するための周到な伏線だと気づかされる。そう、やっぱり女子高生の甘酸っぱい青春ストーリーなんかを撮る監督じゃない、狂気が暴走しだす、侮っていた観客は呑み込まれてしまうくらいの勢いでクライマックスへと進んでいく。


主演は、シンガーソングライターのmimpi*β(ミンピ)と元non.noのモデルの岡村いずみ。演技はこれからのフレッシュな俳優。ミンピは自分のライブ後に見に来ていた監督に直接スカウトされたとか。その場の勢いで映画出演に応じたものの内容は全く分かっておらず、後日の打ち合わせで監督が言いにくそうにブサイク役であることを告げたとか(笑) あまりに監督がベビーフェイス過ぎて最初は高校生のファンの子が話しかけてきたのかと思ったらしい。
ミンピは本作のエンディング曲「カメレオン」を提供している。ちなみに名前のmimpiとはインドネシア語の「夢」からきているとか。


<作品概要>
かしこい狗は、吠えずに笑う
(2013年 日本 94分)
監督:渡部亮平
出演:mimpi*β、岡村いずみ
配給:Hana film

2013年12月26日木曜日

有名監督のクリスマス THE AUTEURS of CHRISTMAS


個性派の映画監督をみごとにパロディ!

有名監督がクリスマスをテーマに映像を作ったらこうなる、という面白い動画作品。
それぞれの個性派監督の特徴をみごとにとらえていてすごい。
映画作家によるクリスマス。

短い時間で続けざまに見れるので比較もすぐできて改めて個性の違いが実感できて楽しい。

パロディされた監督は以下、(登場順)
◎スティーブン・スピルバーグ
◎セルゲイ・エイゼンシュテイン
◎ウェス・アンダーソン
◎ウディ・アレン
◎ラース・フォン・トリアー
◎マーティン・スコセッシ
◎マイケル・ムーア
◎スタンリー・キューブリック
◎ヴェルナー・ヘルツォーク
◎バズ・ラーマン



この映像はカナダの制作プロダクション fourgrounds社が作成したもの。
http://www.fourgrounds.com/


<作品概要>
(2013年 カナダ 2分30秒)
監督:
出演:
配給:
制作:fourgrounds


2013年12月19日木曜日

箱入り息子の恋


星野源がキモい! キモさ全開で好演する“箱入り息子”

コミュニケーションが下手で友達もいない、外見もパッとせず絶対にモテないタイプ。これといった趣味もない“箱入り息子”を星野源が自然に演じていた。星野源はこれが映画初主演。ドラマや映画にはちょこちょこ出ている彼だけどアーティストとして、俳優として急に露出が増えたのはここ最近なので、はじめてこの作品で星野源に触れた人はどんな役者だと思っただろうか。実は結構イケてるミュージシャンです。

市役所に勤め、徒歩圏内の自宅と職場の往復だけで日々を過ごす主人公の健太郎35歳(彼女いない歴35年)が、ある日盲目の美少女に恋をする。
その日から、自宅と職場の往復だけでない健太郎(星野源)の新たな日々が始まっていく。 

まさに、ボーイ・ミーツ・ガール! だけどお互いちょっとワケあり。
外見がイケてなく、内気で人付き合いができない健太郎だけど、目が見えない奈緒子(夏帆)にとって見てくれはどうでもいいこと。本当に内面のやさしさを理解できる人だ。 そんな菜穂子にドンドンと惹かれていく健太郎。手を握ることさえ戸惑う純情ぶり。吉野家で牛丼の頼み方を教えたり、不器用さ全開なデートで笑わせる。 順調そうに思われた矢先、奈緒子の父親が壁となって立ちはだかる。だけど恋愛経験が全くない人が急に恋愛にハマってしまった“危うさ”と“勢い”で、彼はひたすら突き進んでいく。


笑って、ちょっと泣けて、小気味よい作品と思いつつ後半はかなりスピードアップ、案外と山あり谷ありな展開になっていく。ほのぼのした雰囲気とは裏腹に星野源の裸姿や夏帆とのベッドシーンなど、一筋縄ではいかない作品になっていた。


健太郎の爬虫類的なキモさは、部屋で飼っているカエルとかぶる。最初は鳴きまねを得意そうに披露してたが、最後はカエル人間ばりになっていた(笑)

そんな星野源だけど本当はすごくかっこいいアーティスト。
SAKEROCK(サケロック)の中心メンバー。最近はソロ活動が中心で、俳優業や執筆業、ラジオのパーソナリティなど幅広く活躍。(くも膜下出血で一時休業、徐々に復活)
だけど、やっぱりSAKEROCKが最高!


ちなみにSAKEROCKのメンバーにはハマケンこと浜野謙太も在籍。
彼も俳優活動をしていて、「婚前特急」や「体脂肪計タニタの社員食堂」に出演し、その愛嬌あるキャラクターと独特の存在感でブレイクしている。
ハマケンのバンド「在日ファンク」も面白い!



<作品概要>
箱入り息子の恋
(2013年 日本 117分)
監督:市井昌秀
出演:星野源、夏帆、平泉成、森山良子、大杉蓮、黒木瞳、竹内都子
配給:キノフィルムズ


かぐや姫の物語


全編が水彩画 美しい日本古来の物語

高畑勲監督77歳、製作期間8年間、製作費50億円。 日本人の誰も知っている“日本最古の物語”である「竹取物語」を描く。

プロデューサーの西村義明氏によると、原画に手作業で水彩画で色をつけ始めたとき「あぁ、この映画は終わらない」と思ったとか。
そのくらいこの映画は製作期間を要した。
遅れ癖があり終わらす気のない監督に釘を刺すために設定された宮崎駿監督の「風立ちぬ」との同時公開。その公開日も結局間にあわなかった。制作の遅れを挽回するために後半はアニメーターを追加投入。このために「新世紀エヴァンゲリオン」の制作が遅れたとまで言われた。(ちなみに「エヴァンゲリオン」の庵野監督は「風立ちぬ」に声優(主役)として参加している)

ジブリ作品と言えば、いつも主題歌が話題になる。
今作では、二階堂和美の「いのちの記憶」。音楽はいつも通り久石譲だ。


こだわりにこだわって完成にこぎつけた本作は、こだわった甲斐がある、とてもすばらしい作品に仕上がった。
この水彩画のタッチで描くアニメーションが珍しいし、それを2時間を超える大作に仕上げてみせた。予告編でもそうだったけどすごく躍動感がある。この水彩画の絵巻を見ているかのような画なのに表情や動きにエネルギーが感じられて、このくらいの長編では観たことがないタイプの作品だからすごく新鮮だった。
アニメーションはCG全盛の昨今なのでこの“手作り感”は貴重だ。


物語は完全に「竹取物語」。とても忠実に作っているから誰もが知っている展開だ。
今回なぜ「竹取物語」なのか? 企画が始まる際にプロデューサー西村氏の質問に監督は逆に聞き返したと言う。
「なぜ、数ある星からかぐや姫は地球を選んだのか、そして何故去らなくてはならなかったのか分かりますか?」
「かぐや姫は地球にいる間、何を考え、何を思っていたのか分かりますか?」
「かぐや姫は月での罪で地球に来たけれど、その罪とは?罰とは何か分かりますか?」

果たして誰か答えられるのだろうか?
その答えを映画の中で描く、それが高畑監督が今作で実現しようとしたことだ。


<作品概要>
かぐや姫の物語
(2013年 日本 137分)
監督:高畑勲
プロデューサー:西村義明
出演(声):朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、田畑智子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、宇崎竜童、中村七之助、橋爪功、朝丘雪路、仲代達矢、古城環
音楽:久石譲
配給:東宝

2013年12月13日金曜日

ゼロ・グラビティ GRAVITY


3D効果が抜群! 宇宙を体感できる映画が誕生!

アルフォンソ・キュアロンがやってくれた。新作の「ゼロ・グラビティ」がすごい。宇宙空間をこんなにリアルに表現した監督は初めてではないだろうか。無音・無重力な宇宙空間を作り上げた手腕はお見事! 3Dの立体感も演出とマッチしていて、これは劇場でないと体感できないみごとなスペース超大作となっている。

宇宙で人工衛星の修理作業に従事していたストーン博士(サンドラ・ブロック)は、作業中に事故に巻き込まれる、大量の“宇宙ゴミ”が接近し次々と機体に激突したのだ。間一髪助かったストーン博士だが生存しているのは、自分とコワルスキー(ジョージ・クルーニー)のみ。船体は大破し修復は不可能。地球に生還するには絶望的な状況になってしまう。


監督のアルフォンソ・キュアロンは、メキシコ出身。当時メキシコで新進気鋭だった俳優ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナを主演に迎えた青春ロードムービー「天国の口、終わりの楽園」を監督し、日本でも渋谷シネマライズで上映されちょっとした話題のミニシアターだった。そこで注目され、期待の次回作が、な、なんと「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(シリーズ第3弾)。一気に超大作へ大抜擢され世界的にも有名な監督となった。

天国の口、終わりの楽園
それにしても、この宇宙空間は良くできている。 なんでもスピルバーグが感動して「どうやって撮ったんだ?」と聞いてきたとか。それくらい「無重力感」ができていた。地球上で無重力感を出すには、飛行機を急降下させてわずかの間、無重力状態を作り出すやり方もあるが、長時間演技するため撮影はスタジオ内で行われた。 特にキュアロンは長回しを好む監督なので、飛行機でのボーミット・コメット(嘔吐彗星)は絶対にムリ(笑)(本作でも冒頭の長回しシーンは必見。) 


そして実際にどうやって撮影したかというと、

なんと、熟練の操り人形師(パペッティア)の助けをかりて、“特定のシークエンス”で無重力状態を作り出すことに成功したとか(笑) 最新技術がアイデア的には結構アナログだったりするから面白い。

本作で主演のサンドラ・ブロックは、悲しい過去を克服しどんな状況下でもけっして諦めない女性の姿を好演し、とてもいい評価を受けている。実際、困難な状況で弱気をさらしたり、ビビリまるくるあたりはとても良かった。変に強い女性をやるよりいいんじゃないだろうか、もしかして「スピード」以来か(笑)
1億ドルとも言われる製作費だが、世界興行では既に1億ドルを突破し、サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニーともキャリアで最高の興行成績になっているらしい。


<作品概要>
ゼロ・グラビティ」 GRAVITY
(2013年 アメリカ=イギリス 91分)
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー
配給:ワーナー・ブラザース


2013年12月9日月曜日

もらとりあむタマ子


山下敦弘×前田敦子 とある帰省娘の春夏秋冬

山下監督が「苦役列車」に続いて前田敦子を主演に迎えた最新作。自堕落な日々を過ごす若者の人生の曲がり角の1年を切り取ってゆる〜い感じで描く。脚本は山下監督の盟友・向井康介、大学時代の同級生にしてデビュー作「どんてん生活」以来のコンビ。

元々は音楽チャンネル「MUSIC ON!TV」の30秒のステーションIDとして制作されていたものだったとか。それが長編化して釜山国際映画祭にまで出品される作品となった。

東京の大学を卒業したが就職せず実家に戻り、父が営むスポーツ用品店で手伝う訳でもなく、家事をする訳でもなく、寝ころんでマンガを読んでは日々を自堕落に過ごすタマ子、23才。 目的もなく無気力で友達もいない、父親に悪態をつくが、そんな父親に女性の影がちらつきはじめちょっとしたざわつきがタマ子を動かしていく。

テレビのニュースを見ては「ダメだな、日本は。」と偉そうにうそぶく。すかさず父が「ダメなのは、お前だ」と突っ込む。「ちゃんと就職活動してるのか」。それに対して
「その時がきたら動く。少なくとも今ではない!」と目をひんむいてタンカをきる(笑)ダメダメな人のただの逆切れが妙に面白い。このあたりが山下・向井コンビの巧いところだ。中学生とのコミカルなやり取りも笑える。タマ子が読んでいるマンガが「天然コケッコー」で山下監督のメジャーデビュー作のタイトルだったりする。


20代。誰にだってちょっと人生を休んで自分と向き合う時間があるものだ。世間からは肩身の狭い時期かもしれないが、その時間で得られるものだって必ずあるのだ。

それにしてもこの映画、話題の二人なのに全国わずか27館での公開とは少ない。
パンフレットが前田敦子ファンを意識してか、写真のアップで異様でデカい。。。


<作品概要>
もらとりあむタマ子
(2013年 日本 78分)
監督:山下敦弘
出演:前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子
配給:ビターズ・エンド