2016年3月13日日曜日

ブリッジ・オブ・スパイ  Bridge of Spies

良質なクラシック映画のような安定感。

スピルバーグが監督で、主演はトム・ハンクス、脚本がコーエン兄弟という安心印満載の豪華布陣で面白さは保障されている。
そしてそれに応えるすごさ。
政治的な内容を重厚に、でもユーモアを交えて描く良作。

米ソが冷戦下にある1957年。ある男がソ連のスパイだという容疑でFBIに逮捕される。死刑確実と言われたその男の国選弁護人に選ばれたドノヴァンは、祖国への忠誠心を貫くアベルの弁護を引き受ける。その過程でやがてお互いに理解と尊敬が芽生え始める。このスパイは今後の交換条件のカードにできるという主張で見事にアベルの死刑を回避したドノヴァンだが、アメリカ兵がソ連に捉えられる事件が勃発。その人質交換の交渉役にドノヴァンが指名されることに。


よくよく考えるとかなり無茶振りな状況。
自分が撒いた種ではあるのだけれど、国家の期待と責任を果たさなければならないプレッシャー。そして後ろ盾はない。
あくまで民間人のしていることという建前上、何かあっても国は助けてはくれない。
これが自分に降りかかった仕事だったらかなりキツイ。

そのドノヴァンを支えるのは強固な信念。敵であるアベルにも「不屈の男」(standing man)と言わしめる正義を貫くという異常なまでの信念がこれだけの困難にめげない強さの源。
だけど、すぐ死刑にせず今後の政治の交渉カードに使えるという主張は政府にとって利益になるとても優れた提案。(実際その後役に立ってるし)
だからドノヴァンはただの正義バカではなくて、しっかりとした交渉術をもった優れた人材だったりする。

人質交換の日、交換場所のグリニッケ橋で心配するドノヴァンにアベルは答える「同胞の迎え方で自分の扱い方は決まる。ハグされるか車のバックシートに座らされるか」。
ハグされれば忠誠を貫き通した功績を認められたということ。逆に車の後部座席に入れられれば情報を漏らしたことで死刑を逃れたと疑われているということ。
その様子をドノヴァンは、ずっと立ち続けて見守る。
アベルに「Standing Man」と言われたように。


そのドノヴァンをトム・ハンクスが好演。やっぱりこういう役はよくハマります。
そして本作のキャストで注目はやっぱりアベルを演じたマーク・ライランス!
冒頭シーンはほぼ彼の日常を淡々とひたすら追っていくけど、そこから存在感を発揮。何を考えているのか分からない表情、感情があるのかも読めない目。朴訥としたソ連のスパイを静かにそれでいて印象的に演じている。
こんな役者さんがいたんだ!という驚きと嬉しさ。
アカデミー賞で助演男優賞を獲得したのも納得の演技。
ハリウッドからもオファーが殺到しそうで今後も楽しみ。


舞台は東ベルリン。設定でいうと最近の映画「コードネームU.N.C.L.E」と同じ。
ドノヴァンがCIAに用意されたのは東ベルリンのオンボロなホテル。同じホテルにCIAも泊まっているのか聞くドノヴァンにCIAはさらりと「ん?オレはヒルトン。」と答える。
その時のドノヴァンの絶句ぶりが面白い(笑)
このあたりのユーモアにコーエン節が効いている。

クラシックカーやモトローラ製のラジオなど美術や小物もいい。
モノクロ映像にしてもしっくりきそうな佇まい。
この映画に派手さはない。むしろ地味。いや地味すぎるくらい。
でも、まるでクラシックの名作のような感じさえする。


<作品概要>
「ブリッジ・オブ・スパイ」 BRIDGE OF SPIES
(2015年 アメリカ 142分)
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、マット・チャーマン
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ、アラン・アルダ、オースティン・ストウェル、ミハイル・ゴアボイ、ウィル・ロジャース
配給:20世紀フォックス

2016年3月8日火曜日

俺物語!!

意外と面白い!  鈴木亮平の奮闘ぶりと胸キュン展開

意外と、とはかなり失礼な言い方ながら、正直そんなに期待していなかったし、鈴木亮平もスリムなイメージが先行して増量での役作りを聞いてはいても違和感あるだろーなと思っていただけに、いい意味で期待を裏切ってくれた。

男の中の男、剛田猛男は、心優しい高校一年生。女子には恐れられるが男子には絶大な人気を誇る。ある日チンピラに絡まれた女子高生の大和を助けたことがキッカケで親友で超絶イケメンの砂川誠と3人で会うことになる。猛男は大和に一目惚れしたが、大和は砂川のことが好きなんだと気づき、落ち込みながらも二人を結びつけようと人肌脱ごうとするが。

「好きだあああああ〜」という猛男の心の絶叫がいい!
大和のふとした仕草に好きな気持ちがあふれ出る。
原作同様、猛男のいじらしい態度に爆笑しつつも、キュンとなる。


それにしても鈴木亮平の好演ぶりはすごい。
「HK 変態仮面」や「TOKYO TORIBE」みたいな振り切ったものから「海街diary」までをこなせる役者さん。痩せたり太ったりと結構忙しい。
大和役の永野芽郁も徐々に大和でしか見えなくなってくる。はにかんだ感じもキュート。
砂川役の坂口健太郎もハマってた。
映画を観るまではこのキャストは地味だし疑問だったけど、このハマり具合は観てみないと分からない。

気軽に楽しめて、笑ってキュンとなれるラブコメディ。


<作品概要>
「俺物語!!」
(2015年 日本 105分)
監督:河合勇人
原作:河原和音、アルコ
出演:鈴木亮平、永野芽郁、坂口健太郎、森高愛、高橋春織、寺脇康文、鈴木砂羽
配給:東宝

2016年3月5日土曜日

ホール・イン・マネー  A DANGEROUS GAME

ドナルド・トランプの実業家の側面との皮肉

いつになく混戦と盛り上がりをみせる2016年のアメリカ大統領選。その中でも特に異彩を放つのがドナルド・トランプ氏。
アメリカ有数の大富豪で、テレビ番組でホストを務めていたり知名度は抜群。
この大統領選の最中だから面白い。ニュースだけでは分からないドナルド・トランプの一面が垣間見れる。

ドナルド・トランプが代表を務めるトランプ・インターナショナルはスコットランドの自然豊かな景観の海岸沿いの土地を買収し、ゴルフ場建設を始めるが、それに伴う環境破壊はものともせず、近隣住民に強引な地上げを開始する。スコットランド出身のジャーナリストのアンソニー・バクスターは、その実情を訴えるために突撃取材を開始する。


トランプのビジネスは富裕層向けの高級リゾート開発。スコットランドに建設し始めたのも高級ゴルフ場で、近隣住民の家がみすぼらしいからと井戸を枯らして住めないようにしようとしたり、契約違反でもある高い壁を築いて視界から消そうとしたり、とにかくやり方が強引。
富裕層のため、自分のビジネスのためなら邪魔な貧乏人は容赦なく排除するという姿勢が際立つ。
この映画の面白いところは監督が執拗にトランプの負の部分を映し出すことで、今の大統領選との矛盾があぶり出されていくところ。


トランプの支持層は、低所得の白人層で失業をして貧しく、肉体労働では移民に仕事を奪われる脅威を感じている人たち。だから移民排除や強いアメリカの復活など耳障りの良い主張をするトランプは支持を集めるが、実際の彼のビジネスをみると矛盾だらけ。
ちょっと考えれば分かりそうなものだけど、長年テレビ番組で培った視聴者に受けるパフォーマンンスを会得したトランプは予想外に躍進している。
社会主義寄りのサンダース氏といい、今までは考えられなかった候補者が支持を集めているアメリカ大統領選。それだけワシントンD.Cの政治不信ということでもあり、そのアンチテーゼとしての反対票がトランプにも注がれている。

それにしても、彼がもし本当に大統領になったとしたら、日本はどうなるんだろうか。


<作品概要>
「ホール・イン・マネー」  A DANGEROUS GAME
(2014 イギリス 97分)
監督:アンソニー・バクスター
出演:ドナルド・トランプ、アレック・ボールドウィン、マイケル・フォーブス、ロバート・ケネディJr、アンソニー・バクスター、ドナルド・トランプJr
配給:Akari Films

2016年3月4日金曜日

マネー・ショート  THE BIG SHORT

リーマンショックで儲けた男たちがいた。!この大不況の元凶をコメディ作家が描く

サブプライム問題とは何だったのか?
世界中に影響を及ぼしたリーマンショックの内実を、バブル崩壊を予見していたそれぞれの主人公たちの視点で描いたところが面白い。
それにしても、バブルの最中ってかなりのずさんなのに誰も気にしないところが恐ろしい。
だけど現実ってそんなもんだったりもする。

天才的金融トレーダー・マイケル、野心ある銀行家・ジャレド、ジェイミーとチャーリーの若き投資家とそれを後押しする引退した伝説の銀行家ベン。彼らは過剰に加熱する低所得者向けの住宅ローンに不信感を抱き、市場が崩壊した際に巨額の保険金が手に入る契約で、バブルで沸く市場とは真逆に賭ける大勝負に出る。

とにかくずさん。
サブプライムローンとは信用力の低い低所得所に向けた住宅ローンのこと。
普通は何割かの頭金と一緒に年収や預金の証明書が必要なのに、この当時はそれが一切なかった。さらに金利もなかったとか。市場は住宅価格が高騰し続けバブルに沸く中で、返せるあてもない住宅ローンをこぞってみんなが組み続けた。そしてそれはピークを迎える。

ストリッパーや移民などにまで住宅ローンを売りつける不動産会社など、現場はひどいありさま。しかも銀行が債券を買い上げてくれるから誰かれ構わず売りまくる。
日本では住宅ローンは以前よりも審査が厳しくなっているというのに。


それにしても、これら金融商品の仕組みが複雑で分かりづらい。
その点この映画では、著名人がカメオ出演して「猿で分かる」的な解説が入る(笑)
泡のバスタブからマーゴット・ロビーがシャンパンを片手に、サブプライムローンを説明したり、シェフのアンソニー・ボーディンは、腐った魚を他の魚と一緒にシチューに入れて別メニューとして売り出す例えでCDO(債務担保証券)を比喩したり、セレーナ・ゴメスが、"カジノで勝っている人"に賭ける周りの客に例えてCDOが広まったことを説明する。

実際、このサブプライムローンという不良債権を、他の債券と合わせて別物の金融商品にして売り出す際、格付け会社のスタンダード&プアーズやムーディーズはウォール街の言うがままに優良評価をしていたとか。そのせいで誰も不良債権とは気づかずにこの市場はバブルとなっていった。

つまり、ウォール街ぐるみの詐欺。

金融モンスターたちによって引き起こされた人災がこのリーマンショックの実情。
そして、CDOのように何かを介すことによって実態が分からなくなっていくことの怖さも物語っている。


監督は、アダム・マッケイ。「俺たちニュースキャスター」などウィル・フェレルの爆笑「俺たち〜」シリーズの監督。コメディ出身だけに、急にカメラ目線になるあの解説が入ったりと、堅苦しくない金融話ができるのかも。
マイケル・ルイスの原作「世紀の空売り」を読んで、不条理コメディを一旦止めてこれを映画化したいと思ったのだとか。

マイケル・ルイスは別著「マネーボール 奇跡のチームを作った男」が、ブラッド・ピット主演で既に映画化されていて、「世紀の空売り」もブラピの映画製作会社プランBエンターテイメントが既に映画化権を獲得していたので、本作もプランB製作でブラピも出演し、プロデューサーでもある。
ブラピはプロデューサーとしても有能で、プランB作品では、「それでも夜は明ける」、「ツリー・オブ・ライフ」がアカデミー賞作品、「キック・アス」を発掘したりしてる。

そして、ブラピはロバート・レッドフォードにドンドン似てきている。


キャスト陣もいい。
クリスチャン・ベールはこの演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。
ライアン・ゴズリングは野心家の銀行家、スティーブ・カレルも怒れるトレーダーを好演。
(ちなみに、スティーブ・カレルのラスベガスでのシーン。レストランのBGMがでなぜか徳永英明(笑) おかげで気になって話が全く入ってこなかった)

ブラピはプロデューサーだけにおいしい役どころを持っていく。
彼のセリフにもあるように、この映画主人公たちはバブル崩壊を読み、見事に大博打に勝ち、巨額の富を得た訳だけど、それは多くの犠牲の上に成り立っている。


<作品概要>
マネー・ショート」  THE BIG SHORT
(2015年 アメリカ 130分)
監督・脚本:アダム・マッケイ
原作:マイケル・ルイス
出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、メリッサ・レオ、ハミッシュ・リンクレーター、ジョン・マガロ、レイフ・スポール、ジェレミー・ストロング、フィン・ウィットロック、マリサ・トメイ
配給:東和ピクチャーズ