良質なクラシック映画のような安定感。
スピルバーグが監督で、主演はトム・ハンクス、脚本がコーエン兄弟という安心印満載の豪華布陣で面白さは保障されている。
そしてそれに応えるすごさ。
政治的な内容を重厚に、でもユーモアを交えて描く良作。
米ソが冷戦下にある1957年。ある男がソ連のスパイだという容疑でFBIに逮捕される。死刑確実と言われたその男の国選弁護人に選ばれたドノヴァンは、祖国への忠誠心を貫くアベルの弁護を引き受ける。その過程でやがてお互いに理解と尊敬が芽生え始める。このスパイは今後の交換条件のカードにできるという主張で見事にアベルの死刑を回避したドノヴァンだが、アメリカ兵がソ連に捉えられる事件が勃発。その人質交換の交渉役にドノヴァンが指名されることに。
よくよく考えるとかなり無茶振りな状況。
自分が撒いた種ではあるのだけれど、国家の期待と責任を果たさなければならないプレッシャー。そして後ろ盾はない。
あくまで民間人のしていることという建前上、何かあっても国は助けてはくれない。
これが自分に降りかかった仕事だったらかなりキツイ。
そのドノヴァンを支えるのは強固な信念。敵であるアベルにも「不屈の男」(standing man)と言わしめる正義を貫くという異常なまでの信念がこれだけの困難にめげない強さの源。
だけど、すぐ死刑にせず今後の政治の交渉カードに使えるという主張は政府にとって利益になるとても優れた提案。(実際その後役に立ってるし)
だからドノヴァンはただの正義バカではなくて、しっかりとした交渉術をもった優れた人材だったりする。
人質交換の日、交換場所のグリニッケ橋で心配するドノヴァンにアベルは答える「同胞の迎え方で自分の扱い方は決まる。ハグされるか車のバックシートに座らされるか」。
ハグされれば忠誠を貫き通した功績を認められたということ。逆に車の後部座席に入れられれば情報を漏らしたことで死刑を逃れたと疑われているということ。
その様子をドノヴァンは、ずっと立ち続けて見守る。
アベルに「Standing Man」と言われたように。
そのドノヴァンをトム・ハンクスが好演。やっぱりこういう役はよくハマります。
そして本作のキャストで注目はやっぱりアベルを演じたマーク・ライランス!
冒頭シーンはほぼ彼の日常を淡々とひたすら追っていくけど、そこから存在感を発揮。何を考えているのか分からない表情、感情があるのかも読めない目。朴訥としたソ連のスパイを静かにそれでいて印象的に演じている。
こんな役者さんがいたんだ!という驚きと嬉しさ。
アカデミー賞で助演男優賞を獲得したのも納得の演技。
ハリウッドからもオファーが殺到しそうで今後も楽しみ。
舞台は東ベルリン。設定でいうと最近の映画「コードネームU.N.C.L.E」と同じ。
ドノヴァンがCIAに用意されたのは東ベルリンのオンボロなホテル。同じホテルにCIAも泊まっているのか聞くドノヴァンにCIAはさらりと「ん?オレはヒルトン。」と答える。
その時のドノヴァンの絶句ぶりが面白い(笑)
このあたりのユーモアにコーエン節が効いている。
クラシックカーやモトローラ製のラジオなど美術や小物もいい。
モノクロ映像にしてもしっくりきそうな佇まい。
この映画に派手さはない。むしろ地味。いや地味すぎるくらい。
でも、まるでクラシックの名作のような感じさえする。
<作品概要>
「ブリッジ・オブ・スパイ」 BRIDGE OF SPIES
(2015年 アメリカ 142分)
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、マット・チャーマン
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ、アラン・アルダ、オースティン・ストウェル、ミハイル・ゴアボイ、ウィル・ロジャース
配給:20世紀フォックス
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