2015年11月27日金曜日

恋人たち


橋口監督、苦悩の期間から導き出したひとつの答え

橋口監督の作品は生々しくてリアルで苦しくて痛い。社会の片隅でもがき苦しむ登場人物たちの向こう側に今の日本社会がかかえる闇の部分が重くのしかかるように見えてくる。

「ぐるりのこと」は時代感ともマッチして完璧すぎただけにそこでやりきってしまった監督は、その後震災などを経て自分がどうものづくりをしていったらいいのかを見失ってしまったそう。

その苦悩を経てたどり着いた答えがこの本作に込められていて、まさに"渾身の"という言葉がハマりすぎる力作となっている。

妻を通り魔に殺された男、自分に関心のない夫とそりの合わない姑と暮らす主婦、親友を想うゲイのエリート弁護士。
それぞれが苦悩をかかえながら社会の片隅で慟哭し、助けを求め、新しい世界を探し求める。


どのキャラクターも苦しんで助けを必要としていて、だけど現実は残酷で厳しい。
とても生々しく痛々しい。
だけどそこにちょっとしたユーモアが加わるのが救いでもありいいアクセントになっている。それがあるから作品に魅力がましていてやさしさを感じる。
そういう意味では、ケン・ローチに通ずるものがあるかもしれない。

特に安藤玉恵はサイコー。
自分をパッケージにデザインした「美女水」なる水道水を高額で売りつける(笑)
リリー・フランキー扮する超テキトーな先輩とか、脇を固める役者たちがかなりいいアクセントとして配置されていたりする。


全てを失った主人公たち。
震災や原発を経て、それでも人は生きていくしかない。
前を向いて歩いていくしかない。

あの淀川長治から「ヴィスコンティや溝口健二と一緒で、あなたは人間のハラワタを掴んで描く人だ」と言わしめた橋口監督が7年間もの苦悩の末に出した答え。

「恋人たち」というタイトルだけでラブストーリーを期待して観に来たひとは度肝を抜かれるにちがいない。(笑)


<作品概要>
恋人たち
(2015年 日本 140分)
監督:橋口亮輔
出演:篠原篤、鳴島瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田 慈、山中崇、リリー・フランキー
配給:松竹ブロードキャスティング、アークフィルムズ


0 件のコメント:

コメントを投稿