2015年12月26日土曜日

独裁者と小さな孫  The President


かわいい男の子とおじいちゃんの冒険 だけど中身は骨太な社会派

やっぱり一筋縄ではいかないのがモフセン・マフマルバフ監督、またいい作品を撮り上げた。
とある架空の国を舞台に、その独裁者が国を追われる過程を痛烈に皮肉り、だけどもユーモアたっぷりに描いてみせた。

現代。とある国の独裁者は、家族を連れて空港へ向かっている。長年の圧政に苦しめられた国民が遂に暴動を起こし、独裁者である大統領に反旗を翻したのだ。そして一家は国外逃亡するために空港に向かうがひょんなことから大統領は孫とともに残り、そして暴徒を逃れて放浪することに。

やっぱり独裁者側の視点で描いたところが面白い。冒頭から孫と遊ぶように市内を電話一本で停電させてみせるあたり、かなりの独裁者ぶりがみてとれる演出。


そして、変装して孫と逃げながら様々な国民と触れ、いかに大統領(自分)が憎まれているか、圧政をしてきたかを思い知らされる。
かなり自業自得な内容ではあるのだけれど、独裁者である大統領側の視点で描かれているので感情移入しそうでできない不思議な感じのまま展開されていく。
そしてしっかりユーモアもある。
特に大統領の側近がかなり笑かせてくれる(笑)
大統領に尽くして一生懸命なんだけどさらに事態を悪化させていく。

それにしても、ジプシーに変装して逃亡する大統領の姿が、意外と様になっていてかっこいい。白髪の長髪に黒い布を羽織り、ギターを片手にジプシーを演じきる。そして結構演奏が上手い。バレそうでバレないギリギリの旅を続ける。


かわいい孫とおじいちゃん。そんな二人のロードムービーとして観ていたけど、次々と登場する人物たちが繰り広げる過酷な現実。なんとなくカワイイ感じの映画なんかではなく、社会的なメッセージが満載な実に骨太な映画。
やっぱりマフマルバフ監督、そんな生やさしい映画を撮るはずがない。

鑑賞後に偶然にもドキュメンタリー作家の想田監督のトークショーがあり、みごとな解説付きというとても贅沢な回だった。

監督曰く、
孫を入れることで素朴な疑問を自然と会話に出すことができる。そんな装置としての役割が孫にはある。
また各登場人物もそれぞれが何を主張するためなのかの役割がある。特に途中で合流する政治犯はマフマルバフ監督自身の分身で、彼の主張は監督自身のメッセージでもある。
暴力による負の連鎖への警告は、アラブの春などを連想させるけど、この映画の公開後に起きたパリのテロなどにもつながる意味深いものになっている。
客観的に描いているようでかなり監督の主観で描いた作品。
そして直接的でなくメッセージを伝えるテクニックが巧いこと。
などなど。

作り手としての目線でかなり詳しい分析と解説で、ものすごいよく分かってしまった。
そして改めて想田監督、映画監督のすごさを感じた貴重な体験だった。


<作品概要>
独裁者と小さな孫」  The President
(2015 ジョージア=フランス=イギリス=ドイツ 119分)
監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュビリ、ダチ・オルウェラシュビリ、ラ・スキタシュビリ、グジャ・ブリュデュリ、ズガ・ベガリシュビリ
配給:シンカ

2015年12月22日火曜日

ディーン、君がいた瞬間  LIFE


写真家アントン・コービンだからこそのテーマ

ジェームス・ディーンのあの有名な写真たちの裏にあったストーリー。そこに着目したのがアントンコービンらしい。写真家だからこその目線。

マグナム・フォトに所属する気鋭の写真家デニス・ストックは、写真家として自分らしさを表現できる機会を模索していた。そんなある日、新人俳優のジェームス・ディーンに出会う。彼のスター性を見抜いたデニスはLIFE誌に載せる密着撮影をオファーする。

写真でアートをやろうとしたデニスとそれに応えたジミー。
現場で写真を撮るフォトグラファーと掲載するメディア側との見解や意見の不一致がまだまだ相当あった時代。
フォトグラファーの権利を守るためにロバート・キャパらが設立したマグナム・フォト。
そこに所属しているというだけで、デニスの写真家としての意識が人一倍強かったであろうことが推測される。

デニス・ストック(右)
スターにそんなに密着できるものなのか、そういう時代でそういう人柄だったのか分からないけど、仕事とプライベートの境界がないオフショットってああやって心を許してないと撮れない。そしてすごく自然体のジェーム・スディーンも魅力的。


キャストもいい、デイン・デハーンは天才型の俳優。伝説のスターを演じるに当たってかなりのプレッシャーだったと思う(実際何度もオファーを断ったらしい)。あのモゴモゴしたしゃべり方と容姿が似てるのかと最初は思ったけど、最後タクシーで訪れてデニス呼ぶ姿は、ジェームス・ディーンに見えた。



そして、有名な写真の数々。
マンハッタンで雨の中をタバコをくわえて歩く姿や、床屋での姿など、どこかで必ず見たことあるライフ誌を飾った写真たち。
それになぞらえたシーンがあるのが楽しい。

そして、アントン・コービンは、やっぱり男くさい題材が好きだ。
本作は「誰よりも狙われた男」に次ぐ長編4作目。
ジェームス・ディーンが亡くなる直前のデニス・ストックとの時間にフォーカス。
この一瞬を切り取って作品に仕上げた。


いまだに色あせない伝説のスター。
こんなに有名なのに主演作品は、わずかに3本。
「エデンの東」(1955)
「理由なき反抗」(1955)
「ジャイアンツ」(1956)

享年24歳。


<作品概要>
(2015 カナダ=ドイツ=オーストラリア 112分)
監督:アントン・コービン
主演:デイン・デハーン、ロバート・パティンソン
配給:GAGA

2015年12月8日火曜日

やさしい女  Une Femme Douce


ブレッソン、初のカラー作品

長年日本では観ることができなかったというブレッソンの傑作。
ブレッソンらしく、本当に余計な説明がないし、セリフが少ない。一切の無駄を省いて見せる映像を作ることができる作家。体脂肪が極端に低いタイプの作品。

若く美しい妻と質素だが順調そうな結婚生活を送っていた質屋を営む中年男。ある日突然、妻が自殺を図り、夫婦のそれまでを振り返っていく。

テラスから始まる衝撃の冒頭。
過去に遡りながら淡々と進み、そして冒頭のシーンに戻ってくるあたり、すごく巧さを感じる。

ドミニク・サンダの緑色のコートがなんかいい。
ノートやちょっとした小物がおしゃれだったり、そんなとこにも注目するとおもしろい。

それにしてもドミニク・サンダが美しすぎる。この時、若干17歳! 
ブレッソンに見出され、本作でデビュー。ブレッソン初のカラー作品を飾った。
その後、ベルトリッチ監督の「暗殺の森」などに出演。
日本でも人気だったそうで、なんとパルコのCMにも主演していたとか。


<作品概要>
やさしい女」  Une Femme Douce
(1969年 フランス 89分)
監督:ロベール・ブレッソン
原作:ドストエフスキー
出演:ドミニク・サンダ、ギィ・フランジャン、ジャン・ロブレ
配給:コピアポア・フィルム

2015年12月1日火曜日

ピクニック  partie de campagne


ルノワールの失われた名作

第二次大戦中にナチスドイツによって破棄されてしまった幻のプリントを、シネマテーク・フランセーズの創設者アンリ・ラングロワが救出。
ルノワールの了承のもと編集作業が続けられ1946年にパリで公開された作品。

夏のある日、ピクニックに向かったとある一家の娘アンリエットは、現地で出会った青年アンリと結ばれる。そして別れと再会とを経て待ち受ける結末とは。

それにしても、この作品にまつわるエピソードがすごすぎる。


この作品はまるで、父であり画家であるピエール=オーギュスト・ルノワールの印象派の絵画のような世界観。
原作はフランスを代表する作家ギィ・ド・モーパッサン。


そして、スタッフ陣が豪華!
助監督には、写真家のアンリ=カルティエ・ブレッソン、映画監督のジャック・ベッケルやルキノ・ヴィスコンティらが名を連ねる。
今では考えられない大物ぞろい。

後半たたみかける展開はすごい。
このわずか40分の作品にはいろいろなものが詰まっている。


<作品概要>
ピクニック
(1936年 フランス 40分)
監督:ジャン・ルノワール
助監督:アンリ=カルティエ・ブレッソン、ジャック・ベッケル、ルキノ・ヴィスコンティ
出演:シルビア・バタイユ、ジャーヌ・マルカン、アンドレ・ガブリエロ、ジャック・ボレル、ジョルジュ・ダルヌー、ポール・タン、ガブリエル・フォンタン
原作:ギイ・ド・モーパッサン
配給:クレストインターナショナル