駆ける!吠える! 少年アミル
傑作と言われながらなかなか鑑賞できる機会がない本作。
監督は、イランの鬼才・アミール・ナデリ。日本でも西島秀俊主演で「CUT」という作品を撮っていたりする。その監督の原点とも言えるのがこの「駆ける少年」(1985)。貧しい子どもたちの底抜けに明るい姿が震災後の暗くなってしまった日本へのメッセージの意味もあり、2013年に劇場公開された。
1970年代初頭。ペルシャ湾沿いの港町で暮らす孤児のアミルは、空きビンを集めたり、靴磨きや、コップ一杯の水を販売しながら生計を立てている。貧しく厳しい環境ながら仲間とともに毎日を精一杯、元気に、逞しく生き抜いていくアミルたちの姿を描く。
とにかく子どもたちが元気でよく駆ける! そしてアミルは吠える(笑)
この映画が製作されたのは1985年。
イランではちょうどイラン・イラク戦争の真っ最中で、国中が暗い雰囲気の中でこの映画は作られた。
そして、多くのイラン国民がこれを観て、貧しくも元気で逞しく明るい未来に向かって生き抜く少年たちの姿に心を打たれ、元気を取り戻したのだとか。
1杯の水代をもらい損ねてどこまでも自転車に乗った大人を追いかけていき、ついには追いつきお代をちょうだいするアミルのあの根性はすごい。
そしてお代をもらっときのあの笑顔。
水代をケチって“飲み逃げ”した上に子どもに追いつかれ、しぶしぶ支払うも満面の笑みという一切の嫌みがないオトナな対応で返されるという、あの最悪すぎるおっさんのバツの悪そうなシーンとかも面白い。
子どもが主人公、さらに素人の子どもを巧みに演出して起用するという展開は、イラン映画のお家芸。
バイオレンスやセックス、ドラッグといったハリウッドではヒット要素が一切NGという規制の多い環境で発展したイラン映画は、やさしく、普遍的で教育的な内容が多い。
その中で、この作品の力強さは、完全に他のイラン映画とは一線を画している。
ナデリ監督の溢れ出すエネルギーや衝動が、その規制の中ではちきれそうになっている。
だから、外国で映画を作るとあんなにすごいの作っちゃうのでしょう(笑)
<作品概要>
「駆ける少年」 Davandeh
(1985年 イラン 91分)
監督:アミール・ナデリ
出演:マジット・ニルマンド、ムサ・トルキザデエ、アッバス・ナゼ
配給:「駆ける少年」上映委員会