2014年1月18日土曜日

ドラッグ・ウォー 毒戦


麻薬(ドラッグ)にはじまり劇薬(ドラッグ)に終わる まさにドラッグ・ウォー!

ジョニー・トーが中国本土で撮影に挑んだガンアクション。ラストの至近距離銃撃戦は凄まじい。
巨大麻薬組織に挑む中国公安警察の捜査を得意のアクションとサスペンス性をもって描く。

麻薬製造の罪で逮捕されたテンミンは、中国の法律では死刑になる。そこで死刑と引き換えにジャン警部は潜入捜査の取引を持ちかける。やがて麻薬取引を仕切る黒幕や、香港・韓国・日本をも巻き込んだシンジケートの存在が見えてくる。捜査に協力するテンミンだが果たして信用できるのか、本当のことを言っているのか、サスペンス要素を帯びながら、黒幕に迫っていく。


ジョニー・トーの作品と言われなければ、分からなかったかもしれない。映像は80年代の刑事ドラマのように古めかしい。男臭い物語ではあるのだけれど、ジョニー・トーといえば大げさなほど“侠気”を表現し、反体制でいて、“義”のため、“男の約束”のために死ぬ。そしてガンアクションといえば2丁拳銃は当たり前、アクロバティックな銃さばきやオマエは何発打たれてんだ、と突っ込みたくなるほどのタフガイぶりが象徴的だが、それに比べると正統派にまとまってしまった感が否めない。


それでも最後のガンアクションは凄い! 至近距離での撃ち合い、生き残ろうとする貪欲さは見物だった。

パンフレットにあるジョニー・トー監督のインタビューを読むと分かるが、(インタビュアーはミルクマン斉藤)監督本人も決して納得はしていないようだ。
やはり中国本土で撮るということは規制も多く、更に中国公安警察を描くので、公安と映画と二重の検閲が必要で、大分削ったそうだ。本当はもっと撃ちまくって、もっとたくさん死んでいたらしい(笑)
監督曰く、「本来考えていたものとは全然違う作品になってしまった。今までとは違う“大陸で撮ったジョニー・トー作品”と思って欲しい、申し訳ない。」だそう。

それくらい本土で撮影することは困難なことなのだ。
今後は香港で思う存分“ジョニー節”を発揮してもらいたい。


<作品概要>
ドラッグ・ウォー」 毒戦
(2013年 香港=中国 103分)
監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、スン・ホイレン、クリスタル・ホアン、ウォレス・チョン、ラム・シュー
配給:アルシネテラン

2014年1月17日金曜日

夢と狂気の王国


ジブリを密着したテレビのドキュメンタリーと違う部分


「風立ちぬ」に「かぐや姫の物語」と1年に2本もジブリ作品が公開されるという年に、スタジオジブリを追いかけたドキュメンタリー映画が公開される。まさにジブリイヤーの2013年。
映画公開付近になると公開と前後してテレビで同様のドキュメンタリー番組が放映される。わざわざ映画でそれを見せるとはどういうことなのか、何がテレビ番組のドキュメンタリーが違うのか、とても気になるところだ。
テレビは無料で観れるから、わざわざお金を払って劇場まで足を運ばせるにはそれなりの理由と覚悟がいるはず。

本作の企画・プロデュースは、ドワンゴの社長・川上量生氏、上場企業の社長でありながらスタジオジブリに“見習い”として入社しているジブリファン。ジブリ作品が2本も公開される年に“スタジオジブリ”に密着する企画を進めたいと思った。作品と監督だけでなく、スタジオ自体を被写体にした点も特定のタイトルのための番組とは違ったところ。

そして監督は、これで長編映画2作目となる砂田麻美。「そして父になる」の是枝監督のもとで修行し、デビュー作の「エンディングノート」でその才能をみせつけたドキュメンタリーの新鋭。彼女のナレーションで進行する展開は「エンディングノート」と一緒で彼女のペースで、彼女の語り口で、彼女の世界として描かれる。

宮崎監督の引退会見の直前、砂田麻美は宮崎監督と2人きりだったそう。だけど砂田監督はそこでカメラを回さなかったとか。何故なのか。川上プロデューサーが聞いたところ、その回答は「何か違うから」というすごい理由(笑)
“記録”としての役割・意味合いで撮られるドキュメンタリーではありえない現象。
このエピソードでも証明されるように、これはただの“記録”ではなく歴とした砂田麻美監督の“作品”なのだ。

ここが決定的に他のジブリを追ったドキュメンタリー番組と違うところ。

ちなみに撮影期間中にピクサーのジョン・ラセターが訪ねてきて普段OKが出ない撮影許可が取れた。砂田監督の過去の編集を見てラセターが気に入ったのだ。それなのに本編でジョン・ラセターは一切出てこない(笑)こういうあたり、砂田監督の“作家性”が象徴されるエピソードだ。


鈴木敏夫プロデューサーがつけた本作のキャッチコピーは、
「ジブリにしのび込んだマミちゃんの冒険」
あくまで彼女視点の作品であることを見事に言い当てている。


ポスターに使用された写真。フランスのカメラマンが訪れた際に撮影され、宮崎監督が気に入り、背景をコラージュして描いている。だからよく見ると写真と絵のハイブリットだ。
東京・小金井にあるスタジオジブリの美しい建物をゆっくりと移動しながら映し出すオープニング、宮崎駿・高畑勲・鈴木敏夫の3人が一緒に屋上で過ごす一瞬、宮崎吾郎の苦悩、庵野秀明へのオファー、アシスタント三吉さん、ラジオ体操、宮崎VS高畑評、商品化会議、などなど
ジブリの内幕の一瞬を目撃できる。


<作品概要>
夢と狂気の王国
(2013年 日本 118分)
監督:砂田麻美
プロデューサー:川上量生
音楽:高木正勝
出演:宮崎駿、高畑勲、鈴木敏夫、庵野秀明、宮崎吾郎
配給:東宝
製作:ドワンゴ
タイトルデザイン:goen



2014年1月14日火曜日

手仕事のアニメーション 「ゴールデンタイム」&「タップ君」 「つみきのいえ」


日本を代表するプロダクションによる手作りアニメーション

「海猿」、「ALWAYS 三丁目の夕日」など数々のヒット作を製作するROBOTと、VFXプロダクションの白組が贈るオリジナルの短編アニメーション。言葉のない映像で海外でも通じるアニメを届ける。

「ゴールデンタイム」
高度成長期、用済みになった家具調テレビが廃品置き場から脱出しようと奔走する。
公式サイト
人生で2回目のゴールデンタイム(黄金期)を手に入れようとドタバタと立ち回る仕草に愛嬌があって面白い。

「タップ君」
靴職人のお店にはいつもボロボロの靴たちが修理のために運ばれてくる。ある日、タップダンサーの靴がやってくる。靴職人が家に帰った夜、靴たちは密かに会話を始め出す。
人がいなくなった後に靴たちが動き出す感じは「トイストーリー」のよう。

「つみきのいえ」
水没した街に住む老人は、更に水かさが増し上の階に部屋を作り始める。そんな中、愛用のパイプを階下の海の中に落としてしまう。それを拾うべく海中に没した階下に潜っていくがそれぞれの階下に潜るたびに昔の思い出がよみがえっていく。
第81回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞

ゴールデンタイム
タップ君
つみきのいえ

結局は、併映されていた「つみきのいえ」が一番良かった。
絵本では解説があるけれどアニメでは一切セリフはない。画だけでかつて一緒に暮らした家族の思い出や、何故この家はつみきのように積み上げられているのかが分かる。
地球温暖化なのか、メッセージ性も感じられてとてもいい。

タップ君の美術は全て監督が手がけている。この辺りのクオリティはとても高い。
三谷幸喜演出の人形劇「新・三銃士」も日本製で井上文太デザイン。だけど最近の宝くじのCMでキムタクや渡哲也が扮したパペットはアメリカ製。ロサンゼルスの CHIODO BROS が製作。何でも日本ではできない顔の動かし方ができるんだとか。この手の細かい技術は日本のお家芸なので、アメリカに発注せずとも国産でやってもらいたい。
そのためにも、このアニメーション業界の若手にはがんばってもらいたい。


<作品概要>
手仕事のアニメーション

ゴールデンタイム」 (2013年 日本 22分)
監督・脚本・アニメーション・キャラクターデザイン:稲葉 卓
製作:ROBOT

「タップ君」 (2013年 日本 23分)
監督・人形制作・美術デザイン:アンマサコ
製作:白組

「つみきのいえ」 (2008年 日本 12分)
監督・アニメーション:加藤久仁生
製作:ROBOT


2014年1月13日月曜日

少女は自転車にのって  Wadjda


映画館のない国からやってきた傑作映画

サウジアラビアは法律で映画館の設置が禁止されているという映画ファンからすると信じられない国。絶対に住めない! そして厳しくイスラムの教えを守る文化のため女性は男性並みに社会進出をすることはおろか、男性の前で顔を出したりすることすら憚られる。そんな国からやってきたのが女性監督による自由で活発な少女の物語。制限された環境を逆手に取って少女の生き生きとした姿が際立って見えた。

ワジダは、アバヤの下にスニーカー&ジーンズ、ヘッドホンで洋楽を聞くという現代的な女の子。でも超保守的なサウジアラビアでは異端児だ。男の子の友達アブドゥラが乗る自転車が羨ましい。でも女の子が自転車に乗るなんて歓迎されない環境。それでも自由なワジダは自転車を買うために自分で作ったミサンガを売ったり、上級生の密会を橋渡ししたりして小遣い稼ぎをする。それでも自転車を買うには程遠い。ところがある日、コーラン暗唱の大会があり賞金で自転車が買えることが分かりワジダは苦手のコーランを猛練習する。


サウジアラビアはアラブ圏の中でも宗教的に女性の制限が厳しい国だそう。
本作でも女校長が女生徒たちに注意するように、男性に見られても、声を聞かれてもダメ。アバヤを纏い身を隠す。それって昔の日本以上。それに、男子が欲しいという理由で第二夫人のもとに去っていくお父さん。立場的にそれを止められず、泣き崩れるお母さん。なんとも不条理な展開。でもそれが現実のサウジであり、監督が世界に訴えたいことだ。
監督はこれがデビュー作となるハイファ・アル=マンスール。映画館がない国に生まれたもののテレビやDVDでは普通に観れるのでハリウッド大作などを観て育った。社会に出て男性社会の中で透明人間のような自分を感じ、映画に居場所を求めたとか。恐らくワジダ自身が監督の分身なのだろう。ワジダのように自由に育ち、男性社会の不条理さを感じ、黙っていられなくなってしまったのだ。

ワジダ役のワアド・ムハンマドも本作がデビュー作。難航したオーディションの中でジーンズにスニーカー、ジャンスティン・ビーバーが大好きというワジダそのものだったらしい。
お母さん役のリーム・アブドゥラはサウジでは有名な女優さん。名家に生まれながら社会派の作品にも積極的に出演している。

本作は、なんとアカデミー賞のサウジアラビア代表に選ばれた。
映画館のない国からきた映画がアカデミー賞にノミネートされたら面白い。



<作品概要>
少女は自転車にのって」 Wadjda
(2012年 サウジアラビア=ドイツ 97分)
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラ、アフドゥ、アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ
配給:アルバトロス・フィルム

2014年1月9日木曜日

第26回東京国際映画祭 26th Tokyo International Film Festival


日本を代表する国際映画祭“東京国際映画祭”

映画祭の位置づけとしては映画のお祭りだけでなく新作の買い付けのマーケットの場でもある。それだけに来場者は一般の映画ファンのみならず、若い才能を探すバイヤー、劇場関係者、映画評論家などの業界人が海外からも訪れる。

前回第25回までは、代表者がチェアマンとして、映画会社GAGAの社長である依田巽氏が務めていたが、今回から角川グループの椎名保氏がディレクター・ジェネラルという新しい肩書きで初代として就任した。
依田さんの時はレッドカーペットではなくグリーンカーペットにしたり、“エコ”なイメージを全面に押し出していた。時代的にも環境問題やエコ活動などが注目されていたので、振り返るとその時の時代背景まで見えて面白い。グリーンカーペットになった時は賛否巻き起こったがインパクトは絶大だった。
今回もグリーンカーペットは継承されている。

<歴代のポスター、プログラム>

























<第26回東京国際映画祭 受賞結果>
→結果一覧ページ

◉東京 サクラ グランプリ
『ウィ・アー・ザ・ベスト!』(スウェーデン)
監督:ルーカス・ムーディソン

we are the best!
◉審査員特別賞
『ルールを曲げろ』(イラン)
監督:ベーナム・ベーザディ

◉最優秀監督賞
監督:ベネディクト・エルリングソン
『馬々と人間たち』(アイスランド)

◉最優秀女優賞
ユージン・ドミンゴ
『ある理髪店の物語』(フィリピン)

◉最優秀男優賞
ワン・ジンチュン
『オルドス警察日記』(中国)

◉最優秀芸術貢献賞
『エンプティ・アワーズ』(メキシコ=フランス=スペイン)
監督:アーロン・フェルナンディス

◉観客賞
『レッド・ファミリー』(韓国)
監督:イ・ジュヒョン

◉アジアの未来 作品賞
『今日から明日へ』(中国)
監督:ヤン・フイロン

◉アジアの未来 スペシャル・メンション
『祖谷物語−おくのひと−』
監督:蔦哲一郎

◉日本映画スプラッシュ 作品賞
『FORMA』
監督:坂本あゆみ


今回から新設された「アジアの未来」、こういったところでいかにアジア色を出していけるかが今後の課題。アジアの国際映画祭としては老舗でも後発の釜山国際映画祭に、アジアでの国際映画祭の地位は奪われてしまった。大型スポンサーが降りたり、特色がなかなか出せなかったり迷走を続けていたが、アジアを代表する映画祭になってもらいたい。


<開催概要>
第26回東京国際映画祭」Tokyo International Film Festival (TIFF)
主催:公益財団法人ユニジャパン(第26回東京国際映画祭実行委員会)
共催:経済産業省、東京都
期間:2013年10月17日(木)〜25日(金) 9日間
支援:文化庁

2014年1月8日水曜日

キック・アス  Kick Ass


アメコミの超変化球ムービー!

アメリカでなければ絶対に制作されないようなオタクムービー。突き抜けたことができたのが面白い。それが勝因の全てだろう。大手スタジオでの話があったそうだけどやらなくて大正解。規制にとらわれて中途半端にまとまってしまうほど面白くない映画はない。

スーパーヒーローに憧れるイケてないオタク少年デイヴは、ある日、自らスーパーヒーローになろうと決心し、ネット通販で買ったコスチュームに身を包み悪を撃退しようとするが、当然何の特殊能力もないため見事に返り討ちにあう。だけどそれがキッカケで憧れのケイティと急接近。懲りずに再会したパトロールで犯罪組織に巻き込まれるが、同じようにコスチュームを着た謎の少女ヒット・ガールに助けられる。彼女の父親ビッグ・ダディも登場し、デイヴの日常は劇的に変わっていく。

全然強くないキック・アスがギャングにボコボコにされるのに笑わされるが、わずか11歳の少女ヒット・ガールがそれを助けて相手を殺しまくる!この意外すぎてやりすぎな展開がこの映画の肝だ。大手スタジオからクレームがついたのもこの部分だとか。ヒット・ガールの削除を要求されたとか。でもこのキャラクター設定を守り抜くべく監督は私財を投じて製作し映画を完成させた。恐るべき映画愛。(原作愛?)

ヒット・ガール役のクロエ・グレース・モレッツは、本作のパート2「キック・アス ジャスティス・フォーエヴァー」にも出演。その他には「(500)日のサマー」「ジャックと天空の巨人」「ヒューゴの不思議な発明」「キャリー」など。最近はグッと大人っぽくなった。


<作品概要>
キック・アス」 KICK-ASS
(2010年 イギリス=アメリカ 117分)
監督:マシュー・ボーン
出演:アーロン・ジョンソン、クロエ・グレース・モレッツ、ニコラス・ケイジ、クリストファー・ミンツ=プラッセ、マーク・ストロング
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

2014年1月7日火曜日

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ  Only Lovers Left Alive


ひっそりと現代に生きる弱く美しい吸血鬼(ヴァンパイア)

今の時代に暮らす吸血鬼はどうも大変そうだ。
血は病院のドクターに裏金を渡し、新鮮でいて好みの「RH− O型」をご指名し調達する。事件になるから人を殺めることもない、それに最近は汚染された血が増えてきて危険だ。

夜の世界にひっそりと生きるアウトサイダーを描いてきたジャームッシュが今回選んだのは、吸血鬼(ヴァンパイア)。
ついに描く対象が人間ではなくなった(笑)

孤高のアーティストのように、ひっそりと美しく生きるヴァンパイアの恋人、アダムとイヴの恋物語。 やがてイヴの妹エヴァの登場で徐々に二人の生活は狂い出していく。

彼らが調達する血は最上級だ。
小さなワイングラスになみなみと注がれた血を一気に飲み干す。そして全身でそれを味わう。まるで上等なドラッグをキメた時のようだ。


待望のジャームッシュの新作。「リミッツ・オブ・コントロール」依頼4年ぶりの監督作。音楽・英国文学、ジャームッシュが好きなカルチャーがちりばめられている。
特にヴィンテージなギターの数々。好きな人にはたまらないラインナップなのだろう。
だけどやっぱり前作「リミッツ〜」でみせたぶっ飛んだ設定と展開の方が面白かった。
ヴァンパイアという設定も普通ではないけれど。

タンジール - デトロイト
かつては栄えたさみしい街にこの物語は似合う。


<作品概要>
オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」 Only Lovers Left Alive
(2013年 アメリカ=イギリス=ドイツ 123分)
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、アントン・イェルチン
配給:ロングライド

2014年1月6日月曜日

鑑定士と顔のない依頼人  The best offer


名匠と絵画とミステリー

とても上品なミステリーに仕上がっていた。美術品を扱う内容だからというのもあるけどやっぱりジェフリー・ラッシュが効いている。「英国王のスピーチ」の印象が強いのかもしれないけど、彼が出ているだけで知的で高貴で上品な感じがしてしまう。作品の内容とキャストがとてもマッチしていた。

鑑定士でありオークショニアでもあるヴァージル・オールドマンは腕は一流だが、人を信用しない偏屈な男。ある時、相続した膨大な数の美術品を売却したいという女性から依頼が入る。ところが何だかんだと理由を並べ姿を現さないその女性に興味を持ち始め、引き受けた鑑定を進めながら徐々に姿の見えないその女性にのめり込んでいく。

監督は、イタリアを代表する名匠ジョゼッペ・トルナトーレ。「ニュー・シネマ・パラダイス」は誰もが知る名作。そして音楽を手がけるのがこの「ニュー・シネマ・パラダイス」のあの名曲を手がけたイタリアの至宝エンニオ・モリコーネ85歳。ほぼ全ての作品でタッグを組む黄金コンビ。


超一流で仕事一筋、恋する相手も絵画の中の女性たち。
そんなおじさんがある時、初めて生身の女性に恋をした。そしたらやっぱり案の定、人生が狂い出す。恋は盲目なんていいますが、どんなに仕事で一流の人でも冷静な判断ができなくなってしまうのか。脚本も良くできていて面白かった。

向かいのカフェにいる不思議な女性、その存在はデヴィット・リンチの映画にも出てきそうな感じ。
最後のシーンで彼が待っていたのは誰なのか。それとも待ち人は来ないのか、あの意味が知りたい。

本作では数々の有名絵画が登場する。
◆ルノワール 「ジャンヌ・サマリーの肖像」
◆モディリアーニ 「青い目の女」
◆ゴヤ 「ベルムーデス夫人の肖像」
◆クリストゥス 「若い女の肖像」
◆ブーグロー 「ヴィーナスの誕生」
◆ティツィアーノ 「ラ・ベッラ」
◆ボッカチーノ 「ジプシーの少女」
◆クレディ 「カテリーナ・スフォルツァ」
など

▼予告編
http://www.youtube.com/watch?v=6oeE9w_w6Ak


<作品概要>
鑑定士と顔のない依頼人」 The best offer La migliore offerta
(2013年 イタリア 131分)
監督:ジョゼッペ・トルナトーレ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・ホークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー、リヤ・ケベデ
配給:ギャガ

2014年1月5日日曜日

反撥 Repulsion


ドヌーブによる「こわれゆく女」

ジーナ・ローランズによる「こわれゆく女」は1974年。本作は1965年なので、こちらの方が本家ではあるが、徐々に狂気をはらみこわれてゆく美女を描くあたりは共通した作品だ。だけどジョン・カサベテスの「こわれゆく女」の方が痛さを感じる。

姉と暮らすキャロルは、奔放な姉とは対照的に潔癖で男性を受け付けない。コリンからは口説かれ続けているがどうしても前向きになれない。男性に犯される幻覚を見たり男性恐怖症の兆候があらわれ始め、仕事場でもミスが目立つようになる。そんなある日、姉が恋人と旅行に行くことになり、ひとりになると、ついに兆候に歯止めがきかなくなっていく。

とにかく、カトリーヌ・ドヌーブが若く美しい。
この時代のドヌーブは見ているだけでもいい。
それに、あまり演技を気になしたことがなかったけどこわれゆく姿をよく表現できていた。演技ということで言えばジーナ・ローランズの方がすごいけど。


監督のロマン・ポランスキーは、この頃の初期作品で評価され、アメリカに渡り「ローズマリーの赤ちゃん」を監督することになる。
サスペンスの手法が今見るととても古典的で全然怖くない(笑)だけどこの当時はこういう演出が最先端だったのだろう。「ローズマリーの赤ちゃん」でもそうだけど、ホラーやハラハラドキドキが苦手な人でもこの頃の作品なら安心して観れるからオススメ。

それにしてもこの作品は最後の最後まで良くできている。
キャロルの暴走に歯止めがかからなくなってしまった衝撃のラストを迎えた後。

最後の家族写真。
少女の目線の先にいる父親らしき笑顔の男、そして写真がクローズアップされるにつれ少女の恐るべき形相によって何故ここまで男性恐怖症になってしまったのかが暗示されるという種明かしが。
最後の最後にぞぞっとさせる仕掛けを用意して「なるほど」と締めくくる。
とても良くできている映画だ。


<作品概要>
「反撥」 Repulsion
(1965年 イギリス 105分)
監督:ロマン・ポランスキー
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、イヴォンヌ・フルノー、イアン・ヘンドリー、ジョン・フレイザー、パトリック・ワイマーク
配給:マーメイドフィルム

2013年12月31日火曜日

かしこい狗は、吠えずに笑う


狂気が増幅する 恐るべきインディーズ映画

監督はこれが長編劇場映画デビューとなる渡部亮平、若干26歳。2012年のぴあフィルムフェスティバルでエンタテイメント賞と映画ファン賞をダブル受賞した本作。若くベビーフェイスな外見からは想像がつかないほど作品は狡猾で野心的。

イケてないが故に友達のいない美沙と、かわいいが故に妬まれて友達のいないイズミの二人の女子高生は、ある時意気投合し親密になっていく。いつも一緒に過ごすようになるがイズミの嫉妬深さが気になりだし、物語は加速しはじめる。

女子高生同士の危ういバランスで成り立っている友情関係をちょっとした甘酸っぱさを織り交ぜながら描く前半に、これを男性監督が撮るのか?とちょっと不思議に思うくらいだったけど、この後半のサスペンス具体はどうだろう! ドキドキとザワザワが増幅していく後半を演出するための周到な伏線だと気づかされる。そう、やっぱり女子高生の甘酸っぱい青春ストーリーなんかを撮る監督じゃない、狂気が暴走しだす、侮っていた観客は呑み込まれてしまうくらいの勢いでクライマックスへと進んでいく。


主演は、シンガーソングライターのmimpi*β(ミンピ)と元non.noのモデルの岡村いずみ。演技はこれからのフレッシュな俳優。ミンピは自分のライブ後に見に来ていた監督に直接スカウトされたとか。その場の勢いで映画出演に応じたものの内容は全く分かっておらず、後日の打ち合わせで監督が言いにくそうにブサイク役であることを告げたとか(笑) あまりに監督がベビーフェイス過ぎて最初は高校生のファンの子が話しかけてきたのかと思ったらしい。
ミンピは本作のエンディング曲「カメレオン」を提供している。ちなみに名前のmimpiとはインドネシア語の「夢」からきているとか。


<作品概要>
かしこい狗は、吠えずに笑う
(2013年 日本 94分)
監督:渡部亮平
出演:mimpi*β、岡村いずみ
配給:Hana film

2013年12月26日木曜日

有名監督のクリスマス THE AUTEURS of CHRISTMAS


個性派の映画監督をみごとにパロディ!

有名監督がクリスマスをテーマに映像を作ったらこうなる、という面白い動画作品。
それぞれの個性派監督の特徴をみごとにとらえていてすごい。
映画作家によるクリスマス。

短い時間で続けざまに見れるので比較もすぐできて改めて個性の違いが実感できて楽しい。

パロディされた監督は以下、(登場順)
◎スティーブン・スピルバーグ
◎セルゲイ・エイゼンシュテイン
◎ウェス・アンダーソン
◎ウディ・アレン
◎ラース・フォン・トリアー
◎マーティン・スコセッシ
◎マイケル・ムーア
◎スタンリー・キューブリック
◎ヴェルナー・ヘルツォーク
◎バズ・ラーマン



この映像はカナダの制作プロダクション fourgrounds社が作成したもの。
http://www.fourgrounds.com/


<作品概要>
(2013年 カナダ 2分30秒)
監督:
出演:
配給:
制作:fourgrounds


2013年12月19日木曜日

箱入り息子の恋


星野源がキモい! キモさ全開で好演する“箱入り息子”

コミュニケーションが下手で友達もいない、外見もパッとせず絶対にモテないタイプ。これといった趣味もない“箱入り息子”を星野源が自然に演じていた。星野源はこれが映画初主演。ドラマや映画にはちょこちょこ出ている彼だけどアーティストとして、俳優として急に露出が増えたのはここ最近なので、はじめてこの作品で星野源に触れた人はどんな役者だと思っただろうか。実は結構イケてるミュージシャンです。

市役所に勤め、徒歩圏内の自宅と職場の往復だけで日々を過ごす主人公の健太郎35歳(彼女いない歴35年)が、ある日盲目の美少女に恋をする。
その日から、自宅と職場の往復だけでない健太郎(星野源)の新たな日々が始まっていく。 

まさに、ボーイ・ミーツ・ガール! だけどお互いちょっとワケあり。
外見がイケてなく、内気で人付き合いができない健太郎だけど、目が見えない奈緒子(夏帆)にとって見てくれはどうでもいいこと。本当に内面のやさしさを理解できる人だ。 そんな菜穂子にドンドンと惹かれていく健太郎。手を握ることさえ戸惑う純情ぶり。吉野家で牛丼の頼み方を教えたり、不器用さ全開なデートで笑わせる。 順調そうに思われた矢先、奈緒子の父親が壁となって立ちはだかる。だけど恋愛経験が全くない人が急に恋愛にハマってしまった“危うさ”と“勢い”で、彼はひたすら突き進んでいく。


笑って、ちょっと泣けて、小気味よい作品と思いつつ後半はかなりスピードアップ、案外と山あり谷ありな展開になっていく。ほのぼのした雰囲気とは裏腹に星野源の裸姿や夏帆とのベッドシーンなど、一筋縄ではいかない作品になっていた。


健太郎の爬虫類的なキモさは、部屋で飼っているカエルとかぶる。最初は鳴きまねを得意そうに披露してたが、最後はカエル人間ばりになっていた(笑)

そんな星野源だけど本当はすごくかっこいいアーティスト。
SAKEROCK(サケロック)の中心メンバー。最近はソロ活動が中心で、俳優業や執筆業、ラジオのパーソナリティなど幅広く活躍。(くも膜下出血で一時休業、徐々に復活)
だけど、やっぱりSAKEROCKが最高!


ちなみにSAKEROCKのメンバーにはハマケンこと浜野謙太も在籍。
彼も俳優活動をしていて、「婚前特急」や「体脂肪計タニタの社員食堂」に出演し、その愛嬌あるキャラクターと独特の存在感でブレイクしている。
ハマケンのバンド「在日ファンク」も面白い!



<作品概要>
箱入り息子の恋
(2013年 日本 117分)
監督:市井昌秀
出演:星野源、夏帆、平泉成、森山良子、大杉蓮、黒木瞳、竹内都子
配給:キノフィルムズ


かぐや姫の物語


全編が水彩画 美しい日本古来の物語

高畑勲監督77歳、製作期間8年間、製作費50億円。 日本人の誰も知っている“日本最古の物語”である「竹取物語」を描く。

プロデューサーの西村義明氏によると、原画に手作業で水彩画で色をつけ始めたとき「あぁ、この映画は終わらない」と思ったとか。
そのくらいこの映画は製作期間を要した。
遅れ癖があり終わらす気のない監督に釘を刺すために設定された宮崎駿監督の「風立ちぬ」との同時公開。その公開日も結局間にあわなかった。制作の遅れを挽回するために後半はアニメーターを追加投入。このために「新世紀エヴァンゲリオン」の制作が遅れたとまで言われた。(ちなみに「エヴァンゲリオン」の庵野監督は「風立ちぬ」に声優(主役)として参加している)

ジブリ作品と言えば、いつも主題歌が話題になる。
今作では、二階堂和美の「いのちの記憶」。音楽はいつも通り久石譲だ。


こだわりにこだわって完成にこぎつけた本作は、こだわった甲斐がある、とてもすばらしい作品に仕上がった。
この水彩画のタッチで描くアニメーションが珍しいし、それを2時間を超える大作に仕上げてみせた。予告編でもそうだったけどすごく躍動感がある。この水彩画の絵巻を見ているかのような画なのに表情や動きにエネルギーが感じられて、このくらいの長編では観たことがないタイプの作品だからすごく新鮮だった。
アニメーションはCG全盛の昨今なのでこの“手作り感”は貴重だ。


物語は完全に「竹取物語」。とても忠実に作っているから誰もが知っている展開だ。
今回なぜ「竹取物語」なのか? 企画が始まる際にプロデューサー西村氏の質問に監督は逆に聞き返したと言う。
「なぜ、数ある星からかぐや姫は地球を選んだのか、そして何故去らなくてはならなかったのか分かりますか?」
「かぐや姫は地球にいる間、何を考え、何を思っていたのか分かりますか?」
「かぐや姫は月での罪で地球に来たけれど、その罪とは?罰とは何か分かりますか?」

果たして誰か答えられるのだろうか?
その答えを映画の中で描く、それが高畑監督が今作で実現しようとしたことだ。


<作品概要>
かぐや姫の物語
(2013年 日本 137分)
監督:高畑勲
プロデューサー:西村義明
出演(声):朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、田畑智子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、宇崎竜童、中村七之助、橋爪功、朝丘雪路、仲代達矢、古城環
音楽:久石譲
配給:東宝

2013年12月13日金曜日

ゼロ・グラビティ GRAVITY


3D効果が抜群! 宇宙を体感できる映画が誕生!

アルフォンソ・キュアロンがやってくれた。新作の「ゼロ・グラビティ」がすごい。宇宙空間をこんなにリアルに表現した監督は初めてではないだろうか。無音・無重力な宇宙空間を作り上げた手腕はお見事! 3Dの立体感も演出とマッチしていて、これは劇場でないと体感できないみごとなスペース超大作となっている。

宇宙で人工衛星の修理作業に従事していたストーン博士(サンドラ・ブロック)は、作業中に事故に巻き込まれる、大量の“宇宙ゴミ”が接近し次々と機体に激突したのだ。間一髪助かったストーン博士だが生存しているのは、自分とコワルスキー(ジョージ・クルーニー)のみ。船体は大破し修復は不可能。地球に生還するには絶望的な状況になってしまう。


監督のアルフォンソ・キュアロンは、メキシコ出身。当時メキシコで新進気鋭だった俳優ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナを主演に迎えた青春ロードムービー「天国の口、終わりの楽園」を監督し、日本でも渋谷シネマライズで上映されちょっとした話題のミニシアターだった。そこで注目され、期待の次回作が、な、なんと「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(シリーズ第3弾)。一気に超大作へ大抜擢され世界的にも有名な監督となった。

天国の口、終わりの楽園
それにしても、この宇宙空間は良くできている。 なんでもスピルバーグが感動して「どうやって撮ったんだ?」と聞いてきたとか。それくらい「無重力感」ができていた。地球上で無重力感を出すには、飛行機を急降下させてわずかの間、無重力状態を作り出すやり方もあるが、長時間演技するため撮影はスタジオ内で行われた。 特にキュアロンは長回しを好む監督なので、飛行機でのボーミット・コメット(嘔吐彗星)は絶対にムリ(笑)(本作でも冒頭の長回しシーンは必見。) 


そして実際にどうやって撮影したかというと、

なんと、熟練の操り人形師(パペッティア)の助けをかりて、“特定のシークエンス”で無重力状態を作り出すことに成功したとか(笑) 最新技術がアイデア的には結構アナログだったりするから面白い。

本作で主演のサンドラ・ブロックは、悲しい過去を克服しどんな状況下でもけっして諦めない女性の姿を好演し、とてもいい評価を受けている。実際、困難な状況で弱気をさらしたり、ビビリまるくるあたりはとても良かった。変に強い女性をやるよりいいんじゃないだろうか、もしかして「スピード」以来か(笑)
1億ドルとも言われる製作費だが、世界興行では既に1億ドルを突破し、サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニーともキャリアで最高の興行成績になっているらしい。


<作品概要>
ゼロ・グラビティ」 GRAVITY
(2013年 アメリカ=イギリス 91分)
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー
配給:ワーナー・ブラザース


2013年12月9日月曜日

もらとりあむタマ子


山下敦弘×前田敦子 とある帰省娘の春夏秋冬

山下監督が「苦役列車」に続いて前田敦子を主演に迎えた最新作。自堕落な日々を過ごす若者の人生の曲がり角の1年を切り取ってゆる〜い感じで描く。脚本は山下監督の盟友・向井康介、大学時代の同級生にしてデビュー作「どんてん生活」以来のコンビ。

元々は音楽チャンネル「MUSIC ON!TV」の30秒のステーションIDとして制作されていたものだったとか。それが長編化して釜山国際映画祭にまで出品される作品となった。

東京の大学を卒業したが就職せず実家に戻り、父が営むスポーツ用品店で手伝う訳でもなく、家事をする訳でもなく、寝ころんでマンガを読んでは日々を自堕落に過ごすタマ子、23才。 目的もなく無気力で友達もいない、父親に悪態をつくが、そんな父親に女性の影がちらつきはじめちょっとしたざわつきがタマ子を動かしていく。

テレビのニュースを見ては「ダメだな、日本は。」と偉そうにうそぶく。すかさず父が「ダメなのは、お前だ」と突っ込む。「ちゃんと就職活動してるのか」。それに対して
「その時がきたら動く。少なくとも今ではない!」と目をひんむいてタンカをきる(笑)ダメダメな人のただの逆切れが妙に面白い。このあたりが山下・向井コンビの巧いところだ。中学生とのコミカルなやり取りも笑える。タマ子が読んでいるマンガが「天然コケッコー」で山下監督のメジャーデビュー作のタイトルだったりする。


20代。誰にだってちょっと人生を休んで自分と向き合う時間があるものだ。世間からは肩身の狭い時期かもしれないが、その時間で得られるものだって必ずあるのだ。

それにしてもこの映画、話題の二人なのに全国わずか27館での公開とは少ない。
パンフレットが前田敦子ファンを意識してか、写真のアップで異様でデカい。。。


<作品概要>
もらとりあむタマ子
(2013年 日本 78分)
監督:山下敦弘
出演:前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子
配給:ビターズ・エンド