映画館のない国からやってきた傑作映画
サウジアラビアは法律で映画館の設置が禁止されているという映画ファンからすると信じられない国。絶対に住めない! そして厳しくイスラムの教えを守る文化のため女性は男性並みに社会進出をすることはおろか、男性の前で顔を出したりすることすら憚られる。そんな国からやってきたのが女性監督による自由で活発な少女の物語。制限された環境を逆手に取って少女の生き生きとした姿が際立って見えた。
ワジダは、アバヤの下にスニーカー&ジーンズ、ヘッドホンで洋楽を聞くという現代的な女の子。でも超保守的なサウジアラビアでは異端児だ。男の子の友達アブドゥラが乗る自転車が羨ましい。でも女の子が自転車に乗るなんて歓迎されない環境。それでも自由なワジダは自転車を買うために自分で作ったミサンガを売ったり、上級生の密会を橋渡ししたりして小遣い稼ぎをする。それでも自転車を買うには程遠い。ところがある日、コーラン暗唱の大会があり賞金で自転車が買えることが分かりワジダは苦手のコーランを猛練習する。
サウジアラビアはアラブ圏の中でも宗教的に女性の制限が厳しい国だそう。
本作でも女校長が女生徒たちに注意するように、男性に見られても、声を聞かれてもダメ。アバヤを纏い身を隠す。それって昔の日本以上。それに、男子が欲しいという理由で第二夫人のもとに去っていくお父さん。立場的にそれを止められず、泣き崩れるお母さん。なんとも不条理な展開。でもそれが現実のサウジであり、監督が世界に訴えたいことだ。
監督はこれがデビュー作となるハイファ・アル=マンスール。映画館がない国に生まれたもののテレビやDVDでは普通に観れるのでハリウッド大作などを観て育った。社会に出て男性社会の中で透明人間のような自分を感じ、映画に居場所を求めたとか。恐らくワジダ自身が監督の分身なのだろう。ワジダのように自由に育ち、男性社会の不条理さを感じ、黙っていられなくなってしまったのだ。
ワジダ役のワアド・ムハンマドも本作がデビュー作。難航したオーディションの中でジーンズにスニーカー、ジャンスティン・ビーバーが大好きというワジダそのものだったらしい。
お母さん役のリーム・アブドゥラはサウジでは有名な女優さん。名家に生まれながら社会派の作品にも積極的に出演している。
本作は、なんとアカデミー賞のサウジアラビア代表に選ばれた。
映画館のない国からきた映画がアカデミー賞にノミネートされたら面白い。
<作品概要>
「少女は自転車にのって」 Wadjda
(2012年 サウジアラビア=ドイツ 97分)
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラ、アフドゥ、アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ
配給:アルバトロス・フィルム
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