自然光で描く、パリ北部へのヴァカンス
どんなタイトルだ、と思いきや意味は原題そのままだった。直訳すると「女性のいない世界」。
見るからに“女っ気なし”なシルヴァンと、ヴァカンスに訪れた母娘とのひと夏の物語。この年の近い母娘のコンビはどちらとも恋愛対象になりえるという点で恋愛要素の材料としてすごく効いている。
本編は58分の中編だが、最初に25分の短編「遭難者」(こちらもシルヴァンが主人公)が併映される。
今は寂れた海辺の観光地、オルト(Ault)にヴァカンスにやってきた姉妹のような母娘のパトリシアとジュリエットが、シルヴァンの管理するアパートに泊まる。やがて一緒に買い物やビーチに遊びに行き、部屋でお酒を飲んだり仲良くなって行く3人。そこにシルヴァンと同じ地元で働くジルが輪の中に入ってくることによって3人のバランス関係も変わっていく。
自然光で撮られている感じが、他のヴァカンス映画と違う雰囲気を醸し出している。柔らかい光の感じと、この地域はそうなのか基本的に曇っている。夏なのに! 青空がでてこないので“夏”が前面に出てこない感じはした。それと海辺のリゾート感はあまりない。パリから近距離でかつては栄えていたらしいが、今どきはみんなヴァカンスといえば南仏に行ってしまうらしい。日本でも聞くような話だ。
人がいなくなったシーズンの寂れた街は、ジル曰く「土曜の夜は死にたくなる」そう(笑)そのくらい人がいなくて寂しいらしい。
のんびりとした街のひとたち。頭髪が寂しく小デブでちょっとオタクっぽい、どうみてもモテなそうなシルヴァンが母娘に受け入れられていくのは、こののんびりとした街の雰囲気とシルヴァンの無害そうな感じからなのだろう。
彼女たちもこの街に来て、シルヴァンに出会い、次第に打ち解け、内面を見せるようになっていく。(おそらくパリではないこと) 彼女たちもそんな風に気を許すとは思っていなかっただろう。
普段は絶対に“女っ気なし”なシルヴァンがこのヴァカンスの間、“女っけあり”になる!
Guillaume Brac |
監督のギョーム・ブラックはインタビューで、「まず場所が決まり、それから俳優たちが決まる。そこからストーリーがはじまる」と言っている。このロケーションだから生まれたストーリーなわけだ。
本編の前に併映されるプロローグ的な短編「遭難者」も後から思うと、パリから来た青年とシルヴァン(同人物として登場)とのギクシャクした関係が、田舎とパリ、親切と警戒の対比であることが分かる。
でも、正直いきなり何も分からず短編を見せられると意味はよく分からなかった。自分も都会目線なのか、必要以上に声をかけてくるシルヴァンに親切というより不気味さを感じてしまった。その流れでの本編だったので、シルヴァンが何かしでかすんじゃないかと勝手にハラハラとしていまった(笑)
「遭難者」(2009) |
<作品概要>
「女っ気なし」 Un monde sans femmes
(2011年 フランス 58分)
監督:ギョーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー、ロラン・パポ
配給:エタンチェ