2014年3月15日土曜日
パラダイス:愛 Paradise:love
また新たな才能が出た! ウルリヒ・ザイドル
初めて観たときの衝撃度はデカい。
障害者や肥満女性、貧しい人たちなど社会的弱者をオブラートに包むことなくさらけ出す。
弱者を描く当たりはカウリスマキっぽいし、さらけ出すあたりはハネケっぽい。南北格差を痛烈に皮肉るスタイル。
中年おばさんの太った裸をこんなに映すのはこの監督ぐらいじゃないだろうか(笑)とにかくオブラートにつつまずそのままを写しだす。
50代シングルマザーのテレサは、ケニアにあるリゾート地で休暇を過ごす。そこには、ビーチボーイと呼ばれる現地の黒人青年たちが、白人女性をシュガーママと呼び“愛”を売っていた。友人のすすめもあり、好奇心と興味本位でビーチボーイの誘いを受けるテレサ。中年ででっぷりと太った彼女を彼らはやさしく愛してくれる。やがて彼女は徐々にその“愛”にのめり込んでいく。
冒頭で登場する障害者の人たちがゴーカートに乗るシーンでいきなりインパクトを受ける。その後のストーリーに影響するかというとしないところがすごい(笑)
出だしのインパクトのためだけに使ってのけた時点で只者ではない。
その障害者のヘルパーとしてテレサは登場する。中年の太ったおばさんのテレサは、恋愛対象の女性という意味では負け組な訳だけど、障害者に対しては健常者であるという優位性があり、ビーチボーイたちに対してもお金という優位性がある。彼女はその優位性を活かして“愛”を買う。友人と黒人たちを悪気なくバカにする態度は、嫌悪感はあるものの誰もがやってしまいそうなもの。お金の力で黒人青年にストリップをさせ、それを肴にシャンパンを飲む。自分の国だったら絶対にやらないようなことを、旅先の途上国だから許されると言わんばかりにハメをはずす。
やがて、ビーチボーイにのめり込み、お金を巻き上げられていくテレサを「ああ、バカだなあ」と笑いつつ、なんとも複雑な気分になる。
そう、
この感覚がウルリヒ・ザイドルの狙いのひとつなのだろう。
南北格差、健常者と障害者、太った中年女性と若くて逞しい黒人青年。世界でつながっている不平等や格差を痛烈に皮肉ってみせる。
そして、やってることもリアル過ぎで、映像もモザイク入りまくり(笑)
このリアル描写も監督の特徴のひとつだろう。
ヴェルナー・ヘルツォークは好きな監督10人の1人にザイドルを挙げ、「私はザイドルほど地獄を直視していない」と評する。 そう、リアルすぎるほどの直視、厳しく現実をえぐる。だけどそこにカウリスマキのようなユーモア、そして少しだけやさしいまなざし、完成された構図が加わることで、生々しさからひとつ上のレベルに作品全体を押し上げている。
こんな監督がいたんだなー、ユーロスペース、紹介してくれてありがとう。
<作品概要>
「パラダイス・愛」 Paradise love
(2013年 オーストリア=ドイツ=フランス 120分)
監督:ウルリヒ・ザイドル
出演:マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング、インゲ・マックス
配給:ユーロスペース
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