2014年5月5日月曜日
はなればなれに KURO
タイトルからしてゴダール!その意識ぶりは中途半端ではない
女の子ひとりに、男がふたり。そして女の子は見るからにフレンチファッション。そしてこのタイトル。海辺でヴァカンスのごとく共同生活をはじめるあたりフランス映画の要素も満載。
ポスターからしてヌーヴェルヴァーグ時代のフランス映画を意識してる感じがして、「実際のところはどうなんだろうか」と疑ってしまう。かっこばかりで観たら残念な結果だったらどうしようかと思ったけど、映画はとても面白かった。やっぱり観てみないと分からない。
パン屋をクビになった自由な女の子クロ、恋人に振られたカメラマンの英斗、主演女優が直前で降板してピンチな演出家の豪の3人は、偶然にも知り合い、海辺の元ホテルで夏の数日間、共同生活を始めることに。
とにかく映画的。
クロはお客が来ても売り物のパンをかじりながらダルそうに接客し、店の脇でタバコを吸ってさぼっていたりする、ちょいワルで趣くままに行動するタイプの女の子。
かわいくてわがままなアンナ・カリーナのよう。
ゴダールが作るコメディ作品のように、登場人物たちの突飛な行動や、突然展開が変わったりするあたりはテレビドラマでは絶対にない、映画ならではの展開。
テレビゲーム(Wii)のテニスゲームをしていると、そのまま勢いづいて広いベランダに飛び出す。テレビはないのにテニスゲームの効果音とともに試合は続く。こういう演出なんかが特徴的だった。
画の構図もそうとうなこだわりが感じられ、バッチリきまっている。物語の流れより画がきまる場所の方が先に決められたんじゃないかと思うくらい。
そういうあたりがゴダールっぽさをすごく感じるところ。
ところが、下手(しもて)監督のプロフィールをみると小津安二郎の研究をしていた方なのだとか。ゴダールの影響がすごく強いと思っていただけに、「え?」とビックリ(笑)
特に印象的だったのは、「はずしが巧い」と思ったこと。
クロを追いかける豪が、前のシーンでクロが入っていたクローゼットを開けるとそこには英斗がいたりする。テンポや流れ的に「こうだろうな」と無意識に予測してしまっているところを毎回みごとにはずしてくる。いい意味で予想を裏切る展開が随所にあるので、新鮮な感じで最後まで観られる。
ひねくれた先入観があった分、思ってたより大分面白かった。
デジタル撮影だけど、フィルムで撮ればもっと雰囲気のいい作品に仕上がったと思うので、できればフィルムで観たかった。
それとパンフレットがない。ゴダール的だと思ったものの実際どうなのか、コラムなども読みたかったのに残念。
残念ついでに言うと、クロはタバコを吸うけど実際は吸わずにふかしてるだけ。クロ役の城戸愛莉は撮影当時17歳だったらしいが、ふかすくらいなら吸わない方がいい。もしくは吸ってるシーンを撮らなくてもいいのでは。そこだけ妙に白けてしまう。
脇役だったけど、英斗の別れた彼女役の松本若菜は超かわいい。最近だと「ペコロスの母に会いに行く」でも出演している注目の女優さん。
音楽も良かった。BGMは生演奏とラジオのみにこだわったらしく、劇中にも出演しているバンドの楽曲が印象に残る。
映画の中ではクロを追いかけまわすことになるストリートミュージシャンとして登場。
そういえば、役名は数字っぽい。
クロ(6)、英斗(8)、豪(5)、ナナ(7)、レイ(0)、など
こんなところにも監督の遊び心が感じられる。
「ほとりの朔子」の深田監督は、ロメールに例えられるけど、下手監督もゴダールに例えられるようになるのだろうか。
いずれにせよ今後が楽しみな監督。
<作品概要>
「はなればなれに」 KURO
(2012年 日本 86分)
監督・脚本:下手大輔
出演:城戸愛莉、斉藤悠、中泉英雄、松本若菜、NorA、我妻三輪子、梶原ひかり、鏡浩一郎
配給:Perticle Pictures
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