2014年5月10日土曜日
アクト・オブ・キリング THE ACT OF KILLING
前代未聞!殺人者による、殺人の再現ドキュメント
大量虐殺が行われたインドネシアで、その実行者たちは権力の座にあり、当時の虐殺の様子を聞かれれば、喜んで再現してみせる。そんな彼らを追ったドキュメンタリー映画が登場。
どうしたらこんな題材になるのか、何故彼らは再現してみせてしまうのか。話だけ聞くとちょっと信じられないような前代未聞の作品だ。だけど実際観てみると、この衝撃の事実と、それだけではない現象が起こっていくあたりが、更にすごい。
1965年、インドネシア。100万人とも200万人とも言われる大虐殺に発展した、いわゆる「9・30事件」。
当時スカルノ政権のクーデター未遂事件に共産党が関与しているという疑惑から、共産党関係者に対する武力的弾圧が大虐殺に発展した。そしてスハルト政権へとなり、この大虐殺の実行者たちはその結果成立した政権下で権力と財力を手にして暮らしていた。
当初、その被害者たちへの取材という形で始まった企画が、「加害者たちはきっと自分たちの行ったことを自慢するに違いない」というある被害者女性のひと言により、取材対象を加害者側に切り替え、「自分たちの行ったことを映画にしてみませんか?」と巧みに当時の幹部たちを口説き落としていった。そしてみごとに彼らの信頼を得て、彼らの映画製作は進行していく。
オランダ人監督ジョシュア・オッペンハイマーは、その彼らの映画製作に至る過程をドキュメンタリーとして前代未聞の作品に仕上げてしまった。実際に彼らは作品中にも「ジョシュア」とカメラに呼びかけたりして、信頼されている感が伝わる。
それに対し、共同監督を務めたインドネシア人は、匿名として名前はクレジットされていない。命の危険に晒されながらもオッペンハイマー監督を支え続けた。
危険を顧みず本作に協力した関係者たちは、100万人以上が殺されながら、謎につつまれている事件の真実を明らかにし、現在の体制への変化させ、正義へ向かうために勇気を出して参加している。
それにしても、とにかく驚き。
本作のプロデューサーにも名を連ねる映画監督のヴェルナー・ヘルツォークは、
「私は少なくともこの10年間、これほどにパワフルで、超現実的で、恐ろしい映画を観たことがない。映画史上類を見ない作品である。」と絶賛している。
各国の映画祭で数十の賞を受賞し、「ペドロ・アルモドバルが選ぶ年間12作品 第一位」など年間ベストでも一位を取りまくっている。
殺人者が嬉々として自らの行為を自慢気に語る姿はとても信じられないが、殺人者が英雄となる場合もある。戦争だ。多く敵を殺すほど英雄となる。彼らにとっては英雄的行為であって自慢できることなのだ。
ただそれだけではない。アンワルが最後に見せる嗚咽はその裏側にある本質があぶり出された姿だ。
そこまでを捉えきったところが本作の奇跡的な、たぐいまれな作品たるところだろう。
パンフレットでは、ドキュメンタリー監督の想田和弘さんや、町山智浩さんがレビューを書いていて、戦時中の日本兵に触れたり、原一男監督の「ゆきゆきて神軍」(1987年)なども引用しての深いコメントがあり結構充実している。
イメージフォーラムでは満席であふれるほどの盛況ぶり。映画プロデューサーの川村元気さんの姿もあった。こういった作品もしっかりチェックしてるんだ。
<作品概要>
「アクト・オブ・キリング」 THE ACT OF KILLING
(2013年 デンマーク=ノルウェー=イギリス 121分)
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
製作総指揮:エロール・モリス、ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:アンワル・コンゴ、ヘルマン・コト、アディ・ズルカドリ、イブラヒム・シニク、
配給:トランスフォーマー
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