アメリカ社会の暗部を映し出す、ソフィア流のメッセージ
ブリングリングの題材となったのは、10代の若者たちがセレブたちの邸宅に侵入し、ブランド品や貴金属を盗み出し、それをフェイスブックにアップしたり、転売したお金でパーティしたりと、やりたい放題をやった実際に起こった事件。
転校生で友達がいないマークは、憧れのファッションやブランドの話で意気投合したレベッカに連れられナイトクラブに出入りするようになる。そこでニッキーたちとも出会い、仲間となっていく。ある日、ネットで調べ上げたパリス・ヒルトンの邸宅に留守を見計らって侵入する彼ら。最初は侵入するだけのはずだったが、やがてその行動はエスカレートしていく。
ブリングリング(キラキラしたやつら)と呼ばれた彼らは、貧乏が理由で盗みや犯罪を犯すのとは違い、セレブ邸に侵入することは遊びの延長なのだ。ヤバいとは薄々思いながらも、基本的に犯罪の意識がない。
実際に起こったこの事件を有名にさせたのは、エマ・ワトソン演じるニッキーのモデルとなった女子高生だ。彼女は芸能人を目指しリアリティ番組に出演していた。その最中に逮捕となり、番組は急遽中止。ところが商売魂たくましいその番組は、内容を逮捕後のニッキーを追うワイドショー的な内容に変えたのだ。(さすが、アメリカ)
劇中でもニッキーは悪びれたそぶりもなく「これは神様が与えた試練」などと言い出す始末。しまいには、「この詳細は私のホームページで」とアドレスを言い、ちゃっかりと自分を宣伝する(笑) 本当にこんな感じだったらしい。。
それにしても、エマ・ワトソンは「ハリポタ」のハーマイオニーの優等生役からの脱却をかなり意識してなのか「ウォールフラワー」に続き、不良役を演じている。
ファッション性やオシャレな感じが全面に宣伝されている本作ではあるが、アメリカの10代の病んだ姿や、セレブがちやほやされる現代アメリカ社会への違和感を、実際の彼らの生活に近い形でソフィアは淡々と撮った。そこに彼女のメッセージがある。ただのオシャレ映画ではない。
それでも、ルイ・ヴィトン、シャネル、ルブタンなどの数々のブランドや、事件の被害者であるパリス・ヒルトンが自宅を撮影場所として提供している所などオシャレのチェックポイントも満載ではある。
ソフィアの映画では音楽の選曲センスの良さもいつも注目される。今作でも「音楽がいい!」という声があるが、カニエ・ウエストなど彼らが実際に聞いていた曲を採用している。それによって実際に近い雰囲気が演出されている。
<本作で使用された楽曲>
01 スレイ・ベルズ 「Crown On The Ground」
02 リック・ロス feat. リル・ウェイン 「9 Piece」
03 ライ・ライ feat. M.I.A. 「Sunshine」
04 アジーリア・バンクス 「212」
05 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー 「Ouroboros」
06 2チェインズ 「Money Machine」
07 M.I.A. 「Bad Girls」
08 カニエ・ウェスト 「All of the Lights」
09 エスター・ディーン feat. クリス・ブラウン 「Drop It Low」
10 リーマ・メジャー 「Gucci Bag」
11 CAN 「Halleluwah」
12 カニエ・ウェスト 「Power」
13 クラウス・シュルツェ 「Freeze」
14 デッドマウス 「FML」
15 ブライアン・レイツェル&ダニエル・ロパティン 「Bling Ring Suite」
16 フェニックス 「Bankrupt!」
17 フランク・オーシャン feat. アール・スウェットシャツ 「Super Rich Kids」 (エンド・ロール)
オリジナル サウンドトラック |
同世代監督のアレキサンダー・ペイン、ウェス・アンダーソン、ポール・トーマス・アンダーソンとも交流がある、才能とセンスの中で生きてきた人だ。
「ゴッドファーザー」に出演もしている。
本作の空気感をとても上手く表現しているイラストがこちら。
(漫画家の今日マチ子さん)
<作品概要>
「ブリングリング」 THE BLING RING
(2013年 アメリカ=フランス=イギリス=ドイツ=日本 90分)
監督:ソフィア・コッポラ
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ
出演:エマ・ワトソン、レスリー・マン、タイッサ・ファーミガ、クレア・ジュリアン、イズラエル・ブルサール、ケイティ・チャン
配給:アークエンタテイメント、東北新社