2016年2月22日月曜日

月夜鴉

掘り出し物、戦前のラブコメディ!

こういう面白い作品は名画座でないと出会えない。
チャキチャキな女師匠とできそこないので弟子。
このドS師匠とドMな弟子のコンビが掛け合いの相性も抜群で、展開も小気味良くて面白い。

家元・杵屋和十郎のひとり娘のお勝は、毎日弟子に三味線の稽古をつけるが、ある日一番できの悪い和吉から懇願され居残りで稽古をつけ始める。お勝の厳しい稽古にひたすらついてくる和吉とは、いつしかお互い思い慕う関係になっていく。しかしそれを知った父・和十郎は激怒し、お披露目の会で一番できの悪い和吉が上手く弾けなければ別れることを約束させる。バカの一つ覚えのごとく上達した和吉だが、果たして無事に弾くことができるのか。

お勝はつい手がでしまう。あまり頰を叩くから赤く腫れてしまって、他の弟子に目立ってしまうから、「じゃあお師匠さん、代わりにこれで僕をぶってください」と棒のようなものを差し出す和吉、あまりのドMぶりに笑いが漏れる(笑)

お勝は、一回りも若い和吉に旦那の真似をさせるために、前髪を落とさせ父の衣装を着せて街を練り歩き、お茶屋のお座敷にもあげる。
前髪を落として大人の着物をまとった和吉は、すっかり男前。
そこはさすが主演をはる高田浩吉。
戦前から松竹のスターとして活躍し、戦後は美空ひばりとの共演で再び人気となり、弟子の一人は昭和の映画スター鶴田浩二なんだとか。

高田浩吉
お勝役の飯塚敏子も松竹を代表する女優だそうで、とても上手で不思議な魅力のある女優。
監督は、井上金太郎で戦前は片岡千恵蔵の元におりそこから松竹に移ったのだとか。
それでも戦後すぐに52歳の若さで亡くなってしまった。

クライマックスのお披露目会。和吉の勝負の時。出番直前にあの子供がお勝の伝言を口するあの件はヒヤヒヤさせられる。笑いにしてもドキドキの演出にしてもとても巧くて、面白い。

やっぱりこういう予想外の面白さは、ノーマークの名画座で出会いたい。


<作品概要>
「月夜鴉」
(1939年 日本 100分)
監督:井上金太郎
原作:川口松太郎
脚本:秋篠珊次郎、依田義賢
出演:高田浩吉、飯塚敏子、藤野秀夫、舟波邦之佑、伏見直江
配給:松竹京都

2016年2月16日火曜日

キャロル  CAROL

50年代の質感が素晴らしい。本当に美しい映画

古いフィルムの映り、衣装、ヘアスタイル、街並み、車、小物まで50年代のクラシックな質感へのこだわりがすごく伝わってくる。
そして字幕までがクラシックスタイル!
ケイト・ブランシェットは美しくてエレガント。
クラシックの名作のような完璧で美しい映画。

1952年、ニューヨーク。デパートで働くテレーズは、娘のクリスマスプレゼントを買いに来たミステリアスな女性キャロルにひと目で惹かれてしまう。
店に忘れた手袋を届けたことをキッカケに、二人は逢瀬をかさねるようになっていく。

映画の冒頭で、テレーズがキャロルを一目見て目が釘付けになってしまうシーンが印象的。

原作はパトリシア・ハイスミス。
アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」やヒッチコックの「見知らぬ乗客」、ヴェンダースの「アメリカの友人」など映画化でも名作が多い。
本作「キャロル」は50年代当初、別名義で発表し後年の84年に自身の名義で出版したタイトル。同性愛への偏見が強かった当時を思わせるエピソード。


映画評論家の淀川さんは、「太陽がいっぱい」公開当時からこの登場人物二人の関係性に同性愛的な意味合いを見出していたとか。
でもその時にそれを理解できる人はまだいなかったそう。
パトリシア・ハイスミスはカタツムリの観察を趣味にしていることでも有名だったそうだけど、このカタツムリは雌雄同体といってオスでもありメスでもある。
カタツムリは恋矢という槍を出して交尾の際にお互いを刺す行為をする。
http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research_ja/33241/ (参考)
お互い弱って死んでしまうのだけれど、愛する相手を殺して自分のものにしたいというゲイの願望を「太陽がいっぱい」から淀川さんは見抜いたのだとか。


監督は、トッド・ヘインズ。
「ベルベット・ゴールドマイン」、「エデンより彼方に」、「アイム・ノット・ゼア」など撮る作品全てが高評価を受けるも寡作な監督。
ゲイであることをカミングアウトしていて、彼だからこそパトリシア・ハイスミスの原作を丁寧に、そして素晴らしい映画に昇華できた。
デヴィット・リーンの「逢びき」に本作の影響を受けているそう。


それにしても50年代の再現度がかなり高い。
テレーズがピアノを弾くシューベルトや、プレゼントしたビリー・ホリデイのレコード。
キャロルがテレーズに贈ったCANONのカメラ。
そして、サンディ・パウエルが手がけるファッション。
オハイオ州シンシナティの戦前の建物やアパートメント。
当時の35mmフィルムに見せるためのスーパー16での撮影。
クラシックカーやタバコをやたら吸うところも50年代っぽい。

各種ポスターデザインも秀逸。





<作品概要>
「キャロル」  CAROL
(2015年 アメリカ 118分)
監督:トッド・ヘインズ
原作:パトリシア・ハイスミス
衣装:サンディ・パウエル
美術:ジュディ・ベッカー
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラー、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー、ジョン・マガロ、コリー・マイケル・スミス、ケビン・クローリー
配給:ファントム・フィルム

2016年2月15日月曜日

クリムゾン・ピーク  CRIMSON PEAK

結局、ひとが一番おそろしい

ホラーが前面に出されているけど、映画としてはサスペンス仕立てなラブストーリー。
ギレルモ・デル・トロ監督の美意識が詰め込まれたゴシック様式の美術が見応え十分。「パンズ・ラビリンス」のような怪しげな美しさを表現するのがとても得意な監督。

20世紀初頭のニューヨーク。作家を目指す若くて美しいイーディスは常に死者の魂を身近に感じている。ある日、 実業家の父の元に投資の依頼で訪れたシャープ男爵が現れ、イーディスは惹かれてしまう。反対していた父が不審な死を遂げ、イーディスは妖艶なシャープの姉とともにロンドン郊外の屋敷で暮らすことになる。

シャープ男爵の屋敷が何と言ってもすごい!
あのボロさ加減、天井から雪が降っちゃうほどの穴があいちゃってる(笑)
そりゃさぞかし寒いでしょ。
いかにもな幽霊屋敷に落ちぶれた貴族として住んでいて、本当に人間なのかミステリアスで怪しげな存在としてこの姉弟が物語の中心になっていく。


ホラーであって、ホラーでない。
だからガッチリしたホラーを期待した人にとってはちょっと生ぬるい。
ミスリテリアスなラブストーリーと謳うには、グロいゴーストも出たりするのでホラー嫌いな女子には訴えかけずらい。
という何とも難しい位置付けになってしまったのが残念。
でもそのあたりを踏まえて観れると面白い。ゴシック・ロマンスというらしい。


本作のジェシカ・チャスティンが美しい。
最初気づかなかったくらい印象が違った。
こういうクラシックなスタイルが意外と似合う。
もしかして彼女の映画キャリアの中で一番美しいのではないか。
そして、怖い(笑)

ひとの怖さをジェシカ・チャスティンが教えてくれる。


<作品概要>
「クリムゾン・ピーク」  CRIMSON PEAK
(2015 アメリカ 119分)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャスティン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、ジム・ビーバー
配給:東宝東和

2016年2月14日日曜日

オデッセイ  THE MARTIAN

極限状態で知恵と科学を駆使したサバイバル

宇宙空間という完全に限られた場所に取り残されるというかなり絶望的な環境で人はどう出るのか?
マット・デイモン演じるマークは、植物学者として、科学者としての知識と技術をフル活用して生き抜くことを全力で試みる。
とにかくポジティブに可能性にかける姿がいい。

火星での有人探査中、嵐の事故で行方不明になったマーク。気づくと仲間たちはマークが死亡したものとして火星を飛び立った後だった。次の探査機が来る数年後まで、何もない火星で生き抜くことを決意するマーク。限られた食料の中で果たして生き残ることができるのか。

この映画を演出する最大の効果は「音楽」。
しかも、70年代のディスコミュージック!
このアゲアゲのテンションが妙にいい。無機質で音もない火星という荒野とのギャップ。
マークのポジティブな行動を支え続ける最高のアイテムになっている。
音楽の効果ってすごいなって思ってしまう。


監督は、巨匠リドリー・スコット。「エイリアン」、「ブレードランナー」などのSFものは初期の名作。78歳にしてコンスタントにハイクオリティ作品を発表し続けていて、イーストウッドやウディ・アレンらハリウッドのおじいちゃんたちはとても元気。
リドリー・スコットは、映画界に入る前はCMディレクターとして活躍。
その中でも有名なのは、アップルのCM「1984」。


赤茶けた土が延々と広がる火星の荒野。
ロケ地どこ?って思ったけど、どうやらヨルダンにあるワディ・ラム砂漠だとか。
ワディ・ラムとは月の谷の意で、この場所はアラビアのロレンスがトルコ軍を撃破したことでも有名な場所らしい。意外と由緒ある場所。

宇宙空間でのアイテムで気になったのが、トイレの排泄物をキレイにジップしておくシステム。乾燥させていて肥料になるのであればもっと一般社会で応用できそうなのに。


それにてもあの謎すぎる中国企業は何だったのか(笑) ※中国国家航天局らしい
アメリカにもない高度な技術を持ち、好意だけでアメリカに技術協力をする。
「中国政府には反対されたけど、NASAで働く親戚の働きかけでアメリカに協力するという危ない橋を渡る」くらいの背景がないと。
あまりにもあっさり協力しすぎ。

原作からどの程度変わっているのか分からないが、小説「火星の人」はアンディ・ウィアーがブログで発表し、その後キンドル版がベストセラーとなったもの。
アンディ自身は重度のSFオタクだそうで、趣味は軌道力学の計算というとても変わり者。

デヴィット・ボウイの「スターマン」もまるっと使われていて良かった。


<作品概要>
「オデッセイ」  THE MARTIAN
(2015年 アメリカ 142分)
監督:リドリー・スコット
原作:アンディ・ウィアー「火星の人」
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャスティン、クリステン・ウィグ、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャ、ショーン・ビーン、ケイト・マーラ、セバスチャン・スタン、アクセル・ヘニー、キウェテル・イジョホー
配給:20世紀フォックス映画
字幕:風間綾平

2016年2月10日水曜日

パディントン  PADDINGTON

ホームアローンのような面白さ

青いダッフルコートに赤い帽子をかぶり、寅さんのような革のトランクを持ち、マーマレードが大好きなクマ、パディントン。
元々は全世界で3500万部も売り上げる児童文学。本国イギリスでは、ピーターラビット、クマのプーさんと並ぶ「英国三大キャラクター」として抜群の知名度と人気をほこる愛されキャラクター。
そのパディントンの初の実写化映画。

遠くペルーのジャングルから、はるばるロンドンにやってきたクマは、駅で偶然出会ったブラウンさん一家にパディントンと名付けられ居候をすることになる。

日本では知名度があまりないパディントン。でも実は英国三大キャラクター。他の二つは誰でも知っている超有名キャラクターなのにパディントンだけ知らないのは、日本ではしばらくライセンスが切れていて、パディントンを使った商品や企業の広告使用がしばらくなかったらしい。


ペルーのジャングルに住んでいただけに、都会や人間の家には全く慣れていないパディントン。案の定やることなすことが騒動になっていく。
しかも、ニコール・キッドマン演じるミリセントに執拗に追い回される。

それにしてもニコールの体当たりギャグには脱帽!
元旦那のトム・クルーズばりのスパイアクション(笑)
アラフィフとは思えない美貌で、笑いも誘う。

実写ということでどうなることかと思ったけど、パディントンもカワイイし、ある一家の留守中に敵に襲われるドタバタコメディな展開もホームアローンっぽくて面白かった。


<作品概要>
「パディントン」  PADDINGTON
(2015 イギリス 95分)
監督:ポール・キング
原作:マイケル・ボンド
出演:ヒュー・ボネビル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント、ピーター・キャパルディ、ニコール・キッドマン、ベン・ウィショー
配給:キノフィルムズ


2016年2月9日火曜日

ヤクザと憲法

ヤクザを密着して見えてきたもの

「これな、わしら人権ないんとちゃう?」
という何とも面白いコピーに惹かれて観たものの、想像以上に面白かった。

"ヤクザと人権"という一見かけ離れたテーマを描くドキュメンタリーだが、そこから浮かび上がってくるのは現代の日本社会が抱える闇だったりする。

暴力団対策法によって逆境に立たされているヤクザ。そんな中で彼らヤクザはどのような日常をおくっているのか。大阪の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」に密着したドキュメンタリー。

ヤクザの事務所に密着するだけで面白そう。
だけど拳銃も持っていないし、抗争もない。意外と平和な日々を過ごしている組員たち。あまりに穏和な日々にキャンプ道具の入れ物を指して「それはもしかしてマシンガンでは?」と投げかけるスタッフ。何かしらヤクザらしいネタを見つけようと必死になっている感じがうかがえる。
その中で、「拳銃とか持ってないんですか?」という質問に、「え!? も、持って入る訳ないじゃないですか、、、」という素直すぎる組員のリアクションは笑える。


ヤクザということで、保険に入れない。子どもが幼稚園から追い出される。などなど組員たちの悩みが組長に寄せられる。
暴対法によってヤクザにとって過ごしづらい環境になってきている。
ヤクザなんだからしょうがないじゃん、と思いつつも映画の中で提示される日本国憲法第14条。

「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。」

そこから暗示されるのは、映画はヤクザを対象にはしているけれど、マイノリティだからということで社会から排除しようする、今の日本社会の闇の部分が強烈に浮かび上がってくる。


そこはさすが東海テレビ。
ただのドキュメンタリーではない。
組員がヤクザになった理由、山口組の顧問弁護士の行く末、ヤクザっぽくない見習い。
ヤクザの事務所を通して、現代の日本の問題点が見えて来る良質なドキュメンタリー。


<作品概要>
(2015年 日本 96分)
監督:ひじ方宏史
出演:
配給:東海テレビ 

2016年2月8日月曜日

サウルの息子  SAUL FIA

アウシュビッツを体感する怖さ

すごい映画を観てしまった。
アウシュビッツものではトップクラスの映画。
手持ちカメラで体感型のアウシュビッツ体験。
スピルバーグの「シンドラーのリスト」もアウシュビッツものとしてはかなりの名作だけれど、それとはまた違ったタイプの今時の映画。

アウシュビッツで強制労働をさせられているサウルはある日、息子とおぼしき少年の死を目の当たりにする。強制収容所の中ではあるが、ユダヤ教の教義にのっとって何とか少年の遺体を埋葬しようと動き回るのだが。

かなり特異な映画。
スタンダードの画面サイズもそう。
ピンボケ映像からはじまり近づいてくる男に焦点が合うのだけれど、それが主人公であるサウル。そしてそこからはサウルの顔アップがひたすら続く。背景はピンボケで見えない。

でもその見えない部分にホロコーストの恐ろしい世界がぼやけて写っていて、想像力が掻き立てられて余計に怖い。


サウルの背景に見えるピンボケの肉塊。それはアウシュビッツ=ビルケナウ収容所のガス室で殺されたユダヤ人の遺体。
シャワー室として入れられたガス室から聞こえる断末魔の声。
ゾンダーコマンドとして、同胞であるユダヤ人の虐殺の実行部隊をさせられていたサウルたちの壮絶な体験を追体験させられる演出。
手持ちカメラの臨場感は恐怖を煽り立てる。

ナチスはユダヤ人の虐殺を自らの手を汚さずに、同胞であるユダヤ人にゾンダーコマンドとして実行させていたとう衝撃の事実がこの映画のベースになっている。
ゾンダーコマンドたちは、散々同胞の抹殺に従事させられた後に殺されてしまう。
その中で一部のゾンダーコマンドはメモに自らの体験を綴り密かにビンに入れて土に埋めた。わずかな生き残りの証言や掘り返されたメモを基に作られているだけにリアルでとても衝撃的でショッキングな内容になっている。


画角はスタンダードサイズ。今時珍しいこのサイズを若手の監督が使うということはかなり狙いがあってのこと。
ピンボケもそうだけど、ゾンダーコマンドとしてやりたくない仕事をさせられていて、見たくないことを見せられていたサウルの視界を表現している。

サウルは基本無表情なのだけれど、辛い現実に心を閉じて感情を殺していた人間であればあの表情であることの方がリアル。
ホロコーストを知られていなかったゾンダーコマンドの視点で追体験させられるという、今までになかった衝撃の映画。

監督のメネシュ・ラースロー自身もハンガリー系ユダヤ人。
タル・ベーラのもとで映画を学び、本作が長編デビュー作となる。
アカデミー賞外国語賞にノミネートさせるのも大納得の衝撃作。


<作品概要>
「サウルの息子」  SAUL FIA
(2015 ハンガリー 107分)
監督・脚本:メネシュ・ラースロー
出演:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レゲンデ
配給:ファインフィルムズ

2016年2月7日日曜日

エージェント・ウルトラ  AMERICAN ULTRA

若手有望株によるお祭りスパイ&プロポーズムービー

スパイものではあるけれど、プロポーズを巡ってのアクションラブコメディ。
「キックアス」を思わせるちょっとぶっ飛んだ展開が見どころ。

ダメ男のマイクは恋人フィービーへのプロポーズを計画するもいつも上手くいかない。そんなある日、バイト先のコンビニで謎の殺し屋に襲われるが自分でもよく分からないまま体が反応して一瞬で撃退。
マイクは実はCIAの生み出された最強のエージェントだった。

記憶を消された最強エージェントって、どこかで聞いた事ある設定ですが、とにかく2015年からスパイもの映画はとにかく多い。
「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」、「キングスマン」、「コードネームU.N.C.L.E」、「007スペクター」、「ブリッジ・オブ・スパイ」などなど。
その流れで「エージェント・ウルトラ」。「ボーン」シリーズ最新作も公開予定。
ん〜、多い。

本作の最強エージェントは、武器を持たない。相手の武器を奪うか、現場にある道具を凶器にかえ相手を倒す。漫画「マスター・キートン」にも凶器を残さない殺し屋が出てきたけど、マイクは大分ド派手に色んなものを破壊する。


主演は、ジェシー・アイゼンバーグにクリステン・スチュアートという売れっ子の若手俳優。この二人は、ウディ・アレン監督の2016年の次回作でも共演が決まっているとか。
アクションをこなすイメージのないジェシー・アイゼンバーグだけど、ド派手に相手を倒す割にアクションは小振りで、無駄のない動き。


脚本は、「クロニクル」が全米で大ヒットしたマックス・ランディス。
2年連続でフォーブス誌の選ぶ「30歳以下の影響力がある30人」に選出されている売れっ子若手脚本家。
本作のアイデアは実在したCIAのプロジェクト「MKウルトラ」からきている。
アクションでは「ボーン」シリーズに影響を受けているのだとか。

そして、監督は「プロジェクトX」でサイコーにおバカな高校生のホームパーティを描いたニマ・ヌリザデ。「プロジェクトX」は劇場未公開だけどくだらなくてかなり面白い。


ロンドン出身でミュージックビデオ、CMなどを手掛け評価され、「プロジェクト X」で長編デビューを果たした。
広告業界に進出するキッカケになったのがアディダスのCM「House Party」。



<作品概要>
「エージェント・ウルトラ」  AMERICAN ULTRA
(2015年 アメリカ 96分)
監督:ニマ・ヌリザデ
脚本:マックス・ランディス
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュアート、トファー・グレイス、コニー・ブリットン、ウォルトン・ゴギンズ、ジョン・レグイザモ、ビル・プルマン、ダグラス・トニー・ヘイル
配給:KADOKAWA

2016年2月3日水曜日

知らない、ふたり

今泉流の恋愛スクランブル

彼女が好きな彼は別の彼女が好き。
恋愛ってなかなか上手くいかない。
そんな男女のすれ違いをユーモアを交えて軽やかに描くことにかけては天下一品の今泉力哉監督。
本作では韓流アイドルを交えた群像劇に仕上がっている。

靴屋で働くレオンと小風。レオンに想いを寄せる小風と、偶然出会ったソナに惹かれるレオン。そのソナの壊れた靴を直しに店にやってきたサンスが小風にひと目惚れしてしまう。彼らを取り巻く男女7人の恋物語が動きだす。

今泉監督の新作というだけの前知識で劇場に行ってみたものの、ポスターをやたら写メしていたり、普段は劇場でお見かけしないタイプの方々がお客さんで並んでいたりする。
何だか嫌な予感がして、よくよく見るとポスターには韓流アイドルらしき人物とそれらしいキャスト名。。
ああ、これは今泉監督ではあるけれど、請負で作ったアイドル映画なのでは、、、
このアイドルのファンたちだけが黄色い声援をあげて楽しむ映画的なプロモーションビデオなのだと半ば覚悟して鑑賞。


ところがところが、そんな心配は全くの無用。
韓流アイドルを使った企画ではあるものの、そこはしっかりと今泉監督の作品に仕上がっている。
日本で働く韓国人、留学生との恋愛群像劇は言葉の壁を巧みに利用した展開で楽しめる。
それに韓流アイドルの彼らも、観ているととてもまじめでいい子たち^^
韓流スターやアイドルにハマるマダムたちの気持ちが分からないでもない感じになってくるのが不思議(笑)。

いろんな登場人物たちが徐々に繋がっていく展開とか、伏線の張り方とかを見てもよく脚本が練られているなーと思う。
この手の作品をやらせたら本当に巧い今泉監督。
マンガ原作モノとかでそろそろメジャー作品も撮っていくのかな。


<作品概要>
「知らない、ふたり」
(2016年 日本 106分)
監督・脚本:今泉力哉
出演:レン、青柳文子、韓英恵、ミンヒョン、JR、芹沢輿人、木南晴夏
主題歌:NU'EST
配給:AMDEN、日活

2016年2月2日火曜日

ヴィヴィアン・マイヤーを探して  Finding VIVIAN MAIER

ミステリアスな写真家にせまる

今の時代ならではの発掘のされ方。
どこで学んだのかは分からないけれど、プロの写真家も称賛する写真を15万点も残した謎の写真家、ヴィヴィアン・マイヤー。

資料集めのためにオークションで競り落とされた写真のネガをブログに掲載したことから反響を呼び、ニューヨークをはじめヨーロッパなど世界中で個展を開催することになった謎の写真家ヴィヴィアン・マイヤー。彼女の写真を収集し、本作の監督でもあるジョン・マルーフがヴィヴィアン・マイヤーとは何者なのかを探るドキュメンタリー。

ロバート・キャパ、デニス・ストック、ビル・カニンガムなど写真家を扱った映画はある。
だけど、これだけのレベルに達しながらたった1点も発表しなかったとは、何ともミステリアスな写真家。
それにSNSを通じて発掘されるなんて、すごく今っぽい。


彼女は結局作品を発表することはなかった。
天井まで積み上がっていたという新聞紙の山。
なぜ、そんなに新聞をためこんでいたのか。
新聞の報道カメラマンになりたかったのか、または新聞の写真から独自にカメラワーク、写真を学んだのか。


彼女の対象となったのは、人。
子供から老人まで生活の中にある人を撮り、その人の人生や背景、世情まで切り取ってみせる。
家政婦として働いてきた彼女には多くの証言が残されている。


そこから浮かび上がる彼女の人物像はとても変わり者。
ダークな面をもち、一般社会ではなじみにくいタイプ。

親戚とは疎遠な一家で育ち、その家族もバラバラな生い立ち。
彼女が人を撮り、家政婦として一般家庭の家族の一員として働いたのは、家族に対する憧れが人一倍強かったからなのかもしれない。


<作品概要>
「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」  Finding VIVIAN MAIER
(2013 アメリカ 83分)
監督:ジョン・マルーフ
出演:ヴィヴィアン・マイヤー、ティム・ロス
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

2016年1月9日土曜日

DENKI GROOVE THE MOVIE ? 石野卓球とピエール瀧

電気グルーヴとは? があぶり出されていく

分かっているようで分かっていなかった電気グルーヴという存在を丁寧に紹介してくれたドキュメンタリー。
バラエティ的な側面が目立ちがちだけど"アーティスト 電気グルーヴ"の凄さが分かる一品。

冒頭にでる「電気グルーヴとは?」というテロップの通り、1989年のデビュー当時の映像から2014年の「FUJI ROCK FESTIVAL'14」のグリーンステージのパフォーマンスまでを時系列で編集し、元メンバーやロッキンオン編集長、レーベル担当、ミュージシャン仲間などの証言を随所に交えて丁寧に映像を紡いでいく。

常に下ネタでふざけたことばかりなイメージな電気グルーヴだけど、そんな彼らの格をなんとなく上げてみせる演出として「ナレーションが英語」というのが効いている。
なんだか海外メディアが制作しているようで、"グローバルなアーティスト感"をもって最初から紹介され、バラエティな側面じゃなくて"音楽性"であったり”パフォーマンス”が、かなり早い時期に時代を先取ったハイクオリティなものだったことが海外から紹介されている感じになる。


元メンバーのまりん、ロッキンオン編集長、ソニーミュージックの担当者などの証言からも彼らの音楽性の高さがよく分かる。
だけど実際、当時はオールナイトニッポンで下ネタを連発するお笑い芸人なんだかミュージシャンなんだか分からない人たちだった。
ピエール瀧はバラエティ番組などテレビの世界で活躍して、とてもテクノミュージックを日本に浸透させた功績あるバンドメンバーとは思えなかった。笑

もちろん、「N.O」や「シャングリラ」は大ヒットしてたから知っていたし普通に好きだったけど当時にその音楽性の高さはとても認識していなかった。


90年代にヨーロッパのクラブシーンでテクノに触れ、それを取り入れ日本でいち早く展開し、ドイツなど海外でもその存在感を高めアーティストとしての地位を築いていった電気グルーヴ。

大根監督にとって電気グルーヴは「一番怖い先輩」「できれば一緒に仕事したくなかった」などの存在だとか。笑

時系列で証言交えて撮っているだけのようでいて、「電気グルーヴとは?」がこんなにあぶり出されるとは。これが大根監督の実力なのか、電気グルーヴが本当にすごいだけなのか。
彼らの楽曲を聴き直したいと思える良作。


<作品概要>
「DENKI GROOVE THE MOVIE ? 石野卓球とピエール瀧」
(2015 日本 115)
監督:大根仁
出演:石野卓球、ピエール瀧、スチャダラパー、天久聖一、ケラリーノ・サンドロビッチ、日高正博、道下善之、中山道彦、小山田圭吾、砂原良 徳、山口一郎、山根克己、山崎洋一郎、CMJK、DJ TASAKA、Andy Absolon、WESTBAM
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン

2015年12月26日土曜日

独裁者と小さな孫  The President


かわいい男の子とおじいちゃんの冒険 だけど中身は骨太な社会派

やっぱり一筋縄ではいかないのがモフセン・マフマルバフ監督、またいい作品を撮り上げた。
とある架空の国を舞台に、その独裁者が国を追われる過程を痛烈に皮肉り、だけどもユーモアたっぷりに描いてみせた。

現代。とある国の独裁者は、家族を連れて空港へ向かっている。長年の圧政に苦しめられた国民が遂に暴動を起こし、独裁者である大統領に反旗を翻したのだ。そして一家は国外逃亡するために空港に向かうがひょんなことから大統領は孫とともに残り、そして暴徒を逃れて放浪することに。

やっぱり独裁者側の視点で描いたところが面白い。冒頭から孫と遊ぶように市内を電話一本で停電させてみせるあたり、かなりの独裁者ぶりがみてとれる演出。


そして、変装して孫と逃げながら様々な国民と触れ、いかに大統領(自分)が憎まれているか、圧政をしてきたかを思い知らされる。
かなり自業自得な内容ではあるのだけれど、独裁者である大統領側の視点で描かれているので感情移入しそうでできない不思議な感じのまま展開されていく。
そしてしっかりユーモアもある。
特に大統領の側近がかなり笑かせてくれる(笑)
大統領に尽くして一生懸命なんだけどさらに事態を悪化させていく。

それにしても、ジプシーに変装して逃亡する大統領の姿が、意外と様になっていてかっこいい。白髪の長髪に黒い布を羽織り、ギターを片手にジプシーを演じきる。そして結構演奏が上手い。バレそうでバレないギリギリの旅を続ける。


かわいい孫とおじいちゃん。そんな二人のロードムービーとして観ていたけど、次々と登場する人物たちが繰り広げる過酷な現実。なんとなくカワイイ感じの映画なんかではなく、社会的なメッセージが満載な実に骨太な映画。
やっぱりマフマルバフ監督、そんな生やさしい映画を撮るはずがない。

鑑賞後に偶然にもドキュメンタリー作家の想田監督のトークショーがあり、みごとな解説付きというとても贅沢な回だった。

監督曰く、
孫を入れることで素朴な疑問を自然と会話に出すことができる。そんな装置としての役割が孫にはある。
また各登場人物もそれぞれが何を主張するためなのかの役割がある。特に途中で合流する政治犯はマフマルバフ監督自身の分身で、彼の主張は監督自身のメッセージでもある。
暴力による負の連鎖への警告は、アラブの春などを連想させるけど、この映画の公開後に起きたパリのテロなどにもつながる意味深いものになっている。
客観的に描いているようでかなり監督の主観で描いた作品。
そして直接的でなくメッセージを伝えるテクニックが巧いこと。
などなど。

作り手としての目線でかなり詳しい分析と解説で、ものすごいよく分かってしまった。
そして改めて想田監督、映画監督のすごさを感じた貴重な体験だった。


<作品概要>
「独裁者と小さな孫」  The President
(2015 ジョージア=フランス=イギリス=ドイツ 119分)
監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュビリ、ダチ・オルウェラシュビリ、ラ・スキタシュビリ、グジャ・ブリュデュリ、ズガ・ベガリシュビリ
配給:シンカ

2015年12月22日火曜日

ディーン、君がいた瞬間  LIFE


写真家アントン・コービンだからこそのテーマ

ジェームス・ディーンのあの有名な写真たちの裏にあったストーリー。そこに着目したのがアントンコービンらしい。写真家だからこその目線。

マグナム・フォトに所属する気鋭の写真家デニス・ストックは、写真家として自分らしさを表現できる機会を模索していた。そんなある日、新人俳優のジェームス・ディーンに出会う。彼のスター性を見抜いたデニスはLIFE誌に載せる密着撮影をオファーする。

写真でアートをやろうとしたデニスとそれに応えたジミー。
現場で写真を撮るフォトグラファーと掲載するメディア側との見解や意見の不一致がまだまだ相当あった時代。
フォトグラファーの権利を守るためにロバート・キャパらが設立したマグナム・フォト。
そこに所属しているというだけで、デニスの写真家としての意識が人一倍強かったであろうことが推測される。

デニス・ストック(右)
スターにそんなに密着できるものなのか、そういう時代でそういう人柄だったのか分からないけど、仕事とプライベートの境界がないオフショットってああやって心を許してないと撮れない。そしてすごく自然体のジェーム・スディーンも魅力的。


キャストもいい、デイン・デハーンは天才型の俳優。伝説のスターを演じるに当たってかなりのプレッシャーだったと思う(実際何度もオファーを断ったらしい)。あのモゴモゴしたしゃべり方と容姿が似てるのかと最初は思ったけど、最後タクシーで訪れてデニス呼ぶ姿は、ジェームス・ディーンに見えた。



そして、有名な写真の数々。
マンハッタンで雨の中をタバコをくわえて歩く姿や、床屋での姿など、どこかで必ず見たことあるライフ誌を飾った写真たち。
それになぞらえたシーンがあるのが楽しい。

そして、アントン・コービンは、やっぱり男くさい題材が好きだ。
本作は「誰よりも狙われた男」に次ぐ長編4作目。
ジェームス・ディーンが亡くなる直前のデニス・ストックとの時間にフォーカス。
この一瞬を切り取って作品に仕上げた。


いまだに色あせない伝説のスター。
こんなに有名なのに主演作品は、わずかに3本。
「エデンの東」(1955)
「理由なき反抗」(1955)
「ジャイアンツ」(1956)

享年24歳。


<作品概要>
(2015 カナダ=ドイツ=オーストラリア 112分)
監督:アントン・コービン
主演:デイン・デハーン、ロバート・パティンソン
配給:GAGA

2015年12月8日火曜日

やさしい女  Une Femme Douce


ブレッソン、初のカラー作品

長年日本では観ることができなかったというブレッソンの傑作。
ブレッソンらしく、本当に余計な説明がないし、セリフが少ない。一切の無駄を省いて見せる映像を作ることができる作家。体脂肪が極端に低いタイプの作品。

若く美しい妻と質素だが順調そうな結婚生活を送っていた質屋を営む中年男。ある日突然、妻が自殺を図り、夫婦のそれまでを振り返っていく。

テラスから始まる衝撃の冒頭。
過去に遡りながら淡々と進み、そして冒頭のシーンに戻ってくるあたり、すごく巧さを感じる。

ドミニク・サンダの緑色のコートがなんかいい。
ノートやちょっとした小物がおしゃれだったり、そんなとこにも注目するとおもしろい。

それにしてもドミニク・サンダが美しすぎる。この時、若干17歳! 
ブレッソンに見出され、本作でデビュー。ブレッソン初のカラー作品を飾った。
その後、ベルトリッチ監督の「暗殺の森」などに出演。
日本でも人気だったそうで、なんとパルコのCMにも主演していたとか。


<作品概要>
「やさしい女」  Une Femme Douce
(1969年 フランス 89分)
監督:ロベール・ブレッソン
原作:ドストエフスキー
出演:ドミニク・サンダ、ギィ・フランジャン、ジャン・ロブレ
配給:コピアポア・フィルム

2015年12月1日火曜日

ピクニック  partie de campagne


ルノワールの失われた名作

第二次大戦中にナチスドイツによって破棄されてしまった幻のプリントを、シネマテーク・フランセーズの創設者アンリ・ラングロワが救出。
ルノワールの了承のもと編集作業が続けられ1946年にパリで公開された作品。

夏のある日、ピクニックに向かったとある一家の娘アンリエットは、現地で出会った青年アンリと結ばれる。そして別れと再会とを経て待ち受ける結末とは。

それにしても、この作品にまつわるエピソードがすごすぎる。


この作品はまるで、父であり画家であるピエール=オーギュスト・ルノワールの印象派の絵画のような世界観。
原作はフランスを代表する作家ギィ・ド・モーパッサン。


そして、スタッフ陣が豪華!
助監督には、写真家のアンリ=カルティエ・ブレッソン、映画監督のジャック・ベッケルやルキノ・ヴィスコンティらが名を連ねる。
今では考えられない大物ぞろい。

後半たたみかける展開はすごい。
このわずか40分の作品にはいろいろなものが詰まっている。


<作品概要>
「ピクニック」
(1936年 フランス 40分)
監督:ジャン・ルノワール
助監督:アンリ=カルティエ・ブレッソン、ジャック・ベッケル、ルキノ・ヴィスコンティ
出演:シルビア・バタイユ、ジャーヌ・マルカン、アンドレ・ガブリエロ、ジャック・ボレル、ジョルジュ・ダルヌー、ポール・タン、ガブリエル・フォンタン
原作:ギイ・ド・モーパッサン
配給:クレストインターナショナル