2014年9月30日火曜日

フランシス・ハ  FRANCES HA


生きかた模索中 いまどき、N.Y女子ライフ

それにしても、「フランシス・ハ」というタイトルはどういうことでしょうか?
フランシスが登場人物なので「ハ」は苗字なんだろうけど、そんな苗字はアメリカにありますか。中国人ならありそうだけど、フランシスは明らかにアメリカ女子。
映画は、まるでそんなタイトルだとは知らなかったと言わんばかりに、苗字には全く触れずに進んでいく。

監督は、ウェス・アンダーソンとタッグを組んで脚本を担当してきたノア・バームバック。監督作の「イカとクジラ」が評判だったのにも関わらず8年ぶりの日本での新作公開。

フランシス、27歳、ニューヨーク在住。ダンサー志望だけどずっと実習生。親友のソフィーとはいつも一緒で家だって二人でシェアしている。恋より親友を選ぶようなフランシスも、周囲が結婚したり身を固め出し、不器用ながらも自分の生き方を模索し出す。


モノクロのニューヨークを疾走するイキイキとした映像は、まるでヌーヴェルヴァーグの映画のように躍動している。 ニューヨークでモノクロだから「ストレンジャー・ザン・パラダイス」のジム・ジャームッシュかとも思ったけど、音楽や青春っぽさがやっぱりヌーヴェルヴァーグ的。


男にはよく分からない“女子の友情”要素が満載の本作。ノア・バームバックはよくこの脚本書けたなと思ったけど、なんと主演のグレタ・ガーウィングが共同脚本に! それで納得。 というかグレタは主演だけでなく脚本でもその才能を発揮。ますます今後が期待です。
それにしても、あんなに大親友でいつも一緒だったのに、相談もなく他の友達と同居を決めたり、結婚して海外(日本)に行っちゃうとかソフィーもヒドイ。
そのソフィーを演じたミッキー・サムナーは、あのスティングの娘なんだとか。
そして、レヴ役のアダム・ドライバーは、「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」で「Mrケネディ」の歌に参加していたアル・コーディ役。
みんな無名と思いきや、売り出し中の若手がそろってる。


あと、この映画で使用される音楽を知っておくともっと楽しめるはず。
※パンフレットより引用
♪ Camille / Georges Delerue 
 「私のように美しい娘」(フランソワ・トリュフォー監督)
♪ King of Hearts La Pavane Polka・King of Hearts Le Repos / Georges Delerue
 「まぼろしの市街戦」(フィリップ・ド・ブロカ監督)
♪ L'ecole buissoniere / Jean Constantin
 「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー監督)
♪ Domicile Conjugal / Antoine Duhamel
 「家庭」(フランソワ・トリュフォー監督)
♪ Modern Love / David Bowie
 「汚れた血」(レオス・カラックス監督)
♪ Negresco's Walts / Georges Delerue
etc


“不器用で大雑把だけどチャーミングな彼女”という映画紹介の一文でフランシスを表現する言葉がそのままヒントになっていた「ハ」という名前の謎が最後になって明らかに(笑)

ノア・バームバック監督はやっぱり面白い。日本未公開が多いのが残念。これを機に未公開分も観れるようにしてほしい。


<作品概要>
フランシス・ハ」 FRANCES HA
(2012年 アメリカ 86分)
監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・バームバック、グレタ・ガーウィング
出演:グレタ・ガーウィング、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー、マイケル・ゼゲン、パトリック・ヒューシンガー
配給:エスパー・サロウ

2014年9月29日月曜日

3人のアンヌ  In Other Country


3人のアンヌが不思議に交錯する3つのストーリー

ホン・サンスの不思議な魔法にかけられたような、狐につままれたかのような余韻を残す、不思議でコミカルなヴァカンス映画。
舞台は韓国だけど、フランス人のイザベル・ユペールが海辺を歩くだけでヴァカンスの雰囲気が高まる。

監督のホン・サンスはヨーロッパで人気があって、カンヌ国際映画祭でもある視点賞を受賞したりしている。本作の公開時にはあのカイエ・デュ・シネマ誌で30ページにもわたる大特集が組まれたとか。

ソウルから少し離れた海辺の街で、3人の同じ名前をもつフランス人女性アンヌは、それぞれに友人と過ごし恋をする。
青いシャツのアンヌは有名な映画監督。赤いワンピースのアンヌは浮気中の人妻。緑のワンピースのアンヌは離婚したばかり。それぞれのアンヌは、海辺の街で過ごし、そしてライフガードに会う。


同じ時間と場所を、違うアンヌがそれぞれ同時に過ごしているような変な感じ。
ややこしくさせるのがキーマンとなるライフガード。このライフガードは3話とも共通して登場してくるので、違う話なのか同じ話なのかが分からなくなってくる。
そして、かなり笑かしてくれる重要キャラクター。
劇中でギターを弾き語るくだりは、即興の演出らしいんだけど、意外や意外、けっこう歌が上手い。もうちょっと聴いてみたいくらいだった。

この役者さんは、ユ・ジュンサン。ホン・サンス監督作品の常連俳優。ぜひ他の作品でもチェックしてみたい。


<作品概要>
3人のアンヌ」  In Other Country
(2012年 韓国 89分)
監督:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ユン・ヨジュン、ムン・ソリ、クォン・ヘヒョ、ムン・ソングン
配給:ビターズ・エンド

2014年9月27日土曜日

思い出のマーニー  


そういう話だったんだ 意外な展開

監督の米林宏昌は「借り暮らしのアリエッティ」に続く長編第2作目。鈴木敏夫プロデューサーに原作を渡され映画化してみてはどうかと打診を受けたのがキッカケだったとか。

プロデューサーの西村義明氏は、「かぐや姫の物語」に続き2作目のプロデュースとなる。鈴木さんが一線を退く宣言をした後を託されるというプレッシャーの中での最新作。

人と上手く接することが苦手な杏奈は、ある夏休みに療養も兼ねて北海道の親戚の家に下宿することになる。そこで不思議な少女マーニーと出会う。昼間は廃墟の湖畔の屋敷だが杏奈と会う時は家族と住まう豪邸となる。マーニーとは誰なのか。様々な登場人物によりやがてその全貌が明らかになっていく。

原作を知らないけど、とても面白い話だった。ミステリー仕立てで徐々に謎だったことが解き明かされていく。
だけど、最後は全部謎を丁寧に説明しすぎな感じが。きっとこういうことなんだろう、という程度にとどめておいてもらた方が好みだった。
でも子どもを意識して作れば分かりやすい方が良かったのだろうが、と勝手に推測してしまう。


<作品概要>
思い出のマーニー
(2014年 日本 103分)
監督:米林宏昌
製作:鈴木敏夫
プロデューサー:西村義明
出演:(声)高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣、森山良子、吉行和子、黒木瞳、大泉洋
制作:スタジオジブリ
配給:東宝

2014年9月26日金曜日

[短編] TOWN WORKERS 


岩井俊二、初のアニメーション

リクルートのアルバイト情報誌「タウンワークス」とのコラボレートで岩井俊二監督が初となるアニメーションで作品を発表。
実写をトレースする“ロストスコープ”という手法を用いてアルバイトにまつわる3話のショートストーリーを手掛けた。
ガソリンスタンド、コンビニ、球場の売り子。それぞれのアルバイトにまつわる短編が描かれる。
アルバイトだけに、若い。登場人物の若さにアルバイト=青春という感じを受けてしまう。

▼「初めての潮の香り」

▼「君の夢を読む」

▼「この遠い道程のため」


<作品概要>
TOWN WORKERS
(2014年 日本 )
監督・脚本:岩井俊二
音楽:へクとパスカル
製作:リクルートジョブス

2014年9月19日金曜日

鬼灯さん家のアネキ


エロマンガ的コメディで描く、今泉流「好きって何?」

「サッドティー」に引き続き、ちょっとダメな人たちの不器用な恋愛模様を描く、今泉力哉監督の最新作。「サッドティー」よりもキャストは豪華にも関わらず、新宿武蔵野館で期間限定のレイトショーなんてもったいない。
原作は、五十嵐藍による4コマ漫画。監督としても(おそらく)初の原作モノ。それをどれだけ実写化できるのか、と思いつつも見事に今泉監督の空気感になっていた。

冴えない童貞高校生の吾郎は、同居する血の繋がらない姉が日々仕掛けてくるエロいイタズラに翻弄されながらも、姉ハルのことが好きでたまらない。そこに幼なじみで同級生の水野が絡んできて、吾郎とハルの関係性が大きく動き出していく。


個性的な登場人物たちを演じるキャストがいい。原作では弟の吾郎はイケメンなのに、本作ではなぜか前野朋哉(笑)「桐島部活辞めるってよ」で強烈な個性を発揮した彼だけど、今年は「大人ドロップ」、「晴天の霹靂」にも出演して、さらに「ぶどうのなみだ」、「日々ロック」なども年内公開を控える人気っぷり。
ハライチの澤部やハマケンのような愛嬌たっぷりに笑いを誘うキャラが、エロい姉たちに振り回される役どころに大ハマり! とても笑わせてくれる。


仲間由紀恵みたいな水野役は誰なのか思っていたら、何と佐藤かよだった。
記憶に合ったイメージと違っていたので全然気がつかなかった上に役柄としても意味深なキャスティング。

エロコメディのままいくのかと思いきや、後半に向けた伏線がいろいろと張られていて、脚本もよく練られていて面白い。
それにしても、スポテッドプロダクションズは、インディーズ映画をかなり牽引している。これからも面白い作品の発信基地であってほしい。


<作品概要>
鬼灯さん家のアネキ
(2014年 日本 118分)
監督:今泉力哉
出演:谷桃子、前野朋哉、佐藤かよ、川村ゆきえ、古崎瞳、岡山天音、葉山レイコ、水澤紳吾、モト冬樹
配給:KADOKAWA、SPOTTED PRODUCTIONS

2014年9月18日木曜日

ワン チャンス  One Chance


スーザン・ボイルに並ぶブリティッシュ・ドリーム!

オーディション番組によって、冴えない携帯ショップの店員からスターダムに登りつめたポール・ポッツの波瀾万丈のサクセスストーリー。
監督は、「プラダを着た悪魔」のデビッド・フランケル。あまり監督名は通ってないが、「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」や「31年目の夫婦喧嘩」などコンスタントに撮っていて、ユーモアを交えつつの感動作が多い。

幼少の頃から歌うことが得意で大好きなポールは、毎日どこでも歌ってしまう。ちょっとおっとりとしてぽっちゃりな彼は、いじめっ子たちの格好のターゲット。大人になってもそれは続くが、オペラ歌手を目指し、歌に磨きをかけイタリアに留学するまでになるが、大きな挫折が彼を待ち受ける。


実際のポール・ポッツは見るからに冴えない典型的ないじめられっ子。更には携帯ショップで時給で働くバイトという経済的にもイケてない。
なのに、そんな彼を愛する彼女をゲット。そしてのその彼女ジュルズが女神のように彼を成功へと導いていく。そのやり方は常にポジティブで欲を出さず、彼を信じ続けていること。彼女の天性の相手を想いやる気持ちがポールを支え、そしてチャンスをつかみ取る。

映画にはオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」に登場した際の、審査員たちの実際の映像が使用され、そのリアルな反応が番組放映時のような感動を呼ぶ演出がされている。
実際の番組映像はコチラ。


辛口審査員のサイモンは、あのワン・ダイレクションなどをデビューさせた敏腕プロデューサー。このオーディション番組のプロデューサーでもあり、イギリスでは超有名なやり手で本作「ワン チャンス」の製作にも名を連ねている。
そして、スーザン・ボイルも同番組のオーディションで瞬く間に有名になった。
番組映像的にはスーザン・ボイルの方が感動的。何と言っても冴えない見た目の第一印象とその歌の実力のギャップがあまりにあり過ぎて、それが驚きと感動を強調する。
その代表格が、ポール・ポッツとスーザン・ボイル。

サイモン・コーウェル

それにしても、ポールがオペラ留学するベニスの街がとても美しい。
日本からみると完全な別世界。あんな綺麗な街で本場オペラを聴いたらさぞ感動的だろう。


<作品概要>
ワン チャンス」  One Chance
(2013年 イギリス 103分)
監督:デビッド・フランケル
製作:サイモン・コーウェル
出演:ジェームス・コーデン、アレクサンドラ・ローチ、ジュリー・ウォルターズ、コルム・ミーニイ、ジェミマ・ルーバー、マッケンジー・クルック、ヴァレリア・ビレロ
配給:GAGA

2014年9月10日水曜日

365日のシンプルライフ  Tavarataivas / My Stuff


「本当に必要なものとは?」のリアル実験

シンプルライフの国、フィンランドからやってきた、現代社会に一石を投じる問題作。といっても、何も難しくなくやっていることはとてもシンプル。
断捨離やエコがブームがあるとはいえ、まだまだ大量消費社会の日本においても注目の作品。若い人が注目しているところがいい。

恋人に振られたペトリは、モノで溢れかえった自分の部屋を見てあるコトを思いつく。自分の生活を一旦リセットして見直すために、全ての持ち物を倉庫に預けて必要なものをひつずつ取り出していくという実験を開始する。
ルールは、
・1日に1つまで持ち出してOK
・新しいモノは買わない
・それを365日続ける
一体何が起こるのか!? リアル実体験ドキュメンタリー。


実験を進める過程での周囲の反応が面白い。「あいつ大丈夫?」、「よく分かんないんだけど」と理解されないながらも本人の固い意志で実験は進む。
だけども何だかんだ応援してくれる友達や家族たち。
この監督の周りの人たちがみんな良いひと! そういうとこに監督の人柄がにじみ出る。

続けていくうちに訪れる心境の変化、おばあちゃんの言葉を経て、かっこいいジャズのBGMにのせて365日の実験最終日を迎える。
そして、ペトルが手にしたものとは?
日本だとグリーンズみたいだと思ったらしっかり映画コメントに参加されていた。

モノに踊らされる生活を見直すキッカケになる良作。
クリーニングデイやサマーハウスでシンプルに暮らすフィンランドから届いた作品だというのがいい。


<作品概要>
365日のシンプルライフ
(2014年 フィンランド 80分)
監督:ペトリ・ルーッカイネン
出演:ペトリ・ルーッカイネン
配給:パンドラ、kinologue

2014年9月9日火曜日

[CM] ACジャパン 「やさしさは、想像力ではじまる」


ACジャパンの新CMは、ベルリン国際映画祭の短編部門で銀熊賞を受賞した若き天才アニメーター「和田敦」によるアニメーションでのCM。


他の作品にも通じる、連続して違うものに移り変わっていく和田流のゆる〜い感じのアニメーションで、メッセージCMが流れる。
「空想や夢を見るときにつかう想像力も、人の悲しみや痛みを想像する力も、ほんとうは同じものなのでは?」というの企画コンセプトなんだとか。
本来の短編アニメーションの方が、ゆる〜い世界観は堪能できる。

▼代表作「春のしくみ」


<作品概要>
やさしは、想像力ではじまる
(2014 日本 30秒)
監督:和田敦
製作:ACジャパン
広告:サン・アド

2014年9月8日月曜日

STAND BY ME ドラえもん


ドラえもんってやっぱり世代を超えている

「ドラえもん」をとっくに卒業した人たちが、子どもを連れて映画館に来て、久しぶりにまたドラえもんと出会った。そんな現象が起きている。
アニメの歴史が長い日本だからなのか、2世代で楽しめるタイプの作品の代表格が「ドラえもん」。まさかの3D CGで「どうなのか?」という前評判もなんのその、大ヒットを記録中。

何をやっても冴えない“のび太”の元に、ある日未来から玄孫のセワシとドラえもんがやって来る。あまりにも冴えない先祖の“のび太”を幸せにするため、ドラえもんを置いていく。
乗り気でないドラえもんだが、「のび太を幸せにする」まで未来へ帰れないとプログラムされてしまい、しぶしぶのび太の願いを叶えようと様々な未来の道具を駆使して力を貸すうちに、ほっておけない“のび太”との間に友情が芽生えていく。


「ドラえもん」の長編には、映画ならではの面白さはあるのだけれど本作は、劇場版のオリジナルというよりは、テレビ版のダイジェスト編集になっていた。過去の有名エピソードから色んな場面がチョイスされているので、新しいストーリーに出会うということはないのだけれど、子どものとき以来の「ドラえもん」を観るには、そのくらいでちょうど良かったのかもしれない。

それにしても、山崎貴監督は、ベタなお涙ちょうだいが好きなのか。いや、きっと好きなのだろう。「三丁目の夕日」も「永遠のゼロ」もそうだけど、VFXを駆使しながら描く世界はすごくアナログで、ベッタベタなストーリー展開。最新技術でアナログを描く。そして涙をさそう。そんな展開が大好きな監督なのだろう。
監督の長編デビュー作「ジュブナイル」はドラえもんに大分影響を受けているのだとか。


劇中にはパナソニックやトヨタ、グリコなどの企業ロゴの看板で出てくるが、この各社は映画に合わせて広告やキャンペーンも実施中。
特にトヨタのCMでは実写版で、ドラえもんが何故かジャン・レノという突拍子もない設定(笑) このCMはクリエイターの佐々木宏氏が手がけたもので、サントリーBOSSのトミー=リー・ジョーンズが何故か宇宙人だったり、ソフトバンクの白戸家のお父さんが何故かイヌだったり、、 とにかく視聴者を驚かせる「意外な設定」が得意な広告界のマエストロ。
本作では、映画の宣伝クリエイティブディレクターとして参加していたりする。

それにしても、久しぶりに見る「ドラえもん」のCG姿や声優への違和感も最初はあったけど、映画を観出すとそれも徐々に慣れていく。ここにきて大人も子どもも一緒に楽しんで大ヒットしているところをみると世代を超えたスゴさを感じてしまう。


<作品概要>
STAND BY ME ドラえもん
(2014年 日本 95分)
監督:八木竜一、山崎貴
原作:藤子・F・不二雄
出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、妻夫木聡
配給:東宝

2014年9月4日木曜日

her/世界でひとつの彼女


人とAIの禁断の恋の行く末は?

スパイク・ジョーンズ監督の待望の最新作は、なんとOSと恋してしまった男のお話。
ホアキンの暖色系のやわらかい色彩の服装、部屋のインテリアや、森に吊るされたかのようなエレベーターの内装などこの映画を世界観を彩るアートワークがとにかく素晴らしい!
近未来なのにちょっとアナログっぽいあたたかみが感じられるところはミシェル・ゴンドリーとも似ている。

近未来のロサンゼルス。離婚で傷心中のセオドアは、ある日、人工知能(AI)搭載の最新OSを興味本位で購入する。本当の人のように話しかけ日ごとに学習し自分仕様になっていくそのOS「サマンサ」に次第に惹かれ始めるセオドア。やがて、人とコンピューターという垣根を超え、互いにふたりは惹かれ合っていく。

サマンサは声だけのため、ほとんどがホアキン・フェニックスの一人芝居のような状態。「容疑者ホアキン」ではかなりおバカなことをやったけど、やっぱりホアキンの演技は巧い。「ザ・マスター」の怪演に引き続き、ひとりで映画を引っ張れる力量がある。


そして気になった演出が、“摩天楼の夜景”。ホアキンのメンタルな要素とリンクしていて、浮かれている時はキラキラときらめき、落ちている時は淀んでいたりする。
カレン・Oの音楽もすごく良くて映画を彩るとてもいい要素になっている。彼女は、「かいじゅうたちのいるところ」に引き続いてスパイク・ジョーンズとのタッグ。


ファッション、音楽、アートワークなど良い要素がこんなにあるにも関わらず、どうもピンとこなかったのはなぜなのか。
今年一番かもと期待を込めて観に行ったのがハードルが上がってしまったのか、自分でもよく分からないけどスーパーマリオみたいなホアキンのラブストーリーに違和感を覚えてしまった。

ありそうでない世界。空想の世界。スパイク・ジョーンズに求めていたのがそういう世界観だったのかもしれない、だけど現代でも2Dだけが好きという若者がいて、近い将来は普通にありえそうな世界なだけに、相容れなかったのか。

でも作品としては、間違いなく素晴らしく、いい映画。


<作品概要>
her/世界でひとつだけの彼女
(2013年 アメリカ 126分)
監督:スパイク・ジョーンズ
主演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリビア・ワイルド、スカーレット・ヨハンソン、クリス・プラット、マット・レッシャー
配給:アスミック・エース

2014年9月3日水曜日

ジゴロ・イン・ニューヨーク  Fading Gigoro


ジョン・タトゥーロがジゴロに見える(笑)

ウディ・アレンがしゃべりだすだけで映画の色調がウディ映画になってしまう。それだけこのひとの個性は強く、観客もそれを求めているところがある。ジョン・タトゥーロもそれを分かっているウディの配役だ。
作家性の強い監督に好まれる個性派俳優のジョン・タトゥーロだけに日頃は変な役が多い。(というかまともな役は見たことない)
だけど自分が監督して主演する作品はひと味ちがってモテモテの役だ(笑)そのあたりのギャップが微笑ましくて、良い。

親の代から続いた書店を自分の代でたたむことになってしまったウディはひょんなことから昔からの友人のフィオラヴァンテが女性の扱いに長けていることに目をつけ、一攫千金を目論みジゴロビジネスを始めるのだが。


この映画の大きな魅力は「音楽」。
パンフレット大塚恵美子さんも語っているように、もうひとつの主役と言ってもいい。
ここがまたウディ・アレンの映画のように思えてしまう、素晴らしいジャズが映画全般にちりばめられている。ジーン・アモンズの「カナディアン・サンセット」はじめオトナな雰囲気にさせてくれる名曲の数々。このサントラは間違いなく買い。

そして意外と豪華キャスト。シャロン・ストーンにバネッサ・パラディ。
バネッサはこんなにすきっ歯だったかと疑うほどすきっ歯が気になった。


<作品概要>
ジゴロ・イン・ニューヨーク」 Fading Gigoro
(2014年 アメリカ)
監督・脚本:ジョン・タウーロ
出演:ジョン・タトゥーロ、ウディ・アレン、シャロン・ストーン、バネッサ・パラディ、リーヴ・シュレイバー、ソフィア・ベルガラ、ボブ・バラバン
配給:GAGA

2014年9月2日火曜日

バルフィ!人生に唄えば


映画愛のつまった“踊らない”インド映画。

最近のインド映画はホントに面白い。ザッツ・エンターテイメントで、面白い要素をふんだんに盛り込んでくるけど、飽きがこない。
本作は、2012年のアカデミー賞外国語映画賞のインド代表に選ばれ、本国インドのアカデミー賞では作品賞を受賞。各国の映画祭でも賞を取っている。「きっと、うまくいく」に及ぶインド映画はなかなかないかもしれないけど、本作もなかなか良かった。

生まれつき耳が聞こえないバルフィだが、ユーモアにあふれ、貧しいながらにも楽しく日々を暮らしている。ある日、お金持ちの令嬢シュルティに一目惚れ。分かりやすくも積極的にアプローチし始める。幸せな結婚でないシュルティはバルフィに好意を持ち始めるが、バルフィの幼なじみのジルミルも登場、周囲の思惑も相まってある事件へと発展していく。


相変わらず娯楽要素満載の展開だけど、どういう話かとざっくりいうとラブストーリー。
インド映画のヒロインは大抵とびきりの美人。本作のシュルティ役のイリヤーナー・デクルーズもペネロペ・クルスと小沢真珠と森泉を足して割ったような、エキゾチックな美人。このヒロインはインド映画のみどころのひとつ。


そして、この映画のもうひとつの見どころが「映画愛」!
チャップリンやアステア、ジャッキー・チェン、北野武などなど、過去の名作のあのシーンやこのシーン!と思わず楽しくなるようなオマージュが満載。
しゃべらないバルフィの姿は、サイレント時代のチャップリンやキートンのよう。
とても分かりやすく名作たちが引用されている。
※引用作品(公式HPより)
「雨に唄えば」、「プロジェクトA」、「アメリ」、「菊次郎の夏」、「Mrビーン」、「黒猫白猫」、「君に読む物語」ほか


音楽は流れるけど“踊らない”、こういうタイプのインド映画が最近増えてきてる。
最近では、「スタンリーのお弁当」、「めぐり逢わせのお弁当」、「マダム・イン・ニューヨーク」など。
それに、聖地“インド”の「食」を描いたドキュメンタリー「聖者たちの食卓」も始まる。

外国人がインドを舞台に撮った作品では、ウェス・アンダーソンの「ダージリン急行」やダニー・ボイルの「スラムドッグ$ミリオネア」がある。

でもやっぱり踊ってるインド映画も観たい!


<作品概要>
バルフィ!人生に唄えば
(2012年 インド 151分)
監督・脚本・原作:アヌラーグ・バス
出演:ランビール・カプール、プリヤンカー・チョープラー、イリヤーナー・デクルーズ
配給:ファントム・フィルム

2014年9月1日月曜日

リトルフォレスト 夏/秋編


たくましき農業女子のお腹がすく映画。

自給自足を地でいく生命力とたくましさ。都会に暮らすひとほど憧れをも感じるような自然とともに生きていく自然さ。
原作は、五十嵐大介の同名コミック。橋本愛主演で実写化された。

都会生活から逃げ出して、故郷の東北の小さな村、小森に戻って自給自足の生活をはじめるいち子。古い一軒家に一人で住み、野菜を育ては、料理し、食べるというシンプルな暮らしの中で、自分の人生を見つめ直していく。

室内の湿気を飛ばすために薪ストーブをたく。せっかくだからそのストーブでパンを焼く。拾ったグミの実でジャムを作ってみる。翌日の朝はそのパンとジャムでモーニング。
なんだかさりげない自然な暮らしが妙にオシャレな感じ。

フードディレクションは、eatripの野村友里さんが担当。だから、出てくる料理がことごとくおいしそう! 橋本愛がこれまたおいしそうに食べる。とてもお腹がすく映画。
それに、宮内優里の音楽が調理シーンととてもよくマッチ。テンポのいい音楽が重なることで手際よく料理している感じがすごく良く演出されている。

都会に疲れた女子はこの映画をみたらきっと田舎暮らしに憧れるに違いない。
だけどあの暮らしは相当に過酷なはず。。
ちなみに、この小さな村「小森」を文字って「リトル・フォレスト」なんだとか。
モデルになったのは青森県大森。


<作品概要>
リトル・フォレスト
(2014年 日本 111分)
監督:森淳一
原作:五十嵐大介
音楽:宮内優里
フードディレクション:eatrip
出演:橋本愛、三浦貴大、松岡芙優、温水洋一、桐島かれん
配給:松竹メディア事業部