2013年12月31日火曜日

かしこい狗は、吠えずに笑う


狂気が増幅する 恐るべきインディーズ映画

監督はこれが長編劇場映画デビューとなる渡部亮平、若干26歳。2012年のぴあフィルムフェスティバルでエンタテイメント賞と映画ファン賞をダブル受賞した本作。若くベビーフェイスな外見からは想像がつかないほど作品は狡猾で野心的。

イケてないが故に友達のいない美沙と、かわいいが故に妬まれて友達のいないイズミの二人の女子高生は、ある時意気投合し親密になっていく。いつも一緒に過ごすようになるがイズミの嫉妬深さが気になりだし、物語は加速しはじめる。

女子高生同士の危ういバランスで成り立っている友情関係をちょっとした甘酸っぱさを織り交ぜながら描く前半に、これを男性監督が撮るのか?とちょっと不思議に思うくらいだったけど、この後半のサスペンス具体はどうだろう! ドキドキとザワザワが増幅していく後半を演出するための周到な伏線だと気づかされる。そう、やっぱり女子高生の甘酸っぱい青春ストーリーなんかを撮る監督じゃない、狂気が暴走しだす、侮っていた観客は呑み込まれてしまうくらいの勢いでクライマックスへと進んでいく。


主演は、シンガーソングライターのmimpi*β(ミンピ)と元non.noのモデルの岡村いずみ。演技はこれからのフレッシュな俳優。ミンピは自分のライブ後に見に来ていた監督に直接スカウトされたとか。その場の勢いで映画出演に応じたものの内容は全く分かっておらず、後日の打ち合わせで監督が言いにくそうにブサイク役であることを告げたとか(笑) あまりに監督がベビーフェイス過ぎて最初は高校生のファンの子が話しかけてきたのかと思ったらしい。
ミンピは本作のエンディング曲「カメレオン」を提供している。ちなみに名前のmimpiとはインドネシア語の「夢」からきているとか。


<作品概要>
かしこい狗は、吠えずに笑う
(2013年 日本 94分)
監督:渡部亮平
出演:mimpi*β、岡村いずみ
配給:Hana film

2013年12月26日木曜日

有名監督のクリスマス THE AUTEURS of CHRISTMAS


個性派の映画監督をみごとにパロディ!

有名監督がクリスマスをテーマに映像を作ったらこうなる、という面白い動画作品。
それぞれの個性派監督の特徴をみごとにとらえていてすごい。
映画作家によるクリスマス。

短い時間で続けざまに見れるので比較もすぐできて改めて個性の違いが実感できて楽しい。

パロディされた監督は以下、(登場順)
◎スティーブン・スピルバーグ
◎セルゲイ・エイゼンシュテイン
◎ウェス・アンダーソン
◎ウディ・アレン
◎ラース・フォン・トリアー
◎マーティン・スコセッシ
◎マイケル・ムーア
◎スタンリー・キューブリック
◎ヴェルナー・ヘルツォーク
◎バズ・ラーマン



この映像はカナダの制作プロダクション fourgrounds社が作成したもの。
http://www.fourgrounds.com/


<作品概要>
(2013年 カナダ 2分30秒)
監督:
出演:
配給:
制作:fourgrounds


2013年12月19日木曜日

箱入り息子の恋


星野源がキモい! キモさ全開で好演する“箱入り息子”

コミュニケーションが下手で友達もいない、外見もパッとせず絶対にモテないタイプ。これといった趣味もない“箱入り息子”を星野源が自然に演じていた。星野源はこれが映画初主演。ドラマや映画にはちょこちょこ出ている彼だけどアーティストとして、俳優として急に露出が増えたのはここ最近なので、はじめてこの作品で星野源に触れた人はどんな役者だと思っただろうか。実は結構イケてるミュージシャンです。

市役所に勤め、徒歩圏内の自宅と職場の往復だけで日々を過ごす主人公の健太郎35歳(彼女いない歴35年)が、ある日盲目の美少女に恋をする。
その日から、自宅と職場の往復だけでない健太郎(星野源)の新たな日々が始まっていく。 

まさに、ボーイ・ミーツ・ガール! だけどお互いちょっとワケあり。
外見がイケてなく、内気で人付き合いができない健太郎だけど、目が見えない奈緒子(夏帆)にとって見てくれはどうでもいいこと。本当に内面のやさしさを理解できる人だ。 そんな菜穂子にドンドンと惹かれていく健太郎。手を握ることさえ戸惑う純情ぶり。吉野家で牛丼の頼み方を教えたり、不器用さ全開なデートで笑わせる。 順調そうに思われた矢先、奈緒子の父親が壁となって立ちはだかる。だけど恋愛経験が全くない人が急に恋愛にハマってしまった“危うさ”と“勢い”で、彼はひたすら突き進んでいく。


笑って、ちょっと泣けて、小気味よい作品と思いつつ後半はかなりスピードアップ、案外と山あり谷ありな展開になっていく。ほのぼのした雰囲気とは裏腹に星野源の裸姿や夏帆とのベッドシーンなど、一筋縄ではいかない作品になっていた。


健太郎の爬虫類的なキモさは、部屋で飼っているカエルとかぶる。最初は鳴きまねを得意そうに披露してたが、最後はカエル人間ばりになっていた(笑)

そんな星野源だけど本当はすごくかっこいいアーティスト。
SAKEROCK(サケロック)の中心メンバー。最近はソロ活動が中心で、俳優業や執筆業、ラジオのパーソナリティなど幅広く活躍。(くも膜下出血で一時休業、徐々に復活)
だけど、やっぱりSAKEROCKが最高!


ちなみにSAKEROCKのメンバーにはハマケンこと浜野謙太も在籍。
彼も俳優活動をしていて、「婚前特急」や「体脂肪計タニタの社員食堂」に出演し、その愛嬌あるキャラクターと独特の存在感でブレイクしている。
ハマケンのバンド「在日ファンク」も面白い!



<作品概要>
箱入り息子の恋
(2013年 日本 117分)
監督:市井昌秀
出演:星野源、夏帆、平泉成、森山良子、大杉蓮、黒木瞳、竹内都子
配給:キノフィルムズ


かぐや姫の物語


全編が水彩画 美しい日本古来の物語

高畑勲監督77歳、製作期間8年間、製作費50億円。 日本人の誰も知っている“日本最古の物語”である「竹取物語」を描く。

プロデューサーの西村義明氏によると、原画に手作業で水彩画で色をつけ始めたとき「あぁ、この映画は終わらない」と思ったとか。
そのくらいこの映画は製作期間を要した。
遅れ癖があり終わらす気のない監督に釘を刺すために設定された宮崎駿監督の「風立ちぬ」との同時公開。その公開日も結局間にあわなかった。制作の遅れを挽回するために後半はアニメーターを追加投入。このために「新世紀エヴァンゲリオン」の制作が遅れたとまで言われた。(ちなみに「エヴァンゲリオン」の庵野監督は「風立ちぬ」に声優(主役)として参加している)

ジブリ作品と言えば、いつも主題歌が話題になる。
今作では、二階堂和美の「いのちの記憶」。音楽はいつも通り久石譲だ。


こだわりにこだわって完成にこぎつけた本作は、こだわった甲斐がある、とてもすばらしい作品に仕上がった。
この水彩画のタッチで描くアニメーションが珍しいし、それを2時間を超える大作に仕上げてみせた。予告編でもそうだったけどすごく躍動感がある。この水彩画の絵巻を見ているかのような画なのに表情や動きにエネルギーが感じられて、このくらいの長編では観たことがないタイプの作品だからすごく新鮮だった。
アニメーションはCG全盛の昨今なのでこの“手作り感”は貴重だ。


物語は完全に「竹取物語」。とても忠実に作っているから誰もが知っている展開だ。
今回なぜ「竹取物語」なのか? 企画が始まる際にプロデューサー西村氏の質問に監督は逆に聞き返したと言う。
「なぜ、数ある星からかぐや姫は地球を選んだのか、そして何故去らなくてはならなかったのか分かりますか?」
「かぐや姫は地球にいる間、何を考え、何を思っていたのか分かりますか?」
「かぐや姫は月での罪で地球に来たけれど、その罪とは?罰とは何か分かりますか?」

果たして誰か答えられるのだろうか?
その答えを映画の中で描く、それが高畑監督が今作で実現しようとしたことだ。


<作品概要>
かぐや姫の物語
(2013年 日本 137分)
監督:高畑勲
プロデューサー:西村義明
出演(声):朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、田畑智子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、宇崎竜童、中村七之助、橋爪功、朝丘雪路、仲代達矢、古城環
音楽:久石譲
配給:東宝

2013年12月13日金曜日

ゼロ・グラビティ GRAVITY


3D効果が抜群! 宇宙を体感できる映画が誕生!

アルフォンソ・キュアロンがやってくれた。新作の「ゼロ・グラビティ」がすごい。宇宙空間をこんなにリアルに表現した監督は初めてではないだろうか。無音・無重力な宇宙空間を作り上げた手腕はお見事! 3Dの立体感も演出とマッチしていて、これは劇場でないと体感できないみごとなスペース超大作となっている。

宇宙で人工衛星の修理作業に従事していたストーン博士(サンドラ・ブロック)は、作業中に事故に巻き込まれる、大量の“宇宙ゴミ”が接近し次々と機体に激突したのだ。間一髪助かったストーン博士だが生存しているのは、自分とコワルスキー(ジョージ・クルーニー)のみ。船体は大破し修復は不可能。地球に生還するには絶望的な状況になってしまう。


監督のアルフォンソ・キュアロンは、メキシコ出身。当時メキシコで新進気鋭だった俳優ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナを主演に迎えた青春ロードムービー「天国の口、終わりの楽園」を監督し、日本でも渋谷シネマライズで上映されちょっとした話題のミニシアターだった。そこで注目され、期待の次回作が、な、なんと「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」(シリーズ第3弾)。一気に超大作へ大抜擢され世界的にも有名な監督となった。

天国の口、終わりの楽園
それにしても、この宇宙空間は良くできている。 なんでもスピルバーグが感動して「どうやって撮ったんだ?」と聞いてきたとか。それくらい「無重力感」ができていた。地球上で無重力感を出すには、飛行機を急降下させてわずかの間、無重力状態を作り出すやり方もあるが、長時間演技するため撮影はスタジオ内で行われた。 特にキュアロンは長回しを好む監督なので、飛行機でのボーミット・コメット(嘔吐彗星)は絶対にムリ(笑)(本作でも冒頭の長回しシーンは必見。) 


そして実際にどうやって撮影したかというと、

なんと、熟練の操り人形師(パペッティア)の助けをかりて、“特定のシークエンス”で無重力状態を作り出すことに成功したとか(笑) 最新技術がアイデア的には結構アナログだったりするから面白い。

本作で主演のサンドラ・ブロックは、悲しい過去を克服しどんな状況下でもけっして諦めない女性の姿を好演し、とてもいい評価を受けている。実際、困難な状況で弱気をさらしたり、ビビリまるくるあたりはとても良かった。変に強い女性をやるよりいいんじゃないだろうか、もしかして「スピード」以来か(笑)
1億ドルとも言われる製作費だが、世界興行では既に1億ドルを突破し、サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニーともキャリアで最高の興行成績になっているらしい。


<作品概要>
ゼロ・グラビティ」 GRAVITY
(2013年 アメリカ=イギリス 91分)
監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー
配給:ワーナー・ブラザース


2013年12月9日月曜日

もらとりあむタマ子


山下敦弘×前田敦子 とある帰省娘の春夏秋冬

山下監督が「苦役列車」に続いて前田敦子を主演に迎えた最新作。自堕落な日々を過ごす若者の人生の曲がり角の1年を切り取ってゆる〜い感じで描く。脚本は山下監督の盟友・向井康介、大学時代の同級生にしてデビュー作「どんてん生活」以来のコンビ。

元々は音楽チャンネル「MUSIC ON!TV」の30秒のステーションIDとして制作されていたものだったとか。それが長編化して釜山国際映画祭にまで出品される作品となった。

東京の大学を卒業したが就職せず実家に戻り、父が営むスポーツ用品店で手伝う訳でもなく、家事をする訳でもなく、寝ころんでマンガを読んでは日々を自堕落に過ごすタマ子、23才。 目的もなく無気力で友達もいない、父親に悪態をつくが、そんな父親に女性の影がちらつきはじめちょっとしたざわつきがタマ子を動かしていく。

テレビのニュースを見ては「ダメだな、日本は。」と偉そうにうそぶく。すかさず父が「ダメなのは、お前だ」と突っ込む。「ちゃんと就職活動してるのか」。それに対して
「その時がきたら動く。少なくとも今ではない!」と目をひんむいてタンカをきる(笑)ダメダメな人のただの逆切れが妙に面白い。このあたりが山下・向井コンビの巧いところだ。中学生とのコミカルなやり取りも笑える。タマ子が読んでいるマンガが「天然コケッコー」で山下監督のメジャーデビュー作のタイトルだったりする。


20代。誰にだってちょっと人生を休んで自分と向き合う時間があるものだ。世間からは肩身の狭い時期かもしれないが、その時間で得られるものだって必ずあるのだ。

それにしてもこの映画、話題の二人なのに全国わずか27館での公開とは少ない。
パンフレットが前田敦子ファンを意識してか、写真のアップで異様でデカい。。。


<作品概要>
もらとりあむタマ子
(2013年 日本 78分)
監督:山下敦弘
出演:前田敦子、康すおん、伊東清矢、鈴木慶一、中村久美、富田靖子
配給:ビターズ・エンド

2013年11月27日水曜日

フラッシュバックメモリーズ 4D


世界初!3D映画と生演奏が融合する4D体験!

すごい体験だった。4D映画。
劇中全編に渡って流れるGOMAの音楽にGOMAたち本人が映像に合わせて生演奏をする。会場は出だしから歓声が飛び交うライブ状態!しかも座席はありながら全員オールスタンディング! 72分の上映時間の大半に曲がかかっているため、ほぼライブと変わらないようなとても不思議な映像体験。そして映像と演奏のマッチング度合いもすごくいい。なかなかない良い映像体験ができた。

この映画を作成したのは、「童貞。をプロデュース」「ライブテープ」などドキュメンタリーを得意とする松江哲明監督。若手世代の代表格だ。ディジュリドゥという長いパイプのような楽器の奏者であるアーティストのGOMAは、2009年11月、首都高を運転中に追突事故に巻き込まれ、脳に障害を負ってしまう。それは記憶の一部を失い、新たな記憶すら残しづらくなってしまうというものだった。映画は若き日のGOMAの映像から事故を経て「今」に至までをGOMAの楽曲とともに映し出す。


おそらくGOMAの奥さんが撮っていたであろう家庭用ビデオカメラの映像で、若くディジュリドゥの奏者として海外修行をするGOMAの姿から映画は始まる。ディジュリドゥという初めて聞く楽器の名前もすぐに演奏が始まるので実感として覚えられた。
徐々に活躍の場を広げていくGOMAの姿、ライブの会場もどんどんと大きくなっていく、目黒CLASKA、恵比寿リキッドルーム、フジロックフェスティバル、そして事故にあった2009年が近づいてくる。。 このあたり時系列で並べたのが巧い、と思った。もうその日は事故に遭うと分かっているからドキドキしてしまう。そして首都高の場面がアニメーションでフラッシュバックされる。この時にはもう「ぞぞぞ」としてしまった(笑)


事故当日、娘を同乗させなかったエピソードや、事故体験がこれまた不思議な映像で表現されたりとGOMAが体験したことを音楽にのせて追体験することができる。
そして3Dが意外と効いている。ディジュリドゥがあんなに伸びるとは(笑)この感覚はDVDでは味わえないので劇場で3Dで観れる機会があれば是非。

事故前、事後当日、事故後を時系列にし、記憶を失いながらも体が覚えているリズムをたよりに音楽の力で復活していくGOMAの姿は感動的だった。
記憶を失ってしまうあるアーティストの葛藤を映画いた訳だが、もともとはスペースシャワーの番組企画として始まった。プロデューサーの依頼を受けた松江監督は、まさかの3Dで撮影することを条件に撮影を敢行、劇場公開も果たし、更にはプロデューサーの思いつきから生演奏と融合する4D映画にまで発展。3Dで撮っていたことが功を奏し、(おそらく)世界初の試みに至った。

4D映画では映画後(というかライブ後)、終演の拍手がすぐにアンコールの拍手となり本当にアンコールが演奏されるという完全にライブ状態。

こんな感動的な日だけど、きっと忘れてしまうだろう、というGOMAのコメントが印象的だった。



<作品概要>
フラッシュバックメモリーズ 4D
(2013年 日本 72分)
監督:松江哲明
出演:GOMA
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
劇場:立川シネマシティ

2013年11月18日月曜日

んで、全部、海さ流した。


不思議なコンビが生きていく意味を模索する

元ヤン娘 meets 赤いランドセルを背負ったデブ少年。その時、ちょっとだけ物語が動く。
監督は、CMディレクター出身の新鋭・庄治輝秋。文化庁委託事業の若手映画作家育成プロジェクト「New Directions in Japanese Cinema」(ndcj)として製作された。監督は本作でデビューを飾り、劇場公開も果たす。

舞台となったのは監督の故郷でもある石巻。
震災という過去を背負い、被災地で生きる人々の戸惑いや孤独を描くが、直接的に震災のことには触れない。タツトシの妹も震災で亡くなったのかと思いきやそうではなかったりする。

塾のバイト面接に、まだ20歳なのに「大卒」と堂々と履歴書詐称をおこない、あっけなくバレて門前払いとなるあたり、この監督のユーモアがにじみ出る。
それにしてもこのタツトシ少年がいい!
この存在感を得た時にこの映画は勝ったのだと思う。

赤と青のコントラストが寒そうな石巻の街で自分たちなりに一生懸命に生きようと、居場所を探そうと模索している。つい嘘もついてしまうが悪気があるわけではない、自分なりの不器用ながらの表現なのだ。
そんな、(カウリスマキに通ずる)弱者で敗者な彼らの日常の一編をほんのりとしたユーモアにつつんだ庄治監督。

不灯港』(内藤隆嗣監督)をちょっと思い出した。
「不灯港」



<作品概要>
んで、全部、海さ流した。
(2012年 日本 30分)
監督:庄治輝秋
出演:韓英恵、篠田涼也、安立智充、半海一晃、いわいのふ健
配給:シグロ

2013年11月5日火曜日

危険なプロット  dans la maison


何とも面白い映画的アプローチ! フランソワ・
オゾンが仕掛ける上質な知的サスペンス。

スローテンポなオープニングに始まるが、どんどん映画の世界に引き込まれていく。少年が書く実体験を基にした作文は一編ごとに観客も魅了する。「続きが知りたい」と。そして一編ごとにこう締めくくる「続く、、、」。そう、続きが気になる。主人公の先生と同じくらい引き込まれていく。

退屈な日々を送る高校の国語教師・ジャルマンは新学期のある日、生徒が提出した作文に心をつかまれる。友人とその家庭を観察し他人の家族関係を皮肉たっぷりに描写したものだった。才能を感じたジェルマンはその生徒・クロードに文章の手ほどきをする。オススメの本も貸す。そして引き換えに彼の“新作”を手に入れる。何だかんだと批評しながらも才能あふれる作文の「続き」が気になるあまり、のめり込んでいく。そして内容も次第にエスカレートしていく。


退屈だったある日、急に面白くて仕様がない遊びを見つけてしまった大人の自制心がきかなくなってくるあたりがいい、その相手が魅惑的な美少年なのも人を破滅においこむファムファタールのようで危険な香りを演出している。続きが気になるあまり、教師と生徒の主導権が逆転していく心理戦が展開される。


彼の作文の世界(進行形の実体験)がどんどん交差していく物語の構成はすごく新しい。こんな作風は他にあっただろうか。作文の中での回想劇に聞き手であるジェルマンが黒子として登場し出した時には、ウディ・アレンかと思った(笑) 「ローマでアモーレ」の時のアレック・ボールドウィンのごとき解説者になり、登場人物と会話する。(実際、劇中にジェルマン夫妻が映画に行く時に観ていたのは、ウディ・アレンの「マッチ・ポイント」だった。) ウディが得意とする演劇的アプローチ。


オゾンもかなりウディ・アレンを意識していると思われる。最近の作品は観てなかったのだけれど、いままでにはあまりなかったユーモアの部分が多く感じられた。そしてオゾンらしい官能的なところとみごとに共存している。新しい境地にいったようなどんどん進化しているオゾンが堪能できて大満足な作品だ。間違いなく近年のオゾンで大傑作!


<作品概要>
危険なプロット」 dans la maison
(2012年 フランス 105分)
監督:フランソワ・オゾン
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、エルンスト・ウンハウワー、ドゥニ・メノーシェ
配給:キノフィルムズ

2013年11月2日土曜日

ショートショート フィルムフェスティバル&アジア プログラムA  shortshorts filmfestival & asia


世界のショートフィルムの祭典

東京国際映画祭の提携企画として、ワークショップとともに恵比寿の東京写真美術館にて開催。カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドールを受賞した作品や有名俳優が出演しているものもある。
短いもので5分、長くても20分程度の短編にクリエイターの手腕が発揮される。

もともとは俳優の別所哲也が主催して現在も本人が代表を務める会社が運営をしているアジア最大級の国際短編映画祭。


[プログラムA]
ん〜、正直全体的にこじんまりした作品がおおかった印象。長編映画をただ短くしたような感じでインパクトに欠けるものが多かった。せっかく短いんだから、長編と同じようなアプローチではなく、“短編だからこそできる”工夫が欲しかった。あるポイントに思いっきりフォーカスしたり振り切った方が、面白いものができる気がする。「この監督に長編を撮らせたらどうなるんだろう?」というワクワク感が持てず、どれも想像できてしまった。
そういう意味では「人間の尊厳」は一点にフォーカスしていてインパクトはあった。救いが無いけど。個人的には、中華系家族の年に一度の集まりを描いた「ポピア」が普遍的な家族関係と美しい伝統風景がマッチしていてとても良かった。

<作品概要>
「インタビュー」The Interviewer (2012年 オーストラリア 12:52  )
「私の街」It was my city (2012年 イラン 8:00)
「寿」Kotobuki/To Us (2012年 日本 15:00) 
「彼女」She (2012年 韓国 16:58)
「人間の尊厳」THE MASS OF MEN (2012年 イギリス 16:00)
「ポピア」Popiah (2013年 シンガポール 13:53)
配給:ショートショート実行委員会

2013年11月1日金曜日

スティーブ・ジョブズ Jobs


傲慢で天才、スティーブ・ジョブズの生涯。

ipad、ipod、iphone、アメイジングなプロダクツを次々と世に出し、世間をあっと言わせてきたアップル社創業者のスティーブ・ジョブズ(2012年没)の生涯を映画化。

彼らのスタートは、ガレージから。
友人のウォズニアックが趣味で作っていた自作コンピュータに興味を持ち自宅ガレージをオフィスにアップル社を創業。自宅で使えるコンピュータを世に出しアップルの快進撃は始まる。大きな出資を受けIBMに対抗するくらいの企業へ成長を遂げる。こだわりの塊のジョブズは他にはない製品を創りだすために何に対しても徹底的だ。当時ペプシでマーケティングの天才と言われていたジョン・スカリーをヘッドハンティングしマーケティングを担当させCEOにつける。「このまま一生砂糖水を売って過ごすか。それとも私と来て一緒に世界中を変えるのか」という伝説の殺し文句で彼を口説き落とした。



映画「ソーシャル・ネットワーク」のマーク・ザッカーバーグと同様、スティーブ・ジョブズもまた、成功することで裏切り、昔の仲間が去っていくなど傲慢で独裁が故の事態に見舞われる。「おまえは変わった」という相手に「成長したんだ」と突き放す。ワガママで嫌われ者の彼はアップル社の取締役陣と対立し、自ら創業した会社を追われることになる。だけどその後伸び悩むアップル社の新しい経営陣に呼び戻されるがその条件として自分への権力を集中させる。これで自分の開発に誰にも文句を言わせない。これだけワガママで独裁者でこだわりが尋常でない嫌われ者の天才だから、みんなに好かれるアメイジングなプロダクツを生み出せたのだろう。


<作品概要>
スティーブ・ジョブズ」 Jobs
(2013年 アメリカ 128分)
監督:ジョシュア・マイケル・スターン
出演:アシュトン・カッチャー、ダーモット・マローニー、ジョシュ・ギャッド、ルーカス・ハース、J・K・シモンズ、マシュー・モディーン
配給:GAGA

トランス  TRANCE


記憶を巡るダニー・ボイル流のサスペンス。

予告編からして面白そうだったダニー・ボイルの新作「トランス」。その割には公開規模が少なくちょとさみしい感じでは合ったが、その分期待は裏切らない。もっと大体的に宣伝されて、「最後のドンデン返しに必ず騙される!」とか言われるとかえって構えて観てしまうし、期待値が上がり過ぎてハードルが上がってしまうので、ちょうど良かったかもしれない。

ロンドン、サザビーズの競売人であるサイモン(ジェームズ・マカボイ)は、超高額品であるゴヤの「魔女たちの飛翔」がオークションにかけられた日にオークション会場で強盗に襲撃される。見事に絵画を強奪した強盗団だがケースを開けると中は空だった。実は強盗団に通じていた競売人のサイモンだったが、襲撃の際に頭を強打し、一部の記憶を失ってしまう。激怒した強盗団のボス・フランク(ヴァンサン・カッセル)はサイモンを問いつめるが、サイモン自身も何故なのか記憶がなく分からない。行方不明になった絵画を取り戻すため、催眠療法(トランス)によって記憶を戻そうと試みるのだが、予想外の事実が明らかになっていく。

作品自体は、冒頭に強奪され行方が分からなくなった絵画、ゴヤの「魔女たちの飛翔」にとても意味が込められている。だけど残念ながら劇中でこの絵をじっくりと見る機会はない。

ゴヤ 魔女たちの飛翔
解釈はいろいろあるが、魔女三人が裸の男性を空中に持上げ、一種のトランス状態をあわしているらしい。地上には無知で愚鈍の象徴であるロバと一緒に描かれている二人の男が浮上から逃れようとしている。ひとりは布をかぶり周りが見えていない、まるで記憶を失って記憶と救いを求めてさまようサイモンを暗示しているかのようだ。

結構脚本が練られていて、最後までしっかり楽しめる。サイモンはなぜそんな行動に出たのか。当のサイモンが記憶を失っているので、観客と一緒の状態でみんなで記憶を取り戻そうとしていく構図がいい。その鍵となる催眠療法が思いのほか効力を発揮し、徐々に謎が解けていく。そして最後には全てが明かされる。

それにしても思う。サイモン、催眠にかかり過ぎ(笑)


<作品概要>
トランス」 TRANCE
(2013年 アメリカ=イギリス 101分)
監督:ダニー・ボイル
出演:ジェームズ・マカボイ、ロザリオ・ドーソン、ヴァンサン・カッセル、ダニー・スパーニ、マット・クロス
配給:20世紀フォックス



2013年10月31日木曜日

サブマリン  SUBMARINE


古いのに新しい!新世代感覚の映画。

とにかく絵になるクラシックな英国風景がハマる。世界観ができあがっていて、ウェス・アンダーソンの英国版という感じだろうか。(ウェス・アンダーソンの方が世界観はできあがってるけど。)

監督はこれが初となるリチャード・アヨエイド(本当の発音はアイオーアディ。スペルが、AYOADE)。アークティック・モンキーズなどUKのロックバンドのPVを多く手がけてきた。そしてプロデューサーはなんとベン・スティラー。

舞台は80年代の英国ウェールズ。イケてない15歳男子のオリバーは妄想して日々を過ごすが、ある時クラスメイトのジョルダナに恋をする。初恋やら両親の離婚危機やらオリバーの青春がハイセンスな映像とともに描かれる。


2011年の第24回東京国際映画祭で上映され、国内では恐らく未公開。レンタルでは“TSUTAYAだけ”のコーナー(?)でようやくリリース。こんなに良いのにDVDのみの展開なんてもったいない! 携帯もメールもない時代、授業中にメモ書きが回覧されてきてオリバーに回ってきたときに先生に見つかりみんなの前で読み上げさせれる。なんとも懐かしい展開。というか日本と変わらない(笑) そんな何でもない高校生の日常をハイセンスな映像で魅せる。早いカット割りや8mmフィルムの映像などを駆使してテンポよく展開していて、良い意味でイマドキ。
※ベン・スティラーもカメオ出演してる


そして、音楽がいい! アークティック・モンキーズのフロントマン、アレックス・ターナーの楽曲が全編流れ、アレックス本人もこのサントラでソロデビューを果たしている。
本編でも、これまた冴えない主人公オリバーのお父さんが若い頃に聞いていたというカセットテープをオリバーにくれるという感じでも流れ、いいところで使われる。というか、PV出身の監督だけに音楽ありきなのか。

Alex Turner
リチャード・アヨエイド(アイオーアディ)監督は、新作が第26回東京国際映画祭で公開。「ザ・ダブル/分身」。ジェシー・アイゼンバーグ主演で、文豪ドストエフスキーの「二重人格」をモチーフに近未来設定で描くラブストーリー。


アークティック・モンキーズの他にも、ヴァンパイア・ウィークエンド、カサビアン、ヤー・ヤー・ヤーズなどのPVも手がけている。
※参照

そして彼はもともとコメディアンとしても活躍している。
かれのコメディ番組もおもしろい!(字幕なしだけど楽しめる)


とにかく要チェックな監督。これからの作品がとても楽しみ!


<作品概要>
サブマリン」 SUBMARINE
(2010年 イギリス 96分)
監督/脚本:リチャード・アヨエイド(アイオーアディ)Richard AYOADE
原作:ジョン・ダンソーン
製作:ベン・スティラー
出演:クレイグ・ロバーツ、ヤスミン・ペイジ、サリー・ホーキンス、パディ・コンシダイン、ノア・テイラー
配給:

2013年10月30日水曜日

[CM] ミシェル・ゴンドリー Gillette Training Tracks


ミシェル・ゴンドリー6年ぶりのCM!


「ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜」が公開された映画監督ミシェル・ゴンドリーの久しぶりとなるCM作品。ひげ剃りメーカーのジレットのCM。ジムでアスリートたちが奏でる音が重なり合い、ひとつのリズムになっていく。「さすが!」とうなりたくなる!


Gillette Training Tracks



映像とリズムを合わせる作品で言うと、ケミカルブラザーズでのPVも秀逸。


The Chemical Brothers - Star Guitar




もう、「天才」としかいいようがない。現代を代表する映像作家。
こんな人に仕事を依頼できるのであれば是非してみたい。
そして彼の作品がまだ見れるということはとても幸せなこと。いろいろな映像作品を発表してもらいたい。


<作品概要>
「Gillette Training Tracks」
(2013年 フランス 2分)
監督:ミシェル・ゴンドリー
提供:ジレット(Gillette)


2013年10月29日火曜日

ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜  Le' cumu les jours


ミシェル・ゴンドリーによるボリス・ヴィアンの世界。

まさにゴンドリーワールド!ミシェル・ゴンドリーの創りだす世界観や美術が好きな人は十分堪能できる作品。アナログな材料を用いて未来的なハイテク機器を描くあたりは、ビョークなどのPVでもいかんなく発揮されてきたものだ。

働かなくても暮らしていける裕福なロランは、ある日とても素敵な女性クロエに出会い、ひと目惚れしてしまう。やがてふたりは恋に落ち、結婚し幸せな日々を送る。ところがクロエは肺に睡蓮の花が咲くという不思議な病にかかってしまう。クロエの治療のために莫大な費用がかさみやがてコランはお金を稼ぐために働きに出るまでに。クロエへの愛のために身も心も疲れ果てていくのだが。

原作は、ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」。現代恋愛小説の古典とも言われるヴィアンの代表作だ。彼は作家のほか、翻訳家、音楽家、歌手、俳優、エンジニアなど様々な肩書きをもつマルチな才能の持ち主。そして39歳という短すぎる生涯を終えている。
彼の文章は言葉遊びが多く、世界の翻訳者泣かせと言われる。キュートで残酷、悲痛で幸せ、自由でファンタジーな幻想世界は、創造力と想像力の逞しい、そして素朴な素材でやわらかい表現のクリエイティブが得意なミシェル・ゴンドリーだから描けた世界だ。とても相性が良かったのだろう。

虫のように動くベル、画面のシェフと会話できるキッチン、曲の音色に合わせてカクテルが作られるカクテルピアノなど彼のアイデアがたっぷりと詰まっている。中でもロランとクロエがデートするクレーンで釣られ空中浮遊する乗り物はとてもロマンティックな乗り物だ。(実際乗ったら相当怖いはず)


「最強のふたり」で一躍有名になったオマール・シーもいい役どころで登場。モテ男の彼が踊る「ビグルモア」(架空のダンス)は長い足がより強調されすごい絵面だ。あれはどうやって撮影しているのだろうか?

ミシェル・ゴンドリーは、もともとPVでの仕事が評価されたひと。そのキッカケとなったのがビョークの「ヒューマンビヘイビアー」だ。


アナログな素材をつかって手間ひまかけて最新なことをやるあたりゴンドリーの真髄がみえる。相当なオタク(笑)
ちなみにこのハリネズミの映像の元ネタはロシアのアニメーション作家ユーリ・ノルシュテインの代表作「霧につつまれたハリネズミ」からきている。こちらも良い作品。


タイトルの「ムード・インディゴ」はわざわざ付けた英題なのだとか。とにかくこの作品、ミシェル・ゴンドリーのアイデアが満載だ。


<作品概要>
ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜」  L'ecume des jours
(2013年 フランス 95分)
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ロマン・デュリス、オドレイ・トトゥ、ガド・エルマレ、オマール・シー、アイッサ・メガ
配給:ファントム・フィルム

2013年10月23日水曜日

鉄拳 パラパラ漫画作品集第一集「振り子」


パラパラ漫画の領域を超えた感動作品!

お笑い芸人“鉄拳”が発表した作品が、YouTube再生回数300万回を突破、英国のバンドMUSEの公式PVにも決定と発表直後からネットを中心に話題となった。

ある夫婦の生涯を時計の振り子の背景と連動させて表現する秀逸な感動巨編。

▼『振り子』

初めて観たのはテレビ番組。何の番組だか忘れたけどパラパラ漫画対決を他の共演者とやっていた。そして鉄拳は別格だった。番組出演者も涙ぐむほど力強いインパクト。直後からネットで話題に。





この時期、鉄拳は芸人としての行き詰まりを感じ真剣に引退を考えていたとか。最後の大仕事とばかりにこの作品に打ち込んだ。シナリオから原画の書き下ろしに半年をようし、原画は数千枚に及んだらしい。そしてテレビ番組で作品と才能が評価され、それからイラストの仕事が舞い込んでくるようになった。

そして、NHK朝の連続ドラマ小説「あまちゃん」の劇中画に抜擢されることになる。


更には、劇中歌である「潮騒のメモリー」のCDジャケットにも!



何たるサクセスストーリー!渾身の作品が今につながる評価を生んだ。ここで慢心せずにその才能をいかんなく発揮してもらいたい。


<作品概要>
鉄拳 パラパラ漫画作品集第一集 『振り子』
(2012年 日本 4分29秒)
監督:鉄拳
出演:
配給:よしもと興業

2013年10月22日火曜日

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ  Exit through the gift shop


バンクシーが仕掛ける映画的トラップ!

アートをしてアートの世界に収まらず、社会的、政治的、国際的メッセージをアート表現で世界に発信しつづける謎のアーティスト“バンクシー”が映画を作った。アート業界のあり方を皮肉る仕掛けがどこまでがリアルなのか分からない。もう全部だまされちゃったとしても、映画としてこれは面白い!

アメリカに移住したフランス人ティエリーは、ビデオカメラ中毒。いつでもカメラをまわし友人たちは、もはやカメラが気にならない。ひょんなことからストリートアートにハマり、アーティストたちを撮り続ける。彼らのドキュメンタリー映画を作るという名目で。やがて唯一撮影できていないストリート界・伝説のアーティスト“バンクシー”の撮影ができる幸運に恵まれる。ストリートアートの世界の中枢にアート素人のティエリーはグイグイと食い込んでいく。そしてバンクシーから「撮影よりアートを作ってみては?」という助言をキッカケにティエリーは、一気に大勝負にでる。



ティエリーという“アーティストを撮り続ける男”へのインタビュー形式で今のアーティストたちの生の姿を映し出した点は、普段見えないところだけに貴重だ。(アーティストたちは夜影にまぎれて、壁や塀にスプレーで作品を描き上げる)
それに「落書き」としてすぐに消されてしまったりするので「記録」されることは、その作品の記憶を残す役割も果たす。
特にバンクシーの公衆電話の作品の創作過程や、バラまこうとして止めた偽札作品など世に出ていない“未遂作品”も観れて貴重だ。


ティエリーは、ミスター・ブレインウォッシュ(MBW)として大成功を収めていく。陽気で間抜けでテキトーな彼の成功ぶりはすごい。彼のアーティストとしての才能の無さと、宣伝によってBWMに群がるファンとの対比がイタい。そこがバンクシーの言わんとするところなのだろう。もともとつけようとしていた映画のタイトルは、「クソのような作品をバカに売りつける方法」。(苦笑)
アートとは何なのか。何をもって価値とするのか。アート業界においてそれが問われるど真ん中にいながら自らその問題提議を題材にするところ。やはりバンクシーただものではないです。



「アメトーク」で絵心ない芸人たちの絵をアート風にしたらそれなりに見えて、N.Yの個展に出してみたら売れた(確か)というのをやってたけどそれを思い出してしまった。アーティストの方々はどう思うのだろうか。

チュート徳井 ポップアート風

雨上がり蛍原 ピカソ風
アートに対する問題提議はいろいろとあるものの、この映画で一番すごいと思うのは、やはり何と言ってもバンクシーの作品だ。表現方法といい、メッセージ性といい素晴らしい!






<作品概要>
イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」 EXIT THROUGH THE GIFT SHOP
(2010年 アメリカ=イギリス 90分)
監督:バンクシー
出演:ティエリー・グエッタ、スペース・インベーダー、シェパード・フェアリー、バンクシー
配給:パルコ、アップリンク