2016年2月29日月曜日

ヘイトフル・エイト  THE HATEFUL EIGHT

くせ者ぞろいの密室劇!タランティーノ節全開!

設定を聞いただけで、くせ者たちによる大殺戮がもう予想できる(笑)
タランティーノだからもう撃ちまくり、血しぶき上がりまくりの展開になることは必至。

ある吹雪の日、雪原にぽつんとたたずむ「ミニーの紳士洋品店」に偶然集まった8人。
賞金稼ぎにお尋ね者、保安官に死刑執行人。
くせ者ぞろいで全員に秘密がある。そして緊張が高まる中、最初の殺人が起こる。

もうタランティーノ節全開!
特にサミュエル・L・ジャクソンのくせ者ぶりは際立ちまくり。
一見バラバラに集まった男たちの過去や秘密が徐々に明らかになり繋がりだしていく。
長さも気にならず緊張感をもったまま楽しめる。


今回の撮影は、「ウルトラ・パナビジョン70」という、1966年の「カーツーム」以来使用されていない70mmフィルムを引っ張り出して撮った密室劇。広大な大自然を70mmフィルムで撮るかと思いきや本作はほぼ室内。なのに70mmフィルム(笑)
このあたりのこだわりもタランティーノらしい。


美術は、種田陽平で「キル・ビル」以来。
この細部までこだわりぬいて作り込まれたセットは、種田陽平によると「ミニーの店には何でもある。ドラッグストアであり、バーであり、レストランでもある。ただ紳士用品だけないんだ(笑)」。
ほとんどがこの室内での出来事になるため、とにかく70mmフィルムに耐えうるクオリティが求められた。


音楽は、巨匠エンニオ・モリコーネ。
過去5作で楽曲使用していて、マカロニウェスタン好きのタランティーノらしいチョイス。
キャストも個性的な面々。
いつものタランティーノ組ではないキャストたちもかなりいい味を出している。ジェニファー・ジェイソン・リーは本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされるほど女盗賊団を怪演。素顔がよく分からないくらいボコボコにされながらの扱いがすごい(笑)
他にもデミアン・ビジル、チャニング・テイタム、ウォルトン・ゴギンズらもニューフェイスながらそれぞれくせ者振りを発揮。

元々この映画のベースとなった脚本が漏れたことにタランティーノが激怒して製作を中止。その後いろいろあって映画化までこぎつけたとか。このキャストをそろえて一夜限りの公開脚本読み合わせをした評判がかなり良かったのがキッカケだとか。気分屋のタランティーノらしいエピソード。
危うくお蔵入りになりそうだった本作。もしなっていたらもったいない。


<作品概要>
ヘイトフル・エイト」  THE HATEFUL EIGHT
(2015 アメリカ 168分)
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジャニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、ジェームズ・バークス、チャニング・テイタム
音楽:エンニオ・モリコーネ
衣装:コートニー・ホフマン
美術:種田陽平
配給:GAGA
字幕:松浦美奈

2016年2月25日木曜日

ドリーム ホーム 99%を操る男たち  99HOMES

サブプライムローン問題、現場で起こっていたこと

銃で自殺した男の浴室からこの映画は始まる。
事件現場にいる刑事ものの一場面かと思いきや、そこは住宅ローンが払えずに銀行に差し押さえになった住人へ催告する不動産屋の話。
リーマンショックの発端となったサブプライム問題の現場で何が起こっていたのかを描き出す社会派ドラマ。
主演は、「ソーシャル・ネットワーク」や「スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィールド。

日雇い大工でシングルファザーのナッシュは、ある日突然不動産ブローカーのカーターによって自宅を差し押さえられてしまう。いきなりやって来た警官や男たちによって次々と自宅から家財が運び出されていくがなす術もない。裁判所も相手にしてくれず路頭に迷った時、カーターから手伝いのバイト話が持ちかけられる。背に腹はかえられないものの、その仕事は自分と同じような債務者の自宅を差し押さえることだった。


映画「マネーショート」では、サブプライムローンの危険性を見抜き、バブルとなっていた不動産市場の真逆に賭け、リーマンショックで大儲けをした男たちを描いたけど、ここでは実際に現場で家を追われている人々が描かれる。

ナッシュがカーターに手を貸し差し押さえていく家の住人たちは、貧しい白人や言葉さえ通じない移民や、老人たち。
ナッシュ自身、無職でシングルファザーなのに立派な戸建の持ち家に住んでいる。そのこと自体がおかしいけどこの不動産バブルでは、このような返済能力のない貧しい人たちに銀行がローンを組みまくった。この不良債権(サブプライムローン)は、他の金融証券とごっちゃまぜにされて、優良債権として売り出される。だから誰もこの不良債権を気にせずいくとこまでいってしまった。


返済能力以上のローンを組んでしまう方もそうだけど、金儲けのために一般市民を食いものにしたしたウォール街の罪は重い。
いま1%の富裕層が、99%を支配していると言われているほど格差が広がっていて、さすがのアメリカでも問題視されてきている。

アメリカの大統領戦では、サンダース氏のような社会主義的な人が指示を集めている。今までのアメリカでは考えられなかった現象。
サンダース氏は、「公立大学の授業料無料化」、「国民皆保健医療の実現」、そして「ウォール街の金持ちへの課税」を公約として訴える。


そして、2011年に巻き起こったのが「ウォール街を占拠せよ」(Occupy Wall Street)という市民運動。彼らのスローガンは、「WE ARE 99%」。アメリカでは上位1%の富裕層の所得は増え続けている。そういった格差に対する抗議が、大学を出ても職がない若者を中心に訴えられた。

この原題にはそういったアメリカ社会の闇に対する警告の意味も込められている。


<作品概要>
ドリームホーム 99%を操る男たち」  99HOMES
(2014年 アメリカ 112分)
監督:ラミン・バーラミ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン、ノア・ロマックス、アルバート・ベイツ
配給:アルバトロス・フィルム

2016年2月22日月曜日

月夜鴉

掘り出し物、戦前のラブコメディ!

こういう面白い作品は名画座でないと出会えない。
チャキチャキな女師匠とできそこないので弟子。
このドS師匠とドMな弟子のコンビが掛け合いの相性も抜群で、展開も小気味良くて面白い。

家元・杵屋和十郎のひとり娘のお勝は、毎日弟子に三味線の稽古をつけるが、ある日一番できの悪い和吉から懇願され居残りで稽古をつけ始める。お勝の厳しい稽古にひたすらついてくる和吉とは、いつしかお互い思い慕う関係になっていく。しかしそれを知った父・和十郎は激怒し、お披露目の会で一番できの悪い和吉が上手く弾けなければ別れることを約束させる。バカの一つ覚えのごとく上達した和吉だが、果たして無事に弾くことができるのか。

お勝はつい手がでしまう。あまり頰を叩くから赤く腫れてしまって、他の弟子に目立ってしまうから、「じゃあお師匠さん、代わりにこれで僕をぶってください」と棒のようなものを差し出す和吉、あまりのドMぶりに笑いが漏れる(笑)

お勝は、一回りも若い和吉に旦那の真似をさせるために、前髪を落とさせ父の衣装を着せて街を練り歩き、お茶屋のお座敷にもあげる。
前髪を落として大人の着物をまとった和吉は、すっかり男前。
そこはさすが主演をはる高田浩吉。
戦前から松竹のスターとして活躍し、戦後は美空ひばりとの共演で再び人気となり、弟子の一人は昭和の映画スター鶴田浩二なんだとか。

高田浩吉
お勝役の飯塚敏子も松竹を代表する女優だそうで、とても上手で不思議な魅力のある女優。
監督は、井上金太郎で戦前は片岡千恵蔵の元におりそこから松竹に移ったのだとか。
それでも戦後すぐに52歳の若さで亡くなってしまった。

クライマックスのお披露目会。和吉の勝負の時。出番直前にあの子供がお勝の伝言を口するあの件はヒヤヒヤさせられる。笑いにしてもドキドキの演出にしてもとても巧くて、面白い。

やっぱりこういう予想外の面白さは、ノーマークの名画座で出会いたい。


<作品概要>
「月夜鴉」
(1939年 日本 100分)
監督:井上金太郎
原作:川口松太郎
脚本:秋篠珊次郎、依田義賢
出演:高田浩吉、飯塚敏子、藤野秀夫、舟波邦之佑、伏見直江
配給:松竹京都

2016年2月16日火曜日

キャロル  CAROL

50年代の質感が素晴らしい。本当に美しい映画

古いフィルムの映り、衣装、ヘアスタイル、街並み、車、小物まで50年代のクラシックな質感へのこだわりがすごく伝わってくる。
そして字幕までがクラシックスタイル!
ケイト・ブランシェットは美しくてエレガント。
クラシックの名作のような完璧で美しい映画。

1952年、ニューヨーク。デパートで働くテレーズは、娘のクリスマスプレゼントを買いに来たミステリアスな女性キャロルにひと目で惹かれてしまう。
店に忘れた手袋を届けたことをキッカケに、二人は逢瀬をかさねるようになっていく。

映画の冒頭で、テレーズがキャロルを一目見て目が釘付けになってしまうシーンが印象的。

原作はパトリシア・ハイスミス。
アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」やヒッチコックの「見知らぬ乗客」、ヴェンダースの「アメリカの友人」など映画化でも名作が多い。
本作「キャロル」は50年代当初、別名義で発表し後年の84年に自身の名義で出版したタイトル。同性愛への偏見が強かった当時を思わせるエピソード。


映画評論家の淀川さんは、「太陽がいっぱい」公開当時からこの登場人物二人の関係性に同性愛的な意味合いを見出していたとか。
でもその時にそれを理解できる人はまだいなかったそう。
パトリシア・ハイスミスはカタツムリの観察を趣味にしていることでも有名だったそうだけど、このカタツムリは雌雄同体といってオスでもありメスでもある。
カタツムリは恋矢という槍を出して交尾の際にお互いを刺す行為をする。
http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research_ja/33241/ (参考)
お互い弱って死んでしまうのだけれど、愛する相手を殺して自分のものにしたいというゲイの願望を「太陽がいっぱい」から淀川さんは見抜いたのだとか。


監督は、トッド・ヘインズ。
「ベルベット・ゴールドマイン」、「エデンより彼方に」、「アイム・ノット・ゼア」など撮る作品全てが高評価を受けるも寡作な監督。
ゲイであることをカミングアウトしていて、彼だからこそパトリシア・ハイスミスの原作を丁寧に、そして素晴らしい映画に昇華できた。
デヴィット・リーンの「逢びき」に本作の影響を受けているそう。


それにしても50年代の再現度がかなり高い。
テレーズがピアノを弾くシューベルトや、プレゼントしたビリー・ホリデイのレコード。
キャロルがテレーズに贈ったCANONのカメラ。
そして、サンディ・パウエルが手がけるファッション。
オハイオ州シンシナティの戦前の建物やアパートメント。
当時の35mmフィルムに見せるためのスーパー16での撮影。
クラシックカーやタバコをやたら吸うところも50年代っぽい。

各種ポスターデザインも秀逸。





<作品概要>
キャロル」  CAROL
(2015年 アメリカ 118分)
監督:トッド・ヘインズ
原作:パトリシア・ハイスミス
衣装:サンディ・パウエル
美術:ジュディ・ベッカー
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラー、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー、ジョン・マガロ、コリー・マイケル・スミス、ケビン・クローリー
配給:ファントム・フィルム

2016年2月15日月曜日

クリムゾン・ピーク  CRIMSON PEAK

結局、ひとが一番おそろしい

ホラーが前面に出されているけど、映画としてはサスペンス仕立てなラブストーリー。
ギレルモ・デル・トロ監督の美意識が詰め込まれたゴシック様式の美術が見応え十分。「パンズ・ラビリンス」のような怪しげな美しさを表現するのがとても得意な監督。

20世紀初頭のニューヨーク。作家を目指す若くて美しいイーディスは常に死者の魂を身近に感じている。ある日、 実業家の父の元に投資の依頼で訪れたシャープ男爵が現れ、イーディスは惹かれてしまう。反対していた父が不審な死を遂げ、イーディスは妖艶なシャープの姉とともにロンドン郊外の屋敷で暮らすことになる。

シャープ男爵の屋敷が何と言ってもすごい!
あのボロさ加減、天井から雪が降っちゃうほどの穴があいちゃってる(笑)
そりゃさぞかし寒いでしょ。
いかにもな幽霊屋敷に落ちぶれた貴族として住んでいて、本当に人間なのかミステリアスで怪しげな存在としてこの姉弟が物語の中心になっていく。


ホラーであって、ホラーでない。
だからガッチリしたホラーを期待した人にとってはちょっと生ぬるい。
ミスリテリアスなラブストーリーと謳うには、グロいゴーストも出たりするのでホラー嫌いな女子には訴えかけずらい。
という何とも難しい位置付けになってしまったのが残念。
でもそのあたりを踏まえて観れると面白い。ゴシック・ロマンスというらしい。


本作のジェシカ・チャスティンが美しい。
最初気づかなかったくらい印象が違った。
こういうクラシックなスタイルが意外と似合う。
もしかして彼女の映画キャリアの中で一番美しいのではないか。
そして、怖い(笑)

ひとの怖さをジェシカ・チャスティンが教えてくれる。


<作品概要>
クリムゾン・ピーク」  CRIMSON PEAK
(2015 アメリカ 119分)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャスティン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、ジム・ビーバー
配給:東宝東和

2016年2月14日日曜日

オデッセイ  THE MARTIAN

極限状態で知恵と科学を駆使したサバイバル

宇宙空間という完全に限られた場所に取り残されるというかなり絶望的な環境で人はどう出るのか?
マット・デイモン演じるマークは、植物学者として、科学者としての知識と技術をフル活用して生き抜くことを全力で試みる。
とにかくポジティブに可能性にかける姿がいい。

火星での有人探査中、嵐の事故で行方不明になったマーク。気づくと仲間たちはマークが死亡したものとして火星を飛び立った後だった。次の探査機が来る数年後まで、何もない火星で生き抜くことを決意するマーク。限られた食料の中で果たして生き残ることができるのか。

この映画を演出する最大の効果は「音楽」。
しかも、70年代のディスコミュージック!
このアゲアゲのテンションが妙にいい。無機質で音もない火星という荒野とのギャップ。
マークのポジティブな行動を支え続ける最高のアイテムになっている。
音楽の効果ってすごいなって思ってしまう。


監督は、巨匠リドリー・スコット。「エイリアン」、「ブレードランナー」などのSFものは初期の名作。78歳にしてコンスタントにハイクオリティ作品を発表し続けていて、イーストウッドやウディ・アレンらハリウッドのおじいちゃんたちはとても元気。
リドリー・スコットは、映画界に入る前はCMディレクターとして活躍。
その中でも有名なのは、アップルのCM「1984」。


赤茶けた土が延々と広がる火星の荒野。
ロケ地どこ?って思ったけど、どうやらヨルダンにあるワディ・ラム砂漠だとか。
ワディ・ラムとは月の谷の意で、この場所はアラビアのロレンスがトルコ軍を撃破したことでも有名な場所らしい。意外と由緒ある場所。

宇宙空間でのアイテムで気になったのが、トイレの排泄物をキレイにジップしておくシステム。乾燥させていて肥料になるのであればもっと一般社会で応用できそうなのに。


それにてもあの謎すぎる中国企業は何だったのか(笑) ※中国国家航天局らしい
アメリカにもない高度な技術を持ち、好意だけでアメリカに技術協力をする。
「中国政府には反対されたけど、NASAで働く親戚の働きかけでアメリカに協力するという危ない橋を渡る」くらいの背景がないと。
あまりにもあっさり協力しすぎ。

原作からどの程度変わっているのか分からないが、小説「火星の人」はアンディ・ウィアーがブログで発表し、その後キンドル版がベストセラーとなったもの。
アンディ自身は重度のSFオタクだそうで、趣味は軌道力学の計算というとても変わり者。

デヴィット・ボウイの「スターマン」もまるっと使われていて良かった。


<作品概要>
オデッセイ」  THE MARTIAN
(2015年 アメリカ 142分)
監督:リドリー・スコット
原作:アンディ・ウィアー「火星の人」
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャスティン、クリステン・ウィグ、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャ、ショーン・ビーン、ケイト・マーラ、セバスチャン・スタン、アクセル・ヘニー、キウェテル・イジョホー
配給:20世紀フォックス映画
字幕:風間綾平

2016年2月10日水曜日

パディントン  PADDINGTON

ホームアローンのような面白さ

青いダッフルコートに赤い帽子をかぶり、寅さんのような革のトランクを持ち、マーマレードが大好きなクマ、パディントン。
元々は全世界で3500万部も売り上げる児童文学。本国イギリスでは、ピーターラビット、クマのプーさんと並ぶ「英国三大キャラクター」として抜群の知名度と人気をほこる愛されキャラクター。
そのパディントンの初の実写化映画。

遠くペルーのジャングルから、はるばるロンドンにやってきたクマは、駅で偶然出会ったブラウンさん一家にパディントンと名付けられ居候をすることになる。

日本では知名度があまりないパディントン。でも実は英国三大キャラクター。他の二つは誰でも知っている超有名キャラクターなのにパディントンだけ知らないのは、日本ではしばらくライセンスが切れていて、パディントンを使った商品や企業の広告使用がしばらくなかったらしい。


ペルーのジャングルに住んでいただけに、都会や人間の家には全く慣れていないパディントン。案の定やることなすことが騒動になっていく。
しかも、ニコール・キッドマン演じるミリセントに執拗に追い回される。

それにしてもニコールの体当たりギャグには脱帽!
元旦那のトム・クルーズばりのスパイアクション(笑)
アラフィフとは思えない美貌で、笑いも誘う。

実写ということでどうなることかと思ったけど、パディントンもカワイイし、ある一家の留守中に敵に襲われるドタバタコメディな展開もホームアローンっぽくて面白かった。


<作品概要>
パディントン」  PADDINGTON
(2015 イギリス 95分)
監督:ポール・キング
原作:マイケル・ボンド
出演:ヒュー・ボネビル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント、ピーター・キャパルディ、ニコール・キッドマン、ベン・ウィショー
配給:キノフィルムズ


2016年2月9日火曜日

ヤクザと憲法

ヤクザを密着して見えてきたもの

「これな、わしら人権ないんとちゃう?」
という何とも面白いコピーに惹かれて観たものの、想像以上に面白かった。

"ヤクザと人権"という一見かけ離れたテーマを描くドキュメンタリーだが、そこから浮かび上がってくるのは現代の日本社会が抱える闇だったりする。

暴力団対策法によって逆境に立たされているヤクザ。そんな中で彼らヤクザはどのような日常をおくっているのか。大阪の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」に密着したドキュメンタリー。

ヤクザの事務所に密着するだけで面白そう。
だけど拳銃も持っていないし、抗争もない。意外と平和な日々を過ごしている組員たち。あまりに穏和な日々にキャンプ道具の入れ物を指して「それはもしかしてマシンガンでは?」と投げかけるスタッフ。何かしらヤクザらしいネタを見つけようと必死になっている感じがうかがえる。
その中で、「拳銃とか持ってないんですか?」という質問に、「え!? も、持って入る訳ないじゃないですか、、、」という素直すぎる組員のリアクションは笑える。


ヤクザということで、保険に入れない。子どもが幼稚園から追い出される。などなど組員たちの悩みが組長に寄せられる。
暴対法によってヤクザにとって過ごしづらい環境になってきている。
ヤクザなんだからしょうがないじゃん、と思いつつも映画の中で提示される日本国憲法第14条。

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。」

そこから暗示されるのは、映画はヤクザを対象にはしているけれど、マイノリティだからということで社会から排除しようする、今の日本社会の闇の部分が強烈に浮かび上がってくる。


そこはさすが東海テレビ。
ただのドキュメンタリーではない。
組員がヤクザになった理由、山口組の顧問弁護士の行く末、ヤクザっぽくない見習い。
ヤクザの事務所を通して、現代の日本の問題点が見えて来る良質なドキュメンタリー。


<作品概要>
(2015年 日本 96分)
監督:ひじ方宏史
出演:
配給:東海テレビ 

2016年2月8日月曜日

サウルの息子  SAUL FIA

アウシュビッツを体感する怖さ

すごい映画を観てしまった。
アウシュビッツものではトップクラスの映画。
手持ちカメラで体感型のアウシュビッツ体験。
スピルバーグの「シンドラーのリスト」もアウシュビッツものとしてはかなりの名作だけれど、それとはまた違ったタイプの今時の映画。

アウシュビッツで強制労働をさせられているサウルはある日、息子とおぼしき少年の死を目の当たりにする。強制収容所の中ではあるが、ユダヤ教の教義にのっとって何とか少年の遺体を埋葬しようと動き回るのだが。

かなり特異な映画。
スタンダードの画面サイズもそう。
ピンボケ映像からはじまり近づいてくる男に焦点が合うのだけれど、それが主人公であるサウル。そしてそこからはサウルの顔アップがひたすら続く。背景はピンボケで見えない。

でもその見えない部分にホロコーストの恐ろしい世界がぼやけて写っていて、想像力が掻き立てられて余計に怖い。


サウルの背景に見えるピンボケの肉塊。それはアウシュビッツ=ビルケナウ収容所のガス室で殺されたユダヤ人の遺体。
シャワー室として入れられたガス室から聞こえる断末魔の声。
ゾンダーコマンドとして、同胞であるユダヤ人の虐殺の実行部隊をさせられていたサウルたちの壮絶な体験を追体験させられる演出。
手持ちカメラの臨場感は恐怖を煽り立てる。

ナチスはユダヤ人の虐殺を自らの手を汚さずに、同胞であるユダヤ人にゾンダーコマンドとして実行させていたとう衝撃の事実がこの映画のベースになっている。
ゾンダーコマンドたちは、散々同胞の抹殺に従事させられた後に殺されてしまう。
その中で一部のゾンダーコマンドはメモに自らの体験を綴り密かにビンに入れて土に埋めた。わずかな生き残りの証言や掘り返されたメモを基に作られているだけにリアルでとても衝撃的でショッキングな内容になっている。


画角はスタンダードサイズ。今時珍しいこのサイズを若手の監督が使うということはかなり狙いがあってのこと。
ピンボケもそうだけど、ゾンダーコマンドとしてやりたくない仕事をさせられていて、見たくないことを見せられていたサウルの視界を表現している。

サウルは基本無表情なのだけれど、辛い現実に心を閉じて感情を殺していた人間であればあの表情であることの方がリアル。
ホロコーストを知られていなかったゾンダーコマンドの視点で追体験させられるという、今までになかった衝撃の映画。

監督のメネシュ・ラースロー自身もハンガリー系ユダヤ人。
タル・ベーラのもとで映画を学び、本作が長編デビュー作となる。
アカデミー賞外国語賞にノミネートさせるのも大納得の衝撃作。


<作品概要>
サウルの息子」  SAUL FIA
(2015 ハンガリー 107分)
監督・脚本:メネシュ・ラースロー
出演:ルーリグ・ゲーザ、モルナール・レゲンデ
配給:ファインフィルムズ

2016年2月7日日曜日

エージェント・ウルトラ  AMERICAN ULTRA

若手有望株によるお祭りスパイ&プロポーズムービー

スパイものではあるけれど、プロポーズを巡ってのアクションラブコメディ。
「キックアス」を思わせるちょっとぶっ飛んだ展開が見どころ。

ダメ男のマイクは恋人フィービーへのプロポーズを計画するもいつも上手くいかない。そんなある日、バイト先のコンビニで謎の殺し屋に襲われるが自分でもよく分からないまま体が反応して一瞬で撃退。
マイクは実はCIAの生み出された最強のエージェントだった。

記憶を消された最強エージェントって、どこかで聞いた事ある設定ですが、とにかく2015年からスパイもの映画はとにかく多い。
「ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション」、「キングスマン」、「コードネームU.N.C.L.E」、「007スペクター」、「ブリッジ・オブ・スパイ」などなど。
その流れで「エージェント・ウルトラ」。「ボーン」シリーズ最新作も公開予定。
ん〜、多い。

本作の最強エージェントは、武器を持たない。相手の武器を奪うか、現場にある道具を凶器にかえ相手を倒す。漫画「マスター・キートン」にも凶器を残さない殺し屋が出てきたけど、マイクは大分ド派手に色んなものを破壊する。


主演は、ジェシー・アイゼンバーグにクリステン・スチュアートという売れっ子の若手俳優。この二人は、ウディ・アレン監督の2016年の次回作でも共演が決まっているとか。
アクションをこなすイメージのないジェシー・アイゼンバーグだけど、ド派手に相手を倒す割にアクションは小振りで、無駄のない動き。


脚本は、「クロニクル」が全米で大ヒットしたマックス・ランディス。
2年連続でフォーブス誌の選ぶ「30歳以下の影響力がある30人」に選出されている売れっ子若手脚本家。
本作のアイデアは実在したCIAのプロジェクト「MKウルトラ」からきている。
アクションでは「ボーン」シリーズに影響を受けているのだとか。

そして、監督は「プロジェクトX」でサイコーにおバカな高校生のホームパーティを描いたニマ・ヌリザデ。「プロジェクトX」は劇場未公開だけどくだらなくてかなり面白い。


ロンドン出身でミュージックビデオ、CMなどを手掛け評価され、「プロジェクト X」で長編デビューを果たした。
広告業界に進出するキッカケになったのがアディダスのCM「House Party」。



<作品概要>
エージェント・ウルトラ」  AMERICAN ULTRA
(2015年 アメリカ 96分)
監督:ニマ・ヌリザデ
脚本:マックス・ランディス
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュアート、トファー・グレイス、コニー・ブリットン、ウォルトン・ゴギンズ、ジョン・レグイザモ、ビル・プルマン、ダグラス・トニー・ヘイル
配給:KADOKAWA

2016年2月3日水曜日

知らない、ふたり

今泉流の恋愛スクランブル

彼女が好きな彼は別の彼女が好き。
恋愛ってなかなか上手くいかない。
そんな男女のすれ違いをユーモアを交えて軽やかに描くことにかけては天下一品の今泉力哉監督。
本作では韓流アイドルを交えた群像劇に仕上がっている。

靴屋で働くレオンと小風。レオンに想いを寄せる小風と、偶然出会ったソナに惹かれるレオン。そのソナの壊れた靴を直しに店にやってきたサンスが小風にひと目惚れしてしまう。彼らを取り巻く男女7人の恋物語が動きだす。

今泉監督の新作というだけの前知識で劇場に行ってみたものの、ポスターをやたら写メしていたり、普段は劇場でお見かけしないタイプの方々がお客さんで並んでいたりする。
何だか嫌な予感がして、よくよく見るとポスターには韓流アイドルらしき人物とそれらしいキャスト名。。
ああ、これは今泉監督ではあるけれど、請負で作ったアイドル映画なのでは、、、
このアイドルのファンたちだけが黄色い声援をあげて楽しむ映画的なプロモーションビデオなのだと半ば覚悟して鑑賞。


ところがところが、そんな心配は全くの無用。
韓流アイドルを使った企画ではあるものの、そこはしっかりと今泉監督の作品に仕上がっている。
日本で働く韓国人、留学生との恋愛群像劇は言葉の壁を巧みに利用した展開で楽しめる。
それに韓流アイドルの彼らも、観ているととてもまじめでいい子たち^^
韓流スターやアイドルにハマるマダムたちの気持ちが分からないでもない感じになってくるのが不思議(笑)。

いろんな登場人物たちが徐々に繋がっていく展開とか、伏線の張り方とかを見てもよく脚本が練られているなーと思う。
この手の作品をやらせたら本当に巧い今泉監督。
マンガ原作モノとかでそろそろメジャー作品も撮っていくのかな。


<作品概要>
知らない、ふたり
(2016年 日本 106分)
監督・脚本:今泉力哉
出演:レン、青柳文子、韓英恵、ミンヒョン、JR、芹沢輿人、木南晴夏
主題歌:NU'EST
配給:AMDEN、日活

2016年2月2日火曜日

ヴィヴィアン・マイヤーを探して  Finding VIVIAN MAIER

ミステリアスな写真家にせまる

今の時代ならではの発掘のされ方。
どこで学んだのかは分からないけれど、プロの写真家も称賛する写真を15万点も残した謎の写真家、ヴィヴィアン・マイヤー。

資料集めのためにオークションで競り落とされた写真のネガをブログに掲載したことから反響を呼び、ニューヨークをはじめヨーロッパなど世界中で個展を開催することになった謎の写真家ヴィヴィアン・マイヤー。彼女の写真を収集し、本作の監督でもあるジョン・マルーフがヴィヴィアン・マイヤーとは何者なのかを探るドキュメンタリー。

ロバート・キャパ、デニス・ストック、ビル・カニンガムなど写真家を扱った映画はある。
だけど、これだけのレベルに達しながらたった1点も発表しなかったとは、何ともミステリアスな写真家。
それにSNSを通じて発掘されるなんて、すごく今っぽい。


彼女は結局作品を発表することはなかった。
天井まで積み上がっていたという新聞紙の山。
なぜ、そんなに新聞をためこんでいたのか。
新聞の報道カメラマンになりたかったのか、または新聞の写真から独自にカメラワーク、写真を学んだのか。


彼女の対象となったのは、人。
子供から老人まで生活の中にある人を撮り、その人の人生や背景、世情まで切り取ってみせる。
家政婦として働いてきた彼女には多くの証言が残されている。


そこから浮かび上がる彼女の人物像はとても変わり者。
ダークな面をもち、一般社会ではなじみにくいタイプ。

親戚とは疎遠な一家で育ち、その家族もバラバラな生い立ち。
彼女が人を撮り、家政婦として一般家庭の家族の一員として働いたのは、家族に対する憧れが人一倍強かったからなのかもしれない。


<作品概要>
「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」  Finding VIVIAN MAIER
(2013 アメリカ 83分)
監督:ジョン・マルーフ
出演:ヴィヴィアン・マイヤー、ティム・ロス
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム