2015年11月30日月曜日

野火  FIRES ON THE PLAIN

壮絶すぎる、地獄絵図。

戦争の悲惨さ、悲劇、地獄をこれでもかというくらい力強く、強烈に、ストレートにぶつられる。しばらく打ちのめされるくらいに重い。

市川崑監督が映画化した同名タイトルの作品とは違い、スプラッター映画とも呼べる壮絶な戦闘描写で痛々しい、そして悲惨すぎる戦争の実態をこれでもかというくらいに描く。

第二次大戦末期のフィリピン・レイテ島。田村二等兵は結核を煩うが野戦病院にも部隊にも戻れなくなり、ジャングルをさまよいはじめる。そこで田村が見たものとは。

極限の状態で描かれる人間模様。
人肉と戦争描写にフォーカス。そこが現代流の描きかた。
このトラウマ級のインパクトは決して商業的な狙いではなく、戦争への恐怖を伝える手段。


安保法案が可決された直後の公開というのは何という因果なのか。
塚本晋也監督は自主制作でこの映画を公開。商業的でない作品の大変なところ。
それでも塚本監督のスタンスは偉い。

キャストもいい。
新鋭・森優作の錯乱、リリー・フランキーの恐怖、中村達也の狂気。
夏の劇場を満席にする、戦争の悲惨さをたたきつける良作。


<作品概要>
「野火」 FIRES ON THE PLAIN
(2015 日本 )
監督:塚本晋也
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子、山本浩司
原作:大岡昇平
配給:怪獣シアター

2015年11月28日土曜日

バクマン。


大根流、マンガカルチャーの描き方

大根監督の映画は面白い。
「モテキ」もそうだけど、イマドキなツボを完全におさえている気がする。
中二病的なオタク要素だったりするのに、ちょっとオシャレに、青春に、カッコよくなってしまう。

それは演出だったり、音楽だったり、そういったこだわりが絶妙に効いていて映画をワンランク上にしてしまっている。その才能はさすが。

高校の同級生であるサイコーとシュージン。高い画力と物語作りの才能をそれぞれ持ったコンビで、マンガ家を目指すことになる。目指すはマンガ雑誌最高峰の少年ジャンプ。果たして彼らの想いは届くのか。


原作は同名の人気マンガで「DEATH NOTE」の大場つぐみと小畑健のコンビによる少年ジャンプ連載作品。
マンガ業界の裏側を結構赤裸々にリアルに描くことで業界内のファンも多いこのタイトルを大根監督は、高校生ながら一流のマンガ家を目指す少年たちの青春群像として見事に描いている。

特に大根監督は、男子憧れの女子を描くのが天才的!
「モテキ」の長澤まさみの手裏剣シュッシュッにやられた男子は多いはず。
本作での小松奈菜は、マンガから飛び出てきたのかと思うほどマンガ的なヒロイン。(観てもらえれば分かるはず 笑)


キャストでは、ライバル役の染谷将太が圧巻。
映画「デスノート」のマツケンばりの怪演でそれなりにキャラに近い配役だった他を圧倒するパフォーマンス。

そして、音楽。
サカナクションがカッコイイ。
大根監督のセンスなのか、音楽が映画を彩る重要な要素になっている。

マンガのコマ割りを背景にしてペンを武器に闘うシーンなんかはジャンプのバトル系のマンガっぽい凝った演出。
それに最後に驚かされるのが、エンドロール。
マンガの本棚のようなのに、その本棚に陳列されている一冊一冊のマンガの背表紙のタイトルが、スタッフクレジットに!!
こだわり過ぎとも言える演出が最後まで楽しめる一作。


<作品概要>
(2015年 日本 120分)
監督:大根仁
原作:大場つぐみ、小畑健
出演:佐藤健、神木隆之介、小松奈菜、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキー、染谷将太
配給:東宝

2015年11月27日金曜日

恋人たち


橋口監督、苦悩の期間から導き出したひとつの答え

橋口監督の作品は生々しくてリアルで苦しくて痛い。社会の片隅でもがき苦しむ登場人物たちの向こう側に今の日本社会がかかえる闇の部分が重くのしかかるように見えてくる。

「ぐるりのこと」は時代感ともマッチして完璧すぎただけにそこでやりきってしまった監督は、その後震災などを経て自分がどうものづくりをしていったらいいのかを見失ってしまったそう。

その苦悩を経てたどり着いた答えがこの本作に込められていて、まさに"渾身の"という言葉がハマりすぎる力作となっている。

妻を通り魔に殺された男、自分に関心のない夫とそりの合わない姑と暮らす主婦、親友を想うゲイのエリート弁護士。
それぞれが苦悩をかかえながら社会の片隅で慟哭し、助けを求め、新しい世界を探し求める。


どのキャラクターも苦しんで助けを必要としていて、だけど現実は残酷で厳しい。
とても生々しく痛々しい。
だけどそこにちょっとしたユーモアが加わるのが救いでもありいいアクセントになっている。それがあるから作品に魅力がましていてやさしさを感じる。
そういう意味では、ケン・ローチに通ずるものがあるかもしれない。

特に安藤玉恵はサイコー。
自分をパッケージにデザインした「美女水」なる水道水を高額で売りつける(笑)
リリー・フランキー扮する超テキトーな先輩とか、脇を固める役者たちがかなりいいアクセントとして配置されていたりする。


全てを失った主人公たち。
震災や原発を経て、それでも人は生きていくしかない。
前を向いて歩いていくしかない。

あの淀川長治から「ヴィスコンティや溝口健二と一緒で、あなたは人間のハラワタを掴んで描く人だ」と言わしめた橋口監督が7年間もの苦悩の末に出した答え。

「恋人たち」というタイトルだけでラブストーリーを期待して観に来たひとは度肝を抜かれるにちがいない。(笑)


<作品概要>
恋人たち
(2015年 日本 140分)
監督:橋口亮輔
出演:篠原篤、鳴島瞳子、池田良、光石研、安藤玉恵、木野花、黒田大輔、山中聡、内田 慈、山中崇、リリー・フランキー
配給:松竹ブロードキャスティング、アークフィルムズ