2014年5月28日水曜日

ROOM237


キューブリックオタクによる、マニアックすぎる「シャイニング」解説

完璧主義者で完全主義者の天才監督スタンリー・キューブリックの名作ホラー「シャイニング」を各界のキューブリックオタクたちが、マニアックすぎるこだわりで検証するドキュメンタリー。

「シャイニング」とは
1980年に公開されたスティーブン・キング原作で、ジャック・ニコルソン主演のホラー映画。
惨殺事件が起こったいわく付きのホテルで豪雪のためにホテル内に閉じ込められたある家族に忍び寄る狂気を描く。
様々な人に影響を与えた伝説的作品。

本作のタイトルにもなった部屋番号237は、原作では「217」。なぜ数字を変えたのか? そこに隠された意味とは?
ダニーが運転する三輪車のルートを図面におこすとありえない間取りになる。
アポロ計画、ホロコースト、先住民の亡霊、などなど気になるキーワードが満載。


完璧主義者のキューブリックだったからこそ、つじつまが合わないことに「そんな訳はない」「何か意味があるはず」という憶測がつきない。

切り口はとても面白いのだけれど、
はっきり言って、こだわり過ぎて分からない(笑)
「この場面にはこういった意味が込められている!」と言われても、「はぁ、、」としかいいようがない。そのくらいマニアックでつっこみどころが満載。だけど映画を好きすぎるその姿勢は憎めない。



今までなかった、かなり変わった切り口の映画。
キューブリック作品だから成立する内容ではあるものの、こんなことが許されるのなら、他にもたくさん出てきそうなもの。


<作品概要>
ROOM237
(2012年 アメリカ 103分)
監督:ロドニー・アッシャー
出演:
配給:ブロードメディア・スタジオ

2014年5月27日火曜日

シンプル・シモン  I rymden finns inga kanslor


アスペルガー症候群、シモンの目線で綴った不思議な世界

北欧スウェーデンから心あたたまる作品が登場。まるで絵本のような女子受けしそうなポップな作品。最近のスウェーデンからはこの手の作品がよくやってくる。今年も「なまいきチョルベンと水夫さん」が控える。その他にもアストリッド・リンドグレーン原作の「やかまし村」シリーズ、「ロッタちゃん」シリーズなど。
最近では、「エヴァとステファンとすてきな家族」などが続く。

アスペルガー症候群のシモンは、上手く行かないとロケットに見立てたドラム缶に閉じこもってしまう。そんな彼を唯一理解し、味方してくれるのは兄のサム。ところがシモンが原因でサムは彼女に振られてしまう。大好きな兄の新しい恋人を見つけるため、シモンは立ち上がるのだが。


シモンの目線で描いたところが面白い。
人の心理を読むのは苦手だけど、物理的な論理は得意な彼は、「ひとは磁石のように自分とは違う性格なひとを好きなる」という方程式を信じて、兄のサムと正反対な性格の女性を探そうと、アンケート調査に出たりする。
なぜそんな行動に出るのか、シモンの視点で描くことで理解できる。

ドラム缶のロケットに閉じこもるシモンに、無線で通信する宇宙飛行士の真似することでコンタクトをとるやり取りが、ほのぼのしていていい。
通信中は、二人とも英語でのやり取りになるが、自然と英語が出てくるあたりがスウェーデンの英語に強いところがうかがえる。
ちなみに英語でのやり取りでは、シモンはサイモンと呼ばれている。


主演のビル・スカルスガルド。何か聞いたことあると思ったら、やっぱりお父さんはスウェーデンの名優、ステラン・スカルスガルド。お兄さんも俳優の役者一家だ。

赤×青の配色が好きというシモンのファッションはとてもポップ。
それにすっきりとした壁紙や小物など北欧デザインのインテリアも楽しめる。


<作品概要>
シンプル・シモン」  I rymden finns inga kanslor
(2010年 スウェーデン 86分)
監督:アンドレアス・レーマン
出演:ビル・スカルスガルド、マッティン・パルストレ、セシリア・フォッシュ、ソフィー・ハミルトン
配給:フリップ・ポイカ

2014年5月26日月曜日

ブルージャスミン  Blue Jasmine


ケイト・ブランシェットのエレガントさ際立つ 彼女の代表作

とにかくケイト・ブランシェットがエレガント。ファッションが際立つ。シャネル、エルメス、グッチ、etc、、ハイブランドのオンパレードでそれを見事に着こなすケイト。
品と、品格の高さが醸し出される。
役では虚栄のセレブだけど、ケイトの品格は本物。彼女だから高められた役。


夫が金融詐欺で逮捕され自身も破産に追い込まれたジャスミンは、サンフランシスコに住む妹のジンジャーを頼って、居候に訪れる。今までのセレブ生活が忘れられず、ブランドものに身を包み、嘘と虚言で身を取り繕うジャスミン。そんな彼女の元に理想の男性が現れるのだが。


ケイト・ブランシェットは、アカデミー賞主演女優賞を受賞しただけある、みごとな好演。キャリアのある女優さんだけど、ここにきて代表作となった感じ。
シャネルのジャケットがこんなに似合う人がいるでしょうか。とにかくファッションが良かった。庶民的な妹役のサリー・ホーキンスがかなり引き立て役として効いてる。ウディの分かりやすい演出が光る。


今回の編集では、落ちぶれた現在とセレブ時代の過去とが交互に映し出される。ケイトの容姿はセレブ時代の服を着続けているので、外見は全く変わらない。だから現在の映像なのか、過去の映像なのか一見区別がつきにくいはずなのに、観ているとそんなことは全くなく、現在なのか過去なのかハッキリと分かる。そういうとこは、やっぱり監督の力量なのだろう。


「ミッドナイト・イン・パリ」、「ローマでアモーレ」など、最近はロマンティックコメディが続いていたけれど、本作ではコミカルに描くというよりは、落ちていく様を冷徹に追う感じ。コメディではないシリアスな話なんだけど、そこはウディ・アレン節。その眼差しはとても優しく、安心して観ていられる。
その安定感はさすが。名人芸は健在。

本作では、ファッションがかなり良かったけど、ウディ・アレン映画の楽しみと言えば、やっぱり音楽(ジャズ)。今回は名曲「ブルームーン」が作品を彩る。



ここ最近は、ヨーロッパの美しい都市など毎回違うロケーションで撮るウディ・アレン。今回の舞台に選んだのはアメリカ西海岸、サンフランシスコ。
海を見渡すドワイトの新居は、すごいロケーション。
ずっとニューヨークにこだわって撮り続けてきたウディ・アレンが地元を離れて舞台としてきた都市は全て観光したくなるような素敵な場所ばかり。その土地の魅力を引き出すのがすごく上手い。

コリン・ファースを主演に迎える次回作「Magic in the moonlight」の舞台は、南仏だとか。今から楽しみだ。


<作品概要>
ブルージャスミン」  Blue Jasmine
(2013年 アメリカ 98分)
監督:ウディ・アレン
出演:ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ピーター・サースガード、ルイス・C・K、ボビー・カナベイル、アンドリュー・ダイス・クレイ、マイケル・スタールバーグ、タミー・ブランチャード、マックス・カセラ、オールデン・エアエンライク
配給:ロングライド

2014年5月24日土曜日

未来の食卓  Nos Enfants Accuseront


オーガニックブームをフランスで巻き起こした、いのちを考える秀作

食にうるさいフランスだからなのか。食べるものにおいしさだけでなく、安心と安全も真剣に考えている。
学校の生徒や先生、親たちだけでなく、実際に野菜を作っている農家の人たちの意見も面白い。

南仏の緑豊かで小さなバルジャック村の村長ショーレさんは、学校給食と高齢者の宅配給食を全てオーガニックにするという前代未聞のチャレンジをする。村民の協力もあり、学校菜園で野菜作りを始める子どもたちを通してみんなの意識は徐々に変わっていく。

一見すごくのどかで自然にあふれたバルジャックの村だけど、土や水は汚染されている。化学薬品での農業によって土が痩せてしまったり、地下水まで汚染が進んでいたりする。


農家同士のディスカッションも印象的だった。
オーガニック農家と一般農家がそれぞれの主張をぶつけ合う。経済的な部分もあり、きれいごとばかりは言ってられない。だけど無農薬畑との境を見ると明らかな土壌の変化があって、誰が見ても農薬の土壌への影響が見て取れてしまうのはちょっと驚き。
自分たちが食べるものは本当に大丈夫なのかと心配になる。


そして、この映画が訴えるのは「未来をささえる、子どもたちが全て」ということ。
企業の利益追求など大人の身勝手で、未来ある子どもたちに影響を与えてはいけない。

冒頭のシーンで「知り合いにガンや糖尿病のひとは?」という問いに会場の大部分の人が手を挙げる。フランスではガンは死因の第1位で、その7割は食生活など環境からきていると言われている。自身もガンにおかされ(現在は完治)、ガンの原因や食や環境を真剣に考えるうちに多くの人にそこにある事実を伝えたいと思ったのが、監督が本作を作るキッカケだったとか。
監督のジャン=ポール・ジョーは、この後、遺伝子組み換え食品にせまる「世界が食べられなくなる日」など食べることに関するドキュメンタリーを撮り続けている。


<作品概要>
未来の食卓」  Nos Enfants Accuseront
(2008年 フランス 102分)
監督:ジャン=ポール・ジョー
製作:Nos Enfants Nous Aaccuseront
出演:エドゥアール・ショーレ、ペルコ・ルガッス
配給:アップリンク

2014年5月23日金曜日

[PV]headlights / エミネム


エミネムが母の日に新曲のPVを発表

それは、ずっと絶縁状態だった母親への償いのメッセージ。
5月11日の母の日にそれまで修復不能とまで言われた母親との関係に終止符を打つべく、新曲「headlights」のPVで母親デビー・マザーズに対する感謝と償いを映像にして発表した。

映像ディレクターは、映画監督のスパイク・リー。
母親目線で描かれる物語は、極貧だった幼少時代を振り返りながら今に至る。



<作品概要>
「headlights」
(2014年 アメリカ 4分)
監督:スパイク・リー
出演:エミネム

2014年5月20日火曜日

チョコレートドーナツ  any day now


マイノリティたちの愛にあふれるお話

ゲイのカップルがダウン症の少年を引き取って暮らす。とても幸せな家庭なのに、マイノリティたちにとって“普通”とは、とてつもなくハードルが高い。
偏見のある世間。
それに負けない勇気、そして何より“愛”。そんなメッセージがつまった作品。

ショーパブで働くパフォーマーのルディは、ある晩、ひとりで店に訪れたポールと出会う。二人はすぐに意気投合しパートナーとなる。同じ頃、ルディは麻薬で逮捕されて残された隣人の息子マルコと知り合う。ダウン症のマルコに同じマイノリティとして親しみを感じるルディだが、社会保護局によってマルコは施設に入れられてしまう。なんとかマルコを取り戻そうと、弁護士のポールとともにルディの挑戦がはじまる。


映画の舞台は、同性愛に対する差別と偏見がうずまく1970年代。
それだけで警官に銃口を向けられ、会社はクビになり、裁判でも負け、社会的信用を得られない。もう、散々な状況。
でも、その世間の中でゲイとして差別や偏見と戦うというのは、考えているよりもずっとずっと勇気と気力と体力がいるのだろう。
普通なら大変と分かっているからカミングアウトなどせずひっそりやり過ごすだろう。


愛情あふれるルディと正義にあふれるポールのコンビだからお互いを奮い立たせて戦うことができたのかもしれない。
負け続けても正義を信じてる。愛を信じてる。
そんな、彼らだから応援したくなるんだろう。

この時代の空気感を描いた作品は、最近だと「ダラス・バイヤーズクラブ」でも『エイズはゲイがなるもの』という偏見が渦巻いているし、「ミルク」もゲイに対する差別がよく描かれている。


音楽が良かった。
ルディは、ポールのはからいでデモテープを取り、シンガーとなる。
最後に、ルディが舞台で歌うのは、ボブ・ディランの「I shall be released」。
この歌詞に出てくるのが、“any day now”で、本作の原題だ。
いつの日か、悩みや辛さから解き放たれると強く歌い上げる。

チョコレートドーナツを食べたときにマルコが見せる至福の笑みが忘れられない。


<作品概要>
チョコレートドーナツ」  any day now
(2012年 アメリカ 97分)
監督:トラヴィス・ファイン
出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハン、アイザック・レイバ、フランシス・フィッシャー、グレッグ・ヘンリー
配給:ビターズ・エンド

2014年5月19日月曜日

世界の果ての通学路  on the way to school


シンプルで、本質的で、とても大事なことを教えてくれる

彼らはなぜ、命がけで道なき道を通学してくるのか?

ドキュメンタリーとしてフランスで大ヒットした本作。近年はフランスもネイチャー系などのドキュメンタリーが徐々に観られるようになってきたらしいけど、「学校論争」で揺れる社会状況がヒットに背景にあったとか。

この映画は、砂を掘る手のアップから始まる。
掘っていくと、すぐに水分のまじった砂になり、やがて水たまりができる。
それが水を汲もうとしていた少年の姿だと分かる。そして、そこからその少年がいかに貧しく、辺鄙な場所に住んでいるのかが分かる。


少年の名前はジャクソンくん。
学校に通うために夜明けには家を出る。象など危険な動物が生息するサバンナを駆け抜けていかなくてはいけない。高台にのぼって、動物のいない安全なルートを確認し「今日は、このルートで行こう」と決める。毎日が“命がけ”の通学だ。

本作では信じられないような、非常に困難な通学路にも関わらず、自ら望んで学校に通う4組の少年少女たちが登場する。

■ジャクソン(11歳/ケニア)
 片道15km/2時間

■カルロス(11歳/アルゼンチン)
 片道18km/1時間30分

■ザヒラ(12歳/モロッコ)
 片道22km/4時間

■サミュエル(13歳/インド)
 片道4km/1時間15分


なぜ、そこまでして学校に行きたいのか?



彼らには夢があった。
その夢をかなえるためには学校で勉強することが必要だと分かっている。
“学べることの幸せさ”
便利で安全な世界に慣れきってしまった我々からするとシンプルすぎるその答え。
だけどそこに本質があって、とても大事なことなんだ。

彼らを見ているととても勇気づけられ、そして応援したくなる。
それだけ強い信念が、あの困難な通学をものともさせないのだろう。


本作の候補には中国も入っていたけど公開したがらない当局によって候補からはずれることになったとか。
同じような環境を描いた作品だと「三姉妹〜雲南の子〜」が近いかも。

子どもの時に決めた夢に向かって真っすぐに進んでいく姿を映した作品では、「夢は牛のお医者さん」がやっぱりダントツにいい。



<作品概要>
世界の果ての通学路」  on the way to school
(2012年 フランス 77分)
監督:パスカル・プリッソン
出演:ジャクソン、カルロス、ザヒラ、サミュエル
配給:キノフィルムズ 

2014年5月18日日曜日

プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命  the place beyond the pines


ライアン・ゴズリング 孤高のアウトサイダーがホントによく似合う

「ブルーバレンタイン」に続き、デレク・シアンフランス監督とのタッグとなる本作。前作では夫婦、本作では父と子という家族の話がシアンフランス監督のテーマ。

バイクスタントの興行で生計を立てるルークは、偶然出会った元カノが自分の子どもを育てていることを知り、彼女と息子のためにと、やがて銀行強盗にも手を染めていくことに。ルークを追いつめた警官、そしてその息子たちにその因果は引継がれていく。

それにしても、ライアン・ゴズリングはこの手のアウトローがよく似合う! 運転の腕はピカイチだけど社会に馴染めず、やがて惚れた相手のために犯罪に手を染めていく。
「ドライヴ」もそうだっただけにこの印象が強い。
ちょっと前は「ラースと、その彼女」なんてゆる〜い役やってたのに。


「雷のように生きて、稲妻のように死ぬのか」

そんなカッコいいセリフも出てくる。暴走し始めるルークを象徴する言葉だ。
血の因果が親子二代にも及ぶストーリー展開も面白いけど、映像表現もカッコいい。
カーチェイスシーンのカメラなんかは躍動感がかなりあって迫力満点。


そして、良かったのが俳優陣。
セクシーなエヴァ・メンデスの老けっぷりや、レイ・リオッタの悪そうな存在感。そしてデイン・デハーンがいい。若かりし頃のレオナルド・ディカプリオのよう。
最初は、レオナルド・ディカプリオの再来と言われた「テトロ〜過去を殺した男〜」のアルデン・エーレンライクかと思ったけど違った。

その中でもやはり、ライアン・ゴズリングは光っていた。


<作品概要>
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」  the place beyond the pines
(2012年 アメリカ 142分)
監督:デレク・シアンフランス
出演:ライアン・ゴズリング、ブラッドリー・クーパー、エヴァ・メンデス、ベン・メンデルソーン、レイ・リオッタ、マハーシャラ・アリ、デイン・デハーン、エモリー・コーエン
配給:ファイン・フィルムズ

2014年5月10日土曜日

アクト・オブ・キリング  THE ACT OF KILLING


前代未聞!殺人者による、殺人の再現ドキュメント

大量虐殺が行われたインドネシアで、その実行者たちは権力の座にあり、当時の虐殺の様子を聞かれれば、喜んで再現してみせる。そんな彼らを追ったドキュメンタリー映画が登場。

どうしたらこんな題材になるのか、何故彼らは再現してみせてしまうのか。話だけ聞くとちょっと信じられないような前代未聞の作品だ。だけど実際観てみると、この衝撃の事実と、それだけではない現象が起こっていくあたりが、更にすごい。

1965年、インドネシア。100万人とも200万人とも言われる大虐殺に発展した、いわゆる「9・30事件」。
当時スカルノ政権のクーデター未遂事件に共産党が関与しているという疑惑から、共産党関係者に対する武力的弾圧が大虐殺に発展した。そしてスハルト政権へとなり、この大虐殺の実行者たちはその結果成立した政権下で権力と財力を手にして暮らしていた。


当初、その被害者たちへの取材という形で始まった企画が、「加害者たちはきっと自分たちの行ったことを自慢するに違いない」というある被害者女性のひと言により、取材対象を加害者側に切り替え、「自分たちの行ったことを映画にしてみませんか?」と巧みに当時の幹部たちを口説き落としていった。そしてみごとに彼らの信頼を得て、彼らの映画製作は進行していく。


オランダ人監督ジョシュア・オッペンハイマーは、その彼らの映画製作に至る過程をドキュメンタリーとして前代未聞の作品に仕上げてしまった。実際に彼らは作品中にも「ジョシュア」とカメラに呼びかけたりして、信頼されている感が伝わる。
それに対し、共同監督を務めたインドネシア人は、匿名として名前はクレジットされていない。命の危険に晒されながらもオッペンハイマー監督を支え続けた。
危険を顧みず本作に協力した関係者たちは、100万人以上が殺されながら、謎につつまれている事件の真実を明らかにし、現在の体制への変化させ、正義へ向かうために勇気を出して参加している。


それにしても、とにかく驚き。
本作のプロデューサーにも名を連ねる映画監督のヴェルナー・ヘルツォークは、
「私は少なくともこの10年間、これほどにパワフルで、超現実的で、恐ろしい映画を観たことがない。映画史上類を見ない作品である。」と絶賛している。
各国の映画祭で数十の賞を受賞し、「ペドロ・アルモドバルが選ぶ年間12作品 第一位」など年間ベストでも一位を取りまくっている。


殺人者が嬉々として自らの行為を自慢気に語る姿はとても信じられないが、殺人者が英雄となる場合もある。戦争だ。多く敵を殺すほど英雄となる。彼らにとっては英雄的行為であって自慢できることなのだ。
ただそれだけではない。アンワルが最後に見せる嗚咽はその裏側にある本質があぶり出された姿だ。
そこまでを捉えきったところが本作の奇跡的な、たぐいまれな作品たるところだろう。

パンフレットでは、ドキュメンタリー監督の想田和弘さんや、町山智浩さんがレビューを書いていて、戦時中の日本兵に触れたり、原一男監督の「ゆきゆきて神軍」(1987年)なども引用しての深いコメントがあり結構充実している。

イメージフォーラムでは満席であふれるほどの盛況ぶり。映画プロデューサーの川村元気さんの姿もあった。こういった作品もしっかりチェックしてるんだ。


<作品概要>
アクト・オブ・キリング」  THE ACT OF KILLING
(2013年 デンマーク=ノルウェー=イギリス 121分)
監督:ジョシュア・オッペンハイマー
製作総指揮:エロール・モリス、ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:アンワル・コンゴ、ヘルマン・コト、アディ・ズルカドリ、イブラヒム・シニク、
配給:トランスフォーマー

2014年5月5日月曜日

はなればなれに KURO


タイトルからしてゴダール!その意識ぶりは中途半端ではない

女の子ひとりに、男がふたり。そして女の子は見るからにフレンチファッション。そしてこのタイトル。海辺でヴァカンスのごとく共同生活をはじめるあたりフランス映画の要素も満載。

ポスターからしてヌーヴェルヴァーグ時代のフランス映画を意識してる感じがして、「実際のところはどうなんだろうか」と疑ってしまう。かっこばかりで観たら残念な結果だったらどうしようかと思ったけど、映画はとても面白かった。やっぱり観てみないと分からない。

パン屋をクビになった自由な女の子クロ、恋人に振られたカメラマンの英斗、主演女優が直前で降板してピンチな演出家の豪の3人は、偶然にも知り合い、海辺の元ホテルで夏の数日間、共同生活を始めることに。


とにかく映画的。
クロはお客が来ても売り物のパンをかじりながらダルそうに接客し、店の脇でタバコを吸ってさぼっていたりする、ちょいワルで趣くままに行動するタイプの女の子。
かわいくてわがままなアンナ・カリーナのよう。
ゴダールが作るコメディ作品のように、登場人物たちの突飛な行動や、突然展開が変わったりするあたりはテレビドラマでは絶対にない、映画ならではの展開。
テレビゲーム(Wii)のテニスゲームをしていると、そのまま勢いづいて広いベランダに飛び出す。テレビはないのにテニスゲームの効果音とともに試合は続く。こういう演出なんかが特徴的だった。

画の構図もそうとうなこだわりが感じられ、バッチリきまっている。物語の流れより画がきまる場所の方が先に決められたんじゃないかと思うくらい。

そういうあたりがゴダールっぽさをすごく感じるところ。
ところが、下手(しもて)監督のプロフィールをみると小津安二郎の研究をしていた方なのだとか。ゴダールの影響がすごく強いと思っていただけに、「え?」とビックリ(笑)


特に印象的だったのは、「はずしが巧い」と思ったこと。
クロを追いかける豪が、前のシーンでクロが入っていたクローゼットを開けるとそこには英斗がいたりする。テンポや流れ的に「こうだろうな」と無意識に予測してしまっているところを毎回みごとにはずしてくる。いい意味で予想を裏切る展開が随所にあるので、新鮮な感じで最後まで観られる。
ひねくれた先入観があった分、思ってたより大分面白かった。

デジタル撮影だけど、フィルムで撮ればもっと雰囲気のいい作品に仕上がったと思うので、できればフィルムで観たかった。
それとパンフレットがない。ゴダール的だと思ったものの実際どうなのか、コラムなども読みたかったのに残念。
残念ついでに言うと、クロはタバコを吸うけど実際は吸わずにふかしてるだけ。クロ役の城戸愛莉は撮影当時17歳だったらしいが、ふかすくらいなら吸わない方がいい。もしくは吸ってるシーンを撮らなくてもいいのでは。そこだけ妙に白けてしまう。


脇役だったけど、英斗の別れた彼女役の松本若菜は超かわいい。最近だと「ペコロスの母に会いに行く」でも出演している注目の女優さん。

音楽も良かった。BGMは生演奏とラジオのみにこだわったらしく、劇中にも出演しているバンドの楽曲が印象に残る。
映画の中ではクロを追いかけまわすことになるストリートミュージシャンとして登場。

そういえば、役名は数字っぽい。
クロ(6)、英斗(8)、豪(5)、ナナ(7)、レイ(0)、など
こんなところにも監督の遊び心が感じられる。

ほとりの朔子」の深田監督は、ロメールに例えられるけど、下手監督もゴダールに例えられるようになるのだろうか。
いずれにせよ今後が楽しみな監督。


<作品概要>
はなればなれに」 KURO
(2012年 日本 86分)
監督・脚本:下手大輔
出演:城戸愛莉、斉藤悠、中泉英雄、松本若菜、NorA、我妻三輪子、梶原ひかり、鏡浩一郎
配給:Perticle Pictures


2014年5月2日金曜日

ネイチャー[3D]  Enchanted Kingdam 3D


3Dが効く!圧倒的な映像美 母なる大地アフリカ

とにかく映像がキレイすぎる。カメラの性能が相当いいから、今まで見たことないような映像の連続。そして、3Dが効いていた。熱帯雨林や草原という大自然の風景や、飛び出す波しぶき、動物の群れなどが3D効果抜群。作品に奥行きをプラスさせていた。さすがBBC。毎回このネイチャードキュメンタリーには驚かされる。

“謎めいた森”
“燃え盛る地下世界”
“異国の砂”
“灼熱の平原”
“魅惑の海中都市”
“凍てつく山”
“荒れ狂う激流”
“グランドフィナーレ”


空の雲から滑り落ちるように熱帯雨林の中へ、そして木の幹を伝い、空からは見えない地表の世界へと舞い降りる。そこでは軍隊アリの数十万匹という群れが待ち受ける。自分よりも何倍も何十倍も大きな相手を食べ尽くす。彼らの通ったあとに生き物はいない。


この流れるような“目線”で、7つの自然の領域を旅する。


自分では絶対に見に行けないような凄すぎる自然世界の数々。そしてそれを映す映像美もすごい。信じられないくらいな映像の連続。






音楽はUKロックのアーティストたちが手がける。
最後にかかる楽曲は誰のかと思ったけど、U2ではなくてColdplay。楽曲は「Life in Technicolor ii」(アルバム「Prospect's March」収録)で、映画のグランドフィナーレの部分で使用される。そして、すばらしい! やっぱcoldplay最高!!


だけど、楽曲を立ててしまっている分、最後だけPV的な感じに。。 
音楽はすごくいいのだけれど、音楽の使い方で随分世界観は変わってしまう。楽曲がメインに立ってしまっているので、映像が脇役に。まさにPV状態。
これだけ自然の映像がすごいので、そこに終始してもらいたかった。
黄色い服の女の子もいらなかった。

UKロックのアーティストはほかに、BBC"Sound of 2013"や、ローラ・マヴーラ(Laura Mvula)、マリウス・デ・ヴリーズ(Marius de Vries)なども参加。
BBCのお膝元のUKロックミュージシャンが名を連ねている。


<作品概要>
ネイチャー」 Enchanted  Kingdam 3D
(2013年 イギリス 87分)
監督:
ナビゲーター:滝川クリステル
配給:東宝東和

2014年5月1日木曜日

プレイタイム (デジタルリマスター版)  Playtime


やっぱり劇場の大画面で隅まで観たい!破産するほどの野心作

ジャック・タチの想いが詰まりまくったのがこの「プレイタイム」。「ぼくの伯父さん」で商業的成功を収め、大作を撮れることになったタチが次回作に選んだのが本作。タチ特有の細かなギャグの連続と、近未来的なデザインで統一された世界観を創り上げた。
実際にパリ東部にオープンセットを作ったのだけど、あまりの規模の大きさにタチ・ヴィル(タチの街)と言われるほど、ひとつの街のような規模だったらしい。

ユロ氏(ジャック・タチ)は、パリのとある企業に訪問するが、担当者は忙しくてなかなか会えない。慣れない最新設備のビルをみているうちに、ビル内の展示会イベントやアメリカ人観光客に巻き込まれ、面談の機会はどんどんと遠のいていく。

タチ流のギャグとユーモアがちりばめられ、近未来的で機械的なイメージの豪華セットの中で、ジャック・タチの超大作は展開されていく。


映画を観ると、ジャック・タチのこだわりと、やりたかったことを“これでもか”というほど詰め込んだんだろうな、というのがすごい伝わってくる。
なんでも、総製作費は150億フランで、当時の為替ルートで言うと、なんと1000億円を超える、天文学的な予算だったとか・・
ハリウッド大作を大きく上回るこの製作費はにわかには信じ難いほどの大金。
フランス映画はそんなにお金あったんでしょうか。。


ちなみに、20世紀フォックスが社運をかけて製作費を投入したのが「タイタニック」。ジェームス・キャメロンは予算を大量に使うことで有名だけど、2億ドルの予算にビビったフォックスは、パラマウントに共同配給を持ちかけ、リスクを減らした。ところがフタを開ければ、世紀の大ヒット。世界興行を塗り替える結果となった。そして、20世紀フォックスの利益はというと、北米の興行権をパラマウントに売り渡してしまっていた。という、なんだか昔話のようなエピソード。
それより大きな予算とは。何だか信じられませんが。


よそ見しながら歩いて目の前の柱に激突するギャグは十八番。日本でもドリフターズなどに受け継がれている。ドアマンが割れたガラスドアのドアノブだけを持って、開けたり閉めたりとか、タチ流のギャグは満載。
音にもこだわっていて、室内ではシーンとした無音で足音や刷れる音が響く、それに対して室外に出ると一気に車の騒音で充たされる。場面によって音響を使い分けたりとかなり実験的な表現を試みていたこともみてとれる。


久しぶりに観て思いっきり堪能してしまった。
細かいこだわりが満載だ。クラシックカーもたくさん登場するから見ているだけで楽しい。クラシックカー好きには「トラフィック」の方がいいかもしれないけど、本作でもかなりの数のクラシックカーが登場する。
一部のファンには熱狂的に支持されたけど興行的に大失敗だった。
なんだか分かる気はする。
こういう作品は後世で再評価されるもんだ。

それと服装がみんなおしゃれ!
ドレスアップしたアメリカ人よりもフランス人たちのスタイルが見ていていい。ユロ氏のコートとクロップドパンツのスタイルは、いつもてもいい。洋服が欲しくなってしまうほど。
ジャック・タチの映画には何かとアメリカが出てくる。嫉妬の対象なのか憧れの照れ隠しなのか、いずれにせよ影響力を強く受けていることが分かる。


それと、
ジャック・タチの映画はポスターがとても秀逸!
今回の「ジャック・タチ映画祭」のパンフレットもポストカード風になっていて、昔のポスターデザインであしらわれていた。コラムは、もちろん小柳帝さん。日本におけるジャック・タチの第一人者ではないでしょうか。
しかしながら、それ以外は内容の薄いポスターデザインに頼り切ったパンフレットでした。




観終わって、エンドロールの最後に出る「字幕翻訳 寺尾次郎」が最高!
やっぱりこの時代のフランス映画を観たら寺尾さんの名前があってほしい。


<作品概要>
プレイタイム」  Playtime
(1967 フランス 124分)
監督:ジャック・タチ
出演:ジャック・タチ、バーバラ・デネック、ジャクリーヌ・ル・コンテ、ジョルジュ・モンタン
配給:日本コロムビア