2016年5月14日土曜日

追憶の森  SEA OF TREES

a perfect place to die 富士の樹海・青木ヶ原

富士の樹海を舞台にした生きることを考えるガス・ヴァン・サントのヒューマンドラマ。
日本人であれば誰もが知っている自殺の名所、富士の樹海・青木ヶ原。海外から見た日本の観光名所であるMt.FUJI(富士山)の持つ負の側面。
そこに神秘性を見出したガス・ヴァン・サントはミステリー仕立てに描いた。

自殺を決意したアーサーは、アメリカから片道の航空券で青木ヶ原を訪れる。樹海に立ち入ると出口を探して彷徨う日本人のタクミと出会う。彼の手助けをするうちに次第に打ち解け、なぜここに至ったのか、妻との間に何があったのかを語りだす。

「a perfect place to die」
全てはここから始まる。
アーサーがグーグルで検索するとそこで紹介されているのは、富士の樹海・青木ヶ原。
だから、アーサーは死に場所を求めてはるばるアメリカから来た。
実際に検索してみても本当に「AOKIGAHARA」が紹介されている。。。
とにかく富士の樹海が自殺の名所であることが海外でも有名であることが一番の驚き。
自殺者が多い日本で一番ということは世界でも一番ということなのか。

自殺の名所であることを表現するために、思いとどまらせるメッセージがかかれた看板が映し出される。そこには日本語と英語が 併記されていて、海外からも人が訪れていることが分かる。
それにしてもちょっと立ち入っただけで死体に次々に出くわすのはやりすぎ(笑)
定期的に捜査されているからそんなにないでしょ。
樹海の監視員に、日本人俳優がキャストとして登場している。

自殺するにしてもそれぞれの人にそれぞれの背景がある。
アーサーも同様で、かならずしも観客が思い描く事情ではない場合もある。
受け取り方もそれぞれだけれど、アーサーと妻の関係、タクミは何者なのか、最後に全てのミステリーは解ける。


<作品概要>
「追憶の森」  SEA OF TREES
(2015年 アメリカ 110分)
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:マシュー・マコノヒー、ナオミ・ワッツ、渡辺謙
配給:東宝東和

2016年4月28日木曜日

博士と彼女のセオリー  THEORY OF EVERYTHING

エディ・レッドメインの演技に注目

アカデミー賞主演男優賞を受賞ことでレッドメインの演技が注目の本作だけどやっぱりそこはすごかった。
レミゼの時はたくましい青年だったけど、かなり体重を落としたとみられ、最初からひ弱なガリ勉な感じ。
そして徐々に体が動かなくなっていく様をホントみごとに体現してみせた。
体や表情が麻痺しながらも笑顔をつくるなど、その作り込み具合には感心してしまう。

障害者を演じるのって結構評価されがちなので、どうかとは思っていたけど、でもやっぱりすごい。
サイダーハウスルールのディカプリオやレインマンのダスティン・ホフマンのように、これを転機に更なる演技派への道が期待できる。

エディはすでに既婚で子供もいる。名門イートン 校出身でおぼっちゃん、ファッショニスタとしても有名でいいとこづくしのエリート。
本作でも、イギリスの名門校の雰囲気がよく似合う。寄宿学校、汽車、服装、校舎、あの雰囲気ってやっぱりハリポタみたい。

本作の面白いところは、ホーキング博士の私生活、人としての一面にフォーカスした点。
夫婦の愛の物語でもあるし、発病し余命3年と言われた後にあの病で子供を3人も作るという逞しさ(笑)。そういう人間っぽさが見えたところが面白い。
そして徐々に病に冒されていく博士。そこからはエディ・レッドメインの独壇場。
動きがわずかに鈍くなるような繊細な演技で決して大げさにならず、熱演感もなく自然に演じて見せている。
とにかくエディの演技に大注目な一品。


<作品概要>
「博士と彼女のセオリー」  THE THEORY OF EVERYTHING
(2014年 アメリカ 124分)
監督:ジェームズ・マーシュ
出演:エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ、チャーリー・コックス、エミリー・ワトソン、サイモン・マクバーニー
配給:東宝東和

2016年4月27日水曜日

マジカル・ガール  MAGICAL GIRL

因果が応報するファムファタール作品。

またまた変な映画がやってきた!
スペインの新鋭カルロス・ベルムト監督による長編デビュー作。
予想もつかない話の展開に謎めいた登場人物。スペインの経済不況が背景にあったり、日本のアニメがモチーフになっていたり、全体を包む雰囲気も独特でシュールすぎる内容で面白い。

余命わずかな白血病の少女アリシア。そんな娘の願いを叶えようとルイスはアリシアの大好きなアニメ「魔法少女ユキコ」の衣装をプレゼントしようとする。オークションサイトで見かけるその衣装の高額なお金を手に入れるためにルイスは偶然であったバルバラの弱みにつけ込んでいく。


長山洋子の「春は、SA・RA・SA・RA」が大音量でかかるのに、画面は洋画というかなり面白いシチュエーション。その雰囲気のままこの独特な世界にもっていかれる。

キャストも全く知らないので、誰が主役なのかもよく分からない。
それに二つの話、過去の話が断片的に挟み込まれ、話がどう展開していくのかも読めないドキドキな感じ。


経済不況のスペインらしく、アリシアの父親ルイスも失業中。娘の願い事ノートをチラ見してあのコスチュームが欲しいことを知るんだけど、次のページに小さく書いてある「13歳になりたい」にはグッときてしまう。
失業中にもかかわらず、高額なそのドレスを手に入れようとするあまり、宝石店を強盗しようとまでするがそれと止めたのは、バルバラだった。この偶然の出会いをきっかけにルイスはバルバラにつけ入り、大金を手に入れる。
バルバラも大金をつくるために怪しげな知人を訪ねる。


アリシアからルイスへ。ルイスからバルバラへ。バルバラからダミアンへ。
そしてダミアンから・・・
因果は応報する。

前半にはられた伏線が、後半になってたたみかけるように回収されていく。
この展開お見事。
誰かのために役立とうという気持ちは、だがしかし悪事によってそれを成そうという行為も一緒に連鎖されていく。
それは恐るべきファムファタールによって増幅されていく。


ブラックユーモアも満載すぎて、すぐには消化できないほどいろんな展開がつながりだす。見終わった直後より、ひと息ついて考えてからの方が面白さが実感できる。


それにしてもあのトカゲの部屋ではいったい何が・・・(笑)


<作品概要>
「マジカル・ガール」  MAGICAL GIRL
(2014年 スペイン 127分)
監督:カルソル・ベルムト
出演:バルバラ・レニー、ルシア・ポシャン、ホセ・サクリスタン、ルイス・ベルメホ、イスラエル・エルハルデ、エリサベト・ヘラベルト
配給:ビターズ・エンド

2016年4月26日火曜日

スポットライト 世紀のスクープ  SPOTLIGHT

地味だけど役者たちの演技のアンサンブルが素晴らしい!

とにかく役者たちがいい。自分の仕事に誇りを持って生きている新聞記者たちの姿を活き活きと力強く演じていた。
アカデミー賞で作品賞に輝いた骨太な社会派ドラマ。

ボストン・グローブ社の新任編集長のバロンは、神父が児童に性的虐待をしていたというゲーガン事件をもっと掘り下げるべき事件として特集記事担当のスポットライトチームにこの事件の調査を指示する。
強大な権力を持つ教会を敵に回すような行為だが、スポットライトチームは次々と新しい事実をつかんでいく。


宗教的な拘束力が弱い日本ではあまり感じられないのかもしれないけれど、キリスト教の力が強い欧米にとってはとても衝撃的な事件。
そしてスポットライトチームが調べ上げたこの疑惑の神父の数の多いとこと!
全体の6%という一見小さそうな数字だけど、ボストンだけでも1500人の神父がいて、そうすると約90人が該当する。複数年にわたり複数人になるその被害者の数は膨大だ。
こんな信じられないことを教会は隠蔽し続けた。


キリスト教会において神の代理人である神父の存在は神に匹敵するらしい。
その神父に日頃の教義で禁止されているはずの性的な虐待を受け、口止めをされ、神父を敬愛して止まない両親にも相談できず、精神を病み自殺する子も多いとか。
その罪はあまりにも大きい。

だけど、その強大で聖域である教会にメスを入れようと行動を起こせたのは、編集長がヨソ者で新任のユダヤ人だったから。他の記者はみんな地元出身で、地場の教会を敵に回すような行為は思いもよらなかったのだとか。宗教や地元意識に縛られないバロンだからこその発想だったのかもしれない。


スポットライトチームの描き方として特にフォーカスされているのが取材活動。
彼らはとにかく足を使って様々な関係者に直接会って取材する。
80年代か90年代の映画を見ているのかと錯覚するくらい、PCやネットなどIT機器を使わない。いつもペンとノートでメモを取る。


監督は、トム・マッカーシー。
「扉をたたく人」や「靴職人と魔法のミシン」などは日本でもヒットしているけど、監督5作品目にして早くもアカデミー賞の作品賞を受賞。

そして、キャストがいい!
レイチェル・マクアダムズの女性記者っぷりも良かった。それにあの取材先の小太りの被害者男性もすごく上手い。
マイケル・キートンは、昨年の「バードマン」に引き続いて2年連続でアカデミー作品賞の作品に出演。スポットライトチームのリーダーとして存在感もバツグン。
特にマイク・ラファロのなりきり具合は本当にすごい。モデルとなった記者のクセをまねて本当にいそうな見事な演技。この人は作品ごとに違う顔になれるとてもいい役者。
アカデミー賞でもノミネート常連になってきている。

そんな個性的かつ実力派俳優陣で、正義を信じる熱い新聞記者たちを見事に表現。
パンフレットでは、日本のゴシップ界をにぎわす週刊文春の編集長が映画評を寄せている(笑)


<作品概要>
「スポットライト 世紀のスクープ」 SPOTLIGHT
(2015 アメリカ 128分)
監督:トム・マッカーシー
出演:マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムズ、リーブ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、スタンリー・トゥッチ、ビリー・クラダップ、ジェイミー・シェリダン
配給:ロングライド

2016年4月25日月曜日

ミケランジェロ・プロジェクト  THE MONUMETNTS MEN

アートを守るために戦場に赴いた男たちがいた

このメンバーを集められるんだからジョージ・クルーニーの人望って本当にすごいんだと思う。
本作ではプロデューサーのほか監督・脚本と主演も務め、多才ぶりを発揮。盟友のマット・デイモンをはじめとする豪華俳優陣をみてもキャスティングにも相当関わっているはず。

第二次大戦下、ナチスは侵攻先の国々やユダヤ人から財産を没収。その中には貴重な美術品も多数含まれる。実はヒトラーは独自の美術館建設を構想していたのだ。戦争による美術品の強奪や破壊が進む中、終戦間際になりようやくそれらを阻止するためにアートのエキスパートからなる"モニュメンツ・メン"が結成されヨーロッパに向かうことになる。

アートのエキスパートだけど戦闘に関してはからきしの素人が戦場を駈けずりまわるという設定が面白い。映画としても完全にエンターテイメント作品として仕上がっている。


映画「黄金アデーレ 名画の帰還」では、戦時中に奪われたクリムトの絵画を、絵画の元の所有者で絵のモデルとなった女性の親戚が、オーストリアの美術館を相手に返還の訴訟をおこす実話だけど、こういった話はもっと出てくるかもしれない。
それだけヒトラーが奪ったものは大きい。
ヒトラーは、その奪った美術品で美術館を建設しようとしていた。

恐ろしいのは「ネロ指令」。これは行き詰まったナチスが、敵の手に渡るくらいなら全て破壊して焼きはらうよう命じたと言われる指令。
モニュメンツ・メンがいなければどれだけの数の美術品が失われていたことか・・・
想像するだけでも恐ろしい。
今でも戦争やテロで各地の世界遺産が破壊されたり修復不能な状態になることがある。
何も生み出さず、多大な犠牲を払う戦争を人類はいつまで繰り返すのか。


20世紀フォックスとコロンビア(ソニー系)のロゴがオープニングで両方出てくるから、そんなことあるのかと思ったらどうやら共同制作らしい。そんなことあるんだ。

それにしても、奥さんのクリスマスソングが上手すぎ♪


<作品概要>
「ミケランジェロ・プロジェクト」 THE MONUMENTS MEN
(2014 アメリカ 118分)
監督・脚本・製作:ジョージ・クルーニー
原作:ロバート・M・エドゼル
出演:ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ケイト・ブランシェット、ビル・マーレー、ジョン・グッドマン、ジャン・デュジャルダン、ボブ・バラバン、ヒュー・ボネヴィル
配給:プレシディオ

2016年4月24日日曜日

インサイダーズ 内部者たち  INSIDE MEN

韓国社会を牛耳る巨悪に挑み翻弄される男たち。

勧善懲悪型の分かりやすい構図ではあるけれど、敵と味方が入り乱れ、スムーズには運ばないストーリー展開に先が読めない感じで面白い。
イ・ビョンホンのチンピラぶりもカッコよくていい。

次期大統領の呼び声が高い大物政治家と大企業の財閥との癒着の証拠を手にれたチンピラのアン・サングはそれをゆすりのネタにしようと兄貴分の策士イ・ガンヒに持ち込むが、企ては失敗し失墜してしまう。
一方、アン・サングにネタを横取りされ左遷された検事は一発逆転を狙ってアン・サングを探し出す。

韓国社会を牛耳る政治家や財閥企業たちの腐敗ぶりがすさまじい。まさに酒池肉林!な飲み会でゲスなおじさんたちがよく表現されている(笑)


映画は、冒頭カッコよくキメたイ・ビョンホンが記者会見をするところから始まる。
大統領候補や大企業の財閥を告発したシーンからフラッシュバックして、そこに至るまでに何があったのかを描いていく構図。
だからイ・ビョンホンが悪い奴らを吊るしあげた結果が分かった状態から始まるノワールサスペンスなのだと最初思う。
が、そうじゃない展開に二転三転していく。
政治家と財閥は権力モンスターではあるけれど、その間を行き来する策士イ・ガンヒが何を考えているのか分からない。


勧善懲悪な構図ではあるものの、そのストーリー展開はけっこう複雑に入り組んでいて話がよくできている。
熱血検事のウ・ジャンフンが正義感だけでなくて出世欲で協力しているところもなまなましい現実があっていい。

それにしても女優さんがキレイ。
誰なのかと思ったら韓国女優のイエル。
結構重要な役立ったのになぜか作品紹介でもクレジットなく雑な扱いだけど、印象に残る女優さん。


ナッツリターン問題、財閥や大企業の不正、格差社会などいろいろな社会問題で韓国市民の不満がたまっていることがこの映画の裏側にある。「ベテラン」もそうだったけどそれまでタブーとされていた財閥を悪とした描き方が表現され、社会問題を映画が映し出す。

映画としてもとても面白い。


<作品情報>
「インサイダーズ 内部者たち」 INSIDE MEN
(2015年 韓国 130分)
監督:ウ・ミンホ
原作:ユン・テホ
出演:イ・ビョンホン、チョ・スンウ、ペク・ユンシク、イ・ギョンユン、キム・ホンパ、チョ・ジェユン、ペ・ソンウ、キム・デミョン、イエル
配給:クロックワークス

2016年3月13日日曜日

ブリッジ・オブ・スパイ  Bridge of Spies

良質なクラシック映画のような安定感。

スピルバーグが監督で、主演はトム・ハンクス、脚本がコーエン兄弟という安心印満載の豪華布陣で面白さは保障されている。
そしてそれに応えるすごさ。
政治的な内容を重厚に、でもユーモアを交えて描く良作。

米ソが冷戦下にある1957年。ある男がソ連のスパイだという容疑でFBIに逮捕される。死刑確実と言われたその男の国選弁護人に選ばれたドノヴァンは、祖国への忠誠心を貫くアベルの弁護を引き受ける。その過程でやがてお互いに理解と尊敬が芽生え始める。このスパイは今後の交換条件のカードにできるという主張で見事にアベルの死刑を回避したドノヴァンだが、アメリカ兵がソ連に捉えられる事件が勃発。その人質交換の交渉役にドノヴァンが指名されることに。


よくよく考えるとかなり無茶振りな状況。
自分が撒いた種ではあるのだけれど、国家の期待と責任を果たさなければならないプレッシャー。そして後ろ盾はない。
あくまで民間人のしていることという建前上、何かあっても国は助けてはくれない。
これが自分に降りかかった仕事だったらかなりキツイ。

そのドノヴァンを支えるのは強固な信念。敵であるアベルにも「不屈の男」(standing man)と言わしめる正義を貫くという異常なまでの信念がこれだけの困難にめげない強さの源。
だけど、すぐ死刑にせず今後の政治の交渉カードに使えるという主張は政府にとって利益になるとても優れた提案。(実際その後役に立ってるし)
だからドノヴァンはただの正義バカではなくて、しっかりとした交渉術をもった優れた人材だったりする。

人質交換の日、交換場所のグリニッケ橋で心配するドノヴァンにアベルは答える「同胞の迎え方で自分の扱い方は決まる。ハグされるか車のバックシートに座らされるか」。
ハグされれば忠誠を貫き通した功績を認められたということ。逆に車の後部座席に入れられれば情報を漏らしたことで死刑を逃れたと疑われているということ。
その様子をドノヴァンは、ずっと立ち続けて見守る。
アベルに「Standing Man」と言われたように。


そのドノヴァンをトム・ハンクスが好演。やっぱりこういう役はよくハマります。
そして本作のキャストで注目はやっぱりアベルを演じたマーク・ライランス!
冒頭シーンはほぼ彼の日常を淡々とひたすら追っていくけど、そこから存在感を発揮。何を考えているのか分からない表情、感情があるのかも読めない目。朴訥としたソ連のスパイを静かにそれでいて印象的に演じている。
こんな役者さんがいたんだ!という驚きと嬉しさ。
アカデミー賞で助演男優賞を獲得したのも納得の演技。
ハリウッドからもオファーが殺到しそうで今後も楽しみ。


舞台は東ベルリン。設定でいうと最近の映画「コードネームU.N.C.L.E」と同じ。
ドノヴァンがCIAに用意されたのは東ベルリンのオンボロなホテル。同じホテルにCIAも泊まっているのか聞くドノヴァンにCIAはさらりと「ん?オレはヒルトン。」と答える。
その時のドノヴァンの絶句ぶりが面白い(笑)
このあたりのユーモアにコーエン節が効いている。

クラシックカーやモトローラ製のラジオなど美術や小物もいい。
モノクロ映像にしてもしっくりきそうな佇まい。
この映画に派手さはない。むしろ地味。いや地味すぎるくらい。
でも、まるでクラシックの名作のような感じさえする。


<作品概要>
「ブリッジ・オブ・スパイ」 BRIDGE OF SPIES
(2015年 アメリカ 142分)
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン、マット・チャーマン
出演:トム・ハンクス、マーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアン、セバスチャン・コッホ、アラン・アルダ、オースティン・ストウェル、ミハイル・ゴアボイ、ウィル・ロジャース
配給:20世紀フォックス

2016年3月8日火曜日

俺物語!!

意外と面白い!  鈴木亮平の奮闘ぶりと胸キュン展開

意外と、とはかなり失礼な言い方ながら、正直そんなに期待していなかったし、鈴木亮平もスリムなイメージが先行して増量での役作りを聞いてはいても違和感あるだろーなと思っていただけに、いい意味で期待を裏切ってくれた。

男の中の男、剛田猛男は、心優しい高校一年生。女子には恐れられるが男子には絶大な人気を誇る。ある日チンピラに絡まれた女子高生の大和を助けたことがキッカケで親友で超絶イケメンの砂川誠と3人で会うことになる。猛男は大和に一目惚れしたが、大和は砂川のことが好きなんだと気づき、落ち込みながらも二人を結びつけようと人肌脱ごうとするが。

「好きだあああああ〜」という猛男の心の絶叫がいい!
大和のふとした仕草に好きな気持ちがあふれ出る。
原作同様、猛男のいじらしい態度に爆笑しつつも、キュンとなる。


それにしても鈴木亮平の好演ぶりはすごい。
「HK 変態仮面」や「TOKYO TORIBE」みたいな振り切ったものから「海街diary」までをこなせる役者さん。痩せたり太ったりと結構忙しい。
大和役の永野芽郁も徐々に大和でしか見えなくなってくる。はにかんだ感じもキュート。
砂川役の坂口健太郎もハマってた。
映画を観るまではこのキャストは地味だし疑問だったけど、このハマり具合は観てみないと分からない。

気軽に楽しめて、笑ってキュンとなれるラブコメディ。


<作品概要>
「俺物語!!」
(2015年 日本 105分)
監督:河合勇人
原作:河原和音、アルコ
出演:鈴木亮平、永野芽郁、坂口健太郎、森高愛、高橋春織、寺脇康文、鈴木砂羽
配給:東宝

2016年3月5日土曜日

ホール・イン・マネー  A DANGEROUS GAME

ドナルド・トランプの実業家の側面との皮肉

いつになく混戦と盛り上がりをみせる2016年のアメリカ大統領選。その中でも特に異彩を放つのがドナルド・トランプ氏。
アメリカ有数の大富豪で、テレビ番組でホストを務めていたり知名度は抜群。
この大統領選の最中だから面白い。ニュースだけでは分からないドナルド・トランプの一面が垣間見れる。

ドナルド・トランプが代表を務めるトランプ・インターナショナルはスコットランドの自然豊かな景観の海岸沿いの土地を買収し、ゴルフ場建設を始めるが、それに伴う環境破壊はものともせず、近隣住民に強引な地上げを開始する。スコットランド出身のジャーナリストのアンソニー・バクスターは、その実情を訴えるために突撃取材を開始する。


トランプのビジネスは富裕層向けの高級リゾート開発。スコットランドに建設し始めたのも高級ゴルフ場で、近隣住民の家がみすぼらしいからと井戸を枯らして住めないようにしようとしたり、契約違反でもある高い壁を築いて視界から消そうとしたり、とにかくやり方が強引。
富裕層のため、自分のビジネスのためなら邪魔な貧乏人は容赦なく排除するという姿勢が際立つ。
この映画の面白いところは監督が執拗にトランプの負の部分を映し出すことで、今の大統領選との矛盾があぶり出されていくところ。


トランプの支持層は、低所得の白人層で失業をして貧しく、肉体労働では移民に仕事を奪われる脅威を感じている人たち。だから移民排除や強いアメリカの復活など耳障りの良い主張をするトランプは支持を集めるが、実際の彼のビジネスをみると矛盾だらけ。
ちょっと考えれば分かりそうなものだけど、長年テレビ番組で培った視聴者に受けるパフォーマンンスを会得したトランプは予想外に躍進している。
社会主義寄りのサンダース氏といい、今までは考えられなかった候補者が支持を集めているアメリカ大統領選。それだけワシントンD.Cの政治不信ということでもあり、そのアンチテーゼとしての反対票がトランプにも注がれている。

それにしても、彼がもし本当に大統領になったとしたら、日本はどうなるんだろうか。


<作品概要>
「ホール・イン・マネー」  A DANGEROUS GAME
(2014 イギリス 97分)
監督:アンソニー・バクスター
出演:ドナルド・トランプ、アレック・ボールドウィン、マイケル・フォーブス、ロバート・ケネディJr、アンソニー・バクスター、ドナルド・トランプJr
配給:Akari Films

2016年3月4日金曜日

マネー・ショート  THE BIG SHORT

リーマンショックで儲けた男たちがいた。!この大不況の元凶をコメディ作家が描く

サブプライム問題とは何だったのか?
世界中に影響を及ぼしたリーマンショックの内実を、バブル崩壊を予見していたそれぞれの主人公たちの視点で描いたところが面白い。
それにしても、バブルの最中ってかなりのずさんなのに誰も気にしないところが恐ろしい。
だけど現実ってそんなもんだったりもする。

天才的金融トレーダー・マイケル、野心ある銀行家・ジャレド、ジェイミーとチャーリーの若き投資家とそれを後押しする引退した伝説の銀行家ベン。彼らは過剰に加熱する低所得者向けの住宅ローンに不信感を抱き、市場が崩壊した際に巨額の保険金が手に入る契約で、バブルで沸く市場とは真逆に賭ける大勝負に出る。

とにかくずさん。
サブプライムローンとは信用力の低い低所得所に向けた住宅ローンのこと。
普通は何割かの頭金と一緒に年収や預金の証明書が必要なのに、この当時はそれが一切なかった。さらに金利もなかったとか。市場は住宅価格が高騰し続けバブルに沸く中で、返せるあてもない住宅ローンをこぞってみんなが組み続けた。そしてそれはピークを迎える。

ストリッパーや移民などにまで住宅ローンを売りつける不動産会社など、現場はひどいありさま。しかも銀行が債券を買い上げてくれるから誰かれ構わず売りまくる。
日本では住宅ローンは以前よりも審査が厳しくなっているというのに。


それにしても、これら金融商品の仕組みが複雑で分かりづらい。
その点この映画では、著名人がカメオ出演して「猿で分かる」的な解説が入る(笑)
泡のバスタブからマーゴット・ロビーがシャンパンを片手に、サブプライムローンを説明したり、シェフのアンソニー・ボーディンは、腐った魚を他の魚と一緒にシチューに入れて別メニューとして売り出す例えでCDO(債務担保証券)を比喩したり、セレーナ・ゴメスが、"カジノで勝っている人"に賭ける周りの客に例えてCDOが広まったことを説明する。

実際、このサブプライムローンという不良債権を、他の債券と合わせて別物の金融商品にして売り出す際、格付け会社のスタンダード&プアーズやムーディーズはウォール街の言うがままに優良評価をしていたとか。そのせいで誰も不良債権とは気づかずにこの市場はバブルとなっていった。

つまり、ウォール街ぐるみの詐欺。

金融モンスターたちによって引き起こされた人災がこのリーマンショックの実情。
そして、CDOのように何かを介すことによって実態が分からなくなっていくことの怖さも物語っている。


監督は、アダム・マッケイ。「俺たちニュースキャスター」などウィル・フェレルの爆笑「俺たち〜」シリーズの監督。コメディ出身だけに、急にカメラ目線になるあの解説が入ったりと、堅苦しくない金融話ができるのかも。
マイケル・ルイスの原作「世紀の空売り」を読んで、不条理コメディを一旦止めてこれを映画化したいと思ったのだとか。

マイケル・ルイスは別著「マネーボール 奇跡のチームを作った男」が、ブラッド・ピット主演で既に映画化されていて、「世紀の空売り」もブラピの映画製作会社プランBエンターテイメントが既に映画化権を獲得していたので、本作もプランB製作でブラピも出演し、プロデューサーでもある。
ブラピはプロデューサーとしても有能で、プランB作品では、「それでも夜は明ける」、「ツリー・オブ・ライフ」がアカデミー賞作品、「キック・アス」を発掘したりしてる。

そして、ブラピはロバート・レッドフォードにドンドン似てきている。


キャスト陣もいい。
クリスチャン・ベールはこの演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。
ライアン・ゴズリングは野心家の銀行家、スティーブ・カレルも怒れるトレーダーを好演。
(ちなみに、スティーブ・カレルのラスベガスでのシーン。レストランのBGMがでなぜか徳永英明(笑) おかげで気になって話が全く入ってこなかった)

ブラピはプロデューサーだけにおいしい役どころを持っていく。
彼のセリフにもあるように、この映画主人公たちはバブル崩壊を読み、見事に大博打に勝ち、巨額の富を得た訳だけど、それは多くの犠牲の上に成り立っている。


<作品概要>
マネー・ショート」  THE BIG SHORT
(2015年 アメリカ 130分)
監督・脚本:アダム・マッケイ
原作:マイケル・ルイス
出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット、メリッサ・レオ、ハミッシュ・リンクレーター、ジョン・マガロ、レイフ・スポール、ジェレミー・ストロング、フィン・ウィットロック、マリサ・トメイ
配給:東和ピクチャーズ

2016年2月29日月曜日

ヘイトフル・エイト  THE HATEFUL EIGHT

くせ者ぞろいの密室劇!タランティーノ節全開!

設定を聞いただけで、くせ者たちによる大殺戮がもう予想できる(笑)
タランティーノだからもう撃ちまくり、血しぶき上がりまくりの展開になることは必至。

ある吹雪の日、雪原にぽつんとたたずむ「ミニーの紳士洋品店」に偶然集まった8人。
賞金稼ぎにお尋ね者、保安官に死刑執行人。
くせ者ぞろいで全員に秘密がある。そして緊張が高まる中、最初の殺人が起こる。

もうタランティーノ節全開!
特にサミュエル・L・ジャクソンのくせ者ぶりは際立ちまくり。
一見バラバラに集まった男たちの過去や秘密が徐々に明らかになり繋がりだしていく。
長さも気にならず緊張感をもったまま楽しめる。


今回の撮影は、「ウルトラ・パナビジョン70」という、1966年の「カーツーム」以来使用されていない70mmフィルムを引っ張り出して撮った密室劇。広大な大自然を70mmフィルムで撮るかと思いきや本作はほぼ室内。なのに70mmフィルム(笑)
このあたりのこだわりもタランティーノらしい。


美術は、種田陽平で「キル・ビル」以来。
この細部までこだわりぬいて作り込まれたセットは、種田陽平によると「ミニーの店には何でもある。ドラッグストアであり、バーであり、レストランでもある。ただ紳士用品だけないんだ(笑)」。
ほとんどがこの室内での出来事になるため、とにかく70mmフィルムに耐えうるクオリティが求められた。


音楽は、巨匠エンニオ・モリコーネ。
過去5作で楽曲使用していて、マカロニウェスタン好きのタランティーノらしいチョイス。
キャストも個性的な面々。
いつものタランティーノ組ではないキャストたちもかなりいい味を出している。ジェニファー・ジェイソン・リーは本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされるほど女盗賊団を怪演。素顔がよく分からないくらいボコボコにされながらの扱いがすごい(笑)
他にもデミアン・ビジル、チャニング・テイタム、ウォルトン・ゴギンズらもニューフェイスながらそれぞれくせ者振りを発揮。

元々この映画のベースとなった脚本が漏れたことにタランティーノが激怒して製作を中止。その後いろいろあって映画化までこぎつけたとか。このキャストをそろえて一夜限りの公開脚本読み合わせをした評判がかなり良かったのがキッカケだとか。気分屋のタランティーノらしいエピソード。
危うくお蔵入りになりそうだった本作。もしなっていたらもったいない。


<作品概要>
ヘイトフル・エイト」  THE HATEFUL EIGHT
(2015 アメリカ 168分)
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジャニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン、ジェームズ・バークス、チャニング・テイタム
音楽:エンニオ・モリコーネ
衣装:コートニー・ホフマン
美術:種田陽平
配給:GAGA
字幕:松浦美奈

2016年2月25日木曜日

ドリーム ホーム 99%を操る男たち  99HOMES

サブプライムローン問題、現場で起こっていたこと

銃で自殺した男の浴室からこの映画は始まる。
事件現場にいる刑事ものの一場面かと思いきや、そこは住宅ローンが払えずに銀行に差し押さえになった住人へ催告する不動産屋の話。
リーマンショックの発端となったサブプライム問題の現場で何が起こっていたのかを描き出す社会派ドラマ。
主演は、「ソーシャル・ネットワーク」や「スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィールド。

日雇い大工でシングルファザーのナッシュは、ある日突然不動産ブローカーのカーターによって自宅を差し押さえられてしまう。いきなりやって来た警官や男たちによって次々と自宅から家財が運び出されていくがなす術もない。裁判所も相手にしてくれず路頭に迷った時、カーターから手伝いのバイト話が持ちかけられる。背に腹はかえられないものの、その仕事は自分と同じような債務者の自宅を差し押さえることだった。


映画「マネーショート」では、サブプライムローンの危険性を見抜き、バブルとなっていた不動産市場の真逆に賭け、リーマンショックで大儲けをした男たちを描いたけど、ここでは実際に現場で家を追われている人々が描かれる。

ナッシュがカーターに手を貸し差し押さえていく家の住人たちは、貧しい白人や言葉さえ通じない移民や、老人たち。
ナッシュ自身、無職でシングルファザーなのに立派な戸建の持ち家に住んでいる。そのこと自体がおかしいけどこの不動産バブルでは、このような返済能力のない貧しい人たちに銀行がローンを組みまくった。この不良債権(サブプライムローン)は、他の金融証券とごっちゃまぜにされて、優良債権として売り出される。だから誰もこの不良債権を気にせずいくとこまでいってしまった。


返済能力以上のローンを組んでしまう方もそうだけど、金儲けのために一般市民を食いものにしたしたウォール街の罪は重い。
いま1%の富裕層が、99%を支配していると言われているほど格差が広がっていて、さすがのアメリカでも問題視されてきている。

アメリカの大統領戦では、サンダース氏のような社会主義的な人が指示を集めている。今までのアメリカでは考えられなかった現象。
サンダース氏は、「公立大学の授業料無料化」、「国民皆保健医療の実現」、そして「ウォール街の金持ちへの課税」を公約として訴える。


そして、2011年に巻き起こったのが「ウォール街を占拠せよ」(Occupy Wall Street)という市民運動。彼らのスローガンは、「WE ARE 99%」。アメリカでは上位1%の富裕層の所得は増え続けている。そういった格差に対する抗議が、大学を出ても職がない若者を中心に訴えられた。

この原題にはそういったアメリカ社会の闇に対する警告の意味も込められている。


<作品概要>
ドリームホーム 99%を操る男たち」  99HOMES
(2014年 アメリカ 112分)
監督:ラミン・バーラミ
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン、ノア・ロマックス、アルバート・ベイツ
配給:アルバトロス・フィルム

2016年2月22日月曜日

月夜鴉

掘り出し物、戦前のラブコメディ!

こういう面白い作品は名画座でないと出会えない。
チャキチャキな女師匠とできそこないので弟子。
このドS師匠とドMな弟子のコンビが掛け合いの相性も抜群で、展開も小気味良くて面白い。

家元・杵屋和十郎のひとり娘のお勝は、毎日弟子に三味線の稽古をつけるが、ある日一番できの悪い和吉から懇願され居残りで稽古をつけ始める。お勝の厳しい稽古にひたすらついてくる和吉とは、いつしかお互い思い慕う関係になっていく。しかしそれを知った父・和十郎は激怒し、お披露目の会で一番できの悪い和吉が上手く弾けなければ別れることを約束させる。バカの一つ覚えのごとく上達した和吉だが、果たして無事に弾くことができるのか。

お勝はつい手がでしまう。あまり頰を叩くから赤く腫れてしまって、他の弟子に目立ってしまうから、「じゃあお師匠さん、代わりにこれで僕をぶってください」と棒のようなものを差し出す和吉、あまりのドMぶりに笑いが漏れる(笑)

お勝は、一回りも若い和吉に旦那の真似をさせるために、前髪を落とさせ父の衣装を着せて街を練り歩き、お茶屋のお座敷にもあげる。
前髪を落として大人の着物をまとった和吉は、すっかり男前。
そこはさすが主演をはる高田浩吉。
戦前から松竹のスターとして活躍し、戦後は美空ひばりとの共演で再び人気となり、弟子の一人は昭和の映画スター鶴田浩二なんだとか。

高田浩吉
お勝役の飯塚敏子も松竹を代表する女優だそうで、とても上手で不思議な魅力のある女優。
監督は、井上金太郎で戦前は片岡千恵蔵の元におりそこから松竹に移ったのだとか。
それでも戦後すぐに52歳の若さで亡くなってしまった。

クライマックスのお披露目会。和吉の勝負の時。出番直前にあの子供がお勝の伝言を口するあの件はヒヤヒヤさせられる。笑いにしてもドキドキの演出にしてもとても巧くて、面白い。

やっぱりこういう予想外の面白さは、ノーマークの名画座で出会いたい。


<作品概要>
「月夜鴉」
(1939年 日本 100分)
監督:井上金太郎
原作:川口松太郎
脚本:秋篠珊次郎、依田義賢
出演:高田浩吉、飯塚敏子、藤野秀夫、舟波邦之佑、伏見直江
配給:松竹京都

2016年2月16日火曜日

キャロル  CAROL

50年代の質感が素晴らしい。本当に美しい映画

古いフィルムの映り、衣装、ヘアスタイル、街並み、車、小物まで50年代のクラシックな質感へのこだわりがすごく伝わってくる。
そして字幕までがクラシックスタイル!
ケイト・ブランシェットは美しくてエレガント。
クラシックの名作のような完璧で美しい映画。

1952年、ニューヨーク。デパートで働くテレーズは、娘のクリスマスプレゼントを買いに来たミステリアスな女性キャロルにひと目で惹かれてしまう。
店に忘れた手袋を届けたことをキッカケに、二人は逢瀬をかさねるようになっていく。

映画の冒頭で、テレーズがキャロルを一目見て目が釘付けになってしまうシーンが印象的。

原作はパトリシア・ハイスミス。
アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」やヒッチコックの「見知らぬ乗客」、ヴェンダースの「アメリカの友人」など映画化でも名作が多い。
本作「キャロル」は50年代当初、別名義で発表し後年の84年に自身の名義で出版したタイトル。同性愛への偏見が強かった当時を思わせるエピソード。


映画評論家の淀川さんは、「太陽がいっぱい」公開当時からこの登場人物二人の関係性に同性愛的な意味合いを見出していたとか。
でもその時にそれを理解できる人はまだいなかったそう。
パトリシア・ハイスミスはカタツムリの観察を趣味にしていることでも有名だったそうだけど、このカタツムリは雌雄同体といってオスでもありメスでもある。
カタツムリは恋矢という槍を出して交尾の際にお互いを刺す行為をする。
http://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research_ja/33241/ (参考)
お互い弱って死んでしまうのだけれど、愛する相手を殺して自分のものにしたいというゲイの願望を「太陽がいっぱい」から淀川さんは見抜いたのだとか。


監督は、トッド・ヘインズ。
「ベルベット・ゴールドマイン」、「エデンより彼方に」、「アイム・ノット・ゼア」など撮る作品全てが高評価を受けるも寡作な監督。
ゲイであることをカミングアウトしていて、彼だからこそパトリシア・ハイスミスの原作を丁寧に、そして素晴らしい映画に昇華できた。
デヴィット・リーンの「逢びき」に本作の影響を受けているそう。


それにしても50年代の再現度がかなり高い。
テレーズがピアノを弾くシューベルトや、プレゼントしたビリー・ホリデイのレコード。
キャロルがテレーズに贈ったCANONのカメラ。
そして、サンディ・パウエルが手がけるファッション。
オハイオ州シンシナティの戦前の建物やアパートメント。
当時の35mmフィルムに見せるためのスーパー16での撮影。
クラシックカーやタバコをやたら吸うところも50年代っぽい。

各種ポスターデザインも秀逸。





<作品概要>
キャロル」  CAROL
(2015年 アメリカ 118分)
監督:トッド・ヘインズ
原作:パトリシア・ハイスミス
衣装:サンディ・パウエル
美術:ジュディ・ベッカー
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラー、サラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー、ジョン・マガロ、コリー・マイケル・スミス、ケビン・クローリー
配給:ファントム・フィルム

2016年2月15日月曜日

クリムゾン・ピーク  CRIMSON PEAK

結局、ひとが一番おそろしい

ホラーが前面に出されているけど、映画としてはサスペンス仕立てなラブストーリー。
ギレルモ・デル・トロ監督の美意識が詰め込まれたゴシック様式の美術が見応え十分。「パンズ・ラビリンス」のような怪しげな美しさを表現するのがとても得意な監督。

20世紀初頭のニューヨーク。作家を目指す若くて美しいイーディスは常に死者の魂を身近に感じている。ある日、 実業家の父の元に投資の依頼で訪れたシャープ男爵が現れ、イーディスは惹かれてしまう。反対していた父が不審な死を遂げ、イーディスは妖艶なシャープの姉とともにロンドン郊外の屋敷で暮らすことになる。

シャープ男爵の屋敷が何と言ってもすごい!
あのボロさ加減、天井から雪が降っちゃうほどの穴があいちゃってる(笑)
そりゃさぞかし寒いでしょ。
いかにもな幽霊屋敷に落ちぶれた貴族として住んでいて、本当に人間なのかミステリアスで怪しげな存在としてこの姉弟が物語の中心になっていく。


ホラーであって、ホラーでない。
だからガッチリしたホラーを期待した人にとってはちょっと生ぬるい。
ミスリテリアスなラブストーリーと謳うには、グロいゴーストも出たりするのでホラー嫌いな女子には訴えかけずらい。
という何とも難しい位置付けになってしまったのが残念。
でもそのあたりを踏まえて観れると面白い。ゴシック・ロマンスというらしい。


本作のジェシカ・チャスティンが美しい。
最初気づかなかったくらい印象が違った。
こういうクラシックなスタイルが意外と似合う。
もしかして彼女の映画キャリアの中で一番美しいのではないか。
そして、怖い(笑)

ひとの怖さをジェシカ・チャスティンが教えてくれる。


<作品概要>
クリムゾン・ピーク」  CRIMSON PEAK
(2015 アメリカ 119分)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャスティン、トム・ヒドルストン、チャーリー・ハナム、ジム・ビーバー
配給:東宝東和