2014年1月31日金曜日

ブリングリング THE BLING RING


アメリカ社会の暗部を映し出す、ソフィア流のメッセージ

ブリングリングの題材となったのは、10代の若者たちがセレブたちの邸宅に侵入し、ブランド品や貴金属を盗み出し、それをフェイスブックにアップしたり、転売したお金でパーティしたりと、やりたい放題をやった実際に起こった事件。

転校生で友達がいないマークは、憧れのファッションやブランドの話で意気投合したレベッカに連れられナイトクラブに出入りするようになる。そこでニッキーたちとも出会い、仲間となっていく。ある日、ネットで調べ上げたパリス・ヒルトンの邸宅に留守を見計らって侵入する彼ら。最初は侵入するだけのはずだったが、やがてその行動はエスカレートしていく。


ブリングリング(キラキラしたやつら)と呼ばれた彼らは、貧乏が理由で盗みや犯罪を犯すのとは違い、セレブ邸に侵入することは遊びの延長なのだ。ヤバいとは薄々思いながらも、基本的に犯罪の意識がない。
実際に起こったこの事件を有名にさせたのは、エマ・ワトソン演じるニッキーのモデルとなった女子高生だ。彼女は芸能人を目指しリアリティ番組に出演していた。その最中に逮捕となり、番組は急遽中止。ところが商売魂たくましいその番組は、内容を逮捕後のニッキーを追うワイドショー的な内容に変えたのだ。(さすが、アメリカ)
劇中でもニッキーは悪びれたそぶりもなく「これは神様が与えた試練」などと言い出す始末。しまいには、「この詳細は私のホームページで」とアドレスを言い、ちゃっかりと自分を宣伝する(笑) 本当にこんな感じだったらしい。。
それにしても、エマ・ワトソンは「ハリポタ」のハーマイオニーの優等生役からの脱却をかなり意識してなのか「ウォールフラワー」に続き、不良役を演じている。


ファッション性やオシャレな感じが全面に宣伝されている本作ではあるが、アメリカの10代の病んだ姿や、セレブがちやほやされる現代アメリカ社会への違和感を、実際の彼らの生活に近い形でソフィアは淡々と撮った。そこに彼女のメッセージがある。ただのオシャレ映画ではない。
それでも、ルイ・ヴィトン、シャネル、ルブタンなどの数々のブランドや、事件の被害者であるパリス・ヒルトンが自宅を撮影場所として提供している所などオシャレのチェックポイントも満載ではある。


ソフィアの映画では音楽の選曲センスの良さもいつも注目される。今作でも「音楽がいい!」という声があるが、カニエ・ウエストなど彼らが実際に聞いていた曲を採用している。それによって実際に近い雰囲気が演出されている。

<本作で使用された楽曲>
01 スレイ・ベルズ 「Crown On The Ground」
02 リック・ロス feat. リル・ウェイン 「9 Piece」
03 ライ・ライ feat. M.I.A. 「Sunshine」
04 アジーリア・バンクス 「212」
05 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー 「Ouroboros」
06 2チェインズ 「Money Machine」 
07 M.I.A. 「Bad Girls」
08 カニエ・ウェスト 「All of the Lights」
09 エスター・ディーン feat. クリス・ブラウン 「Drop It Low」
10 リーマ・メジャー 「Gucci Bag」
11 CAN 「Halleluwah」
12 カニエ・ウェスト 「Power」
13 クラウス・シュルツェ 「Freeze」
14 デッドマウス 「FML」
15 ブライアン・レイツェル&ダニエル・ロパティン 「Bling Ring Suite」
16 フェニックス 「Bankrupt!」
17 フランク・オーシャン feat. アール・スウェットシャツ 「Super Rich Kids」 (エンド・ロール)
オリジナル サウンドトラック
本作を監督したのはソフィア・コッポラ。彼女はあのコッポラ一族。父親はアメリカ映画界の巨匠・フランシス・フォード・コッポラ。従兄弟には、ニコラス・ケイジ、ジェイソン・シュワルツマンがおり、兄は本作でも製作をつとめるロマン・コッポラ(「CQ」の監督)、その他にも音楽家や女優の親戚がいる。そして、元夫は、スパイク・ジョーンズ(「かいじゅうたちのいるところ」)で、クエンティン・ティーノとも交際歴がある。
同世代監督のアレキサンダー・ペイン、ウェス・アンダーソン、ポール・トーマス・アンダーソンとも交流がある、才能とセンスの中で生きてきた人だ。
「ゴッドファーザー」に出演もしている。

本作の空気感をとても上手く表現しているイラストがこちら。
(漫画家の今日マチ子さん)


<作品概要>
ブリングリング」  THE BLING RING
(2013年 アメリカ=フランス=イギリス=ドイツ=日本 90分)
監督:ソフィア・コッポラ
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ
出演:エマ・ワトソン、レスリー・マン、タイッサ・ファーミガ、クレア・ジュリアン、イズラエル・ブルサール、ケイティ・チャン
配給:アークエンタテイメント、東北新社


2014年1月28日火曜日

事件記者 BUN-YA SPIRITS


いま見るとオシャレ! 昭和のブン記者ドラマ

小粋なジャズをBGMに、車は全てクラシックカーという昭和30年代の東京。これが今見るととってもオシャレ。モノクロ映像にしっくりくる。
話も面白いし、登場人物がみな個性的で良く描かれている。当時のしゃべり方が粋でいい。

警視庁詰め櫻田記者クラブの事件記者たち。ライバル新聞の記者たちと一緒に1分1秒を争うスクープ合戦だ。警視庁詰めの記者たちはライバルではあるものの同じ場所で働く仲間でもあり、普段は酒を酌み交わし、情報交換もする。ある時は恩の貸し借りもする。
チームワーク抜群の「東京日報」記者連を中心に、特ダネに生きる男たちを描いたシリーズ。

1話に1回必ずスポンサーとおぼしき製薬会社の商品「ワカ末」が出てくるのが面白い。登場人物がくしゃみをすると誰かが差し出す風邪薬が、かなりわざとらしく露出される(笑)、あまりに毎回出てくるの観客も爆笑。これに気づくには毎回観るしかない。(山崎パンやチキンラーメンも出てくる)
他にも行きつけのお店“ひさご”、相沢キャップのしゃべり、ライバル新聞社のガンさんの間抜けっぷり、新人スガちゃんの活躍、電話のヤマさん、などなど魅力が満載。


元々は当時の人気テレビシリーズだったらしく、その劇場版が本作。1話は60分程度。
役者も今では殆ど分からない人が多いがちょい役で宍戸錠が出てたりする。
当時、NHKのテレビシリーズに感動して事件記者を目指し、NHKに入社したのが、あの池上彰氏だとか。意外な影響力を持ったすごい作品。


—ラピュタ阿佐ヶ谷より—
日本中で爆発的な人気を博した連続テレビドラマ「事件記者」の映画化、日活版10作品&東京映画版2作品を連続上映いたします!
一筋のペン先に全てを懸ける、男たちの不屈の記者魂!スリルとサスペンスとユーモアが絶妙にブレンドされたこの傑作群像劇をぜひ、お見逃しなく!


<シリーズ>
「事件記者」
「事件記者 真昼の恐怖」
「事件記者 仮面の脅迫」
「事件記者 姿なき狙撃者」
「事件記者 影なき男」
「事件記者 深夜の目撃者」
「事件記者 時限爆弾」
「事件記者 狙われた十代」
「事件記者 拳銃貸します」
「事件記者 影なき侵入者」



<作品概要>
事件記者」 BUN-YA SPIRITS
(1959—66年 日本 50〜60分)
監督:山崎徳次郎
原作:島田一男
出演:沢本忠雄、永井智雄、大森義夫、滝田裕介、園井啓介、高城淳一、山田吾一
配給:日活

2014年1月24日金曜日

好きだ、  su,ki,da,


言いたくてもなかなか言えない、そのひと言。その過程を丁寧に丁寧に描く。

演技というよりとても自然体な演出が特徴の石川寛監督。本作でもその自然な映画作りで17年の時を経た二人の関係性と青春の一編を丁寧に描いた。

お互いに気があり、いつも放課後に河原でギターの同じフレーズばかりを練習をするヨースケの側にいるユウ。だけど「好きだ」のひと言が言えないでいる。やがてユウの姉がヨースケと会うようになるが、ある日ヨースケと約束した日に姉が交通事故に遭ってしまう。
それから17年後、レコード会社で務めるヨースケの前に偶然ユウが現れる。お互いの近況や姉はいまだに昏睡状態であることを話し合い、ふとした事故も起こり、お互いちゃんと向き合うことを決意する。

石川監督の演出はとても自然体。「演技ではなく、その役を生きる」というのが監督が俳優に望むところらしい。「tokyo.sora」でもそうだったけど演技しているという感じはない、普段しゃべっている感じをそのまま出しているよう。
高校生の二人がいつも歩く河川敷がとても印象的だ。


それにしても瑛太が若い!西島秀俊や永作博美は今とさほど変わらないけど、瑛太は青臭さ全開で今見るととても新鮮。
石川監督の新作「ペタルダンス」は、旬な女優を集め2013年に公開している。


<作品概要>
好きだ、」 su,ki,da
(2005年 日本 103分)
監督:石川寛
出演:宮﨑あおい、瑛太、西島秀俊、永作博美、小山田サユリ、野波真帆、加瀬亮、大森南朋
配給:ビターズ・エンド

2014年1月23日木曜日

旅人は夢を奏でる  Road North / Tie Pohjoiseen


デコボコ親子のゆる〜いロードムービー

ミカ・カウリスマキが今作で描くのは親子の関係性。難しくなく独特のゆる〜い感じでロードムービーに仕上げた。
本国フィンランドでは並みいるハリウッド映画を抑えて連続首位を記録し大ヒットしたとか。
主演はミュージシャンの顔も持つ俳優たち。どうりで歌がうまい訳だ。

几帳面で仕事にストイックな音楽家ティモの前に、ある日突然酔っぱらいの男が現れ自分は父親だと名乗る。35年間も音信がなかったのにふいに訪れ「よう」と気軽な乗りで、北欧なのにアロハシャツという陽気で何とも憎めない男・レオ。この対照的な親子がレオの言うままに旅に出る。旅の先々で出会う人を通して次第に打ち解け合い、そして知られざる親子の過去が明らかになっていく。

あまりに自由奔放で家を勝手に出て行ってしまった父親の影響で、生真面目過ぎる人生を歩んだティモだったけど結局は生真面目過ぎて家族が出て行ってしまう。なんという皮肉。二人して糖尿病を煩っているように血は争えないのか。そしてどの国でも親の影響はデカいのだ。


それにしてもレオのキャラクターが面白い。明らかな偽造パスポートでの入国からはじまり、売り場のストッキングをおもむろに被りスーパーで小銭を強盗し(このシーン最高!)、アメ車を盗んできて最新式を借りてきたからキーはない、と平然と言ってのける(笑)
そしてその古いアメ車に乗ってロードムービーは始まる。フィンランドの南端にある首都ヘルシンキから北のラップランドへ向かって“森と湖の国”と言われるフィンランドの田園風景を走り抜けていく。

ヘルシンキ(HELSINKI) → ユヴァスキュラ(JYVASKYLA) → アーネコスキ(AANEKOSKI) → ケミ(KEMI) → ロヴァニエミ(ROVANIEMI) → ケミヤルヴィ(KEMIJARVI)


主演の二人、ロイリとエデルマンは俳優業と平行して音楽活動もしている。劇中で二人が宿泊先のホテルで女性にいいところを見せようとステージ上がるシーンでは、見事な歌を披露する。この時バックバンドを務めていたのは、フィンランドの人気バンド、カイホン・カラヴァーニ。セルジュ・ゲンズブールの「ジュテーム・モア・ノン・プリュ」などが使われている。


ミカ・カウリスマキは前作「モロノ・ブラジル」(2012)以来。(2011年に「ファーザーズ・トラップ 禁断の家族」が撮られているが劇場未公開) ロードムービーと音楽が彼の持ち味だ。
自身もブラジルのリオ・デジャネイロに住んでいるとか。弟のアキ・カウリスマキはポルトガル在住だし、北欧フィンランドを代表するこの兄弟は双方南国暮らし。寒いところが苦手らしい(笑)


<作品概要>
旅人は夢を奏でる」 Road North / Tie Pohjoiseen
(2012年 フィンランド 113分)
監督:ミカ・カウリスマキ
出演:ペサ=マッティ・ロイリ、サムリ・エデルマン、マリ・ペランコスキ、ペーテル・フランツェーン、レア・マウラネン、イーリナ・ビョルクルンド
配給:アルシネテラン

2014年1月21日火曜日

ウォールフラワー  The Perks of Being a Wallflower


“壁の花”(ウォールフラワー)チャーリーの青春

アメリカではライ麦畑の再来と言われるほど批評家からも絶賛されている若者のバイブル的小説「ウォールフラワー」、その待望の映画化。原作者であるチョボスキーは、続々と来る映画化のオファーを断り続け、ベストなタイミングを狙っていたそう。そして自ら監督・脚本を手がけることで満を持して製作となったのが本作。エマ・ワトソンはじめ気鋭の若手をそろえキャラクターの設定を丁寧に作り上げていった。

おとなしくサエナイ16歳の男子・チャーリーは、高校に入っても友達はゼロ。窓際が定位置で唯一しゃべるのは家族だけ、たまに声をかけられても悪口か罵声という日々。ある日上級生のサムとパトリックに出会い、彼らの仲間に迎え入れてもらえることにより、チャーリーの学生生活は一気に輝く青春へと変化していく。はじめてのパーティ、友情、恋。しかし、やがて上級生の彼らの卒業の時期が迫ってくる。


80年代後半〜90年代初頭のアメリカ、青春学園ストーリー。

セリフがいい。
「さよなら、窓際の僕。」
「この瞬間だけは悲しみも消えて生きてる。誓って言う。この瞬間こそ僕らは無限だ。」
「なぜやさしい人たちは、間違った相手とデートを? 自分に見合うと思うからだ。 本人の価値を教えるには? 試せばいい」

キャストがいい。
エマもいいが、チャーリー(ローガン・ラーマン)とパトリック(エズラ・ミラー)が負けずと抜群にいい。この3人で見事にこの映画を引っ張っている。
エマはハリポタのハーマイオニーの優等生キャラからの脱却を図ることに必死なのか、真逆の役に積極的に挑戦している感じだ。「ブリングリング」ではセレブ豪邸の窃盗団のメンバーだし、本作でも過去の傷を負ったはみ出しもの。でも割と役にハマっていていい。
この映画にピッタリな良い役者が揃った。


そして音楽がいい。
スミスが失恋音楽のバイブルと言ってる当たりは「(500)日のサマー」と同じ感覚、この手の映画の選曲のセンスの良さはキーポイントだったりする。
象徴的なのは、Dexys Midnight Runners「Come on Eileen」。


他にもこの映画を彩るカルチャーが満載。

★MOVIES,PLAYS
「ロッキー・ホラー・ショー」

★BOOKS
「アラバマ物語」
「ウォールデン 森の生活」
「路上/オン・ザ・ロード」
「グレート・ギャツビー」

★MUSIC
「Could it be another change』   The samples
「Asleep』  The Smiths
「Teenage Riot」  Sonic youth
「Come on Eileen」 Dexys Midnight Runners
「Heroes」  David Bowie
「Temptations」  New Order
etc

“誰もが共感できる青春”というようなコピーがあったけど、アメリカの高校生活は日本とは全然違うから同じような体験はない。プロムはないし、ゲイなんて絶対カミングアウトしないし、広い自宅でパーティなんてしないし、車にも乗らない。友達のプレゼントにタイプライターを贈るなんて高校生は金持ちだけだ。そういう意味では全く共感できないが、アメリカの高校生活の空気感はとても伝わるし、すごくいい青春映画なのは間違いない。


<作品概要>
ウォールフラワー」  The Perks of Being a Wallflower
(2012年 アメリカ 103分)
監督・脚本・原作:スティーブン・チョボスキー
出演:ローガン・ラーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラー、メイ・ホイットマン、ポール・ラッド、ケイト・ウォルシュ、ニーナ・ドブレフ、エリン・ウィルヘルミ
配給:GAGA 

セブン・ボックス  7BOX 7cajas


DVDスルーの傑作選 世界の映画祭を席巻したパラグアイ発の傑作エンターテイメント!

パラグアイは今まで製作された映画の本数が合計で20本にも満たないそう。そんな映画後進国のパラグアイから、各国の映画祭で話題を呼んだ面白い作品がやってきた。スラム街を舞台に貧困などの問題を描きつつ、説教臭くならずエンターテイメントに徹した作品だ。

巨大なアスンシオン市場で、運び屋として荷車を引く少年ビクトルに、ひょんなことから100ドルもの大金が得られる仕事が舞い込む。ある精肉店から7つの箱を運び出すだけな簡単な仕事なはずだった。ところがその箱に目を付けた商売敵や泥棒、ギャングや警察までが複雑に絡み、箱を巡って物語が加速し始める。

歴代の映画製作が20本以下という信じられないくらい映画が作られていない国から、よくもまあこのレベルの作品が出てきたものだと思う。スラム街を舞台に少年が駆け回る感じは、ダニー・ボイル監督の「スラムドッグ$ミリオネア」にも通じるし、ギャングが銃をぶっ放すところは「シティ・オブ・ゴッド」を感じさせる。

2005年の設定だから、携帯電話の画質が悪い動画が撮れるだけで「すげー」となる時代。当然はスマホはなく、ガラケーだけ。そしてそのガラケーすら持てない貧しい少年たち。そのガラケーが小道具としていきてくる。
でも、最高に効いているのが韓国人(笑) 料理店を営む韓国人親子が南米の濃い連中の中で、その“のっぺりとした”薄い顔でスパイスとなっている。


それにしても、新宿・シネマカリテのDVDスルーの傑作選をワンコイン(500円)で劇場上映する企画は素晴らしい。その名も“オト カリテ”。「サブマリン」もそうだったけど、なかなか良い作品がやっている。安いし。パンフレットが無いのが残念。

[主な映画祭出品・受賞歴]
・トロント国際映画祭 正式出品
・マイアミ国際映画祭 観客賞受賞
・サン・セバスチャン国際映画祭 Youth Award受賞
・ゴヤ賞 スペイン語外国映画賞ノミネート
・サンタバーバラ国際映画祭 スペイン・ラテンアメリカ映画賞
・カルタヘナ国際映画祭 監督・脚本賞受賞
・パームスプリングス国際映画祭ニュー。ボイス/ニュー・ヴィジョン賞受賞
・SKIPシティ国際Dシネマ映画祭 脚本賞受賞


<作品概要>
セブン・ボックス」 7box 7cajas
(2012年 パラグアイ 105分)
監督:フアン・カルロル・マネグリア、タナ・シェムボリ
出演:セルソ・フランコ、ビクトル・ソサ、ラリ・ゴンザレス、ニコ・ガルシア
配給:トランスフォーマー

2014年1月18日土曜日

ドラッグ・ウォー 毒戦


麻薬(ドラッグ)にはじまり劇薬(ドラッグ)に終わる まさにドラッグ・ウォー!

ジョニー・トーが中国本土で撮影に挑んだガンアクション。ラストの至近距離銃撃戦は凄まじい。
巨大麻薬組織に挑む中国公安警察の捜査を得意のアクションとサスペンス性をもって描く。

麻薬製造の罪で逮捕されたテンミンは、中国の法律では死刑になる。そこで死刑と引き換えにジャン警部は潜入捜査の取引を持ちかける。やがて麻薬取引を仕切る黒幕や、香港・韓国・日本をも巻き込んだシンジケートの存在が見えてくる。捜査に協力するテンミンだが果たして信用できるのか、本当のことを言っているのか、サスペンス要素を帯びながら、黒幕に迫っていく。


ジョニー・トーの作品と言われなければ、分からなかったかもしれない。映像は80年代の刑事ドラマのように古めかしい。男臭い物語ではあるのだけれど、ジョニー・トーといえば大げさなほど“侠気”を表現し、反体制でいて、“義”のため、“男の約束”のために死ぬ。そしてガンアクションといえば2丁拳銃は当たり前、アクロバティックな銃さばきやオマエは何発打たれてんだ、と突っ込みたくなるほどのタフガイぶりが象徴的だが、それに比べると正統派にまとまってしまった感が否めない。


それでも最後のガンアクションは凄い! 至近距離での撃ち合い、生き残ろうとする貪欲さは見物だった。

パンフレットにあるジョニー・トー監督のインタビューを読むと分かるが、(インタビュアーはミルクマン斉藤)監督本人も決して納得はしていないようだ。
やはり中国本土で撮るということは規制も多く、更に中国公安警察を描くので、公安と映画と二重の検閲が必要で、大分削ったそうだ。本当はもっと撃ちまくって、もっとたくさん死んでいたらしい(笑)
監督曰く、「本来考えていたものとは全然違う作品になってしまった。今までとは違う“大陸で撮ったジョニー・トー作品”と思って欲しい、申し訳ない。」だそう。

それくらい本土で撮影することは困難なことなのだ。
今後は香港で思う存分“ジョニー節”を発揮してもらいたい。


<作品概要>
ドラッグ・ウォー」 毒戦
(2013年 香港=中国 103分)
監督:ジョニー・トー
出演:ルイス・クー、スン・ホイレン、クリスタル・ホアン、ウォレス・チョン、ラム・シュー
配給:アルシネテラン

2014年1月17日金曜日

夢と狂気の王国


ジブリを密着したテレビのドキュメンタリーと違う部分


「風立ちぬ」に「かぐや姫の物語」と1年に2本もジブリ作品が公開されるという年に、スタジオジブリを追いかけたドキュメンタリー映画が公開される。まさにジブリイヤーの2013年。
映画公開付近になると公開と前後してテレビで同様のドキュメンタリー番組が放映される。わざわざ映画でそれを見せるとはどういうことなのか、何がテレビ番組のドキュメンタリーが違うのか、とても気になるところだ。
テレビは無料で観れるから、わざわざお金を払って劇場まで足を運ばせるにはそれなりの理由と覚悟がいるはず。

本作の企画・プロデュースは、ドワンゴの社長・川上量生氏、上場企業の社長でありながらスタジオジブリに“見習い”として入社しているジブリファン。ジブリ作品が2本も公開される年に“スタジオジブリ”に密着する企画を進めたいと思った。作品と監督だけでなく、スタジオ自体を被写体にした点も特定のタイトルのための番組とは違ったところ。

そして監督は、これで長編映画2作目となる砂田麻美。「そして父になる」の是枝監督のもとで修行し、デビュー作の「エンディングノート」でその才能をみせつけたドキュメンタリーの新鋭。彼女のナレーションで進行する展開は「エンディングノート」と一緒で彼女のペースで、彼女の語り口で、彼女の世界として描かれる。

宮崎監督の引退会見の直前、砂田麻美は宮崎監督と2人きりだったそう。だけど砂田監督はそこでカメラを回さなかったとか。何故なのか。川上プロデューサーが聞いたところ、その回答は「何か違うから」というすごい理由(笑)
“記録”としての役割・意味合いで撮られるドキュメンタリーではありえない現象。
このエピソードでも証明されるように、これはただの“記録”ではなく歴とした砂田麻美監督の“作品”なのだ。

ここが決定的に他のジブリを追ったドキュメンタリー番組と違うところ。

ちなみに撮影期間中にピクサーのジョン・ラセターが訪ねてきて普段OKが出ない撮影許可が取れた。砂田監督の過去の編集を見てラセターが気に入ったのだ。それなのに本編でジョン・ラセターは一切出てこない(笑)こういうあたり、砂田監督の“作家性”が象徴されるエピソードだ。


鈴木敏夫プロデューサーがつけた本作のキャッチコピーは、
「ジブリにしのび込んだマミちゃんの冒険」
あくまで彼女視点の作品であることを見事に言い当てている。


ポスターに使用された写真。フランスのカメラマンが訪れた際に撮影され、宮崎監督が気に入り、背景をコラージュして描いている。だからよく見ると写真と絵のハイブリットだ。
東京・小金井にあるスタジオジブリの美しい建物をゆっくりと移動しながら映し出すオープニング、宮崎駿・高畑勲・鈴木敏夫の3人が一緒に屋上で過ごす一瞬、宮崎吾郎の苦悩、庵野秀明へのオファー、アシスタント三吉さん、ラジオ体操、宮崎VS高畑評、商品化会議、などなど
ジブリの内幕の一瞬を目撃できる。


<作品概要>
夢と狂気の王国
(2013年 日本 118分)
監督:砂田麻美
プロデューサー:川上量生
音楽:高木正勝
出演:宮崎駿、高畑勲、鈴木敏夫、庵野秀明、宮崎吾郎
配給:東宝
製作:ドワンゴ
タイトルデザイン:goen



2014年1月14日火曜日

手仕事のアニメーション 「ゴールデンタイム」&「タップ君」 「つみきのいえ」


日本を代表するプロダクションによる手作りアニメーション

「海猿」、「ALWAYS 三丁目の夕日」など数々のヒット作を製作するROBOTと、VFXプロダクションの白組が贈るオリジナルの短編アニメーション。言葉のない映像で海外でも通じるアニメを届ける。

「ゴールデンタイム」
高度成長期、用済みになった家具調テレビが廃品置き場から脱出しようと奔走する。
公式サイト
人生で2回目のゴールデンタイム(黄金期)を手に入れようとドタバタと立ち回る仕草に愛嬌があって面白い。

「タップ君」
靴職人のお店にはいつもボロボロの靴たちが修理のために運ばれてくる。ある日、タップダンサーの靴がやってくる。靴職人が家に帰った夜、靴たちは密かに会話を始め出す。
人がいなくなった後に靴たちが動き出す感じは「トイストーリー」のよう。

「つみきのいえ」
水没した街に住む老人は、更に水かさが増し上の階に部屋を作り始める。そんな中、愛用のパイプを階下の海の中に落としてしまう。それを拾うべく海中に没した階下に潜っていくがそれぞれの階下に潜るたびに昔の思い出がよみがえっていく。
第81回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞

ゴールデンタイム
タップ君
つみきのいえ

結局は、併映されていた「つみきのいえ」が一番良かった。
絵本では解説があるけれどアニメでは一切セリフはない。画だけでかつて一緒に暮らした家族の思い出や、何故この家はつみきのように積み上げられているのかが分かる。
地球温暖化なのか、メッセージ性も感じられてとてもいい。

タップ君の美術は全て監督が手がけている。この辺りのクオリティはとても高い。
三谷幸喜演出の人形劇「新・三銃士」も日本製で井上文太デザイン。だけど最近の宝くじのCMでキムタクや渡哲也が扮したパペットはアメリカ製。ロサンゼルスの CHIODO BROS が製作。何でも日本ではできない顔の動かし方ができるんだとか。この手の細かい技術は日本のお家芸なので、アメリカに発注せずとも国産でやってもらいたい。
そのためにも、このアニメーション業界の若手にはがんばってもらいたい。


<作品概要>
手仕事のアニメーション

ゴールデンタイム」 (2013年 日本 22分)
監督・脚本・アニメーション・キャラクターデザイン:稲葉 卓
製作:ROBOT

「タップ君」 (2013年 日本 23分)
監督・人形制作・美術デザイン:アンマサコ
製作:白組

「つみきのいえ」 (2008年 日本 12分)
監督・アニメーション:加藤久仁生
製作:ROBOT


2014年1月13日月曜日

少女は自転車にのって  Wadjda


映画館のない国からやってきた傑作映画

サウジアラビアは法律で映画館の設置が禁止されているという映画ファンからすると信じられない国。絶対に住めない! そして厳しくイスラムの教えを守る文化のため女性は男性並みに社会進出をすることはおろか、男性の前で顔を出したりすることすら憚られる。そんな国からやってきたのが女性監督による自由で活発な少女の物語。制限された環境を逆手に取って少女の生き生きとした姿が際立って見えた。

ワジダは、アバヤの下にスニーカー&ジーンズ、ヘッドホンで洋楽を聞くという現代的な女の子。でも超保守的なサウジアラビアでは異端児だ。男の子の友達アブドゥラが乗る自転車が羨ましい。でも女の子が自転車に乗るなんて歓迎されない環境。それでも自由なワジダは自転車を買うために自分で作ったミサンガを売ったり、上級生の密会を橋渡ししたりして小遣い稼ぎをする。それでも自転車を買うには程遠い。ところがある日、コーラン暗唱の大会があり賞金で自転車が買えることが分かりワジダは苦手のコーランを猛練習する。


サウジアラビアはアラブ圏の中でも宗教的に女性の制限が厳しい国だそう。
本作でも女校長が女生徒たちに注意するように、男性に見られても、声を聞かれてもダメ。アバヤを纏い身を隠す。それって昔の日本以上。それに、男子が欲しいという理由で第二夫人のもとに去っていくお父さん。立場的にそれを止められず、泣き崩れるお母さん。なんとも不条理な展開。でもそれが現実のサウジであり、監督が世界に訴えたいことだ。
監督はこれがデビュー作となるハイファ・アル=マンスール。映画館がない国に生まれたもののテレビやDVDでは普通に観れるのでハリウッド大作などを観て育った。社会に出て男性社会の中で透明人間のような自分を感じ、映画に居場所を求めたとか。恐らくワジダ自身が監督の分身なのだろう。ワジダのように自由に育ち、男性社会の不条理さを感じ、黙っていられなくなってしまったのだ。

ワジダ役のワアド・ムハンマドも本作がデビュー作。難航したオーディションの中でジーンズにスニーカー、ジャンスティン・ビーバーが大好きというワジダそのものだったらしい。
お母さん役のリーム・アブドゥラはサウジでは有名な女優さん。名家に生まれながら社会派の作品にも積極的に出演している。

本作は、なんとアカデミー賞のサウジアラビア代表に選ばれた。
映画館のない国からきた映画がアカデミー賞にノミネートされたら面白い。



<作品概要>
少女は自転車にのって」 Wadjda
(2012年 サウジアラビア=ドイツ 97分)
監督:ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラ、アフドゥ、アブドゥルラフマン・アル=ゴハニ
配給:アルバトロス・フィルム

2014年1月9日木曜日

第26回東京国際映画祭 26th Tokyo International Film Festival


日本を代表する国際映画祭“東京国際映画祭”

映画祭の位置づけとしては映画のお祭りだけでなく新作の買い付けのマーケットの場でもある。それだけに来場者は一般の映画ファンのみならず、若い才能を探すバイヤー、劇場関係者、映画評論家などの業界人が海外からも訪れる。

前回第25回までは、代表者がチェアマンとして、映画会社GAGAの社長である依田巽氏が務めていたが、今回から角川グループの椎名保氏がディレクター・ジェネラルという新しい肩書きで初代として就任した。
依田さんの時はレッドカーペットではなくグリーンカーペットにしたり、“エコ”なイメージを全面に押し出していた。時代的にも環境問題やエコ活動などが注目されていたので、振り返るとその時の時代背景まで見えて面白い。グリーンカーペットになった時は賛否巻き起こったがインパクトは絶大だった。
今回もグリーンカーペットは継承されている。

<歴代のポスター、プログラム>

























<第26回東京国際映画祭 受賞結果>
→結果一覧ページ

◉東京 サクラ グランプリ
『ウィ・アー・ザ・ベスト!』(スウェーデン)
監督:ルーカス・ムーディソン

we are the best!
◉審査員特別賞
『ルールを曲げろ』(イラン)
監督:ベーナム・ベーザディ

◉最優秀監督賞
監督:ベネディクト・エルリングソン
『馬々と人間たち』(アイスランド)

◉最優秀女優賞
ユージン・ドミンゴ
『ある理髪店の物語』(フィリピン)

◉最優秀男優賞
ワン・ジンチュン
『オルドス警察日記』(中国)

◉最優秀芸術貢献賞
『エンプティ・アワーズ』(メキシコ=フランス=スペイン)
監督:アーロン・フェルナンディス

◉観客賞
『レッド・ファミリー』(韓国)
監督:イ・ジュヒョン

◉アジアの未来 作品賞
『今日から明日へ』(中国)
監督:ヤン・フイロン

◉アジアの未来 スペシャル・メンション
『祖谷物語−おくのひと−』
監督:蔦哲一郎

◉日本映画スプラッシュ 作品賞
『FORMA』
監督:坂本あゆみ


今回から新設された「アジアの未来」、こういったところでいかにアジア色を出していけるかが今後の課題。アジアの国際映画祭としては老舗でも後発の釜山国際映画祭に、アジアでの国際映画祭の地位は奪われてしまった。大型スポンサーが降りたり、特色がなかなか出せなかったり迷走を続けていたが、アジアを代表する映画祭になってもらいたい。


<開催概要>
第26回東京国際映画祭」Tokyo International Film Festival (TIFF)
主催:公益財団法人ユニジャパン(第26回東京国際映画祭実行委員会)
共催:経済産業省、東京都
期間:2013年10月17日(木)〜25日(金) 9日間
支援:文化庁

2014年1月8日水曜日

キック・アス  Kick Ass


アメコミの超変化球ムービー!

アメリカでなければ絶対に制作されないようなオタクムービー。突き抜けたことができたのが面白い。それが勝因の全てだろう。大手スタジオでの話があったそうだけどやらなくて大正解。規制にとらわれて中途半端にまとまってしまうほど面白くない映画はない。

スーパーヒーローに憧れるイケてないオタク少年デイヴは、ある日、自らスーパーヒーローになろうと決心し、ネット通販で買ったコスチュームに身を包み悪を撃退しようとするが、当然何の特殊能力もないため見事に返り討ちにあう。だけどそれがキッカケで憧れのケイティと急接近。懲りずに再会したパトロールで犯罪組織に巻き込まれるが、同じようにコスチュームを着た謎の少女ヒット・ガールに助けられる。彼女の父親ビッグ・ダディも登場し、デイヴの日常は劇的に変わっていく。

全然強くないキック・アスがギャングにボコボコにされるのに笑わされるが、わずか11歳の少女ヒット・ガールがそれを助けて相手を殺しまくる!この意外すぎてやりすぎな展開がこの映画の肝だ。大手スタジオからクレームがついたのもこの部分だとか。ヒット・ガールの削除を要求されたとか。でもこのキャラクター設定を守り抜くべく監督は私財を投じて製作し映画を完成させた。恐るべき映画愛。(原作愛?)

ヒット・ガール役のクロエ・グレース・モレッツは、本作のパート2「キック・アス ジャスティス・フォーエヴァー」にも出演。その他には「(500)日のサマー」「ジャックと天空の巨人」「ヒューゴの不思議な発明」「キャリー」など。最近はグッと大人っぽくなった。


<作品概要>
キック・アス」 KICK-ASS
(2010年 イギリス=アメリカ 117分)
監督:マシュー・ボーン
出演:アーロン・ジョンソン、クロエ・グレース・モレッツ、ニコラス・ケイジ、クリストファー・ミンツ=プラッセ、マーク・ストロング
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

2014年1月7日火曜日

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ  Only Lovers Left Alive


ひっそりと現代に生きる弱く美しい吸血鬼(ヴァンパイア)

今の時代に暮らす吸血鬼はどうも大変そうだ。
血は病院のドクターに裏金を渡し、新鮮でいて好みの「RH− O型」をご指名し調達する。事件になるから人を殺めることもない、それに最近は汚染された血が増えてきて危険だ。

夜の世界にひっそりと生きるアウトサイダーを描いてきたジャームッシュが今回選んだのは、吸血鬼(ヴァンパイア)。
ついに描く対象が人間ではなくなった(笑)

孤高のアーティストのように、ひっそりと美しく生きるヴァンパイアの恋人、アダムとイヴの恋物語。 やがてイヴの妹エヴァの登場で徐々に二人の生活は狂い出していく。

彼らが調達する血は最上級だ。
小さなワイングラスになみなみと注がれた血を一気に飲み干す。そして全身でそれを味わう。まるで上等なドラッグをキメた時のようだ。


待望のジャームッシュの新作。「リミッツ・オブ・コントロール」依頼4年ぶりの監督作。音楽・英国文学、ジャームッシュが好きなカルチャーがちりばめられている。
特にヴィンテージなギターの数々。好きな人にはたまらないラインナップなのだろう。
だけどやっぱり前作「リミッツ〜」でみせたぶっ飛んだ設定と展開の方が面白かった。
ヴァンパイアという設定も普通ではないけれど。

タンジール - デトロイト
かつては栄えたさみしい街にこの物語は似合う。


<作品概要>
オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ」 Only Lovers Left Alive
(2013年 アメリカ=イギリス=ドイツ 123分)
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、アントン・イェルチン
配給:ロングライド

2014年1月6日月曜日

鑑定士と顔のない依頼人  The best offer


名匠と絵画とミステリー

とても上品なミステリーに仕上がっていた。美術品を扱う内容だからというのもあるけどやっぱりジェフリー・ラッシュが効いている。「英国王のスピーチ」の印象が強いのかもしれないけど、彼が出ているだけで知的で高貴で上品な感じがしてしまう。作品の内容とキャストがとてもマッチしていた。

鑑定士でありオークショニアでもあるヴァージル・オールドマンは腕は一流だが、人を信用しない偏屈な男。ある時、相続した膨大な数の美術品を売却したいという女性から依頼が入る。ところが何だかんだと理由を並べ姿を現さないその女性に興味を持ち始め、引き受けた鑑定を進めながら徐々に姿の見えないその女性にのめり込んでいく。

監督は、イタリアを代表する名匠ジョゼッペ・トルナトーレ。「ニュー・シネマ・パラダイス」は誰もが知る名作。そして音楽を手がけるのがこの「ニュー・シネマ・パラダイス」のあの名曲を手がけたイタリアの至宝エンニオ・モリコーネ85歳。ほぼ全ての作品でタッグを組む黄金コンビ。


超一流で仕事一筋、恋する相手も絵画の中の女性たち。
そんなおじさんがある時、初めて生身の女性に恋をした。そしたらやっぱり案の定、人生が狂い出す。恋は盲目なんていいますが、どんなに仕事で一流の人でも冷静な判断ができなくなってしまうのか。脚本も良くできていて面白かった。

向かいのカフェにいる不思議な女性、その存在はデヴィット・リンチの映画にも出てきそうな感じ。
最後のシーンで彼が待っていたのは誰なのか。それとも待ち人は来ないのか、あの意味が知りたい。

本作では数々の有名絵画が登場する。
◆ルノワール 「ジャンヌ・サマリーの肖像」
◆モディリアーニ 「青い目の女」
◆ゴヤ 「ベルムーデス夫人の肖像」
◆クリストゥス 「若い女の肖像」
◆ブーグロー 「ヴィーナスの誕生」
◆ティツィアーノ 「ラ・ベッラ」
◆ボッカチーノ 「ジプシーの少女」
◆クレディ 「カテリーナ・スフォルツァ」
など

▼予告編
http://www.youtube.com/watch?v=6oeE9w_w6Ak


<作品概要>
鑑定士と顔のない依頼人」 The best offer La migliore offerta
(2013年 イタリア 131分)
監督:ジョゼッペ・トルナトーレ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・ホークス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン、ダーモット・クロウリー、リヤ・ケベデ
配給:ギャガ

2014年1月5日日曜日

反撥 Repulsion


ドヌーブによる「こわれゆく女」

ジーナ・ローランズによる「こわれゆく女」は1974年。本作は1965年なので、こちらの方が本家ではあるが、徐々に狂気をはらみこわれてゆく美女を描くあたりは共通した作品だ。だけどジョン・カサベテスの「こわれゆく女」の方が痛さを感じる。

姉と暮らすキャロルは、奔放な姉とは対照的に潔癖で男性を受け付けない。コリンからは口説かれ続けているがどうしても前向きになれない。男性に犯される幻覚を見たり男性恐怖症の兆候があらわれ始め、仕事場でもミスが目立つようになる。そんなある日、姉が恋人と旅行に行くことになり、ひとりになると、ついに兆候に歯止めがきかなくなっていく。

とにかく、カトリーヌ・ドヌーブが若く美しい。
この時代のドヌーブは見ているだけでもいい。
それに、あまり演技を気になしたことがなかったけどこわれゆく姿をよく表現できていた。演技ということで言えばジーナ・ローランズの方がすごいけど。


監督のロマン・ポランスキーは、この頃の初期作品で評価され、アメリカに渡り「ローズマリーの赤ちゃん」を監督することになる。
サスペンスの手法が今見るととても古典的で全然怖くない(笑)だけどこの当時はこういう演出が最先端だったのだろう。「ローズマリーの赤ちゃん」でもそうだけど、ホラーやハラハラドキドキが苦手な人でもこの頃の作品なら安心して観れるからオススメ。

それにしてもこの作品は最後の最後まで良くできている。
キャロルの暴走に歯止めがかからなくなってしまった衝撃のラストを迎えた後。

最後の家族写真。
少女の目線の先にいる父親らしき笑顔の男、そして写真がクローズアップされるにつれ少女の恐るべき形相によって何故ここまで男性恐怖症になってしまったのかが暗示されるという種明かしが。
最後の最後にぞぞっとさせる仕掛けを用意して「なるほど」と締めくくる。
とても良くできている映画だ。


<作品概要>
「反撥」 Repulsion
(1965年 イギリス 105分)
監督:ロマン・ポランスキー
出演:カトリーヌ・ドヌーブ、イヴォンヌ・フルノー、イアン・ヘンドリー、ジョン・フレイザー、パトリック・ワイマーク
配給:マーメイドフィルム