2014年4月26日土曜日

ある精肉店のはなし


いのちと、生きることと、暮らしていくことがつまったおはなし。

牛をめぐるドキュメンタリーでは、「夢は牛のお医者さん」が相当良かっただけに、ちょっと特別な期待をもっていたけど、これもまたいい。
学校の先生が好きそうな、教育上とてもよろしいタイプの作品。

大きな牛をおじさんが引いている。犬の散歩をするかのごとく、綱を引っ張って住宅街を歩く。そんなちょっと変わった光景から始まる、あるお肉屋さんのおはなし。おじさんと牛の行き先は、自宅からすぐのところにある屠殺場。
牛の飼育から屠殺、卸、販売までの一連の流れを全て行う「肉の北出」。北出さん一家の仕事を通して、いのちが食卓に上がるまで、そしてこの精肉という仕事にまつわる一家の、そして地域の、そしてこの国の歴史が浮かび上がってくる。


引いてきた牛を、いきなりハンマーで気絶させ、手際よく皮を剥ぎ、切り分けていく。そしてあっという間に、さっきまで生きていた牛は、肉の部位になってしまった。
そんな、屠殺シーンから始まるあたりこの映画、相当なインパクト。
北出家というとてもフレンドリーでユーモアのある一家を通して、精肉という職人一家の一面と、その背景にある非差別部落の一面を描き出していく。

北出家の歴史は19世紀にまで遡る。江戸時代末期、当時の日本は家畜の肉は一般的に食べる習慣はなかった。そういった社会の中で、死んだ牛や豚の肉を捌くという作業は、被差別の要因となっていった。 
パンフレットのコラムに載っていた意見で、歌舞伎や能といった芸能も昔は被差別のものだったけど今や伝統の継承者となって立場は大きく変わったというものがあったけど、その通り、精肉という技術の職人として尊敬される立場になってもらいたい。


「この映画に出演することに決め、生活の全てを見せるということは、全てを受け入れる覚悟があってのこと。」北出さんの意気込みがその言葉に集約されている。

ひとつの命が食肉になっていく過程を通して、いろんなものが見えてきた。ダンジリ祭りが盛大に行われるある地域の小さな精肉店を通して、命とは、生きることとは、暮らしていくこととは、をその背景の歴史まで含めて考えさせてくれる。 
決して涙を流して感動させるような作品ではないけれど、すごい感動を与えてくれる作品でもある。


<作品概要>
ある精肉店のはなし
(2013年 日本 108分)
監督:纐纈あや
製作:本橋成一
出演:北出さん一家
配給:やしほ映画社、ポレポレタイムス社


2014年4月25日金曜日

たまの映画


なぜ? いま、たま。
一斉を風靡した“たま”のいまを追うドキュメンタリー

イカ天(三宅裕司のいかすバンド天国)でブレイクし、「さよなら人類」でデビュー、60万枚の大ヒットを飛ばした伝説のバンド「たま」。独特の存在感と演奏スタイルで強烈な印象を残した彼ら。時代が移り行く中でも、そのスタイルを変えずにメディア露出よりもライブをメインに活動している、バンド“たま”は2003年に解散。元メンバーの知久寿焼、石川浩司、滝本晃司、それぞれの“いま”を追う。
※途中で脱退した柳原幼一郎は出演していない

「さよなら人類」が、デビュー曲にして、唯一の大ヒットとなったため、一発屋と言われることもあるけど、彼らは常にマイペースで、等身大のパフォーマンスを続けている。

そのスタイルの変わらなさにいま観るとおどろき。実は彼らは全く変わっていなかった。変わったのは彼らを取り巻く環境で、わっと注目して、去っていってしまったのは世間の方だった。彼らは今でも同じスタイルで普通に吉祥寺でライブしてたりする。


ケラリーノ・サンドロビッチ、ワタナベイビー、大槻ケンヂなど、彼らを知る人たちのインタビューなどを交え、当時を振り返るが、昔の映像は出ず“いま”の彼らにフォーカスを当てている。
とにかく当時のインパクトは凄かった。タンクトップが印象的だった石川浩司はそのままで、知久寿焼は歯が抜けて、ハゲてしまっていたけどやってることは変わらない。


監督は新鋭、今泉力哉。本作で長編デビューとなる期待の若手。(奥さんも映画監督の今泉かおり)
今泉監督は、なぜ「たま」を撮ろうと思ったのか。
インタビューによると、元々はこの企画を依頼された時点では、「さよなら人類」という曲と、タンクトップのひとがいるバンドということくらいしか知らなかったらしい。その後、彼らのライブをみて、その不変のスタイルに感銘を受け、ファンでなかったからこそできることもあると、引き受けたらしい。
それでも、「なぜ?、いま、"たま”」という疑問は常につきまとったとか。


「あの人たちは今」というには、何周年記念でもなんでもない。本人やファンたちからも「なぜいま?」と言われたとか(笑) それでも今泉監督は長編デビュー作の題材として彼らを選んだ。そして、ファンでなかったからこその視点で、昔の映像などは使わずに、当時の印象と、実際の人柄なんかを映し出す。
石川さんはライブでインパクトあるパフォーマンスをするけど、インタビューではすごく真面目なこと言ってたりして、知久さんは呑んべえで、虫マニアという(笑)、地で変わった人だったり、滝本さんはその二人と一緒に出てくる分、すごくクールでかっこいい感じだったり。

3人それぞれではあるが、「やりたいことをやりつくす」という言葉が印象的だった。やりたくないことで苦労したくはない。残りの人生をやりたいことをやりつくす、そう言っていた。
これからも、そうであって欲しい。


<作品概要>
たまの映画
(2010年 日本 111分)
監督:今泉力哉
出演:知久寿焼、石川浩司、滝本晃司
配給:パル企画

2014年4月23日水曜日

パンドラの約束  PANDORA


"反原発"から"原発支持"へ180度方向転換な人々を追うドキュメンタリー

サンダンス映画祭で反響を呼び、映画を観る前に
75%以上が反原発だったのに、観賞後は8割以上が原発推進を支持したという触れ込みで登場。

宣伝の触れ込みは凄かったけど、そこまですごいか?? というのが正直な感想。
感心の低いアメリカではそうだったかもしれないけど、被爆国であり、震災時に福島で原発事故も引き起こした日本での受け止め方はまたちょっと違う。

アメリカの著名な環境活動家やイギリスのジャーナリストなど、元々は反原発の人たちが180度意見を変えて、支持になった経緯を追い、温暖化や貧困の解決策として唯一のエネルギー源であることを訴える。


監督は、ロバート・ストーン。自身も原子力には反対をしてきたが、環境問題を探る中で「貧困と温暖化を解決できる唯一の道が原子力エネルギーだとしたら?」と立場が変わったらしい。

この映画では、
・原発はCo2を出さず、フランスは、反原発国ドイツの半分の排出量
・チェルノブイリの被害は言われているほど悲惨じゃない
・放射線は自然界にもある
・次世代の原発(IFR)は、安全性が高い
など、環境保護的なメリットや、放射能の危険性が誇大に主張されていることなどを訴えている。

んー、だけどちょっと楽観的な意見じゃないでしょうか。
Co2を出さないのは分かるけど、多大なリスクはあるし、次世代の原発はいくら安全だと言ってみても、今までも安全と言われてきたものだけに「想定外の出来事」が起こった際の危険性は感じてしまう。


シネマライズは真逆の作品「100,000年後の安全」と併映しているところが面白い。こちらは放射能の有害性や危険性を訴え、フィンランドにある放射性物質の処理場を描いていている作品。この現場を視察して原発支持から脱原発に意見を変えたと言われるのが、小泉純一郎元首相だ。
ただこの作品はとっくにDVDで観られるのでその辺りは微妙。以前のシネマライズならやらなかったような企画で、かつてのミニシアターの雄も迷走感が否めない。


一番驚いたところは、チェルノブイリ近郊の避難地区の村に住民が(勝手に)戻ってきていること。そしてそこで普通に生活をしていたことだ。 チェルノブイリでは今でも人が立ち入れないために動物が繁殖しているとか。 この住民たちや動物たちに協力を仰ぎ、多いに研究してもらい、是非今後の福島の対策に役立ててもらいたい。


<作品概要>
パンドラの約束」  Pandora's Promise
(2013年 アメリカ 87分)
監督:ロバート・ストーン
出演:スチュアート・ブランド、グイネス・クレイブンス、レン・コッホ、マーク・ライナース、リチャード・ローズ、マイケル・シェレンバーガー
配給:トラヴィス

2014年4月21日月曜日

ヒッチコック  HITCHCOCK


アンソニー・ホプキンスが怪演!気持ち悪いほど人間くさい、嫉妬と愛情とにまみれたヒッチコック。

サスペンスの巨匠ヒッチコックは、何とアカデミー賞を一度も受賞することがなかった無冠の帝王だ。その天才アルフレッド・ヒッチコック監督の内面と、その天才を創り上げ、支え続けた妻アルマ。二人の関係性にフォーカスを当てたの本作。
あのサイコの誕生秘話も描かれるヒッチコックファン必見の映画。

「北北西に進路を取れ」で世界的な評価を得た会見で、記者に引退について聞かれる60歳のヒッチコック。しかし彼に引退するつもりなど毛頭なかった。次回作はとても斬新で、刺激的な「サイコ」を企画していた。ところが映画会社や映倫からは不評でNGが出る。それでも撮影を強行するが、試写でも酷評され、追いつめられるヒッチコック。更には最高の相棒(脚本家で編集者)の妻アルマの浮気を疑い、嫉妬にかられ、仕事もプライベートも大ピンチになっていく。


アンソニー・ホプキンスが似過ぎていてキモい(笑)体型から何までヒッチコックでまさに怪演。さすがオスカー俳優です。
妻アルマに嫉妬して、ストーカー的に追ってしまうヒッチコックをハンニバル博士のアンソニー・ホプキンスが演じるから余計怖い。


天才ヒッチコックだけでなく、その妻にしてブレーンのアルマにもフォーカスした点がこの作品の面白いところ。あの名作「サイコ」ができるまでの意外な紆余曲折や、アルマの演出によって、できたあの名シーン。それに一旦お蔵入りになりそうになった「サイコ」を再編集によって夜に送り出した功績など、天才の陰には、ブレーンがいるものです。


<作品概要>
ヒッチコック」  HITCHCOCK
(2012年 アメリカ 99分)
監督:サーシャ・ガバシ
出演:アンソニー・ホプキンス、ヘレン・ミレン、スカーレット・ヨハンソン、
配給:20世紀フォックス

2014年4月20日日曜日

ある過去の行方  THE PAST


ストーリーテリングの巧さに驚き!のサスペンス

とにかくストーリーテリングが巧い!
時間軸で物語は進行していくけど、話の内容としてはどんどん過去に遡っていく。ある地点から話は始まるが、説明は一切ないまま物語は進行していくため、登場人物の会話から今どういう状況なのかを推測するしかない。その演出の仕方がたまらなく巧いのだ。もう観ていてその映画作りの技術の高さに感心してしまうくらい。
そして、昼ドラのように愛情と憎しみがもつれ合う複雑な人間関係が浮き彫りになっていく。

妻との離婚手続きのため、4年ぶりにパリに戻ってきたアーマド。妻の自宅に泊まることになるが、そこには妻・マリー=アンヌの新しい恋人サミールの息子もいて新しい生活を始めている姿があった。だがどことなく、不穏で円満でない空気があり、そして、長女リシューの告白により、隠れた過去と真実が次々と明るみになっていく。


監督は、イランの新鋭アスガー・ファルハディ。本作が長編6作目。まだ若干41歳なのに若手とは思えない、熟練監督のような見事な作品づくり。前作の「別離」(2011)もかなりの傑作。これまでにもベルリン国際映画祭などで受賞している。

本作は、フランスで製作されているフランス映画。主演はアルゼンチン出身のベレニス・ベジョで、あの「アーティスト」の女優。


昼ドラのように男女の人間関係が愛と憎しみの中で絡み合う。 日本人的には見ていてちょっと分かりづらいけど、フランス社会の中で、イラン人である元夫アーマドに替わる新恋人が、またまた中東系の容姿となると、タイプなのか未練なのかということがその時点で推測される。 外国映画だとなかなかそこに気づきにくいのが残念。。

でもサミールが出てくる前は、彼の息子しか出てこず、息子フアドはいかにもフランスの子どもなのでその時点は想像できないかも。 それにしてもフアド役の子はよかった。あのわがままボーイぶりは最高だった。長女のリュシー役のポリーヌ・ビュルレも負けずといい。マリオン・コティヤールのような魅力を持っている。


それにしても、いい作品だ。


<作品概要>
ある過去の行方」  THE PAST / Le Passe
(2013年 フランス=イタリア 130分)
監督:アスガー・ファルハディ
出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モッサファ、ポリーヌ・ビュルレ、ジャンヌ・ジェスタン、サブリナ・ウアザニ
配給:ドマスターサンズ


2014年4月19日土曜日

ストロベリーナイト


菊田の立場が切なすぎる 誉田哲也原作の劇場版

フジテレビでドラマ化された誉田哲也の警察小説が原作。ドラマや原作を知らないと登場人物たちの背景が分からない部分もあるが、劇場版は、姫川玲子シリーズ第四弾「インビジブルレイン」が元になっていて、独立した作品の位置づけ。
その名の通り、とにかくずっと雨。

警視庁捜査一家の姫川班の管轄でチンピラが殺される事件が起こる。事件解決に向けるなかで、“ヤナイケント”という名前が浮上するが、上層部からその人物には触れるなと圧力がかかる。不満に思う姫川は独自に捜査を進めていくが。

姫川の過去や、各キャラ設定を知る上では、原作やドラマを見ていた方がやはり伝わりやすいが、映画で説明時間ない中でコンパクトに伝えてはいる。
原作では、姫川玲子のCOACHのバッグやバーバリーのトレンチコートが特徴とか。本作では、エルメスの赤色のオータクロアのバッグがキーアイテムとして使われている。


警察もヤクザも犯人も被害者も、登場人物たちの生い立ちや過去がかなり悲惨すぎ。そんな人物の中で事件は起こり、やがて全貌が明らかになっていく。
小林というチンピラも「あの状況でそんなこと言ったら、そりゃ、やられちゃうよね」という感じで、悪役の印象を植え付けるための演出に逆に引いてしまった。 
姫川に想いを寄せる菊田も、目の前で姫川が牧田(大沢たかお)と・・・という状況は切なすぎる。そこまで尾行しているのもストーカー的ではあるけれど。。

その中で、井岡(生瀬さん)のキャラは、笑いのエッセンスを加えるとても貴重な存在。「玲子ちゃーん!」と駆け寄る姿は、愛されキャラになっている。


そして、最近の西島秀俊はますますかっこいい。
映画やドラマにもよく出るし、CMも急増中。
年齢を重ねることで味が出るタイプの人はいるけれど、西島秀俊もご多分に漏れずどんどんと、いい男、いい役者になっている。
新しく始まるドラマ「MOZU」も大注目だ。


<作品概要>
ストロベリーナイト
(2013年 日本 127分)
監督:佐藤裕市
製作:亀山千広
原作:誉田哲也
出演:竹内結子、西島秀俊、大沢たかお、小出恵介、丸山隆平、宇梶剛士、津川雅彦、渡辺いっけい、遠藤憲一、高嶋政宏、生瀬勝久、武田鉄矢、染谷将太、金子ノブアキ、金子賢、鶴見辰吾、石橋蓮司、田中哲治、三浦友和
製作:フジテレビ
配給:東宝

2014年4月18日金曜日

あなたを抱きしめる日まで  PHILOMENA


ジュディ・デンチが貫禄の立ち回り!

赤木春恵といい、この年の女優恐るべし。アカデミー賞ノミネートは大納得の名演技。ユーモアがあってエネルギーある老女を熱演。

原題の「PHILOMENA」はそのまま主人公のフィロメナの名前。

10代で未婚の母になったフィロメナは、親に強制的に修道院に入れられてしまう。そして息子アンソニーが3才の時、修道院から養子に出されてしまう。50年後、ずっと心に秘めていたその事実を娘に打ち明ける。そして、娘が知り合ったジャーナリストとともに50年前に生き別れた息子を探す旅にでる。


実話ベースということだけど、修道院が子どもたちをアメリカに1000ポンドで売っていたとはすごい。そのお金は修道院の運営のために使われ、子どもたちもお金持ちの家に引き取られる。子どもたちも幸せで、親たちも納得の上であれば、そんなに悪いことだけではないような気もするが、愛する我が子と強制的に引き離されるのであれば、母親にとってこんなに辛いことはない。
そして相手は純潔を守ることを高貴とするシスターたちだ。貞節を守らなかった不貞の娘たちへは厳しい処置は当然という考え方だ。カトリックの教会が人身売買をしていたという衝撃の真実。


フィロメナは、大好きなロマンス小説のストーリーを長々と、しかもオチまできっちりと説明した後で、「この本貸してあげるわよ?」と本気で言ってのけるおちゃめなおばあちゃん。
パンフレットでもジャズシンガーの綾戸智絵さんがレビューを書いてるけど、母親目線&おばちゃん目線で、(関西弁の文面で)フィロメナの息子愛と彼女のユーモアを絶賛している。

1980年代、共和党政権時代の保守的な空気や、大スターのロック・ハドソンがエイズに倒れたというニュースが衝撃だったことは、「ダラス・バイヤーズクラブ」で詳しく描かれている。

bunkamuraル・シネマらしい良作。こういう映画はやっぱりル・シネマみたいな劇場で観たい。


<作品概要>
あなたを抱きしめる日まで」  PHILOMENA
(2013年 イギリス=アメリカ=フランス 98分)
監督:スティーブン・フリアーズ
原作:マーティン・シックススミス
出演:ジュディ・デンチ、スティーブ、クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン、ミシェル・フェアリー、バーバラ・ジェフォード
配給:ファントム・フィルム

2014年4月17日木曜日

夢は牛のお医者さん


ボーイ・ミーツ・ガールならぬ、ガール・ミーツ・うし!

ひとりの少女が牛を愛するあまり、「牛のお医者さんになりたい!」という夢をもち、それに向かって真っすぐに生きていく、26年間を追ったドキュメンタリー。

元々はTeNYテレビ新潟で、山間の小さな集落の小さな学校に“入学”した3頭の牛と、それを世話する生徒たちを追った番組だった。
その生徒のひとり、高橋知美さんはその経験がきっかけで、獣医になる夢を持つ。しかし、獣医になるにはいい学校に行き、専門の大学に行き、国家試験を通らなければならない。彼女の決意を知った監督も、彼女の夢を一緒に追うことを決意する。


もう、涙が止まらない! 小学校生が牛を世話して、大きくなったら出荷して涙のお別れ、というだけで泣ける内容なのに、それはこの映画ではプロローグ。
その経験で「牛のお医者さんになる」という夢を持った少女、高橋知美さんは、誕生日にお父さんにおねだりして買ってもらったのは、なんと「牛」(笑)
そのくらい牛を愛する純粋で真っすぐな少女。

この小学校の取材以来、監督は彼女の“夢”を忘れていた。
久しぶりに連絡をとったところ、新潟県でも有数の進学校に通う知美さんに会い、勉強に励むため「高校3年間はテレビを見ない」と決めて、獣医学科のある難関の国立大学
を目指す彼女がそこにいた。その決意が本物であることに刺激を受け、彼女の夢を見届けることを監督自身も決意したのだとか。


彼女を追った番組は、たびたびテレビでも放映され、その度に反響が大きかった。あの徳光さんを「泣きの徳光」にさせたのが、当時ズームインで放送されたこの『牛の卒業式』。彼女のひたむきな生き方に「元気をもらう」「勇気づけられる」などのコメントも多数寄せられていた。東日本大震災を経て、映画という形に変えて全国の人たちにこの感動を届けたいと地方ローカル局発のドキュメンタリー映画が紆余曲折を経て誕生した。


それにしても、これはリアル「銀の匙」。
本編でも繰り返される家畜は経済動物という表現。命の値段が決まっていて、価値以上の経費はかけられない。動物が好きなだけではダメで、そんなリアルな現実とも向き合っていかなくてはならない姿がより感動を生む。


ナレーションはAKB48の横山由依、本作でナレーション初挑戦となり、京都弁を封印してしっかりと落ち着いたナレーションで映画を演出した。
エンディング曲は、荒井由美の名曲「卒業写真」を新潟県で活躍するオトノハコの演奏でアーティストUruがカヴァー。いろんな意味で新潟県産の映画だ。

最近は地方発のドキュメンタリーが増えてきているけど、良質なものも多い。大きな予算がかけられない分、ドキュメンタリーになることが多いのだと思うけど、良い作品はドンドンと出てきてもらいたい。


<作品概要>
夢は牛のお医者さん
(2014年 日本 86分)
監督:時田美昭
出演:丸山知美(旧姓:高橋)
ナレーション:横山由依(AKB48)
製作:TeNYテレビ新潟
配給:ウッキー・プロダクション

2014年4月16日水曜日

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅  NEBRASKA


偏屈なボケ老人とどこまでも気のいい息子のちょっぴり心あたたまるロードムービー

ブルース・ダーンは本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。カンヌ映画祭では男優賞を受賞。ちょっと間を置いて「は?」と聞き返すあたり、かなり熟年の演技力を感じる。終盤は「は?」言うたびに笑いそうになる(笑)
その他にも、作品賞、監督賞、助演女優賞(ジューン・スキップ)、脚本賞、撮影賞など主要部門でノミネートされた。

ニセ宝くじの当選ハガキを信じて100万ドルの賞金を受け取りに遥々ネブラスカ州リンカーンに行こうとする半分ボケた父に付き合い、疎遠だった息子は、1500kmの旅に出る。途中で立ち寄った生まれ故郷で、昔なじみの仲間たちに100万ドル当選の話をしてしまったことで一躍時の人に。トラブル続きの二人だが旅を通して次第に心を通わせていく。


賞金目当てで寄り添ってくる者が出てきたり、変な親戚が集まったりと、ひとくせもふたくせもある個性的なキャラクターが次々と登場する。田舎の人間くささが満載なのもアレキサンダー・ペインの特徴かもしれない。「サイドウェイ」でも「ファミリー・ツリー」でも変な親戚や登場キャラが、かき回し、それでいて最後には絆が深まっていく。
そんな“アレキサンダー・ペイン流”が見事に、そして静かに物語を進める。


アメリカの田舎町(今作での中西部)は、保守的だったりする。
それを体現していたのが「車」にまつわるエピソード。息子のデイビッドが乗るのは、燃費が良くてコンパクトな日本車(SUBARU)だ。だけど田舎に住む従兄弟たちは、日本車や韓国車をバカにする。(確か、ジャップカーと言っていた) そんなところに現代的な価値観と田舎で保守的な価値観との差が車で表現されていた。

だけどアメリカ人にとって、車は足のようなもの。実用的なアジアの車よりも、燃費は悪くても強くて丈夫なアメリカを象徴するようなアメ車に特別な思い入れがあるのだろう。


最後、新しいピックアップトラックでこれ見よがしに街を走るウディの姿は、それを想いっきり体現している。大逆転の一発だ。


<作品概要>
ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」 NEBRASKA
(2013年 アメリカ 115分)
監督:アレキサンダー・ペイン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキップ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク、アンジェラ・マキューアン
配給:ロングライド


2014年4月15日火曜日

小さいおうち


モダンな家で起こった密かな事件

赤い屋根のモダンな家での暮らしぶりがいい。戦前のまだ戦争に突入する前の、のんびりとした雰囲気がレトロな感じでとてもよく演出されている。家族の話を描かせたら日本随一の名匠山田洋次監督が見事に仕上げ、泣かせてくれる。

黒木華は本作で見事、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。

昭和11年(1936年)、田舎から出てきたタキは、女中として丘の上の赤い屋根のモダンな家で働きはじめる。家の主人は玩具メーカーに勤めるビジネスマン。ある日、部下で若手の社員・板倉が家に訪れ、妻・時子と親しくなっていく。やがてその仲が段々と親密なものになっていき。


レトロな感じがいい。松たか子は、品があるから時代設定を超えて“良いとこの奥さん役”はよくハマる。着物の着こなしから髪型までしっくりきてた。
吉岡秀隆も、「ALWAYS 三丁目の夕日」に続き昭和の匂い全開。昭和初期のインテリ風がよく似合う。「風立ちぬ」の実写版があれば間違いなく堀越次郎だろう。

その中で、黒木華は田舎から出てきた素朴な感じと、まじめで一生懸命な性格がよく出ていた。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞できたのも、そのあたりが海外の人たちにしっかりと伝わったということだ。


話の内容的には、「家政婦は見た」(笑)
その家政婦が晩年、孫に語った回顧録として戦前のモダンな家で起こった秘事が物語となっていく。戦争直前の日本というと殺伐として暗いイメージだが、それは敗戦直前。この映画だと戦争勃発時は結構のんびりとした雰囲気だったりする。この時期の描き方としては意外と新しいかもしれない。

それと、山田洋次監督のもとに集まった蒼々たる顔ぶれのキャスト陣。 とにかく豪華。三谷幸喜監督のような、エンターテイメント的なキャスティングではなくて、もっと地味なんだけど、どの役にもそれなりの俳優さんがキャスティングされていて、終わってキャストをみるとビックリという感じ。

みごとなキャストのアンサンブルで安心して泣ける映画。


<作品概要>
小さいおうち
(2014年 日本 136分)
監督:山田洋次
原作:中島京子
出演:松たか子、片岡孝太郎、黒木華、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、林屋正蔵、ラサール石井、あき竹城、松金よね子、笹野高史、小林稔侍、夏川結衣
配給:松竹

2014年4月13日日曜日

Peace


相田流ドキュメンタリー「観察映画」の老老介護

「選挙」(2007)、「精神」(2008)に続く、相田和弘監督による観察映画第三弾。 ナレーションや音楽を排し、リサーチや台本もない、相田監督独自のスタイル。それが“観察映画”。演出を一切なくすことで、対象のリアルな部分があぶり出される。

今回の“観察”の対象になるのは、相田監督の奥さんの実家である柏木家。そこに暮らすネコたちと、ボランティアに近いヘルパーとして過ごす柏木夫妻の日常を見つめる。

自宅の庭で近所のネコたちに餌付けをする夫・柏木寿夫、最近はどこからか来た“よそもの”の野良猫がまぎれこみ、エサを奪うように。それまでの秩序が崩されてしまい悩みのタネに。

妻・柏木廣子は高齢者や障害者向けのヘルパーのNPOを運営するが、最近は国の福祉予算が削減されるのが悩みのタネに。
身寄りのない一人暮らしの老人宅へ安否確認の日々。

ヘルパーとして91歳の老人を介護するものの、その当人が70歳を超えている。これがいまの日本現実。老老介護の実態をリアルに目撃することになる。

「平和」と「共存」のヒントを題材に、選んだ撮影場所が奥さんの実家。一番身近な日常の場を選んだ。 相田さんの選ぶ題材はいつも面白い。選挙もそうだし、精神科もそう。タブーと言われようがそこに本質が見いだせそうなところ選ぶ嗅覚。一切の演出を排するため、対象の質が重要だ。何が起こるか分からないし、何も起こらないかもしれない。ドキュメンタリー作家の真髄が問われる。

ネコだってちょっとしたことで、いままでの秩序はくずれてしまう。
「平和」と「共存」を問いかける。


<作品概要>
Peace
(2010年 日本=アメリカ=韓国 75分)
監督:相田和弘
出演:
配給:東風

2014年4月12日土曜日

アナと雪の女王[吹替え版]  FROZEN


とにかく歌がハマる!王道ディズニー映画。

ディズニーでお姫様モノといったらもう鉄板。雪の女王を悪者ではなく一人の悩める女性として描き、アンデルセンとは違うダブルプリンセスのミュージカル・アニメーションに仕上がった。

美しい王国で育った王女の姉妹、エルサとアナは大の仲良しだった。そう、エルサが不思議な力に目覚めるまでは。触ったものを凍らせてしまう力を隠すため他人の目を避け、アナからも遠ざかり引きこもるが、あるキッカケで真夏の王国を冬にしてしまう。自分の居場所を求めて王国から飛び出すエルサとそれを追うアナ。王国を救う道は“真実の愛”のみ。果たしてアナは無事王国を救えるのか?

最近のディズニーは、もうほぼCGアニメ。伝統の手描きアニメからは撤退するのだとか。日本のスタジオジブリとの大きな違い。
どちらもいいところがあるけれど、本作はCGならではのキラキラした感じが雪の結晶と相性がよくCGがハマっていた。


[吹替え版]で観たのが大正解。普通は字幕でみるものだけど、ナレーションものとアニメーションは、吹替え版の方がいい場合がある。(あと、ジャッキー・チェン 笑 )

「松たか子がいい」とは聞いていたけど、神田沙也加が想像以上に素晴らしかった。ミュージカル舞台で鍛え上げられたその歌声は本物でした。そして、この二人のコンビネーションが抜群で、最高のアンサンブルになっている。ミュージカルなのでとにかく歌が肝なわけだけど、「Let it go」は、全米で大ヒット、日本をはじめ世界中でもヒット中で、みごとに成功コースを歩んでいる。
アカデミー賞では「長編アニメーション」で受賞し、興行成績を塗り替える勢いの快進撃。日本国内でも、今年最大のヒット(100億超え)が見えてきた。

▼松たか子編

本家アメリカでは、エルサ役をイディナ・メンゼルが努めていて彼女の「Let it go」のダウンロード数は凄まじいとか。彼女は本場ブロードウェイ・ミュージカルの女優で、海外ドラマ「glee」でもレイチェルの母親役として演技や歌声を披露している実力者。
そのイディナを向こうにまわし、「吹替え版」をヒットさせた松たか子の実力もすごい。

現在は、全世界25カ国それぞれの女優が1パートごと歌うバージョンがアップ中。
▼25カ国語編

人と違うことはコンプレックスではなくて、個性なんだとプラス思考に持っていく考え方はいかにもアメリカらしい。日本の昔話だったら1000年でも悩み続けるだろう(笑)

※ディズニーは同時上映される短編も見どころ 本作では初期のミッキーをモチーフに、CGと織り交ざる意外性あるアニメーションだった。


<作品概要>
アナと雪の女王」  FROZEN
(2013年 アメリカ 103分)
監督:
製作総指揮:ジョン・ラセター
出演:(声)
配給:ディズニー

2014年4月11日金曜日

プラチナデータ  PLATINA DATA


情報化社会におけるデータ管理の危険性を警告

東野圭吾の同名小説を嵐の二宮和也主演で映画化したサイコサスペンス。監督は、「龍馬伝」の演出を評価され「るろうに剣心」で監督デビューした大友啓史。剣のアクションはないサスペンスを描く。

2017年。犯罪捜査は、DNA捜査により検挙率100%、えん罪率0%という驚異的な数値になっていた。国民のDNA情報をデータ化し、犯人を割り出して行く。DNA捜査の専門家で天才科学者の神楽は、ある連続殺人事件を担当するが、犯人のデータは、「Not Found」(類似データがない)となってしまう。更に、DNA捜査のシステム開発をする蓼科兄弟が殺害される。そしてそのDNA捜査によって、出てきた犯人情報は、神楽自身だった。身に覚えのない神楽は真相を探るべく単独で動き出す。

原作では違うのかもしれないけど、謎を膨らませるための思わせぶりな伏線が結構お粗末。杏は情報を握っているかなり重要な役どころぽかったのに、結局なんだったのでしょうか。。どういう事だったのかイマイチよく分からない。
サスペンスやミステリーは、謎な展開を膨らませるために多少強引な理由付けも必要だが、強引でも面白ければ許される。だから逆に細かいところの粗が目立ってしまうようだとちょっとツライ。

個人情報が脅かされる日々なので、情報化社会への警告としてのテーマ性は良い。
facebookやLINEなどSNSがかなり身近になった現代。それらは携帯の電話帳を読み込み自社のデータとして保存していく。更に「この人も知り合いじゃないですか?」と個人情報の共通項を照合してサービスに利用していく。
そんな個人情報が知らないうちに利用されていく現代で、自分の情報の危機管理を訴えることにおいては意義がある。


<作品概要>
「プラチナデータ」
(2013年 日本 133分)
監督:大友啓史
原作:東野圭吾
出演:二宮和也、豊川悦司、鈴木保奈美、生瀬勝久、杏、水原希子、萩原聖人
配給:東宝

2014年4月10日木曜日

K−20 怪人二十面相・伝


まるでルパン三世!? マンガ的なノリの軽さ

金城武が主演する日本映画。北村想が原作の「完全版 怪人二十面相・」を映画化。架空の日本を舞台にした世界観はハリウッドのアメコミ映画のよう。

第二次世界大戦がなかった設定の1949年の帝都。一部の特権階級が富の9割を独占する格差社会で義賊・怪人二十面相が出没。ふとしたことから二十面相と間違われたサーカス団員の遠藤平吉は、警察に追われる立場になってしまう。自ら疑いを晴らすために、令嬢の羽柴葉子や明智小五郎を巻き込み、本物の怪人二十面相と対決する。

冒頭の映像は、すごく雰囲気があってハリウッド映画のような世界観がみごとに演出されていた。
この独特の世界観(美術面)がこの映画のポイントだろうか。


金城武のカタコト的な日本語が最後まで気になってしまうのが、ちょっと残念。
しかも後半のビルから飛び降りるアクションシーンは、ハリウッドのアメコミというよりかはルパン三世のような、コミカルで軽いノリな感じになってしまっている。

この映画が製作された2008年は、ちょうど「レッドクリフ」の時期と同じ。あちらは香港映画の巨匠ジョン・ウーが手がけた巨額の製作費の超大作で、主演の2作品はどちらも大ヒット。やっぱり金城武は中国語(台湾語?)の方がしっくりくる。


<作品概要>
「K−20 怪人二十面相・伝」
(2008年 日本 137分)
監督:佐藤嗣麻子
原案:江戸川乱歩
原作:北村想
出演:金城武、松たか子、仲村トオル、本郷奏多、國村隼、高島礼子、鹿賀丈史
配給:東宝

2014年4月6日日曜日

[CM] カロリーメイト 「人間とチーター」編


満島ひかりがホンモノのチーターと共演!

CGではなく、南アフリカのサバンナまで行ってちゃんと撮影してきたらしい。それも満島ひかり本人の申し出で、CGで撮影したくないとのことだったとか。この本物志向は素晴らしい。

ちゃんと調教されていたチーターではあったものの臆せず堂々としたコミュニケーションに現地の調教師も絶賛したとか。


「チーターは、肉しか食べないのに、どうして栄養バランスが偏らないのか?」
そんなテーマのCM。


<作品概要>
「カロリーメイト 人間とチーター編」
(2014年 日本 60秒)
監督:
出演:満島ひかり、チーター
製作:大塚製薬

2014年4月5日土曜日

それでも夜は明ける  12 years a slave


アメリカの暗部「奴隷制」をえぐる衝撃作

アカデミー賞で、主要部門にことごとくノミネートされ、みごとに作品賞を受賞した「それでも夜は明ける」。これが事実ベースというからホントにすごい。それにしてもアカデミー会員はこの手の話が大好きだ。主演のキウェテル・イジョフォーをはじめ、ルピタ・ニョンゴも体を張り、マイケル・ファスベンダーの鬼気迫る演技は見応えがあった。個人的にはポール・ダノにもっと出番をまわして欲しかったけど、ポール・ジアマッティ、ベネディクト・カンバーバッチにブラッド・ピットとここまで豪華俳優陣の中なら仕方ないのか。

1842年、ワシントン。自由黒人のサイモン・ノーサップは、ミュージシャンとして腕のいい料理人の妻と子ども二人と、白人と同じように何不自由なく暮らしていた。ある日、旅の興行師からバイオリンの腕前をかわれ、南部での興行の依頼を受ける。2週間の興行はみごとに盛況で終わり、約束の給料も手にして泥酔した翌朝、彼の手足は鎖でつながれていた。
騙され拉致されて奴隷商人に別名を付けられて売り飛ばされ、奴隷として過ごす日々が始まった。


原作は、本人が著した「12 years a slave」。直訳すると、「12年間、奴隷」。
この原作を映画化したのが監督のスティーブ・マックイーン。前作の「SHAME シェイム」でセックス依存症の男を描き、スキャンダラスな話題を呼んだ英国出身のアーティスト。社会の暗部を鋭くえぐるのが持ち味。結構エグいところまで掘り下げるから衝撃度は強い。 
それにしても奴隷制度はアメリカの闇の歴史だなーとつくづく思う。そして自らそれを映画にしてしまうのだからそれもすごい。
最近のアメリカではこの時代をテーマにしたものが多い。スピルバーグの「リンカーン」やタランティーノの「ジャンゴ」などもこの時代。「奴隷制度」を描きながらも監督が違うとこうも表現が違うものかと見比べてみるのも面白い。


自由黒人だったのに拉致されて奴隷として売り飛ばされ12年間も奴隷として過ごさざるを得なかった主人公のソロモンも悲惨だが、この話で一番悲惨なのは、ルピタ・ニョンゴ演じるパッツィーだ。暴力的なエップス(マイケル・ファスベンダー)に気に入られたばかりに夫人からも嫉妬を受け、ダブルで痛めつけられる。自分を殺してくれるようにソロモンに懇願するが断られ、そのソロモンは自由の身となって帰っていってしまう。彼女の地獄は、それからも続くのだ。 自分の奴隷を取られたと思っているエップスの怒りの矛先は彼女に向くかもしれない。スティーブ・マックイーン監督が描く容赦ない奴隷への仕打ちぶりを散々見せられた後だと尚更、パッツィーが心配になってしまう。。。

過酷な奴隷生活で倒れていく仲間を埋葬して歌うシーン。ゴスペルってこういうルーツなんだな、と思うとちょっと感慨深い。劇中で歌われる「Roll,Jordan roll」がいい。


それにしても、ブラピの役どころはずるい。最後にかっこいいところをかっさらおうなんて。でも、そこはプロデューサーにも名を連ねる特権なんでしょうか(笑)
製作もブラピのプロダクション「プランB」。
ブラピ主演以外でも「キック・アス」なども製作している。

※アカデミー賞 主要部門結果
 ★作品賞受賞!
 ・監督賞ノミネート(スティーブ・マックイーン)
 ・主演男優賞ノミネート(キウェテル・イジョフォー)
 ・助演男優賞ノミネート(マイケル・ファスベンダー)
 ★助演女優賞受賞!(ルピタ・ニョンゴ)


<作品概要>
それでも夜は明ける」  12 years a slave
(2013年 アメリカ=イギリス 134分)
監督:スティーブ・マックイーン
出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ベネディクト・カンバーバッチ、ポール・ダノ、ポールジアマッティ、ルピタ・ニョンゴ、サラ・ポールソン、ブラッド・ピット、アルフレ・ウッダード
配給:GAGA

2014年4月4日金曜日

60万回のトライ


大阪朝鮮高級学校ラグビー部の青春ドキュメンタリー

彼らは普通の高校生。ラグビー部に所属し、全国大会「花園」への出場と日本一を目指して、紆余曲折ありながら日々練習に明け暮れる。
これだけだとサッカーやバレーボールなんかでもある高校生のスポーツドキュメンタリーと変わらない。だけど彼らが大阪朝鮮高級学校(大阪朝高)の生徒たちであるところが、本作にピリリとスパイスが効いているポイント。韓国出身の朴思柔(パク・サユ)監督の目線で描かれる。

2010年、大阪朝高ラグビー部は創部以来、初となる花園での準決勝を戦った。実力がありながら1994年まで花園出場は認められていなかったが、2大会連続でベスト4入りという名実ともに強豪校となった彼ら在日ラグビー部が、グラウンド裁判や高校無償化からの排除、南北緊張と祖国への想いなど複雑な社会環境の中、悲願の日本一を目指す姿を追う。
彼らは60万人いるといわれる在日の同胞に応援され、ラグビーに青春を捧げる。

パク・サユ監督

韓国出身の朴監督も、在日朝鮮人のことをよく知らなかったとか。韓国でもあまり知られていないことらしい。そんな監督が映画撮るキッカケとなったのが、大阪朝高のグラウンド問裁判。東大阪市が所有するという理由から、ラグビー部が花園出場中にも関わらず、グラウンドの一部明け渡しを市が要求し、裁判になった問題。当時、韓国の放送局で海外特派員として日本に来ていた朴監督はこの問題を知り、同時に大阪朝高ラグビー部をもっと応援したいと思うようになったのが本作を撮るキッカケになった。
その裁判はというと、日本人をはじめ多くの市民の署名により無事和解となりました。

その他にも、高校無償化の排除などの問題も降り掛かる。大阪市長の橋下徹氏が高校に視察を行い、その日に無償化から外れる決定がなされた。それは北朝鮮に通ずる機関に助成金は出せないというものだった。
しかし、大阪の行政が絡むドキュメンタリー映画には、「立候補」など橋本さんはよく出てくる。


大阪朝高ラグビー部は強い。
公式戦への出場が認められたのは1991年で創部から20年以上経ったころ。花園への予選参加が特例で認められたのが1994年。そして、1998年には大阪府の決勝戦に駒を進めるが名門啓光学園に敗れる。(この年、啓光学園は花園で優勝)
大阪は高校ラグビーの強豪がひしめく激戦区。この地区で着実に力をつけてきている。そして、この映画に出てくる生徒たちは「黄金期」と呼ばれ、2大会連続でベスト4入りという快挙を成し遂げる。映画でも中心メンバーだった主将のガンテやエースのユインらは、現在、大学ラグビーで活躍し、ユース日本代表にも選出されている。

試合中に脳しんとうを起こし、規定でその後花園で試合ができなかったエースのユインのためにサプライズで、全国の強豪校に声をかけ集まったメンバーによる“親善試合”が行われたエピソードは、とても心あたたまる。監督の発案らしいけど、この話は新聞などでも取り上げられたらしい。


よく聞いていると、彼らは日本語と朝鮮語が交じり合ったしゃべり方をしていて面白い。
印象的だったのは、各国の高校と交流する合宿で、イギリス人に「君は韓国人か?」問われ「そうだ」と答えたら、横にいた韓国人に「いや、オマエは日本人だ」「オレがホンモノの韓国人だ」と言われたというエピソード。これは彼らの微妙な立場をよく物語っている。
日本・韓国・北朝鮮、対立し合う各国がひとつに合わさっているのが朝鮮高校だったりする。もしかしたら、その3カ国の問題解決にひと役買うのが彼らだったりするのかもしれない。


<作品概要>
60万回のトライ
監督:朴思柔(パク・サユ)、朴敦史(パク・トンサ)
音楽:大友良英
配給:浦安ドキュメンタリーオフィス