2016年4月28日木曜日

博士と彼女のセオリー  THEORY OF EVERYTHING

エディ・レッドメインの演技に注目

アカデミー賞主演男優賞を受賞ことでレッドメインの演技が注目の本作だけどやっぱりそこはすごかった。
レミゼの時はたくましい青年だったけど、かなり体重を落としたとみられ、最初からひ弱なガリ勉な感じ。
そして徐々に体が動かなくなっていく様をホントみごとに体現してみせた。
体や表情が麻痺しながらも笑顔をつくるなど、その作り込み具合には感心してしまう。

障害者を演じるのって結構評価されがちなので、どうかとは思っていたけど、でもやっぱりすごい。
サイダーハウスルールのディカプリオやレインマンのダスティン・ホフマンのように、これを転機に更なる演技派への道が期待できる。

エディはすでに既婚で子供もいる。名門イートン 校出身でおぼっちゃん、ファッショニスタとしても有名でいいとこづくしのエリート。
本作でも、イギリスの名門校の雰囲気がよく似合う。寄宿学校、汽車、服装、校舎、あの雰囲気ってやっぱりハリポタみたい。

本作の面白いところは、ホーキング博士の私生活、人としての一面にフォーカスした点。
夫婦の愛の物語でもあるし、発病し余命3年と言われた後にあの病で子供を3人も作るという逞しさ(笑)。そういう人間っぽさが見えたところが面白い。
そして徐々に病に冒されていく博士。そこからはエディ・レッドメインの独壇場。
動きがわずかに鈍くなるような繊細な演技で決して大げさにならず、熱演感もなく自然に演じて見せている。
とにかくエディの演技に大注目な一品。


<作品概要>
「博士と彼女のセオリー」  THE THEORY OF EVERYTHING
(2014年 アメリカ 124分)
監督:ジェームズ・マーシュ
出演:エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ、チャーリー・コックス、エミリー・ワトソン、サイモン・マクバーニー
配給:東宝東和

2016年4月27日水曜日

マジカル・ガール  MAGICAL GIRL

因果が応報するファムファタール作品。

またまた変な映画がやってきた!
スペインの新鋭カルロス・ベルムト監督による長編デビュー作。
予想もつかない話の展開に謎めいた登場人物。スペインの経済不況が背景にあったり、日本のアニメがモチーフになっていたり、全体を包む雰囲気も独特でシュールすぎる内容で面白い。

余命わずかな白血病の少女アリシア。そんな娘の願いを叶えようとルイスはアリシアの大好きなアニメ「魔法少女ユキコ」の衣装をプレゼントしようとする。オークションサイトで見かけるその衣装の高額なお金を手に入れるためにルイスは偶然であったバルバラの弱みにつけ込んでいく。


長山洋子の「春は、SA・RA・SA・RA」が大音量でかかるのに、画面は洋画というかなり面白いシチュエーション。その雰囲気のままこの独特な世界にもっていかれる。

キャストも全く知らないので、誰が主役なのかもよく分からない。
それに二つの話、過去の話が断片的に挟み込まれ、話がどう展開していくのかも読めないドキドキな感じ。


経済不況のスペインらしく、アリシアの父親ルイスも失業中。娘の願い事ノートをチラ見してあのコスチュームが欲しいことを知るんだけど、次のページに小さく書いてある「13歳になりたい」にはグッときてしまう。
失業中にもかかわらず、高額なそのドレスを手に入れようとするあまり、宝石店を強盗しようとまでするがそれと止めたのは、バルバラだった。この偶然の出会いをきっかけにルイスはバルバラにつけ入り、大金を手に入れる。
バルバラも大金をつくるために怪しげな知人を訪ねる。


アリシアからルイスへ。ルイスからバルバラへ。バルバラからダミアンへ。
そしてダミアンから・・・
因果は応報する。

前半にはられた伏線が、後半になってたたみかけるように回収されていく。
この展開お見事。
誰かのために役立とうという気持ちは、だがしかし悪事によってそれを成そうという行為も一緒に連鎖されていく。
それは恐るべきファムファタールによって増幅されていく。


ブラックユーモアも満載すぎて、すぐには消化できないほどいろんな展開がつながりだす。見終わった直後より、ひと息ついて考えてからの方が面白さが実感できる。


それにしてもあのトカゲの部屋ではいったい何が・・・(笑)


<作品概要>
「マジカル・ガール」  MAGICAL GIRL
(2014年 スペイン 127分)
監督:カルソル・ベルムト
出演:バルバラ・レニー、ルシア・ポシャン、ホセ・サクリスタン、ルイス・ベルメホ、イスラエル・エルハルデ、エリサベト・ヘラベルト
配給:ビターズ・エンド

2016年4月26日火曜日

スポットライト 世紀のスクープ  SPOTLIGHT

地味だけど役者たちの演技のアンサンブルが素晴らしい!

とにかく役者たちがいい。自分の仕事に誇りを持って生きている新聞記者たちの姿を活き活きと力強く演じていた。
アカデミー賞で作品賞に輝いた骨太な社会派ドラマ。

ボストン・グローブ社の新任編集長のバロンは、神父が児童に性的虐待をしていたというゲーガン事件をもっと掘り下げるべき事件として特集記事担当のスポットライトチームにこの事件の調査を指示する。
強大な権力を持つ教会を敵に回すような行為だが、スポットライトチームは次々と新しい事実をつかんでいく。


宗教的な拘束力が弱い日本ではあまり感じられないのかもしれないけれど、キリスト教の力が強い欧米にとってはとても衝撃的な事件。
そしてスポットライトチームが調べ上げたこの疑惑の神父の数の多いとこと!
全体の6%という一見小さそうな数字だけど、ボストンだけでも1500人の神父がいて、そうすると約90人が該当する。複数年にわたり複数人になるその被害者の数は膨大だ。
こんな信じられないことを教会は隠蔽し続けた。


キリスト教会において神の代理人である神父の存在は神に匹敵するらしい。
その神父に日頃の教義で禁止されているはずの性的な虐待を受け、口止めをされ、神父を敬愛して止まない両親にも相談できず、精神を病み自殺する子も多いとか。
その罪はあまりにも大きい。

だけど、その強大で聖域である教会にメスを入れようと行動を起こせたのは、編集長がヨソ者で新任のユダヤ人だったから。他の記者はみんな地元出身で、地場の教会を敵に回すような行為は思いもよらなかったのだとか。宗教や地元意識に縛られないバロンだからこその発想だったのかもしれない。


スポットライトチームの描き方として特にフォーカスされているのが取材活動。
彼らはとにかく足を使って様々な関係者に直接会って取材する。
80年代か90年代の映画を見ているのかと錯覚するくらい、PCやネットなどIT機器を使わない。いつもペンとノートでメモを取る。


監督は、トム・マッカーシー。
「扉をたたく人」や「靴職人と魔法のミシン」などは日本でもヒットしているけど、監督5作品目にして早くもアカデミー賞の作品賞を受賞。

そして、キャストがいい!
レイチェル・マクアダムズの女性記者っぷりも良かった。それにあの取材先の小太りの被害者男性もすごく上手い。
マイケル・キートンは、昨年の「バードマン」に引き続いて2年連続でアカデミー作品賞の作品に出演。スポットライトチームのリーダーとして存在感もバツグン。
特にマイク・ラファロのなりきり具合は本当にすごい。モデルとなった記者のクセをまねて本当にいそうな見事な演技。この人は作品ごとに違う顔になれるとてもいい役者。
アカデミー賞でもノミネート常連になってきている。

そんな個性的かつ実力派俳優陣で、正義を信じる熱い新聞記者たちを見事に表現。
パンフレットでは、日本のゴシップ界をにぎわす週刊文春の編集長が映画評を寄せている(笑)


<作品概要>
「スポットライト 世紀のスクープ」 SPOTLIGHT
(2015 アメリカ 128分)
監督:トム・マッカーシー
出演:マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムズ、リーブ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー、ブライアン・ダーシー・ジェームズ、スタンリー・トゥッチ、ビリー・クラダップ、ジェイミー・シェリダン
配給:ロングライド

2016年4月25日月曜日

ミケランジェロ・プロジェクト  THE MONUMETNTS MEN

アートを守るために戦場に赴いた男たちがいた

このメンバーを集められるんだからジョージ・クルーニーの人望って本当にすごいんだと思う。
本作ではプロデューサーのほか監督・脚本と主演も務め、多才ぶりを発揮。盟友のマット・デイモンをはじめとする豪華俳優陣をみてもキャスティングにも相当関わっているはず。

第二次大戦下、ナチスは侵攻先の国々やユダヤ人から財産を没収。その中には貴重な美術品も多数含まれる。実はヒトラーは独自の美術館建設を構想していたのだ。戦争による美術品の強奪や破壊が進む中、終戦間際になりようやくそれらを阻止するためにアートのエキスパートからなる"モニュメンツ・メン"が結成されヨーロッパに向かうことになる。

アートのエキスパートだけど戦闘に関してはからきしの素人が戦場を駈けずりまわるという設定が面白い。映画としても完全にエンターテイメント作品として仕上がっている。


映画「黄金アデーレ 名画の帰還」では、戦時中に奪われたクリムトの絵画を、絵画の元の所有者で絵のモデルとなった女性の親戚が、オーストリアの美術館を相手に返還の訴訟をおこす実話だけど、こういった話はもっと出てくるかもしれない。
それだけヒトラーが奪ったものは大きい。
ヒトラーは、その奪った美術品で美術館を建設しようとしていた。

恐ろしいのは「ネロ指令」。これは行き詰まったナチスが、敵の手に渡るくらいなら全て破壊して焼きはらうよう命じたと言われる指令。
モニュメンツ・メンがいなければどれだけの数の美術品が失われていたことか・・・
想像するだけでも恐ろしい。
今でも戦争やテロで各地の世界遺産が破壊されたり修復不能な状態になることがある。
何も生み出さず、多大な犠牲を払う戦争を人類はいつまで繰り返すのか。


20世紀フォックスとコロンビア(ソニー系)のロゴがオープニングで両方出てくるから、そんなことあるのかと思ったらどうやら共同制作らしい。そんなことあるんだ。

それにしても、奥さんのクリスマスソングが上手すぎ♪


<作品概要>
「ミケランジェロ・プロジェクト」 THE MONUMENTS MEN
(2014 アメリカ 118分)
監督・脚本・製作:ジョージ・クルーニー
原作:ロバート・M・エドゼル
出演:ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ケイト・ブランシェット、ビル・マーレー、ジョン・グッドマン、ジャン・デュジャルダン、ボブ・バラバン、ヒュー・ボネヴィル
配給:プレシディオ

2016年4月24日日曜日

インサイダーズ 内部者たち  INSIDE MEN

韓国社会を牛耳る巨悪に挑み翻弄される男たち。

勧善懲悪型の分かりやすい構図ではあるけれど、敵と味方が入り乱れ、スムーズには運ばないストーリー展開に先が読めない感じで面白い。
イ・ビョンホンのチンピラぶりもカッコよくていい。

次期大統領の呼び声が高い大物政治家と大企業の財閥との癒着の証拠を手にれたチンピラのアン・サングはそれをゆすりのネタにしようと兄貴分の策士イ・ガンヒに持ち込むが、企ては失敗し失墜してしまう。
一方、アン・サングにネタを横取りされ左遷された検事は一発逆転を狙ってアン・サングを探し出す。

韓国社会を牛耳る政治家や財閥企業たちの腐敗ぶりがすさまじい。まさに酒池肉林!な飲み会でゲスなおじさんたちがよく表現されている(笑)


映画は、冒頭カッコよくキメたイ・ビョンホンが記者会見をするところから始まる。
大統領候補や大企業の財閥を告発したシーンからフラッシュバックして、そこに至るまでに何があったのかを描いていく構図。
だからイ・ビョンホンが悪い奴らを吊るしあげた結果が分かった状態から始まるノワールサスペンスなのだと最初思う。
が、そうじゃない展開に二転三転していく。
政治家と財閥は権力モンスターではあるけれど、その間を行き来する策士イ・ガンヒが何を考えているのか分からない。


勧善懲悪な構図ではあるものの、そのストーリー展開はけっこう複雑に入り組んでいて話がよくできている。
熱血検事のウ・ジャンフンが正義感だけでなくて出世欲で協力しているところもなまなましい現実があっていい。

それにしても女優さんがキレイ。
誰なのかと思ったら韓国女優のイエル。
結構重要な役立ったのになぜか作品紹介でもクレジットなく雑な扱いだけど、印象に残る女優さん。


ナッツリターン問題、財閥や大企業の不正、格差社会などいろいろな社会問題で韓国市民の不満がたまっていることがこの映画の裏側にある。「ベテラン」もそうだったけどそれまでタブーとされていた財閥を悪とした描き方が表現され、社会問題を映画が映し出す。

映画としてもとても面白い。


<作品情報>
「インサイダーズ 内部者たち」 INSIDE MEN
(2015年 韓国 130分)
監督:ウ・ミンホ
原作:ユン・テホ
出演:イ・ビョンホン、チョ・スンウ、ペク・ユンシク、イ・ギョンユン、キム・ホンパ、チョ・ジェユン、ペ・ソンウ、キム・デミョン、イエル
配給:クロックワークス