2013年8月31日土曜日
グランド・マスター the grandmaster 一代宗師
ウォン・カーウァイによる初のカンフー映画。
ブルース・リーの師匠として実在した伝説の武道家、葉問(イップ・マン)の波乱の生涯を描く。ウォン・カーウァイらしくアジアのスーパースターを集めた時代活劇。
宗師(グランドマスター)の引退により一番弟子、南北の流派の代表、宗師の娘などが後継者をめぐって入り乱れて争うことに。
1930年代の中国は内戦や日本の侵略にさらされ混乱した時代だったため、大陸のグランドマスターたちは香港に逃れた。そのため当時の香港には武道家の道場がコンビニのように立ち並んでいたそう。
葉問もそのひとり。そして最後の弟子がブルース・リーだと言われる。
そこから今の香港映画(カンフー映画)が誕生するのだ。
勧善懲悪のアクションではなく、映像美と人間ドラマでみせる作品。
撮影はクリストファー・ドイルではないけれど、冒頭からみせる雨の中でのカンフーシーンは必見!
<作品概要>
「グランドマスター」 the grandmaster 一代宗師
(2012年 中国 123分)
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、チャン・ ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャン
配給:ギャガ
天使の分け前 ANGEL'S SHARE
ケン・ローチが珍しく描くコメディ。
社会派で弱者の厳しい環境を描き続けてきたケン・ローチが軽快で希望あふれるコメディを完成させた。
イギリスの巨匠ケン・ローチ、77歳。何か心境の変化があったのだろうか。
でも、面白い作品を届けてくれたのだから嬉しい変化だ。
ウィスキーの名産地スコットランド。
スコットランド産のウィスキーのことをスコッチウィスキーという。
蒸留所で樽に入れられ熟成されるウィスキーは、毎年2%ほど蒸発して減っていく。
その減り分をANGEL'S SHARE(天使の分け前)と呼ぶんだとか。
何とも粋でおしゃれなネーミング!
このタイトルだけで、グッと映画への興味が出てくる。
行き場のない不良少年が、ひょんなことからウィスキーのテイスティングの才能を開花させる。
そして人生の大逆転を狙って、ある大それた計画をたてるのだが果たして、、、
間抜けな仲間たちが展開を面白くする、ケン・ローチの新境地。
何でもいいからスコッチウィスキーが飲みたくなる!
<作品概要>
「天使の分け前」 ANGEL'S SHARE
(2012年 イギリス=フランス=ベルギー=イタリア 101分)
監督:ケン・ローチ
出演:ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショウ、ゲイリー・メイトランド、ウィリアム・ルアン、ジャスミン・リギン
配給:ロングライド
ジャンゴ 繋がれざる者 DJANGO
やっぱりタランティーノは面白い!
映画を観ながら「このまま終わらなければいいのに」と思ったのは久しぶりだ。
ワクワクしながら映画を楽しんだ。
こんな映画を作れるんだからすごい。
もっといいペースで撮ってくれればいいのに。
前作「イングロリアル・バスターズ」(2009)かも、ナチスを新しい角度から描いた快作だった。歴史を覆すあんな展開がまってるなんて。映画史に残るラストだったんじゃないだろうか。
そして前作で際立って注目されたクリストフ・ヴァルツが今作でも準主役として抜擢されているが、納得の起用。いい役者をよく見つけてくれたと感謝さえしたくなる。
タランティーノが描く西部劇、どれだけの血が飛び散るのか想像すると思うけど、ご想像通り!
そして、いぶし銀、サミュエル・L・ジャクソンがたまらない!!
<作品概要>
「ジャンゴ 繋がれざる者」 DJANGO
(2012年 アメリカ 165分)
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ、ケリー・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2013年8月30日金曜日
二郎は鮨の夢を見る
銀座の名店「すきやばし次郎」。
ミシュランガイドで5年連続三ツ星を獲得。予約を取るのも困難な超人気店。
80歳を過ぎても一線で寿司を握る店主、小野二郎とその息子たちを描いたドキュメンタリー。
頂点を極めるひとはストイックな人が多いのか、二郎さんも多分に漏れずストイックに寿司を極めることに日々精進している。
わずかな違いさえ許さない。極めるほどその仕事はシンプルになっていく。
極めるとはシンプルにいきつくことなのかもしれない。
この日本を代表する寿司職人を外国人が撮ったのがまた面白い。
登場する人物はすべて日本人、舞台も日本。
だけどやはり捉え方が違う。
職人というよりアーティストを追っているようだ。
その視点は、寿司をアートに昇格させてしまった。
料理人が料理しているのではなく、アーティストがアートを創作しているのだ。
日本を外からみる。
新鮮で感慨深い。
観た後は回転でない寿司が食べたくなる。
<作品概要>
「二郎は鮨の夢を見る」
(2011年 アメリカ 82分)
監督:デビッド・ゲルブ
出演:小野二郎、小野禎一、小野隆士、山本益博
配給:トランスフォーマー
URL:http://jiro-movie.com
ローマでアモーレ To Rome with love
今度のウディ・アレンはローマから。
ここ最近は毎年違う都市から映画が届く。
「ミッドナイト・イン・パリ」は最高の名作。その他ロンドン、ニューヨーク、バルセロナ。
「それでも恋するバルセロナ」では、ペネロペ・クルスがアカデミー賞助演女優賞を受賞している。
この作品完成度の安定感はどうだろう。
安心して映画の世界の心をあずけられる。
ほんのりおかしいドタバタ喜劇を撮らせたらもう名人芸。
これで毎年のように新作を作っているのだからすごい!ファンとしてはこんなに嬉しいことはない。
ウディ御年78歳!
まだまだ元気です。
ローマを舞台にした4つのエピソード。
・新郎の部屋に娼婦のペネロペ・クルスが間違えて入ってきて・・
・ロベルト・ベニーニが何故かある日突然有名人になり・・
・ジェシー・アイゼンバーグのもとに彼女の友達(小悪魔)が現れて・・
・音楽プロデューサーのウディは訪れた家人の歌声に惹かれて・・
男たちは翻弄されていく。
なんとも小気味よい物語。
役者もよかった。
アレック・ボールドウィンが意外や意外、不思議な存在感の役所でみごとに映画にハマっていた。ジェシー・アイゼンバーグはウディの分身的存在にどハマリ。ウディ組常連となるか。
それにしてもローマの街が美しい。
ウディの描く文化心あふれるローマの街に是非行ってみたい。
<作品概要>
「ローマでアモーレ」 To Rome with love
(2012年 アメリカ=イタリア=スペイン 101分)
監督:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレン、アレック・ボールドウィン、ロベルト・ベニーニ、ペネロペ・クルス、ジェシー・アイゼンバーグ、グレタ・ガーウィク、エレン・ペイジ
配給:ロングライド
世界がたべられなくなる日 Tous coveyes?
遺伝子組み換え食品。(GM食品)
こんなに世界で蔓延してるとは。。。
衝撃の事実。
常に安全性が疑問視されているGM食品。
GM企業は安全性を主張するが、本当のところはどうなのか。
GM企業の実験は3ヶ月間ラットに遺伝子組み換えのトウモロコシを与え続けるものだが、本作では2年間(ラットの寿命にあたる)に実験期間を延長して、ラットにどんな影響がおこるのかを確認する。
案の定というべきか、6ヶ月をこえる頃から次々とラットに異変が起こり始める。大きな腫瘍ができるラット、死亡するラットが続出。。
特にメスのラットに異変が多くみられていた。これは人間で言うと女性に多く影響が出やすいということになる。乳がんや子宮頸がん、不妊症といった症状が懸念される。
GM作物は、農薬を撒いても枯れず雑草を除去する手間が省けるなどコスト削減の理由で農家に広まり、アメリカのトウモロコシは、当初10%程度だったGM率が現在では80%にまで達するとか。トウモロコシ、大豆はGM率が非常に高い。
そして、日本はアメリカのトウモロコシの最大の輸入国。
輸入トウモロコシの80%がアメリカ産、そしてその90%が遺伝子組み換え、、、、
GM作物は日本では主に家畜のエサに使われているらしいが、間接的にでも知らないうちに食べていること間違いなし。
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加することで、今後海外から安価なGM食品が大量に入ってくる。アメリカでは「遺伝子組み換えでない」という表記はないらしい。。
アメリカ人、大丈夫か?
テクノロジーとビジネスが暴走するととんでもないことになる。
世界の食の現実を知るドキュメンタリー。
<作品概要>
「世界が食べられなくなる日」 Tous cobayes?
(2012年 フランス 118分)
監督:ジャン=ポール・ジョー
出演:
配給:アップリンク
立候補
泡沫候補。今までは気にもしなかった。
「泡沫候補」とは、
当選する見込みがないのに立候補する候補者。
彼らは何故勝つ見込みがないのに戦うのか、何のために立候補するのか、今まで考えたこともなかったことに気づかされる。
そしてそこから日本の政治、選挙制度を考えさせられる良作だ。
舞台は、大阪府知事・市長選挙。
橋下徹氏が率いる維新の会が勢いを増す中で、泡沫候補たちは独自の戦いを仕掛けていく、、、
彼らは思った以上に真剣だった。
まじめにバカを演じていた。
何もせずに文句を言うよりも、バカなことをやっていてでも一投することを選んだのだ。
300万円の供託金を払ってまでドンキホーテのようあ戦いをすることを選んだのだ。
すごく笑えて、思いのほか心を打たれてしまう。
今の時代に是非観てほしいドキュメンタリーだ。
<作品概要>
「立候補」
(2013年 日本 100分)
監督:藤岡利充
出演:羽柴誠三秀吉、マック赤坂、外山恒一、橋下徹、安倍晋三
配給:明るい立候補推進委員会
容疑者ホアキン I'm still here
ホアキン・フェニックスが俳優を引退する
そのニュースは知っていた。
詳しくは知らなかったけど、それがこんな大それたことをしでかしていたとはつゆ知らず。
誰も知らなかった訳だけれども。
全米を騙し、怒らせた、お騒がせフェイクドキュメンタリー(なのか?)。
突如、俳優を引退し、ラッパーに転身すると発表した。仕事のオファーは一切断りラッパーとして活動してくが段々と奇行も目立ちはじめ、、、
しかしどんなにバカげたことでもそれを本気でやれるかどうかは難しい。やりきらないと意味がない、だからそういう意味ではホアキンはやりきったのだと思う。
この間(約2年間)仕事のオファーを断り、資産をつぎ込んだらしい(数億円)。
過去のキャリアと未来の可能性を投げ打つリスクがあった訳だから、本気でバカをやったわけだ。
それにしても巻き込まれた周りは随分と迷惑。
それに、フェイクで騙してそれを映画にしても、アメリカのおかしなシステムを皮肉るような風刺があるサシャ・バロン・コーエンとは違い、メッセージがよく分からない。
しかも、途中でバレかかるという割とお粗末な展開。
内容はともかくとして、本気でバカをやりきったことに意味があるのだと思う。
日本でお笑い芸人でもなくこんなことをしでかす俳優はいるだろうか?
アメリカならではなのかもしれない、そう思うとほかでは見れないある種のエンターテイメント作品ということになる。
ちなみに、ホアキンは、お兄さんがあのリバー・フェニックス。お姉さんや妹も役者という芸能一家の出で、本作の監督のケイシー・アフレック(ベン・アフレックの弟)は妹の旦那さんという俳優一族なのです。
<作品概要>
「容疑者ホアキン」 I'm here
(2010年 アメリカ 108分)
監督:ケイシー・アフレック
出演:ホアキン・フェニックス、アントニー・ラングドン、ケイリー・ベルロフ、ラリー・マクヘイル、
配給:トランスフォーマー
2013年8月29日木曜日
ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン DON'T STOP BELIEVIN' EVERYMAN'S JOURNEY
YouTubeでヴォーカルを探す。
そんな時代になったのだ。
往年のバンド“ジャーニー”が新しく活動していくためにとった行動は、YouTubeをひたすら見まくって才能あるヴォーカルを探し出すことだった。
1975年のデビュー以来、プラチナディスクを8枚も獲得するなどメガヒットを連発してきたアメリカを代表するバンド“ジャーニー”。
でも、ヴォーカルのスティーヴ・ペリー脱退後、後任ヴォーカルも脱退し、ヴォーカル不在で岐路に立たされていた。
そこで発掘されたのが、アーネル・ピネダ。
フィリピン人、40才、妻子あり。
ギタリストのニール・ショーンは彼を見つけるやすぐにアーネルに連絡をとり、
トントン拍子でアーネルは、スターバンドとツアーをともにすることになっていく、、
これがドキュメンタリーなのがいい。
今どきのアメリカン・ドリームなサクセスストーリー(というかおとぎ話)は、
演出された作品や名優の演技でもアーネルの生のリアクションにはかなわない。
彼の才能を買っていたアーネルの友人がバーやライブハウスで歌うアーネルの映像を
ネット環境の悪い中(アップロードに一晩かかることもあったとか)、大好きなジャーニーの楽曲を中心にひたすらYouTubeにアップし続けていたのだ。
人生何があるか分からない。
極貧で育ち、一時は路上で暮らし人生を見失ったときもあった。
それでも彼は歌い続けた、歌うことで得たギャラで弟たち家族を養った。
そして、ニールから連絡がくる。
歌うことを決して止めなかったアーネル、彼の才能を信じ続けた友人。
現代のシンデレラストーリーだ。(男だけど)
ジャーニーの代表曲「Don't stop believin'」は、海外ドラマ「glee/グリー」のカバーもあり全世界で最多ダウンロードを獲得。
<作品概要>
「ジャーニー ドント・ストップ・ビリーヴィン」 Don't stop Believin' everyman's journey
(2012年 アメリカ 105分)
監督:ラモーナ・S・ディアス
出演:ニール・ショーン、ジョナサン・ケイン、ロス・バロリー、ディーン・カストロノボ、アーネル・ピネダ
配給:ファントム・フィルム
2013年8月28日水曜日
ビル・カニンガム&ニューヨーク Bill Cunningham,New York
本物のプロフェッショナルとは彼のような人物を言うのだろう。自分の仕事にとても真摯に向き合い、一切の妥協を許さない。決して偉ぶらず誰からも愛される。その道を極め、ブレず、常に新しさを追い求めている。
The New York Times1日曜版の「ON THE STREET」。彼が長期連載をしている人気コーナーだ。アナ・ウィンターに「私たちは彼のための毎日服を着てるのよ」と言わしめる彼の仕事ぶりは、毎日毎日、雨の日も風の日もストリートに出てはファッションスナップを撮り続ける。
時にはパリのファッションショーまで遠征し、夜の社交界やパーティにも顔を出す。でもパーティでは水一杯さえ口にしない。そして彼自身が着る服はブルーのワークジャケット(パリの清掃員用の作業着だとか)。それがビル・カニンガム流。
「彼のファッションスナップは生きたファッションの歴史そのものだ」
そう評される。
ファッション業界の第一線の人たちに高く評価される彼だが、その私生活は数年来の友人でも全く知らない。ミステリアスな人物。
映画はビルを追いかけ、今まで誰も知らなかった彼の内面を徐々に明らかにさせていく。
嫌がり続けるビルを説得するのに8年!、編集に2年。この映画はなんとトータル10年の歳月がかかっているんだとか。
ミステリアスな人物を追うのは大変なものだ。
だけどその分“伝説の男”の内面がかいま見れるのである。
<作品概要>
「ビル・カニンガム&ニューヨーク」 Bill Cunningham,New York
(2010年 アメリカ 84分)
監督:リチャード・プレス
出演:ビル・カニンガム、アナ・ウィンター
配給:スターサンズ、ドマ
ローズマリーの赤ちゃん Rosemary's Baby
昔のホラーだから今観ると全然怖くない。
だからサスペンスやホラー要素に必要以上に意識をもっていかれることがなく、映画の違う部分がよく見えた。
今回その違う部分とは、ずばりファッション。
そう、ミア・ファローがスインギング・ロンドンのファッションを華麗に着こなしスクリーンに登場する。シーンごとに違う衣装を披露し、その数なんと26着!とか。
ミニのワンピースをここまで着こなす妊婦はこのミア・ファローくらいなものじゃないだろうか。
ミニスカートは70年代に入ってから日本でも大流行したというから時代の最先端ファッションを体現している映画でもあったわけだ。
ヘアスタイルにしても、ヴィダル・サスーンでカットしたという(劇中のセリフにもある)ショートヘアがとてもよく似合っていた。
Mia Farrow |
ミアのファッションはいま観てもとても新鮮!
それだけでもこの映画を観る価値がある。
映画としてもとても面白いのだけど、こういう要素があることはすごく大事。
女子が苦手なホラージャンルだけど、ファッション映画として観られることうけあいです。
<作品概要>
「ローズマリーの赤ちゃん」Rosemary's Baby
(1968年 アメリカ 136分)※日本公開1969年
監督・脚本:ロマン・ポランスキー
音楽:クリストフ・コメダ出演:ミア・ファロー、ジョン・カサベテス、ルース・ゴードン、シドニー・バラックマー、モーリス・エバンス
配給:マーメイドフィルム
アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影 anton corbijn inside out
U2、ビョーク、ローリング・ストーンズ、メタリカ、コールドプレイ、ニル・ヴァーナなど世界最高のアーティストたちに愛されるフォトグラファー、アントン・コービン。
この映画を観るまで彼の存在は知らなかったが、彼の創作(写真)見れば、あれがアントン・コービンの仕事だったのか、と気づかされる。
アーケード・ファイア、ルー・リード、デベッシュ・モードら蒼々たるメンツとの仕事の様子など舞台裏や彼の仕事観、美意識が伝わる。
本人はとても謙虚で大物とは思えない"いいひと”な感じがするのに、やっている仕事は凄すぎるというギャップがいい。一気にファンになってしまう。
彼の写真は、本人の人柄とは違って、とても厳しく、強く、逞しい。
“男”のいい部分をすごく引き出すのが巧いのだと思う。
だから男っぽい男を撮ることが得意なのではないだろうか。
彼の作品をみるととてもよく分かる。
Clint Eastwood |
Miles Davis |
Elvis Costello |
<作品概要>
「アントン・コービン 伝説のロック・フォトグラファーの光と影」 anton corbijn inside out
(2012年 オランダ=ドイツ=イタリア=イギリス=スウェーデン 84分)
監督:クラーチェ・クイランズ
出演:アントン・コービン、アーケイド・ファイア、ボノ(U2)、ジョージ・クルーニー
配給:シンカ
言の葉の庭
新海誠の新作。
雨の描写がとりわけ美しい。
相変わらず背景のディティールが尋常じゃない。新宿駅、新宿御苑、信濃町のあたり、
缶ビール、靴、携帯、ドコモタワー、
でも今作で特に感じたのは“水”の描き方。
雨の日に出会う二人の話のため常に雨が降っている。雨がしたたる池、濡れた髪、実写と思うような繊細できれいなタッチ。新海タッチ。
万葉集の一節をモチーフにさわやかな恋愛模様が美しい水と緑を背景に涼やかに展開される。
前作「星を追うこども」とは一転、等身大の新海誠ならではの物語がそこにあった。
それにしても新海ファンは、雨に日に新宿御苑のあの小屋に行くのだろうか。
ちょっと気になる。
<作品概要>
「言の葉の庭」
(2013年 日本 46分)
監督:新海誠
出演:(声)入野自由、花澤香菜、平野文、前田剛
配給:東宝映像事業部
2013年8月27日火曜日
終戦のエンペラー
夏はやっぱり戦争ものが出てくる。
今作も夏公開の第二次世界大戦を描いた作品だ。
実在の人物、日本通でマッカーサーの部下であるフェラーズ准将が天皇の戦争責任を調査するよう命じられ奔走するが、、、
戦後の日本統治をGHQがどう考えていたのか、その当時がどうであったのかをフェラーズ准将とアヤとのラブストーリーも交え描いていく。
アメリカから見た日本だと割と偏っていることが多いが今作はプロデューサーが日本人だけあってそこは違和感なく見れた。
プロデューサーの奈良橋陽子は、本作で天皇の側近として登場する関屋貞三郎(夏八木勲が演じる)の孫にあたるそうで、知られるざるエピソードを幼少のころから聞いていたようなので天皇が当時どうであったのか、誰も知るよしもないことの真実味が感じられる。
また、外交官の娘で幼い頃から海外生活をしていた奈良橋陽子だからアヤの設定が生まれたのかもしれない。
セットはニュージーランドで組まれたそうだが、戦後の焼け野原の東京がちゃんと描かれていた。震災のニュースでみた瓦礫だらけの町、戦後の東京もまさにそんな感じだったのだ。今の豊かで夜でも明るい東京とは比べ物にならない、同じ町とは思えない。
日本はその後、奇跡的な復興と成長を遂げ世界をリードする経済大国になった。
その礎を築いたのがこの映画の登場人物たちや多くの人たちだったのだ。
天皇の玉音放送を前に降伏に反対する陸軍将校たちが、録音テープを奪おうとクーデターを起こしたことなど今まで知らなかったエピソードもあり驚き。
夏に戦争映画、これは日本の永遠のテーマなので是非いろんな角度から掘り下げていってもらいたい。
そして今作のように海外との作品にドンドン日本の俳優やスタッフも参加してインターナショナルな映画環境を盛んにしていってほしい。
<作品概要>
「終戦のエンペラー」 EMPEROR1
(2013年 アメリカ 105分)
監督:ピーター・ウェーバー
出演:トミー・リー・ジョーンズ
配給:松竹
シュガーマン 奇跡に愛された男
すごい映画を観た!
こんな奇跡があるなんて。
アメリカでデビューし、ボブ・ディランと比較されるスタイルも、鳴かず飛ばず、全く売れずに音楽業界から姿を消したあるミュージシャンがいた。
ところが、彼の音楽は地球の裏側のアパルトヘイトで揺れる南アフリカで、反体制派のシンボル曲として、あのローリング・ストーンズを凌ぐ人気を誇っていた!
アメリカでは全くの無名。当然日本や諸外国でも当然全く知られていない。
そんな彼の楽曲は海を越え、何故か当時の南アフリカの反アパルトヘイト勢力の白人層に熱狂的に受け入れられた。
ボブ・ディランでもローリング・ストーンズでもなく、“ロドリゲス”というそのアーティストが大スターだったのだ。
楽曲でしか聞いたことがない、そんな大スターを敬愛する熱狂的なファンが、ロドリゲス本人を探そうと決意する。そこからこのドキュメンタリー映画ははじまる。
「最後のライブで舞台上で銃口をくわえ自殺した」
など、様々な伝説だけがあるだけだ、手探りなまま“ロドリゲス”の楽曲とともに映画は進む。 そして思わぬ方向へ、、、
サントラが絶対に欲しくなる、とてもいい音楽ドキュメンタリーだ。
<作品概要>
「シュガーマン 奇跡に愛された男」 SERCHNG FOR SUGAR MAN
(2012年 スウェーデン=イギリス合作 85分)
監督:マリク・ベンジャルール
出演:ロドリゲス
配給:角川映画
ウィ・アンド・アイ
ミシェル・ゴンドリーの新作なのに、
わりとひっそりと公開されていた本作。
ちょっと実験的なリアルムービー。
N.Yのワークショップに集まる素人の若者たちを集めて等身大の学生生活を演じさせている。
その日は学校最後の日。
アメリカは学期の変わり目が夏休み。
夏休み前の最後の下校時間、そのバスは生徒たちであふれている。
悪ガキ、女子軍団、いじめられっ子、など学生たちのヒエラルキーがそこにはある。
時間が経つにつれ、また一人下車していき、そのヒエラルキーに変化があらわれはじめる。
見始めたときは、いつ、本番が始まるのかと思っていたらそのまま終わってしまったという感じだったが、後からそういうことか、と感じられるような作品だった。
ミシェル・ゴンドリー、相変わらず攻めてるな、と嬉しくなった。
後から思ったけど、この学生たちのヒエラルキーは、「桐島、部活やめるってよ」に通じるものがある。同時期に日本とアメリカで同じような世界が撮られるなんて、
面白い偶然もあるものだ。
<作品概要>
「ウィ・アンド・アイ The WE AND THE I」
( 2012年 アメリカ 103分)
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:マイケル・ブロディ、テレサ・リン、レディチェン・カラスコ
配給:熱帯美術館
三姉妹 〜雲南の子
高度経済成長が著しい中国経済。
でもその恩恵を受けているのは上海など沿岸部の都市部に限られている。
それと対照的なのが内陸部で貧困にあえぐ地域。
その中でも特に最貧なのが雲南省だと言われている。
その雲南の三姉妹がこの映画の主人公。
痩せた土地で産業もなくとても厳しい環境でけなげにも逞しく暮らす三姉妹。
10才、6才、4才の姉妹は、なんと、たった3人だけで暮らしている。
父は町に出稼ぎに、母は前に家を出て行ってしまった。近くに親戚はいるものの、邪険に扱われているという信じられないくらいピンチな環境。
その三姉妹をつかず離れずカメラに収めていく、まさに“ワン・ビンの距離”。 対象に話しかけずとても自然に対象に寄り添うが、
少女たちは普通にカメラ目線になったりしてカメラの存在感はある。
カメラに向かって話してかけてくる運転手もいるから存在を消し去っている訳でもない。
その独特の距離感が、“ワン・ビンの距離”。
すごく地味だけど、すごく残る映画。
劇場には二階堂ふみにそっくりな子がいたが、本人だろうか、、、
<作品概要>
「三姉妹 〜雲南の子」
(2012年 仏=香港合作 153分)
監督:ワン・ビン(王兵)
出演:
配給:ムヴィオラ
2013年8月26日月曜日
10人の泥棒たち THE THIEVES
ひと言でいうと、「オーシャンズ11」、
そう思っていた。
でも、「オーシャンズ〜」より面白かった。
キャストは韓国映画になじみがないと分からないと思うが、いい役者がそろっている。
そして、チョン・ジヒョンがとても美しい。
コメディエンヌもできるとても貴重な女優だと思う。アジアを代表する女優なのではないだろうか。とても美しいのに嫌みがない。
そして、とても華がある。
今作でもいい役所を演じていた。
しかし、マカオを舞台に中国と韓国がとても自然に融合していて、羨ましくも感じた。
あそこに日本が交じっても違和感があったと思う。
日本も負けじとアジア映画に出て行ってほしい、いつまでもドラマ・ザ・ムービーが
興行の上位を占めているようでは未来は暗い。
もっとインターナショナルに攻めていってほしいものだ。
<作品概要>
「10人の泥棒たち」 THE THIEVES
(2012年 韓国 138分)
監督:チェ・ドンフン
出演:キム・ヨンスク、キム・ヘス、イ・ジョンジュ、
配給:ライブ・ビューイング・ジャパン
きっと、うまくいく 3idiots
映画の都、ボリウッドから心底楽しめる最高の娯楽映画が登場!
笑いあり、涙あり、恋愛あり、感動あり、踊りあり(インド映画お約束)、
映画の要素をこれでもかっ、というほど詰め込み、見事にまとめきった秀作。
170分と2時間を超える尺だが全く気にならない。
主演のアーミル・カーンは本国インドでは、
ミスター・パーフェクトの異名をとる、
トップスター。
3大カーンのひとりでもある。
50代前というのもあって、さすがに学生役は
体型的に無理があったが、役所としては
全く違和感なく見事に役をこなしていた。
最近には珍しく分かり易く見所がはっきりしている映画をみて、
やっぱり面白ければいいんだな、と思った。
最近はインド映画を観ると、踊りがないともの足りない感じになってきている。
やっぱりインド映画のあの踊りシーンはいい!
見慣れてくると逆にあれがないとすごく物足りなくなってくる。
いろんな映画スタイルがあっていいんだな、と本当に思う。
<作品概要>
「きっと、うまくいく」 3idiots
(2009年 インド 170分)
監督・脚本:ラージクマール・ヒラニ
出演:アーミル・カーン、カリーナ・カブール、R,マーダヴァン、シャルマン・ジョーシー
配給:日活
2013年8月24日土曜日
熱波 TABU
ポルトガルから凄い映画がきた。
すごい監督が出てきたというべきか。
今作ではじめて観たが、
とても才能を感じさせる監督。
ミゲル・ゴメス。「熱波」。
ポルトガルと言えば、今年はそうそうたる
メンツのオムニバス映画も公開される。
「ポルトガル、ここに誕生す ギマラインス歴史地区」
監督がすごい。
ペドロ・コスタ
マノエル・ド・オリヴェイラ
ビクトル・エリセ
そして、
アキ・カウリスマキ!
なんとなく、ポルトガル・イヤー。
そして今作。
ちょっと変わった老婆と周りの幾人かを描く前半と、
その過去を回想する後半。
一見、小難しくて難解なイメージがするが、後半は謎が解けていくような、
思いのほか楽しめる作品だった。
ある老婆の秘密にしていたアフリカ時代の過去が、最後に会いたいと伝えられた老人の証言から明らかになっていく、、、
モノクロの映像と時代を感じさせる雰囲気が映画をいい感じにさせている。
そして、この俳優がとてもイケメン、ジョニー・デップとオーランド・ブルームを
足して割ったようなワイルドさと甘いマスクを併せ持った逸材。
ポルトガルではどうか分からないが、世界的には無名な彼。
今作をキッカケにブレイクしてもらいたいものだ。
<作品概要>
「熱波」 TABU
(2012年 ポルトガル=ドイツ=ブラジル=フランス 118分)
監督:ミゲル・ゴメス
出演:テレーザ・マドルーガ、ラウラ・ソヴェラル、アナ・モレイラ、カルロト・コッタ、エンリケ・エスピリト・サント、イザベル・カルドーゾ
配給:エスパースサロウ
2013年8月23日金曜日
太陽がいっぱい Plein soleil
やっぱり名作はいい。
アラン・ドロンがかっこいい。
ファッションがいい。
イタリアの港町がとてもいい。
ヌーヴェル・ヴァーグの時代に前世代のルネ・クレマンが見せつけた傑作。
でも脚色にポール・ジェゴフ、撮影にアンリ・ドカエを起用、若手をちゃっかり巻き込んでいる。
1960年、
前年に「勝手にしやがれ」、「大人は判ってくれない」、「いとこ同志」などヌーヴェル・ヴァーグの旗手たちが次々と話題作でデビューして注目されていた時期。しっかりと物語を作り込んだ対抗作でみごと実力を発揮させた。
奔放なドラ息子に振り回される前半と、完全犯罪を進行する後半。
そして満足しきった笑顔と美しすぎるビーチの蒼い背景とともに迎えるエンディング。
ニーノ・ロータの音楽。 完璧な映画だ。
エンドロールがないのにブラックバックのままニーノ・ロータの音楽だけが
なり続ける最後も昔の映画っぽくて印象的。
<作品概要>
「太陽がいっぱい」 Plein soleil
(1960年 フランス=イタリア合作 118分)
監督:ルネ・クレマン
出演:アラン・ドロン、モーリス・ロネ、マリ・ラフォレ
配給:コムストック・グループ
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