2014年4月26日土曜日
ある精肉店のはなし
いのちと、生きることと、暮らしていくことがつまったおはなし。
牛をめぐるドキュメンタリーでは、「夢は牛のお医者さん」が相当良かっただけに、ちょっと特別な期待をもっていたけど、これもまたいい。
学校の先生が好きそうな、教育上とてもよろしいタイプの作品。
大きな牛をおじさんが引いている。犬の散歩をするかのごとく、綱を引っ張って住宅街を歩く。そんなちょっと変わった光景から始まる、あるお肉屋さんのおはなし。おじさんと牛の行き先は、自宅からすぐのところにある屠殺場。
牛の飼育から屠殺、卸、販売までの一連の流れを全て行う「肉の北出」。北出さん一家の仕事を通して、いのちが食卓に上がるまで、そしてこの精肉という仕事にまつわる一家の、そして地域の、そしてこの国の歴史が浮かび上がってくる。
引いてきた牛を、いきなりハンマーで気絶させ、手際よく皮を剥ぎ、切り分けていく。そしてあっという間に、さっきまで生きていた牛は、肉の部位になってしまった。
そんな、屠殺シーンから始まるあたりこの映画、相当なインパクト。
北出家というとてもフレンドリーでユーモアのある一家を通して、精肉という職人一家の一面と、その背景にある非差別部落の一面を描き出していく。
北出家の歴史は19世紀にまで遡る。江戸時代末期、当時の日本は家畜の肉は一般的に食べる習慣はなかった。そういった社会の中で、死んだ牛や豚の肉を捌くという作業は、被差別の要因となっていった。
パンフレットのコラムに載っていた意見で、歌舞伎や能といった芸能も昔は被差別のものだったけど今や伝統の継承者となって立場は大きく変わったというものがあったけど、その通り、精肉という技術の職人として尊敬される立場になってもらいたい。
「この映画に出演することに決め、生活の全てを見せるということは、全てを受け入れる覚悟があってのこと。」北出さんの意気込みがその言葉に集約されている。
ひとつの命が食肉になっていく過程を通して、いろんなものが見えてきた。ダンジリ祭りが盛大に行われるある地域の小さな精肉店を通して、命とは、生きることとは、暮らしていくこととは、をその背景の歴史まで含めて考えさせてくれる。
決して涙を流して感動させるような作品ではないけれど、すごい感動を与えてくれる作品でもある。
<作品概要>
「ある精肉店のはなし」
(2013年 日本 108分)
監督:纐纈あや
製作:本橋成一
出演:北出さん一家
配給:やしほ映画社、ポレポレタイムス社
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