2014年4月2日水曜日

浮き雲  Drifting cloud / Kauas pilvet karkaavat


マッティ・ペロンパーに捧ぐ なんとも幸福な映画

それまでのカウリスマキ作品とはちょっと違ってわりと分かりやすいハッピーエンドなストーリー。初期からコンビを組んでいた俳優マッティ・ペロンパーの早過ぎる死によって、一旦はお蔵入りしかけた本作だが、見事な作品となって世に出ることになった。劇中でマッティは幼少時代の写真として“出演”している。
「失業三部作」の第一作に位置づけられる。(ちなみに、次が「過去のない男」、その次が「街のあかり」)

路面電車の運転手の夫と、レストランの給仕長のその妻。仲睦まじい夫婦だが、不況のあおりを受けて二人とも失業してしまう。再就職に奔走するふたりだが、せっかく見つかった仕事先で給料を踏み倒されるは、クビになるはで不幸の連続。ツキにも見放されるが、再起を図りレストランの開業を目指す。


カウリスマキ監督は、常に社会の弱者を厳しくもユーモアをもって描いてきた。社会の底辺にいる彼らが一生懸命生きている姿を通して世の理不尽や格差をあぶり出している。そしてのその主人公たちは一矢報いるものの決して大逆転はしない。「その後どうなったのか、お金はないけど、もしかしたら幸せなのかも」という感じ。

それに比べて本作はわりと分かりやすいハッピーエンド。とは言ってもそこは不幸の連続があってからの話。ダブルで失業した後も運転手なのに免許を失効したり、チンピラにボコボコにされたり、カジノですったり、それはもう散々。だけど、それぞれのキャラクターがとても愛おしくなるようなユーモアにつつまれている。そこが不幸なのに痛々しくない雰囲気をつくりあげている。
カティ・オウティネン演じるイロナが、再就職先の街の食堂で一人しか従業員がいないのにキッチンにスタッフがいるかのように一人芝居したり、同僚のシェフがアル中で落ちぶれまくっていたのに、呼び戻しに行ったらビシっとキメて戻ってきたり、大工のコンビで大男が起用に細かい作業をしてチビの方が大雑把にトンカチをたたいたり。細かいとこまでユーモアがつまってる。

ラストシーンは、ジーンときて涙があふれてくる。
それにエンドロールには「マッティ・ペロンパーに捧ぐ」なんて出てくる。
そんな心あたたまる、なんとも幸福な映画です。



エンディングの曲もいい。





夫婦でお店を始める人たちや、そんなお店が大好きな人たちは必見の名作。


<作品概要>
浮き雲」  Drifting clouds / Kauas pilvet karkaavat
(1996年 フィンランド 96分)
監督:アキ・カウリスマキ
出演:サカリ・クオスマネン、カティ・オウティネン、エリナ・サロ、カリ・バーナネン、マッティ・ペロンパー
配給:ユーロスペース

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