2013年9月30日月曜日

エリジウム  Elysium


風刺家ニール・ブロムカンプのハリウッドデビュー作!

前作「第9地区」では、南アフリカのアパルトヘイトでの人種差別を痛烈に皮肉った。今作では貧富の差からくる世界的な格差社会がテーマだ。

2154年、汚染で荒廃した地球を離れ一部の富裕層は宇宙にあるスペースコロニーである“エリジウム”に移住。大多数は地球で労働者として過酷な環境下にいる。エリジウムに憧れる少年期を過ごしてきたマックス(マット・デイモン)はある日、職場の工場で致死量の照射線を浴びる事故にあってしまう。エリジウムにしかない医療装置を目指し、闇証人やスラム街の仲間、幼なじみの女性など様々な思惑とともにエリジウム潜入を試みる。

前作から登場しているクルーガー役のシャールト・コプリーが悪役として大活躍。しかし彼の言葉は南アフリカ訛りなのかものすごい独特なアクセント。英語があまり分からなくても彼の訛りはちょっと気になる。「オン・ザ・ロード」にも出演しているアリシー・ブラガは笑顔がとてもチャーミング。クルーガーにつかまり大ピンチに。


地球上はスラム化してみんなごちゃごちゃしたところに住んでいるけど、エリジウムの人口はわずか8000人。そして彼らの区画は各戸なんと1エーカー(約4000平方メートル)!全部が豪邸。そして全戸に標準装備されているのがどんな病気や怪我でも直してしまう装置“医療ポッド3000”。これのおかげでなんと寿命も違う。
“持てる者は何でも持ち、持たざる者は何もない” その格差、激しすぎ(笑)
このあたり監督の風刺具合がかなり効いている。
前作でもそうだったけど、手持ちカメラで臨場感を出す戦闘シーンを描くのがとても巧い。前作よりもスケールアップしてる分、みどころだ。


エリジウムのリセットがウルトラブックなみに早い(笑)など、設定や展開に突っ込みどころはあるものの、エリジウムの歴史やエリジウムを作ったアーマダイン社について、医療ポッドのことなど映画では説明されていない設定がわりとしっかりパンフレットには書いてあって面白い。公式ホームページでも説明がされている。
(エリジウムのコンセプチャルデザインの一部は、「ブレードランナー」や「トロン」の伝説的デザイナー、シド・ミード)

自分都合でエリジウムを目指したマックスも救世主のごとく運命を背負うことになる。資本主義社会の格差から社会主義が生まれたが、格差社会もいくとこまでいくと歴史は繰り返されるのか。


<作品概要>
「エリジウム」  Elysium
(2013年 アメリカ 109分)
監督:ニール・ブロムカンプ
出演:マット・デイモン、ジョディ・フォスター、アリシー・ブラガ、ディエゴ・ルナ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

2013年9月29日日曜日

SHORT PEACE ショート ピース


日本のお家芸は、やはりアニメーション!

大友克洋をはじめ日本のアニメ—ション作家による「日本」をテーマにした4本のオムニバス作品。

基本的にアニメのクオリティはどれも高い。
この手の細部にこだわるところや世界観は日本の作品がやっぱりすごい。全般的に面白かったし尺も短く(オムニバスはあまり多くみても疲れるから)このくらいだとすごく観やすい。68分。

◎「オープニング」 ※森本監督
「不思議の国のアリス」を思わせ、いまから異次元に向かうという雰囲気が演出されていた。

◎「九十九」(つくも) ※森田監督
道に迷った旅人が古びた祠で体験する摩訶不思議な出来事。
捨てられたガラクタたちが怨念となって旅人を惑わす。話的にはいいのに、CGの動きだけがとても残念!中世の日本の感じにCGで動くキャラがなじんでない。。

◎「火要鎮」(ひのようじん) ※大友監督
絵巻にかかれているようなキャラのタッチと展開が独特でいい感じ。
火消に恋した女が火事をおこす。江戸の大火になぞらえた恋物語。逃げ惑う群衆に逆らって「どけ、どけー」と刺青をいれた火消組の男たちがハシゴをかついで向かう姿はとても勇ましい。

◎「GAMBO」 ※安藤監督(原案:石井克人)
鬼に娘を差し出す貧村でおこる、シロクマと野武士の鬼退治。
日本の鬼退治をモチーフに鬼にエイリアンの要素があったり何故かシロクマがいたり、と色んな要素が加わってグロくも独特の世界観をつくっている。

◎「武器よさらば」 ※カトキ監督(原作:大友克洋)
唯一、設定が近未来。武装した5人組が廃墟と化した都市に潜入するが無人戦闘ロボットと遭遇し市街戦へ突入する。大友ワールド全開!アニメだけど手持ちカメラの手振れがあるような演出もあり臨場感ある戦闘シーンで一番面白い。



総じてレベルが高くて独自の世が時代劇か富士山と単純過ぎたりと突っ込みたい点もあるが、じてレベルが高くて独自の世界観がある。
今敏が亡くなり、宮崎駿が引退したいま、間違いなく次世代を担うクリエイターたちだ。
※それにしてもパンフレットが1500円もするっ


<作品概要>
「SHORT PEACE」
(2013年 日本 68分)
監督:大友克洋、森田修平、安藤裕章、カトキハジメ、森本晃司
出演:(声)山寺宏一、早見沙織、森田成一
配給:松竹


2013年9月26日木曜日

[CM] BeeTV ドコモdビデオ 「転校生」篇


映画好きをハッとさせるCM

女子高生に「いいよね、モニカ・ベルッチ。めっちゃエロくて」なんて言わせるなんてさすが中島哲也監督!映画をきっかけに転校生との距離が縮まっていく展開。映画ごとにアプローチが違うなら他のバージョンもつくってほしい。

「出会い篇」
「転校生篇」

宮崎あおいと蒼井優を思わせる透明感ある女子高生ふたり、この風景どこかでみたことあるような気もするが、この時期でないと出せない雰囲気がよく出てる。
このふたりは、石井杏奈と小松菜奈。監督は「桐島、部活やめるってよ」、「告白」で中高生をみごとに描ききった中島哲也。中島監督は、2014年夏に新作映画「渇き」が控えていて楽しみ。メインキャストで役所広司と競演するのがこのCMにも出ている小松奈々。映画は初出演なのだとか。

小松菜奈

原作は、「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生の「果てしなき渇き」。監督いわく「悪魔のような原作」という狂気と暴力の世界。どう描くのか。
その他、中島哲也のパストワーク
・[PV] AKB48「Beginner」
・[CM] サッポロ黒ラベル「卓球編」
・[CM] サッポロ黒ラベル「カラオケ編」

中島哲也

<作品概要>
「Bee TV ドコモdビデオ」 「出会い」篇、「転校生」篇 
(2013年 日本 30秒)
監督:中島哲也
出演:石井杏奈、小松菜奈


[PV] きらきら武士 feat.Deyonna(椎名林檎)


きっらきっら、ぶっすぃ〜♪

SUPER BUTTER DOGのキーボディスト池田貴史(池ちゃん)によるソロプロジェクト “レキシ”。とてもキャッチーなメロディで同じフレーズを繰り返す歌詞なのですごく覚えやすい。
そして歴史ネタ(笑)もう、歴史好きにはたまらないアーティスト。

2ndアルバム「レキツ」に収録されている「きらきら武士」がサイコー。

feat.Deyonnaこと椎名林檎が参加。顔が広い(顔もでかい)池ちゃんの楽曲には毎回豪華アーティストが参加。特徴的なのが「レキシネーム」で参加していること。

<レキシネーム例>
足軽先生(いとうせいこう)
斉藤摩羅衛門(斉藤和義)
カブキちゃん(Salyu)
田んぼマスター(山口隆 from サンボマスター)
などなど(笑)



真田記念日」もいい!


<作品概要>
きらきら武士 feat.Deyonna
(2011年 日本)
監督:児玉裕一
出演:池田貴史、仲川希良
レーベル:EMI Japan

2013年9月24日火曜日

そして、父になる


福山雅治を主演に向かえた是枝監督待望の新作

6年間育てた息子は他人の子だった。その時あなたならどうする。自分の身に降り掛かったらとてつもなく考えさせられる問題。そのお題を観客になげかける。つい自分に置き換えてしまい映画を観ながら「自分だったら」を考えさせられる。

相変わらず是枝監督は良い作品をつくる。是枝ファンとしてはカンヌでの受賞も納得の1本。
もともとこの映画の話は福山雅治側から持ちかけられたとか。是枝監督と仕事をしてみたいという持ちかけがあり、いくつか企画案を考えた中のひとつが本作の「取り違え」のテーマだったとか。監督自身も撮影で長期間家を空けることが多く、我が子から「また来てね」と言われたことがキッカケだったらしい。なんだかんだ血のつながった親子なんだから、との思いがそのひと言で一気にゆらぐ。親子関係というのは「血」なのか「過ごした時間」なのか。
そのテーマを福山企画に盛り込み、みごとに素晴らしい作品に仕上げた。



キャストがいい。
リリー・フランキーは子供に好かれるおっさんを、真木ようこは肝っ玉かあさん的なその妻を、尾野真千子はエリートで傲慢な福山に従う健気な妻を。福山は福山でしかなかったが、そういう雰囲気のひとをそういう役にキャスティングするのが是枝監督。そこに違和感は特になかった。
そして脇を固める“是枝組”の樹木希林がすごい!抜群の安定感で主役陣を引き立てアクセントをつける。こういう人がいると監督はすごく安心だろう。


<作品概要>
そして、父になる
(2013年 日本 120分)
監督:是枝裕和
出演:福山雅治、尾野真千子、真木ようこ、リリー・フランキー、樹木希林、夏八木勲、風吹ジュン、國村隼
配給:GAGA


2013年9月19日木曜日

D.I. Divine Intervention-Yadon Illaheya


パレスチナ発のぶっ飛んだブラックコメディ!

海外評では、「ジャック・タチやキートンを思わせるギャグの連発でパレスチナの政治紛争の現実が描かれる」と絶賛。カンヌ映画祭審査員賞も受賞し、会見でも爆笑だったとか。
この時のカンヌ、ライバル作品が「過去のない男」「ボウリング・フォー・コロンバイン」「戦場のピアニスト」と強豪ぞろい。その中で受賞するんだからインパクトが抜群だったことは間違いない。

後半になって登場する主人公(エリア・スレイマン監督本人)はセリフをひと言も発しない。それどころか無表情で一切感情を見せない。そんな演出の中で突然戦車が爆発したり、忍者みたいなテロリストが現れたりと荒唐無稽でおバカな展開に発展していくのだけど、けっして分かりやすい笑いではない。だからコメディだと言われなければ、笑っていいのかどうなのか日本人には分かりづらいも。それにパレスチナの歴史的、政治的背景が分かっていないと状況が把握しづらく映画に置いてけぼりをくらう恐れもある。



でもあまり深く考えなくても、ご近所同士のトラブルっていうのはどこにでもあるよね、とか近所の人にそんなことされたらムカつくでしょ、といった問題提議は十分伝わってくる。それが国境を越えた恋人同士だとさらに大変だ。映画で主人公と恋人が唯一会えるのは国境の検問所、そしてそこで手を握り合うのが精一杯のできること。それも全て無表情でセリフなし(笑)
このあたりのユーモアはアキ・カウリスマキに通じるものがあるかもしれない。カウリスマキ慣れしているひとであれば、入っていきやすいかも。



いまだに紛争が続くパレスチナ問題。終わりなきかのような状況。だけどこの映画には国境・民族をまたいでの解決策がみてとれる。
それは「愛」なのだ!
検問所で車を降り、武装する兵士を脇目に堂々と闊歩する。恋人のもとへ。
この愛情表現、観ないと分からない。


<作品概要>
D.I.」  Divine Intervention-Yadon Illaheya
(2002年 パレスチナ=フランス 94分)
監督:エリア・スレイマン
出演:エリア・スレイマン、マナル・ハーデル、ナーエフ・ダヘル、ナジーラ・スレイマン
配給:フランス映画者



2013年9月18日水曜日

メキシカン・スーツケース ロバート・キャパとスペイン内戦の真実  The Mexican Suitcase


70年の歳月を経てロバート・キャパの消えたフィルムが発見された!

伝説の写真家ロバート・キャパのスペイン内戦時のネガがパリのスタジオから消えた。この噂は長い間ささやかれ、キャパの弟で国際写真センターICP(International Center of Photography)を創設したコーネル・キャパによって探索は続けられていた。

「メキシカン・スーツケース」

メキシコで発見されたネガはそう呼ばれ写真業界史に残る発見とされて騒がれた。実際はスーツケースに入っていた訳ではなく3つの箱に入っていた。だけどスウェーデンで同じように没後発見されたキャパのネガがルイ・ヴィトンのスーツケースに入っていたことから「スウェディッシュ・スーツケース」と呼ばれていたために、コーネルがそう呼ぶようになったとか。


この映画で見えてくるのは、スペイン内戦の語られてこなかった歴史だ。
今でもスペインの人たちは内戦を語りたがらない、だけど内戦を知らない子供世代、孫世代がいま教えられてこなかった歴史を知ろうと動きを始めた。そこでフランコ将軍の独裁政権の過酷な時代が浮かび上がってきた。当時、共和国派は弾圧から逃れるためメキシコに渡った。そういう知られざる歴史があった。キャパの写真はこの流れにのってメキシコに渡ったのだ。スペインの内戦の真実とともにこの映画は語られる。

この発見されたネガにはキャパの他に、キャパの恋人だったゲルダ・タローとデヴィッド・シーモ“シム”が含まれる。スウェディッシュ・スーツケースの時と同様だ。

Gerda Taro
ゲルダ・タローは、その作品がロバート・キャパの名義で発表されることもあり陰でキャパを支えた印象があるが、そのエピソードはイームズ夫妻に通じるものがある。

そんな彼らは、それぞれハンガリー、ドイツ、ポーランド出身のユダヤ系移民だ。ユダヤ系というのが彼らの共通するところだが果たして偶然だろうか。いや、ナチスドイツなどユダヤ人を迫害してきたファシズム国家であるドイツ、イタリア、そしてフランコ将軍の独裁政権のスペインにおいて国際旅団に従軍した彼らには確固たる信念があったはずだ。そんな彼らだから戦地の最戦前の写真が撮れたのだ。「戦場カメラマン」というポジションを築いたのがキャパたちの業績だ。当時は戦争前か後の写真だけだった。それが兵士と同じ戦場に出向き写真を撮る(それがメディアが欲しい写真だった)。それを確立したのがキャパたちだったのである。全く食えなかった当時ハンガリーから出てきた青年は、タローの助言のもと、架空の伝説のカメラマン「ロバート・キャパ」なる人物をでっち上げ、新聞社に売り込み成功する。そこから自らが伝説の写真家ロバート・キャパになるのだ。
Rovert Capa

彼の伝説のデビュー作は、「崩れ落ちる兵士」。
まさに決定的瞬間、戦場のそれも再前線にいないと撮れない奇跡的瞬間。

崩れ落ちる兵士
このスペイン内戦では、キャパらの写真報道の成果で世界中から同情を集め、2万人を超す義勇兵が集結した。そこには各国の文学者や哲学者いた。アーネスト・ヘミングウェイもそのひとりだ。

Ernest Hemingway

スペイン内戦やメキシコの当時の役割など知られざる歴史を知ることができる。
だけど、キャパの写真やメキシカン・スーツケースにあった4,500点もの写真がどんなものであったのかにもっとフォーカスしてもらいたかった。監督のスペイン系移民としての立場からするとスペイン内戦にフォーカスしたかったのだとは思うけど、「ロバート・キャパ」を前面に宣伝するならそこはもうちょい見せてほしかった。


<作品概要>
メキシカン・スーツケース ロバート・キャパとスペイン内戦の真実」 The Mexican Suitcase
(2011年 メキシコ=スペイン=アメリカ 86分)
監督:トリーシャ・ジフ
出演:
配給:フルモテルモ、コビアポア・フィルム

ルビー・スパークス  RUBY SPARKS


ポール・ダノ待望の新作は、現代のおとぎ話。

「リトル・ミス・サンシャイン」のジョナサン・デイトンとバレリー・ファレスのコンビによる最新作。「リトル・ミス〜」では引きこもりの兄を演じていたポール・ダノ(製作も兼ねる)を主役に迎え、ヒロインには実生活でもポール・ダノの恋人であるゾーイ・カザン(なんと、エリア・カザンの孫!そして脚本&製作)が小説から飛び出た理想の恋人を演じる。

ポール・ダノの役どころはスランプ中の若手作家カルヴィン。デビュー作がベストセラーとなり一躍時の人となるも2作目が書けない(10年も!)。日がな犬の散歩をしては丘の上のシャレた自宅に帰りパソコンの前でスランプぶりを発揮する毎日。そんなある日、“夢で出会った理想の女の子”と出会う。今書いている小説の主人公でもある彼女ルビー・スパークスに一気に恋してしまう。そしてバラ色の日々が訪れるのだが。

ミシェル・ゴンドリーが映画にしそうなファンタジーなラブストーリー。
彼女が現実に形ある姿で存在していることを全力で喜ぶ姿が青春っぽくていい。音楽に乗せて街を二人で疾走していくシーンは印象的。「(500)日のサマー」みたいに踊り出すわけではないけれど“バラ色の瞬間”が伝わってくる。
それにしても20世紀フォックスサーチライトはいい作品が多い。

ルビーは、カルヴィンのタイプライターによってどんどん魅力的になっていく。「フランス語ができる」と打ち込むとフランス語をしゃべり出したり(笑)カルヴィン好みに仕上がっていく。ところがルビーと衝突していく後半、やけになったカルヴィンはルビーは自分の支配(タイプライター)の下にあることを示そうとする。冷静に冷徹に冷酷にタイプライターをたたく。あのシーンはちょっと怖い。


この映画ではとてもおしゃれに描かれているけど、いまどきの日本に置きかえて考えたらアニメやゲームの世界で理想と思っていた子が現実に彼女として現れるようなものだろうか。そしたら2チャンネル発の原作&映画化になってたかも(笑)

それにしてもこの映画、デート要素が満載だ。こんなデートしたい!が詰まってる感じ。公園での出会い、野外映画でのはっちゃけぶり、浜辺での白のワンピ、プールへダイブ、女子受けすること間違いなし。
音楽もいい。


<作品概要>
ルビー・スパークス」  RUBY SPARKS
(2012年 アメリカ 102分)
監督:ジョナサン・デイトン、バレリー・ファレス
出演:ポール・ダノ、ゾーイ・カザン、アントニオ・バンデラス、アネット・ベニング
配給:20世紀フォックス映画

2013年9月15日日曜日

レ・ミゼラブル  Les Miserables


ミュージカルでみせる正統派洋画大作。

2012年12月公開ながら2013年の興行成績で洋画トップ(60億円超え)となる大ヒットとなった。
ビクトル・ユーゴー原作で世界中で愛されるミュージカル「ああ無情」は日本でもおなじみだ。ヒュー・ジャックマンはじめ豪華キャストで中世ヨーロッパの背景、セット、衣装までおおがかりなお金のかかった大作。この堂々たる作りだが監督のトム・フーパーはまだ長編4作目の若干41歳。この若さにしてはベテランのような題材と落ち着きぶりで若々しさはない(笑)前作「英国王のスピーチ」がアカデミー賞をとったがこちらも秀作。前々作「くたばれユナイテッド サッカー万歳!」から着実にステップアップしてきている。

今作は俳優陣も良かった。ジャン・バルジャン演じるヒュー・ジャックマンはマッチョで役柄にマッチ、歌声もよかった。アン・ハサウェイの坊主頭も話題になり、若手注目株の女優アマンダ・セイフライドも出演。でもこの映画でひと際輝いていたのがマリウス役のエディ・レッドメイン!無邪気な笑みを見せるイケメンで歌もうまかった。普段の私服もおしゃれでファッション誌でも取り上げられるほど。


それと引き換えひどかったのがラッセル・クロウ。役者としてはとても好きなのだが、なんと音痴(笑)このミュージカルでは周りがうまいだけにかなり違和感が・・・なぜオーディションを通過できたのだろうか。あの低音ボイスはジャン・バルジャンを追いつめる警部としてはとても迫力あるのだが、歌いだすとハイトーンに(笑)未見のひとには是非観てもらいたい。

でも全体的には完成度が高く大ヒットしたのは納得。大人を中心に幅広い層に受け入れられていた。小細工無しの正統派ミュージカルの大作映画だ。


<作品概要>
レ・ミゼラブル」  Les Miserables
(2012年 イギリス 158分)
監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、アーロン・トヴェイト
配給:東宝東和

ラストサムライ  The Last SAMURAI


渡辺謙を世界に見せつけた滅び行く美学

「ラストサムライ」はハリウッドが描く日本にしては当時とてもかっこ良く描かれていた作品だった。そこは違うだろ、日本人はそうはしない、という突っ込みどころはまだまだあるものの、それまでの日本を描いたハリウッド作品がひどかっただけにジャッジは厳しくない(笑)

明治という新しい時代に入りサムライはもはや時代遅れで新政府にとっては邪魔な存在になりつつあった。アメリカの南北戦争の英雄で近代化を目指す日本に教官として雇われたオールグレン大尉(トム・クルーズ)はそんな中でサムライとしての生き方を貫こうとする勝元に出会う。そんな彼に共感し行動をともにするようになる。

明治時代に新政府に反乱を起こした事件はいくつかあるが有名なのは西郷隆盛の西南戦争だろう。人望が高い西郷のもとへ不平が爆発した士族が集まり大反乱へと発展し新政府軍によって鎮圧される。
そんな日本の歴史的事件をモチーフに滅び行くサムライの美学をイーストウッドばりに描いてみせた。

この映画ではとにかく渡辺謙、真田広之がかっこいい!この二人が世界に出るキッカケとなった作品だ。特に渡辺謙は本作でアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされ、一躍有名となった。この後「バットマン・ビギンズ」「SAYURI」「硫黄島からの手紙」「インセプション」と次々とハリウッド大作に抜擢。いまや歴としたハリウッド俳優だ。
ちなみに「硫黄島からの手紙」の際にできたクリント・イーストウッドとの信頼関係が、「許されざる者」のリメイクという不可能と思われた企画を成功に導いたのだとか。

真田広之にいたっては最後の殺陣がかっこよすぎ、主演のトム・クルーズより目立ってしまい大幅にカットされたとか。彼も「ウルヴァリンSAMURI」「47RONIN」など出演作が続く。


<作品概要>
「ラストサムライ」  The Last Samurai
(2003年 アメリカ 153分)
監督:エドワード・ズウィック
出演:トム・クルーズ、渡辺謙、真田広之、小雪、ティモシー・スポール
配給:ワーナー・ブラザース映画


2013年9月14日土曜日

ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区  Centro Historico



ポルトガルが結んだ豪華アンサンブル!

こんな競演があるだろうか!ポルトガル北西部の小さな街ギマランイスが欧州文化首都に選定されたことによる文化事業の一環でこの奇跡のアンサンブルが実現した。

ポルトガルを代表する映画監督ペドロ・コスタ、現役最年長(なんと104歳!)のマノエル・ド・オリヴェイラ、お隣スペインからは寡作で知られるビクトル・エリセ、そしてフィンランド人ながらポルトガル在住のアキ・カウリスマキ!この個性あふれる4監督によってギマランイス歴史地区が描かれる。

カウリスマキはこの地区で店を切り盛りするあるバーテンダーの話、ペドロ・コスタはポルトガルの歴史を背景とした会話劇、ビクトル・エリセはかつて発展し今は閉鎖した工場の関係者へのインタビュー形式でその興廃の歴史を描く、オリヴェイラは何とも軽妙でユーモアたっぷりにこの歴史地区を観光させてくれる。


なんとも個性的!それぞれの個性ある作家たちが個性ある作品としてギマランイス歴史地区を描いた。
カウリスマキ節は相変わらずだ。たとえポルトガルで撮っても独特の色彩ですぐにカウリスマキの世界だと分かる。(前作「ル・アーブルの靴磨き」でもそう、フランスでもその色彩でつくられる世界はカウリスマキの世界だ)そして主役のバーテンダーはやっぱり無表情で無口(笑)なんと本作ではひとこともしゃべらない!その中で感情の表現をさせる演出が面白い。


ペドロ・コスタとビクトル・エリセはなんだか小難しい。エレベーターの中で兵士の亡霊との会話劇や廃墟となった工場の元従業員へのインタビューなど独特の演出もその歴史を知っていないとなかなか入っていけない。その中でオリヴェイラの若々しさはどうだろう。この4人の中で一番いきいきとしている。軽妙でユーモアにあふれシャレがきいている。トリにふさわしい締めくくりをしてくれた。
グレン・グールドの美しい旋律がよく似合う。


<作品概要>
ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区」  Centro Historico
(2012年 ポルトガル 96分)
監督:アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:
配給:ロングライド

許されざる者


これは時代劇ではなく、まぎれもなく西部劇。

クリント・イーストウッド監督の名作「許されざる者」を明治初期の開拓地、北海道を舞台にリメイク。「フラガール」「悪人」の李相日がメガホンをとる。

1880年明治初期。旧幕府軍で“人斬り十兵衛”と恐れられた釜田十兵衛(渡辺謙)は人里離れた荒れ地に幼い子供たちと極貧の生活を送っていた。そこへある日ひとりの男が現れる。十兵衛の過去を知るかつての盟友・金吾(柄本明)だ。若い女郎の顔を切り刻んだ客に怒った仲間の女郎たちが客の兄弟に賞金をかけたのだ。その賞金首を一緒に狙わないかと話を持ちかける。「もう人殺しはしない」と一旦は断るが、極貧で暮らしに悩み十兵衛は金吾の後を追う。

物語の設定は本家「許されざる者」に忠実。1000ドルだった賞金が1000円だったり(笑)でもそんな細かいことよりも、北海道の大自然がみごとに「西部劇感」を演出している。よくも見つけたと感心するほどのロケーションだ。あの舞台で馬を走らせているだけで西部劇になってしまう。北海道の先住民族であるアイヌ迫害の歴史などを巧く取り込み新しい歴史の中に飲み込まれ滅びゆく者たちを際立たせる効果になっていた。



壮大なスケールで描かれる本作だが背景の大自然に負けずセットがすごい!舞台となる鷲路村は渾身のオープンセット。佐藤浩市演じる署長の居所である警察署や女郎館、旅人宿など細部までとても気合いが入っている。
そして役者も良かった。渡辺謙、佐藤浩市はもちろん脇を固める柄本明と柳楽優弥がとてもいい味を出して物語をぐっと面白いものにしている。
この純国産の「許されざる者」は是非大画面で観てもらいたい。



<作品概要>
許されざる者
(2013年 日本 135分)
監督:李相日
出演:渡辺謙、佐藤浩市、柄本明、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、國村隼、小澤征悦、三浦貴大、滝藤賢一、近藤芳正
配給:ワーナー・ブラザース映画


オブリビオン OBLIVION


誰もいない地球を何故守るのか?

2077年、エイリアンの攻撃を受け地球は全壊、人類は他の惑星に移住を果たす。ジャック(トム・クルーズ)は荒廃した地球を高度1000mにある住居兼基地から監視する任務についている。ある日墜落した謎の宇宙船から発見された女性がいつも夢に出てくる女性であることから、日常が狂いだしいままで信じていた世界の裏が見え隠れしだす。

トロン・レガシー」のジョセフ・コシンスキーの監督最新作。ナイキやアップルのCMを手がけクリエイティブのクオリティに定評があるだけにSF作品での映像はとてもキレイでクオリティが高い。とてもスタイリッシュだが生活感はまるでない住居など未来っぽい。だけどそれがただ未来っぽいのではなく伏線であったりして、後半の謎が解明していく上での演出になっている。



トム・クルーズは完全無欠のヒーローを演じ続け、常にハリウッドの一線にいるたぐい稀なる俳優だ。これだけ正義のヒーローをやり続けられる人も珍しい。
だけど、たまにやる脇役がとてもいかしている。
「マグノリア」でのSEX教祖も笑えるが、「トロピックサンダー/史上最低の作戦」では最後のエンディングロールでトムだと分かったくらい脇に徹していて「実は〜」を狙ったふざけっぷりだ。結構おちゃめな一面もあるのだ。もしくは正義のヒーローを演じ続ける反動がこういうところに出ているのか(笑)

主役でないトムも今後注目だ。


<作品概要>
オブリビオン」 OBLIVION
(2013年 アメリカ 124分)
監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:トム・クルーズ、オルガ・キュレンコ、モーガン・フリーマン、メリッサ・レオ、アンドレア・ライズボロー
配給:東宝東和


2013年9月13日金曜日

リンカーン Lincoin


ダニエル=デイ・ルイスによるリンカーン大統領。

アメリカ合衆国第16代大統領で最も愛されたと言われるのがエイブラム・リンカーンだ。黒人に対してもオープンに接し、奴隷解放運動を押し進める。その影響で国は南北に割れ激しい戦争に突入していくという未曾有の危機に瀕する。それでも信念を曲げずに彼は突き進む。

その凄まじい信念をもった大統領を熱演したのがダニエル・デイ=ルイス。本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、史上初の3度のオスカーに輝いた。だけども彼の演技をみればそれもなっとくできるほど。あまり映画には出ない役者だけど
まだ56歳。4度目、5度目のオスカーも十分あり得る。アカデミー賞をとった後なのに彼は一時俳優を引退していた時期がある。その時に何をやっていたかというと、なんと「靴職人」。ローマの工房に弟子入りして朝から晩まで靴を作っていたとか。それは「ギャング・オブ・ニューヨーク」の出演交渉のために監督のマーティン・スコセッシがローマを訪れるときまで続いたそう。オスカー俳優が靴職人に転向するなんて前代未聞だけど、その復帰作でまたアカデミー賞にノミネートされちゃんだから、このひとホントにすごい。


とにかくリンカーンのブレない信念が伝わってきた。
それでもやっぱり政治家。中盤からはとにかく票取り合戦に明け暮れる、あの手この手を使い、「正々堂々」ではない。政治の世界は今も昔も票取り合戦なのだ。
その一環で描かれているのが「ロビー活動」。日本では最近までなじみがなかったが海外ではこのロビー活動(根回し、広報)は盛んだ。ロビイスト(ロビー活動の専門家)たちを雇い、自分たちに有利になるよう議員たちに働きかける。結構そんなことをしてるのだ。

日本でも最近「東京オリンピック」招致が決まり、そのプレゼンテーションが話題になっていたけど、プレゼンまでの間はロビー活動が行われていた。その期間なんと2年間。この間に各国のIOC(国際オリンピック)委員に働きかけていたそう。これまで日本はロビー活動が下手と言われてきた。(アメリカのようにリンカーンの時代からロビー活動してる人たちにはそりゃかなわない)だけどここにきて日本は素晴らしいプレゼンテーションとロビー活動によりみごとマドリードとイスタンブールに競り勝つことができた。
まさか「リンカーン」に影響うけてる??


<作品概要>
リンカーン」 Lincoin
(2012年 アメリカ 150分)
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:ダニエル=デイ・ルイス、トミー・リー・ジョーンズ、サリー・フィールド、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、デビッド・ストラザーン
配給:20世紀フォックス映画

2013年9月12日木曜日

スーサイド・ショップ Le magasin des suicides


とってもダークでファンタジー、気味悪くて陽気なフランス産アニメーション。

パトリス・ルコントによる最新作はなんとアニメーション! 「髪結いの亭主」や「仕立て屋の恋」、「タンゴ」などで知られ、コメディを得意とするルコントがアニメであれば表現できると映画化を決意したジャン・トゥーレの小説「ようこそ自殺用品店へ」。陰鬱で暗い大都会で、これまた根暗なファミリーが経営する自殺用品店。そこにある日とっても明るい男の子が生まれる。彼が成長するにつけ彼のポジティブな雰囲気と行動が周囲を巻き込み、家族に変化が生まれていく。

超ネガティブな人々や陰鬱とする世界を舞台にシュールでシニカルだけど生きることの素晴らしさを謡う人生讃歌。

設定はとても暗いのにミュージカルのように歌い出したりするので動きはとてもポップ。だけど歌っている歌詞はすごくネガティブ(笑)ブラックジョーク満載。
自殺用品店というとてもネガティブなお店なのに店構えはカラフルでオーナーの両親の服装はとてもおしゃれ。こういうギャップがただ暗いだけじゃない独特の雰囲気を醸し出している。(音楽がけっこう良かったりする)
お店で売っている道具には、首つり用の縄やギロチン、毒薬などと一緒にハラキリセット(日本刀と着物のセット!)があったりする(笑) そして、お父さんが日本刀を振り回したりするんだけど、このお父さんの名前がなんと“ミシマ”。完全に日本を意識してます。



この日本のアニメーションにはないダークでちょっとおかしい感じはなんと言うのだろう。「ベルヴィル・ランデブー」が近いかもしれない。ん〜、久しぶりに観たいかも。
ちなみにルコント自身はティム・バートンを意識しているとか。それも分かる。

★ルコントが好きなアニメ作品
「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」
「ウォレスとグルミット」
「モンスターズ・インク」
「戦場でワルツを」

ん〜、わりとフツー・・
漫画制作をしていたこともあったそうなので、マニアックかと思いきやそうでもない(笑)。日本の作家も入れてほしかったな。


<作品概要>
スーサイド・ショップ」 Le magasin des suicides
(2012年 フランス=ベルギー=カナダ 79分) 
監督:パトリス・ルコント
出演:(声)ベルナール・アラヌ、イザベル・スパッド、ケイシー・モッテ・クライン、イザベル・ジアニ、ロラン・ジャンドロン
配給:コムストック・グループ

2013年9月11日水曜日

世界にひとつだけのプレイブック  Silver Linigs Playbook


こわれた心とこわれた心の再生物語。

それぞれに最愛の人を失い、心のバランスを失い傷を負った男女が偶然出会い、お互いをみて徐々に立ち直っていく姿をユーモアを交え、最後には
ちょっと泣かせるヒューマンドラマとして描く。

ブラッドリー・クーパーが演じるパット。こんなキレキャラがいたら怖い。
妻の浮気現場を目撃しオカシクなってしまったパット。妻とヨリを戻せると信じきっている精神病院帰りで、普通を装うが、急にキレて大暴れしたりする。キレた原因が「お店のBGMで妻との思い出の曲が流れてたから」。知らねーよ、そんなの(笑)キレる原因を予測できないから一緒にいたら絶対怖い。

ジェニファー・ローレンス演じるティファニーとは似た者同士。彼女は再起をかけてダンス大会に出場することを決意。
パットを強引にパートナーに任命する。



ジェニファーは「ウィンターズ・ボーン」の頃はまだ10代。本作でアカデミー賞主演女優賞を受賞し、名実ともにスターに。だけどもまだ20代前半。ん〜若い。そしてこの貫禄。堂々たる女優さんだ。



そして、監督のデビット・O・ラッセル。
彼自身がこのキレキャラだそう(笑) だからこの役をよく理解できたんだとか。
以前は撮影中にキレまくってキャストやスタッフに大分嫌われていたとか。
そのおかげでしばらく仕事もなかったそうだけど、自分に合った作品に巡り会ってよかったよかった。アカデミー賞も穫れたし。


<作品概要>
世界にひとつだけのプレイブック」 Silver Linings Playbook
(2012年 アメリカ 122分)
監督:デビット・O・ラッセル
出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デニーロ、クリス・タッカー、ジャッキー・ウィーパー
配給:ギャガ



96時間 リベンジ  Taken2


あの伝説のお父さんが帰ってきた!

前作「96時間」では犯罪組織に誘拐された娘をとり戻すために元特殊部隊のお父さんが徹底的に相手を追いつめていく、その徹底ぶりがハンパでないところが話題になった。
最愛の我が娘を助けるためには容赦はしない。やられて許しを請う相手だって許さない!
やられたら「倍返し」なのだ。
そう、半沢直樹よりもリーアム・ニーソンの方が早く「倍返し」をしていた。悪をやっつけるには徹底的に、情けをかけず、容赦をしない。
我々はそれくらいスカッとしたいくらいストレスが溜まっているのだろうか(笑)

それにしても初代「倍返し」は、やっぱり「ランボー」だろう。「3倍返し」は当たり前。もう敵はいつも全滅。相手が悪い。

そして、今作。
前作で徹底的にやられた犯罪組織の残党が、仲間のリベンジをすべく立ち上がる。
狙われたのは、またもや娘、更に元妻。せっかくの家族の関係修復の旅が台無しに。
只者ではないこのお父さん。冷静に、そして大胆に、娘との連携プレイでピンチを切り抜けていく、、、



リーアム・ニーソン。不思議な役者だ。
「シンドラーのリスト」、「スター・ウォーズ」シリーズで有名だけど、
50代になってからアクションに転向しメキメキと頭角を表す。
そのキッカケで代表作が「96時間」だろう。そして、出演作が結構面白い!

このおっさんアクション俳優に今後も注目。


<作品概要>
96時間 リベンジ」 Taken2
(2012年 アメリカ 96分)
監督:オリビエ・メガトン
出演:リーアム・ニーソン、マギー・グレイス、ファムケ・ヤンセン、リーランド・オーサー、ジョン・グライス
配給:20世紀フォックス映画

2013年9月10日火曜日

風立ちぬ


宮崎アニメはやっぱりすごい!

公開されるたびに賛否両論がわき起こる。「トトロ」のようなファンタジーを求めるジブリファンにとっては期待はずれな展開なのだろう。だけどやっぱり宮崎アニメはすごかった。

ゼロ戦を設計した堀越二郎の人生を、関東大震災や経済不況、そして戦争へと向かう過酷な時代を背景に描く。

ファンタジーでなくても十分楽しめる。あの躍動感ある画のタッチはやはりここでないと見られない。冒頭の関東大震災のシーン。マグマの亀裂がはしり、地表が波打つように揺れ地震が迫り来る!あんな風に表現するなんてやっぱりすごい。観ていて大興奮。

テレビのドキュメンタリーで宮崎駿の仕事ぶりを見たことがあるけど、そのこだわりは尋常ではない。アニメーターが描く画にダメだしをしているんだけど、メインの絵柄ではなく背景にわずかに描かれている線だけの鳥に対して、「その鳥は飛ばない!」と猛烈に怒っていた。わずかな背景にすら魂を込めろと、ものすごい勢いで怒鳴っていたのである。
やはりこういう尋常でない監督からあの躍動感は生まれるのだ。



ネガティブな意見もある。庵野監督の声優が素人すぎて映画に入っていけない、効果音が気になる、ファンタジーでない、あとまさかの禁煙団体からのクレーム(笑)
いろいろ意見はあるとは思うけどひとつのアニメ作品として素晴らしかった。
ジブリはどうしても過去作品の影響が強すぎて、「ナウシカ」や「ラピュタ」、「魔女宅」などの“強烈な好き”を背負わされる。過去の感動体験と同じものを求められるからひとつの独立したアニメ作品としてとらえてもらえない。期待値が高い分、期待と違うと賛否がとても起こるのだ。だけど意見がこれだけ多いのはみんな「観た」ということなのだ。それだけ観られているのだから十分すごい! 今年初の興収100億円。
なんやかんやすごいんです。



そしてテーマ曲が最高。
荒井由美(松任谷由美)の「ひこうき雲」。
この映画のために作られたのかと思うくらい。
でも実際は1973年(40年も前!)のユーミンのファーストアルバムに収録されていた曲。この時ユーミンはまだ10代!こちらも天才です(笑)

宮崎駿監督、引退宣言がありましたが、一から十まで自分でやらなくても長編は作れるはず。短編は制作するそうだけれども、映画は作り続けてもらいたい。


<作品概要>
風立ちぬ
(2013年 日本 126分)
監督:宮崎駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:久石譲
出演:(声)庵野秀明、滝本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、野村萬斎
配給:東宝

殺し La commare secca


ベルナルド・ベルトルッチの処女作。

河原で娼婦の遺体が発見される。
こそ泥、高利貸し、同性愛者、盗みをした少年たち、次々と浮かび上がる容疑者。証言がそれぞれ違う彼らへの尋問を通じて犯人が浮かび上がる、、、

ピエロ・パオロ・パゾリーニの助監督を務め、彼の原案で若干21歳で監督デビューしたのが本作。

処女作だけあってかなり荒削りな作り。だけど21歳で撮った作品ということであれば才能を感じる作品ではある。21歳と言えば大学生。芸大の映画サークルで学生が撮った作品を思い出すとその差は明らか。観る側のことを考えない、とても自己満足的でセルフィッシュな作品をつくりがちな学生作品とは明らかに違う。


有名監督の若かりし時に撮った作品を観るのは結構楽しい。荒削りで挑戦的な作品の中でその後のスタイルを感じさせる要素が発見できたりする。卒業制作の短編など秀逸なものは多い。昔観たポランスキー(だったと思う)の短編はすごく印象に残っている。


<作品概要>
「殺し」La commare secca
(1962年 イタリア 92分)
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
出演:フランチェスコ・ルイウ、ジャンカルロ・デ・ローザ、アルフレード・ロッジ、アレン・ミジェット
配給:ザジフィルムズ